砂城の呪われた宝石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
山奥の河原の岩場でヨルと飛段と角都の一行は、賞金首を倒して金を手に入れ、休憩しているところだった。
角都と飛段は向かい合わせの状態で焚き火の前に座り、ヨルは岩に座ったまま枝で作った竿を持ち、魚がかかるのを待っていた。
周りの木々の枝からは木漏れ日が差し、耳を澄ませば、小鳥の囀りや川のせせらぎが聴こえる。
平和な一時とはこういうものなのだろう。
「ふわぁ…」
眠気を覚えた飛段は大口を開けてその場に仰向けに寝転んだ。
両腕を頭の後ろに組み、枕にする。
「なぁ、魚まだかよォ」
「うるせっ。デケー声出すな!」
ヨルは背を向けたまま不機嫌な声で返した。
「貴様の声もデカい」
角都は焚き火に薪をくべて言った。
手応えを感じたヨルは「お」と期待の声を小さく漏らして竿を引く。
だが、釣り糸の先には、エサのとれた釣り針しかなかった。
それを見たヨルはショックを受ける。
角都は呆れてため息をついた。
「またとられた…」
それでもめげずに、エサのミミズを釣り針につけて再び川に垂らす。
「ここって魚いるのかァ?」
飛段は視線を見上げ、ヨルの背中を見ながら尋ねた。
ヨルは苛立ち混じりに答える。
「いるからやってんだろ。泳いでる音がよく聴こえる」
「じゃあなんで獲れねーんだよー」
瞬間、ヨルは額に青筋を浮かべ、歯を剥いて飛段に振り返り、ムキになって怒鳴る。
「オレは猟は得意だが、漁は慣れてねーんだよ! 魚の血は量が少ないうえに、生臭ェし! いいから黙ってそこで見てやがれ! 今、大物釣ってやるから!」
その時、
「!」
手応えがあった。
「キタ――――!!」
顔が完全に、絵文字の『(゚∀゚)』になる。
逃がしてなるものかと思いっきり引き上げようとするが、獲物はとても重かった。
釣り竿が折れる覚悟で力任せに引っ張り上げると、
「!?」
人間が釣れた。
それを見た飛段と、角都もさすがに驚いている。
「「えええええ!?」」
ヨルと飛段は思わず声を上げた。
平和な一時とは、本当に一時的なものである。
釣れたのは、小柄な中年の男だった。
川から流れてきたところを、釣り針が襟に引っ掛かり、そこをヨルに引き上げられた。
ヨルは釣り竿をその場に放り捨て、川に飛び込んで男を抱え、川岸まで引き上げて仰向けに寝かせた。
男の体は切り傷と火傷が目立っていた。
額の赤い刻印も気になる。
「おい、大丈夫かあんた!?」
ヨルが男の顔を手の甲で軽く叩くと、男は「う…」と微かに呻いた。
「生きてるみたいだな。なんだ? 追われてんのかァ?」
ヨルと飛段が男の顔をのぞいているとき、角都は男の右腕に刻まれた刺青を見つめていた。
(この刺青は…)
音符が連なったようなその刺青には見覚えがあった。
角都は男の胸倉をつかみ、無理矢理半身を起こす。
「おい、貴様」
「待て角都。ケガ人なんだぞ」
ヨルは胸倉をつかむ角都の手をつかんだ。
いくら自分達が犯罪者とはいえ、死にかけの一般人はもう少し丁寧に扱うべきだ。
「た…、助けて…」
目を覚ました男は恐怖で体を震わせ、懇願するようにヨル達を見つめた。
自分達に怯えているというより、助けを求めているようだ。
男は目に涙を浮かべ、紫色の唇を動かしてうわ言のように言葉を続ける。
「助けて…。あの女に…、殺される…! なあ…、どこかで聞こえてるんだろ? アレは返す…! 返すから…! 許してくれよ…!」
「!!」
ヨルは背後の森から確かにその声を聞いた。
「ダーメ。もう手遅れ」
男の額の刻印が妖しく光る。
「!?」
「な!?」
それと同時に、角都はヨルの右肩と飛段の左肩をつかみ、男から引き剥がして自分の後方へ突き飛ばした。
ドォン!!
突然、男の体が爆発して吹き飛んだ。
河原は土煙で覆われる。
「ば…、爆発…?」
ヨルは茫然と男が吹き飛んだ場所を見つめた。
角都が引き剥がしてくれなかったら、爆発に巻き込まれていただろう。
角都は体を硬化させていたため、爆風を受けても無傷だった。
「な、なんだっつーんだ、いきなり…」
飛段は外套についた土を払って立ち上がる。
「!」
その時、なにかを踏みつけ、それを見下ろした。
そこには、金属の筒が転がっていた。
訝しげな顔でそれを拾う。
「なんだこれ?」
「あーあ、ようやく取り返せると思ったのに…」
その声に3人は同時に振り返った。
土煙が晴れ、互いに姿が見える。
長い赤髪を後ろでポニーテールにした若い女がそこにいた。
右腕には、男と同じ刺青があった。
「また、ブッ殺しちゃっていいよね。きゃはっ」
ヨルは女の香水のきつい匂いに顔をしかめた。
メイクも力が入ってて濃い。
胸元はその大きさを見せつけられるように開いている。
右手と左手の人差し指には指輪があり、右耳には無線がかけられてあった。
仲間がいるのだろう。
女は口元に笑みを浮かべたまま、右手を差し伸べた。
差し伸べられた先には飛段がいる。
「お兄さん、その筒、こっちに渡してくれない?」
「あ?」
飛段は先程拾った筒を見下ろした。
「それ、あたし達の物なの。返してくれる?」
その女の態度が気に入らなかったのか、飛段は女を睨みつけ、筒を握る手に力を込めた。
目が「嫌だ」とはっきり言っている。
「返してくれないの?」
女は笑みを崩さない。
ふと、「ん?」と片眉を吊り上げ、飛段の全体をじっくりと見始めた。
「?」
「赤雲のマークの黒衣…、傷のある額当て…。ビンゴブックでも見たことあるわね…。もしかして、あんた達、“暁”?」
“暁”は裏でも表でも名の知れた組織だ。
外套を見て暁と見るなり襲ってくる輩は多い。
だから、当てられてもさほど驚きはしなかった。
「有名なのも大変だぜェ」
飛段は腰に手を当てて威張る。
「…へぇ、いつかお目にかかりたいとは思ってたけど…」
女の視線がヨルに移る。
見下すかのような目だ。
「貧乳連れとはね」
ヨルは、女と見破られたことに驚くより先に、
ブチッ
「貧乳」と言われたことに切れた。
100年生きて、初めて言われた暴言だった。
瞳の色が朱色に変色していく。
近くにいた飛段は反射的にあとずさる。
「貧乳って…」
ヨルは呟いたあと、暁の外套を脱ぎ捨て、背中に生やした夢魔をつかみとり、女に切りかかった。
「誰がだァ!!」
ちなみに、ヨルの胸は言うほど小さくはない。
ヨルは右手の夢魔を横に振るったが、女はジャンプしてそれを避け、背後の木の枝に着地し、「きゃははっ」と馬鹿にするように無邪気に笑った。
ヨルはそれを追いかけ、女に飛びかかる。
女はヨルに右手の人差し指を指し、ほくそ笑んだ。
人差し指の指輪が青く光り、女とヨルの間に青い刻印が出現する。
色は違うが、男の額に刻まれていたのと同じマークだ。
「“天使ノ劫火”」
「!!」
ボッ!!
「ヨル!!」
刻印から現れた炎がヨルを包んだ。
ヨルはそのまま川へと吹っ飛び、落下して水飛沫を上げた。
(印を結ぶことなく…)
角都の視線が指輪に移る。
(あれか)
「きゃははっ!」
女が左手の人差し指を方向を変えながら指すと、地面のあちこちに赤い刻印が刻まれた。
今度は男の額にあったのとまったく同じものだ。
「“悪魔ノ宣告”」
「飛段、離れろ!」
角都が言うと、飛段は角都とともにそこから飛び退いた。
ドォォン!!!
刻印が赤く光り、大爆発が起こった。
爆音に驚いた野鳥たちが一斉に飛び立つ。
「まだ生きてる~?」
爆煙のなか、女は木の枝から3人の様子を窺った。
「!」
右横から飛び出したヨルが夢魔を振り上げるのが目の端に映り、女は反射的に枝から飛び降りた。
先程まで立っていた木の枝は両手の夢魔によって切り落とされる。
女の向かい側にヨルが着地した。
「火だるまにならずに済んだようね」
だが、体のあちこちに火傷がある。
「ふざけろよ、このアマ。飛段風に言わせてもらえば…、超スーパー熱かったぞコラァ!!」
「オレのマネしてるなら全然似てねえよ」
ヨルの隣にやってきた飛段。
爆風のせいか、前髪が少しおりている。
角都はその隣に並んだ。
「貴様には聞きたいことがある」
「はぁ? バッカじゃないの? 答えることなんかなにもないわよ。今から黒っこげになる奴らにさぁ! きゃははは!」
女は両手の人差し指を向けた。
角都は「そうか」と言って、印を結び始める。
その時、無線が雑音を立てた。
“ソフラ”
「!」
無線機から仲間の声が聞こえ、女―――ソフラは動きを止めた。
ヨルは無線機の音に耳を済ませる。
若い男の声である。
“一度引け。相手はあの暁だ。それが3人ではおまえでも分が悪い。特に、声が一番低い男の方が手強そうだ”
今までの会話は全て聞かれたことになる。
声が一番低い男とは、角都のことだろう。
ソフラは眉を寄せる。
「あたしがこいつらに倒されるとでも思ってるの? アルト」
アルト、とは無線越しの男の名だ。
“2度も言わせるな”
アルトの声が脅すように低くなる。
ソフラはビクリと震え、目の前のヨル達を睨みつけた。
「あたし達んところの頭がうるさいから、この場は仕方なく引かせてもらうわ。命拾いしたわね。特に貧乳」
ソフラは嘲笑の笑みとともに人差し指をヨルに指した。
「貧乳」という文字がヨルの額にカチンとぶつかる。
「一度ならず2度までも」
ヨルが構えると同時に、ソフラは飛び退いた。
ヨルは夢魔を振り上げて追いかける。
「待ちやがれ!! !?」
それを止めたのは角都だった。
地怨虞で伸ばした右手でヨルの肩をつかむ。
「放…」
「放すのは貴様の手に持ってる爆弾だ」
そう言われ、ヨルは手に持った夢魔を見た。
刀身にあの赤い刻印が刻まれている。
「…!!」
先程、暴言とともに人差し指を指されたことを思い出し、すぐに持っている両手の夢魔を空中に投げ捨てた。
ドン!!
爆煙とともにソフラは瞬身の術で姿を消した。
「ぐ…、耳が…!」
ヨルは爆音で、耳に引き裂かれるような痛みを覚えた。
耳の性能が良すぎるのも考えものだ。
「あの、きゃはは女、今度会ったら絶対血の夢見せる…」
ヨルは不機嫌な顔のまま、放り捨てた暁の外套を拾い、身に纏った。
辺りを見回すと、ここだけ竜巻が発生したかのような荒れようだ。
「その女が狙ったコレ、なんだろな?」
飛段はずっと持っていた筒を角都とヨルに見せた。
蓋らしきものはどこにもなく、完全に密封されてある。
ヨルは飛段の手からそれを受け取り、耳元を近づけて振ってみる。
微かになにかが擦れるような音が聞こえた。
「……紙が入ってる」
それから角都に手渡すと、角都がその筒を力強く握りしめると、筒は呆気なく砕かれ、中身が落ちる。
中身は確かに紙が入ってあった。
巻かれていたそれは地面に落ちて広がった。
「地図?」
それを拾った飛段は首を傾げる。
「風の国の一部の地図だ。また随分と古い…」
横からそれをのぞいた角都は言った。
地図は汚れ、枠はボロボロである。
それに、半分千切られていた。
「…この×印はなんだ?」
ヨルは地図に書かれた2つの赤い×印に注目した。
「それは知らんが、おそらく、奴らの目的の場所だろう」
この地図を狙って理由としては可能性が高い。
なにがあるかはわからない。
だからこそ、ヨルと飛段は興味が湧いてきた。
「面白ェ。行ってみようぜ、角都。風の国ってすぐそこじゃねーか!」
飛段は子供のように目を輝かせる。
最近は賞金首ばかり狩っていたため、退屈だったからだ。
ヨルは角都の顔を窺った。
「黙れ。オレ達にそんなヒマはない。次の賞金首を捜しにいくぞ」と言うだろうと予想する。
しかし、
「…そうだな」
「!?」
珍しく同意した。
予想を外されたヨルは驚きを隠せない。
角都は早速とばかりに2人の先を歩き始める。
(奴らと再び会うかもしれん)
.