分裂しても馬鹿は馬鹿
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町を去ったあと、ヨルは自分が言ったことに後悔していた。
「おい、まだ敵と遭遇しねーの?」
「腹減ったァ」
「動きたくねーなァ…」
ワガママなところはオリジナルとなにひとつ変わらない。
背後で言いたい放題言われ、ヨルのフラストレーションは溜まっていく一方。
「角都…」
なんとかしてくれと視線を送るが、先を歩く角都はまったくの無視だ。
「次の賞金首は…」と呟きながらビンゴブックを開いている。
(あのヤロー…)
こちらに振り返りもしない背中を睨みつけていると、飛段Cが背中に飛びついてきた。
振り返って目を合わせると、
「おんぶして」
笑顔でお願いされた。
泣き虫だけではなく、甘えん坊でもあるようだ。
(飛段なのになァ…)
子供の笑顔に勝てないヨルであった。
敗北感まで背負っているようで、心なしかとても圧し掛かっているものが重く感じる。
飛段Cを背負って落ち込みながら進んでいるヨルの背後で、飛段は呆れた視線を向けていた。
「なんでガキには甘ェんだよ」
飛段Dと肩を並べながらボソリと呟いた。
その時、飛段と飛段Dは後ろから首に腕をかけられた。
「!」
「な、なんだ?」
立ち止まり、びくびくしている飛段Dとともに肩越しに振り返ると、不敵な笑みを浮かべた飛段Bがいた。
「なあ、おまえら。あいつらで儀式しないかァ?」
あいつら、というのは角都とヨルのことだ。
それを聞いた飛段は「ああ?」と睨みつける。
「てめー、ジャシン様のためにすべての人間を捧げるんじゃなかったのかよ。あいつらも人間だァ。例外はねーよ」
耳元で笑みを浮かべながら囁く飛段Bの腕を、飛段は乱暴に振り解いた。
「ジャシン教を布教するためだ。そのために必要なんだよ」
「必要? 甘えてるだけじゃねーか。「角都ゥ」だ「ヨル」だ。あいつら殺せばてめーのその甘ったれた部分もなくなるだろ」
飛段Bは飛段の残酷な部分の塊だ。
ジャシン教のことしか考えていない。
「甘ったれてるだァ?」
懐から伸縮式の杭を取り出して伸ばし、飛段Bの首元に突き付けた。
「飛段Dがその塊だ」
名前を出された飛段Dはビクッと震え、2人から一歩離れた。
それを一瞥した飛段は舌打ちをする。
飛段Bは言葉を続けた。
「てめーの弱い部分の塊だ。ひとりになるのさえ怖がってる」
「分身がベラベラとウゼーんだよ。てめーから先に消してやろーか? ああ!?」
飛段Bも伸縮式の杭を取り出して飛段の首元に突き付ける。
2人の周りの空気が殺気立ったとき、
「早く来い、馬鹿共」
遠くから角都の声が聞こえた。
「「……………」」
「ほ…、ほら…、角都が呼んでる…」
飛段Dが声をかけ、2人は睨み合ったまま杭を縮めて懐にしまう。
「勝手なことはすんな」
「フン…」
その場は収まり、飛段達は角都とヨルを追った。
深い森に足を踏み入れたとき、目当ての賞金首が部下を引き連れて襲いかかってきた。
角都は袖をめくって縫い目から出る地怨虞をうねらせ、ヨルは背中に生やした夢魔を抜き取り、飛段は背中に携えた大鎌を手にとり、構えた。
いつも通りに部下を切り捨てながら標的に向かっていくが、
「うわわ…!」
大鎌を手に持っているにも関わらず、飛段Dは敵から逃げていた。
見兼ねたヨルは踵を返し、飛段Dに襲いかかる敵を切り捨てる。
「てめーも戦え!!」
一喝すると、飛段Dはビクッと体を震わせた。
「ひ…っ、ム…、ムリだ…」
「ムリじゃねえ!!」
ゴッ!!
「~~~っ!!?」
右手の夢魔の柄の部分で撲られ、飛段Dは撲られたところを両手で押さえながら悶える。
「てめーは欠片でも飛段だろが! 分身でもそんな情けねえ姿晒すならもう一発食らわせるぞ!!」
「…!!」
一方、飛段Cは飛段Dと違って応戦しようと大鎌を振り回すが、軽傷を負わせる程度だ。
儀式をするために大鎌の刃に付着した敵の血を舐めとろうとしたが、動きが遅かった。
「死ね!」
背後から飛びかかられ、クナイを振り下ろされる。
「わ…っ」
刃先が額に突き立てられる寸前に、
ゴッ!!
角都の地怨虞で伸ばされた硬化した右コブシが敵の右側頭部に直撃した。
敵は吹っ飛ばされ、木に叩きつけられる。
「ガキが。無茶をするな」
「角都ゥ!」
飛段Cはパッと顔を明るくさせた。
「……………」
敵を切り捨てて木の枝に飛び移った飛段は、じっとヨルと角都を見つめていた。
飛段Bは飛段の隣に飛び移り、挑発的な言葉をかける。
「足手まといのてめーをちゃんと見ろ。アレもてめーだ」
飛段は飛段Bに向かって大きく腕を横に振るった。
飛段Bは他の木の枝に飛び移ってそれを避ける。
「おいおい、オレを儀式にしてもジャシン様は喜ばねーぞ」
飛段は舌打ちをしたあと、標的に向かって飛び下りる。
宙で勢いをつけ、一回転して大鎌を振り下ろした。
賞金首を換金した頃には、日はとっぷりと暮れていた。
もう少し進めば町に到着したのだが、分身達を引きつれて入るわけにもいかず、道を逸れて野宿をすることにした。
ヨルが仕留めたイノシシを焚き火で焼き、飛段とその分身達は切り分けた肉を取り合った。
「それはオレのだァ!!」
「てめー、分身の分際で贅沢すんなァ!!」
「オレの肉ゥ!!」
「肉ゥ!!」
互いに譲らず、獣のように群がっている。
どの飛段がどの言葉を吐いているのかヨルの耳でも聞き分けられなかった。
「す…、凄まじい…」
角都の右隣の丸太に座るヨルは、イノシシの足に噛みついて血を啜りながらそれを眺めていた。
角都も呆れている。
しばらくして、肉分けが決まったのか静かになった。
飛段Cが角都に近づき、小さな肉を差しだす。
「角都のぶん!」
笑顔で差しだす飛段Cを見て、カワイイもの好きのヨルは「はうっっ」と胸を打たれた。
「…おまえはいいのか?」
「いーのいーの」
飛段Cは角都に肉を手渡したあと、その左隣に座り、断りもなく膝の上に頭をのせた。
「…すっかり懐かれたな」
ヨルは苦笑する。
角都はなにも言わず、口布を外して小さな肉を食べ始めた。
(角都に助けてもらったからって甘えすぎだっての…)
焚き火に座っている飛段はそれを見て密かに嫉妬する。
飛段Dはヨルに近づき、その隣に座った。
名残惜しそうに肉を差しだされ、ヨルは手で制して断る。
「いい。血ィ飲んだし」
「そっかァ」
残念そうに肩を落としたあと、肉を食べ始める。
(分身でも、肉食えるのか…)
ヨルはその様子を横目で見た。
「オレ…、ちゃんと戦えてたか?」
「…ムッチャクチャだったけどな」
ヨルに一喝されたあと、飛段Dはとにかく大鎌を振り回して応戦した。
「でも、逃げるようなことはしなかった。とりあえず、足手まといにはなってねえよ」
「…そっかァ」
飛段Dが笑みを浮かべたとき、
「!」
突然、煙となって消えてしまった。
ほぼ同時に、飛段Cも煙とともに消えてしまう。
角都とヨルと飛段は目を見開いて驚いた。
「消えた…」
ヨルが呟いたとき、飛段は「けどよォ…」と傍で肉を頬張っている飛段Bに視線を移す。
「ああ、満足したからじゃねえ? Cは優しさを求め、Dは必要とされることを求めていた。それが叶った。だから消えた」
小さな願望だ、と飛段Bは嘲笑を浮かべて続ける。
「おまえはどうしたら消える?」
ヨルに問われ、飛段Bは最後の肉を頬張りながら答える。
「そうだなァ。てめーが死ぬことか」
「「!!」」
飛段Bは大鎌を手にとり、一気にヨルと角都に詰め寄って大鎌を振り下ろした。
ギイン!
それを受け止めたのは、飛段の大鎌だった。
「勝手なことすんじゃねえって言ったろが!」
「ハァ? 言うこと聞くとでも思ったかよ。バーカァ!」
「てめーはオレだろがバーカァ!!」
大鎌同士の押し合いになり、互いにその場から飛んで焚き火を挟んで睨み合う。
「厄介な分身だな」
「おまけにどっちもバカだ」
角都に続いてヨルも呟く。
「大体てめー、儀式したら消えねーのかよ?」
儀式は己の心臓を貫くため、分身の場合、消えてしまうだろう。
飛段Bは大鎌を向けながら高笑いする。
「ゲハハハ! どっちかが死ねばてめーの腑抜けた信仰心もちったぁマシになんだろォ!?」
ほぼ同時に動きだし、辺りに金属音が響く。
「とっとと消えやがれェ!!」
「バラッバラにして、目の前で儀式してやるぜェ!!」
*****
3時間後。
「と…、とっとと消えやがれェ!!」
「バラッバラにして、め…、目の前で儀式してやるぜェ!!」
未だに勝負はつかず。
何度目かのセリフを言っている。
「長ぇ…」
「戦っているのは同じものだからな」
見物していたヨルと角都も精神的に疲れてきた。
どちらも半目で眠そうだ。
「朝になっちまう…」
飛段と飛段Bは疲労しながらも攻撃を続け、罵り合い、たまに下品なセリフも吐いた。
「この×××が!!」
「てめーこそ、×××だろが!!」
ヨルと角都はそれに苛立ちを募らせていた。
2人は顔を見合わせ、黙って頷いて立ち上がる。
それに気付かない飛段と飛段Bは相討ち覚悟で迫った。
「「死ねえええ!!」」
ゴッ!!!
阻止したのは、角都とヨルだった。
角都は飛段の背後に、ヨルは飛段Bの背後に回り、頭目掛けて思いっきりコブシを振り下ろしたのだ。
鐘の鳴るような音とともに、飛段と飛段Bは地面に倒れた。
飛段Bはうつ伏せになってピクピクと痙攣したあと、煙となって消えた。
「静かになったな」
「最初からこーしとけばよかったんだ」
辺りは静けさを取り戻し、角都とヨルは気絶中の飛段を移動させ、眠りに就くのだった。
*****
翌朝、飛段は決着をつけられなかったことに腹を立てていた。
「角都、ヨル」
昨夜の文句を言われるのかと思いきや、飛段は真面目な顔で言う。
「2度と迷惑かけねーように、オレ、これから毎日分身の術の練習するぜ!」
「「2度とするな!!!」」
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