砂城の呪われた宝石

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山奥の河原の岩場でヨルと飛段と角都の一行は、賞金首を倒して金を手に入れ、休憩しているところだった。


角都と飛段は向かい合わせの状態で焚き火の前に座り、ヨルは岩に座ったまま枝で作った竿を持ち、魚がかかるのを待っていた。

周りの木々の枝からは木漏れ日が差し、耳を澄ませば、小鳥の囀りや川のせせらぎが聴こえる。

平和な一時とはこういうものなのだろう。


「ふわぁ…」


眠気を覚えた飛段は大口を開けてその場に仰向けに寝転んだ。

両腕を頭の後ろに組み、枕にする。


「なぁ、魚まだかよォ」

「うるせっ。デケー声出すな!」


ヨルは背を向けたまま不機嫌な声で返した。


「貴様の声もデカい」


角都は焚き火に薪をくべて言った。


手応えを感じたヨルは「お」と期待の声を小さく漏らして竿を引く。

だが、釣り糸の先には、エサのとれた釣り針しかなかった。

それを見たヨルはショックを受ける。

角都は呆れてため息をついた。


「またとられた…」


それでもめげずに、エサのミミズを釣り針につけて再び川に垂らす。


「ここって魚いるのかァ?」


飛段は視線を見上げ、ヨルの背中を見ながら尋ねた。

ヨルは苛立ち混じりに答える。


「いるからやってんだろ。泳いでる音がよく聴こえる」

「じゃあなんで獲れねーんだよー」


瞬間、ヨルは額に青筋を浮かべ、歯を剥いて飛段に振り返り、ムキになって怒鳴る。


「オレは猟は得意だが、漁は慣れてねーんだよ! 魚の血は量が少ないうえに、生臭ェし! いいから黙ってそこで見てやがれ! 今、大物釣ってやるから!」


その時、


「!」


手応えがあった。


「キタ――――!!」


顔が完全に、絵文字の『(゚∀゚)』になる。

逃がしてなるものかと思いっきり引き上げようとするが、獲物はとても重かった。

釣り竿が折れる覚悟で力任せに引っ張り上げると、


「!?」


人間が釣れた。


それを見た飛段と、角都もさすがに驚いている。


「「えええええ!?」」


ヨルと飛段は思わず声を上げた。


平和な一時とは、本当に一時的なものである。


釣れたのは、小柄な中年の男だった。

川から流れてきたところを、釣り針が襟に引っ掛かり、そこをヨルに引き上げられた。


ヨルは釣り竿をその場に放り捨て、川に飛び込んで男を抱え、川岸まで引き上げて仰向けに寝かせた。

男の体は切り傷と火傷が目立っていた。

額の赤い刻印も気になる。


「おい、大丈夫かあんた!?」


ヨルが男の顔を手の甲で軽く叩くと、男は「う…」と微かに呻いた。


「生きてるみたいだな。なんだ? 追われてんのかァ?」


ヨルと飛段が男の顔をのぞいているとき、角都は男の右腕に刻まれた刺青を見つめていた。


(この刺青は…)


音符が連なったようなその刺青には見覚えがあった。

角都は男の胸倉をつかみ、無理矢理半身を起こす。


「おい、貴様」

「待て角都。ケガ人なんだぞ」


ヨルは胸倉をつかむ角都の手をつかんだ。


いくら自分達が犯罪者とはいえ、死にかけの一般人はもう少し丁寧に扱うべきだ。


「た…、助けて…」


目を覚ました男は恐怖で体を震わせ、懇願するようにヨル達を見つめた。

自分達に怯えているというより、助けを求めているようだ。

男は目に涙を浮かべ、紫色の唇を動かしてうわ言のように言葉を続ける。


「助けて…。あの女に…、殺される…! なあ…、どこかで聞こえてるんだろ? アレは返す…! 返すから…! 許してくれよ…!」

「!!」


ヨルは背後の森から確かにその声を聞いた。


「ダーメ。もう手遅れ」


男の額の刻印が妖しく光る。


「!?」

「な!?」


それと同時に、角都はヨルの右肩と飛段の左肩をつかみ、男から引き剥がして自分の後方へ突き飛ばした。


ドォン!!


突然、男の体が爆発して吹き飛んだ。

河原は土煙で覆われる。


「ば…、爆発…?」


ヨルは茫然と男が吹き飛んだ場所を見つめた。

角都が引き剥がしてくれなかったら、爆発に巻き込まれていただろう。

角都は体を硬化させていたため、爆風を受けても無傷だった。


「な、なんだっつーんだ、いきなり…」


飛段は外套についた土を払って立ち上がる。


「!」


その時、なにかを踏みつけ、それを見下ろした。

そこには、金属の筒が転がっていた。

訝しげな顔でそれを拾う。


「なんだこれ?」

「あーあ、ようやく取り返せると思ったのに…」


その声に3人は同時に振り返った。

土煙が晴れ、互いに姿が見える。


長い赤髪を後ろでポニーテールにした若い女がそこにいた。


右腕には、男と同じ刺青があった。


「また、ブッ殺しちゃっていいよね。きゃはっ」


ヨルは女の香水のきつい匂いに顔をしかめた。

メイクも力が入ってて濃い。

胸元はその大きさを見せつけられるように開いている。

右手と左手の人差し指には指輪があり、右耳には無線がかけられてあった。

仲間がいるのだろう。


女は口元に笑みを浮かべたまま、右手を差し伸べた。

差し伸べられた先には飛段がいる。


「お兄さん、その筒、こっちに渡してくれない?」

「あ?」


飛段は先程拾った筒を見下ろした。


「それ、あたし達の物なの。返してくれる?」


その女の態度が気に入らなかったのか、飛段は女を睨みつけ、筒を握る手に力を込めた。

目が「嫌だ」とはっきり言っている。


「返してくれないの?」


女は笑みを崩さない。

ふと、「ん?」と片眉を吊り上げ、飛段の全体をじっくりと見始めた。


「?」

「赤雲のマークの黒衣…、傷のある額当て…。ビンゴブックでも見たことあるわね…。もしかして、あんた達、“暁”?」


“暁”は裏でも表でも名の知れた組織だ。

外套を見て暁と見るなり襲ってくる輩は多い。

だから、当てられてもさほど驚きはしなかった。


「有名なのも大変だぜェ」


飛段は腰に手を当てて威張る。


「…へぇ、いつかお目にかかりたいとは思ってたけど…」


女の視線がヨルに移る。

見下すかのような目だ。


「貧乳連れとはね」


ヨルは、女と見破られたことに驚くより先に、


ブチッ


「貧乳」と言われたことに切れた。


100年生きて、初めて言われた暴言だった。

瞳の色が朱色に変色していく。

近くにいた飛段は反射的にあとずさる。


「貧乳って…」


ヨルは呟いたあと、暁の外套を脱ぎ捨て、背中に生やした夢魔をつかみとり、女に切りかかった。


「誰がだァ!!」


ちなみに、ヨルの胸は言うほど小さくはない。


ヨルは右手の夢魔を横に振るったが、女はジャンプしてそれを避け、背後の木の枝に着地し、「きゃははっ」と馬鹿にするように無邪気に笑った。

ヨルはそれを追いかけ、女に飛びかかる。

女はヨルに右手の人差し指を指し、ほくそ笑んだ。

人差し指の指輪が青く光り、女とヨルの間に青い刻印が出現する。

色は違うが、男の額に刻まれていたのと同じマークだ。


「“天使ノ劫火”」

「!!」


ボッ!!


ヨル!!」


刻印から現れた炎がヨルを包んだ。

ヨルはそのまま川へと吹っ飛び、落下して水飛沫を上げた。


(印を結ぶことなく…)


角都の視線が指輪に移る。


(あれか)


「きゃははっ!」


女が左手の人差し指を方向を変えながら指すと、地面のあちこちに赤い刻印が刻まれた。

今度は男の額にあったのとまったく同じものだ。


「“悪魔ノ宣告”」

「飛段、離れろ!」


角都が言うと、飛段は角都とともにそこから飛び退いた。


ドォォン!!!


刻印が赤く光り、大爆発が起こった。

爆音に驚いた野鳥たちが一斉に飛び立つ。


「まだ生きてる~?」


爆煙のなか、女は木の枝から3人の様子を窺った。


「!」


右横から飛び出したヨルが夢魔を振り上げるのが目の端に映り、女は反射的に枝から飛び降りた。

先程まで立っていた木の枝は両手の夢魔によって切り落とされる。


女の向かい側にヨルが着地した。


「火だるまにならずに済んだようね」


だが、体のあちこちに火傷がある。


「ふざけろよ、このアマ。飛段風に言わせてもらえば…、超スーパー熱かったぞコラァ!!」

「オレのマネしてるなら全然似てねえよ」


ヨルの隣にやってきた飛段。

爆風のせいか、前髪が少しおりている。

角都はその隣に並んだ。


「貴様には聞きたいことがある」

「はぁ? バッカじゃないの? 答えることなんかなにもないわよ。今から黒っこげになる奴らにさぁ! きゃははは!」


女は両手の人差し指を向けた。

角都は「そうか」と言って、印を結び始める。


その時、無線が雑音を立てた。


“ソフラ”

「!」


無線機から仲間の声が聞こえ、女―――ソフラは動きを止めた。

ヨルは無線機の音に耳を済ませる。

若い男の声である。


“一度引け。相手はあの暁だ。それが3人ではおまえでも分が悪い。特に、声が一番低い男の方が手強そうだ”


今までの会話は全て聞かれたことになる。

声が一番低い男とは、角都のことだろう。


ソフラは眉を寄せる。


「あたしがこいつらに倒されるとでも思ってるの? アルト」


アルト、とは無線越しの男の名だ。


“2度も言わせるな”


アルトの声が脅すように低くなる。

ソフラはビクリと震え、目の前のヨル達を睨みつけた。


「あたし達んところの頭がうるさいから、この場は仕方なく引かせてもらうわ。命拾いしたわね。特に貧乳」


ソフラは嘲笑の笑みとともに人差し指をヨルに指した。

「貧乳」という文字がヨルの額にカチンとぶつかる。


「一度ならず2度までも」


ヨルが構えると同時に、ソフラは飛び退いた。

ヨルは夢魔を振り上げて追いかける。


「待ちやがれ!! !?」


それを止めたのは角都だった。

地怨虞で伸ばした右手でヨルの肩をつかむ。


「放…」

「放すのは貴様の手に持ってる爆弾だ」


そう言われ、ヨルは手に持った夢魔を見た。

刀身にあの赤い刻印が刻まれている。


「…!!」


先程、暴言とともに人差し指を指されたことを思い出し、すぐに持っている両手の夢魔を空中に投げ捨てた。


ドン!!


爆煙とともにソフラは瞬身の術で姿を消した。


「ぐ…、耳が…!」


ヨルは爆音で、耳に引き裂かれるような痛みを覚えた。

耳の性能が良すぎるのも考えものだ。


「あの、きゃはは女、今度会ったら絶対血の夢見せる…」


ヨルは不機嫌な顔のまま、放り捨てた暁の外套を拾い、身に纏った。

辺りを見回すと、ここだけ竜巻が発生したかのような荒れようだ。


「その女が狙ったコレ、なんだろな?」


飛段はずっと持っていた筒を角都とヨルに見せた。

蓋らしきものはどこにもなく、完全に密封されてある。

ヨルは飛段の手からそれを受け取り、耳元を近づけて振ってみる。

微かになにかが擦れるような音が聞こえた。


「……紙が入ってる」


それから角都に手渡すと、角都がその筒を力強く握りしめると、筒は呆気なく砕かれ、中身が落ちる。


中身は確かに紙が入ってあった。

巻かれていたそれは地面に落ちて広がった。


「地図?」


それを拾った飛段は首を傾げる。


「風の国の一部の地図だ。また随分と古い…」


横からそれをのぞいた角都は言った。


地図は汚れ、枠はボロボロである。

それに、半分千切られていた。


「…この×印はなんだ?」


ヨルは地図に書かれた2つの赤い×印に注目した。


「それは知らんが、おそらく、奴らの目的の場所だろう」


この地図を狙って理由としては可能性が高い。


なにがあるかはわからない。

だからこそ、ヨルと飛段は興味が湧いてきた。


「面白ェ。行ってみようぜ、角都。風の国ってすぐそこじゃねーか!」


飛段は子供のように目を輝かせる。

最近は賞金首ばかり狩っていたため、退屈だったからだ。


ヨルは角都の顔を窺った。

「黙れ。オレ達にそんなヒマはない。次の賞金首を捜しにいくぞ」と言うだろうと予想する。


しかし、


「…そうだな」

「!?」


珍しく同意した。


予想を外されたヨルは驚きを隠せない。


角都は早速とばかりに2人の先を歩き始める。


(奴らと再び会うかもしれん)


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