分裂しても馬鹿は馬鹿
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とある町の公園で、ヨルは術の練習をしていた。
角都は買い出しに行き、飛段はヨルの修業をヤンキー座りで見物している。
「分身の術!」
煙とともに、ヨルが3人になる。
これがヨルの限界だった。
普通の忍より出せる分身が少ないのだ。
「やっぱ、何度見ても2・3人が限界かァ」
先程から見物していた飛段が馬鹿にするように言った。
オリジナルを含め4人のヨルは同時に飛段を睨み、術を解く。
「分身蝙蝠なら、もっと出せるっ」
分身の術で出した時の10倍の人数が出せる。
ただし、自分の血液を用いた術なため、使用したあとは貧血気味になるので練習であまり使いたくないのだ。
先程の飛段の言い方にカチンときたヨルは、飛段に指をさしながら命令するように言う。
「飛段、見本を見せてみろよ」
「…オレ?」
自分に指さす飛段に、ヨルは「他に誰がいる」と言いたげに睨みつけた。
「見せてみろよー、先輩~」
挑発的な言い方に腹が立ち、飛段は目元を痙攣させながら笑みを浮かべた。
「てめー、オレができねえとでも思ってんだろォ」
(思ってる)
ヨルの目はそう語っていた。
飛段は笑みをやめて立ち上がる。
「見てろよォ、クソアマァ!」
さっと印を組むのを見て、ヨルは新鮮味を覚えていた。
(基本的な術をやる飛段を見るのは初めてだな)
飛段は不機嫌そうに眉間に皺を寄せながら術を発動する。
「分身の術」
同時に発生した煙が飛段を包み、ヨルは煙の向こうにもうひとつの人影を見た。
「おー!」
しかし、その姿を見ると同時に、ヨルは「お?」と首を傾げた。
「成功したぜ、ヨル!」
「ゲハハハ!」
血を取り込んだわけでもないのに、分身はなぜか儀式モードになっていた。
「なんでスカルパンダなんだよ」
自分の分身を見た飛段も「あれ?」と首を傾げる。
「久しぶりだからな」
飛段自身もわからないといった様子だ。
分身の飛段は今にも地面に血で陣を書いて儀式をしようとしている。
「飛段、おまえが(とりあえず)分身できるのはわかったから、術を解け」
「はいはい」
飛段はもう一度印を結んで分身の術を解除しようとした。
「解」
するとまた煙に包まれた。
出てきた飛段を見て、ヨルは片眉を吊り上げる。
「…おい、なんでもうひとり増えてんだよ!! しかも子供!?」
新たに現れた分身に指をさし、勢いよくツッコんだ。
新たな分身はなぜか子供姿だった。
オリジナルの腰よりも低く、身長に合った外套を着てサイズの小さい鎌を背中に携えている。
飛段もそれを見下ろしてびっくりしている。
「あっれェ? どうなってんだァ?」
もう一度とばかりに印を結び、「解」と唱える。
「……!!」
煙から現れたのは、またしても分身だ。
これで3人目である。
3人目の分身は、オリジナルと違って髪を全部おろしていた。
どこか怯えた目をしていて気が弱そうである。
ついに飛段はムキになった。
「ちょっと待ってろォ!! もう一度…!!」
ヨルは印を結んだ飛段の腕に飛びついて阻止する。
「まてまてまてまてこれ以上増やすなァ!!」
戻ってきた角都は、増えた飛段を一目見て、まず、食材が入った紙袋を落とした。
「ゲハッ。角都ゥ、戻らなくなったァ」
オリジナルの飛段は「やっちゃった」というポーズをとる。
「「「ゲハッ」」」
同じく分身達も。
ゴッ!!×4
オリジナルと分身達は吹っ飛ばされた。
「…まあ…、当然そうなるわな…」
遠くから眺めていたヨルは納得した声を出す。
*****
ベンチに座っている角都は、目の前の地面に正坐する飛段達から事が起きた理由を聞き、頭を抱えた。
「オレが目を離している隙にトラブルを起こすのはやめろ。オレの連れは2人で十分だ」
ヨルと飛段のことである。
ただでさえ手を焼かされる2人に、角都はこれ以上面倒が見きれない。
「貴様もついていながら…」
角都に睨まれ、ヨルは一歩下がった。
「確かに、「やってみろ」って言ったのはオレだけどさぁ」
たかが分身でこんな事態になるとは誰も思わない。
「ったく、これだからジジイは気が短くてウゼーぜ」
そう言うのは儀式モードの飛段B。
「痛ェよォ」
殴られて頭にできたコブを押さえて泣いているのは、子供姿の飛段C。
「もう死にてえよ…」
いじけてブツブツ言ってるのは、髪を全部下ろした飛段D。
どの分身も飛段は飛段だが、極端に性格が分かれている。
「間違いなく全部おまえだよ」
「オレあんなじゃねーよォ」
本人は「違う」と言い張る。
「解こうとしたらまた増えるかもしれないから、角都、なんとかしてくれ」
ヨルは角都なら解き方を知っているのではないかと思ったのだ。
「…他者がこれを解こうとする場合、分身を殺すしか手はない」
それを聞いた分身達はピクリと反応し、飛段CとDは飛段Bの背後に隠れた。
「てめー、相棒の分身殺そうってかァ!?」
「やー」
「やり方が荒っぽいぜェ」
角都は抗議する分身達を無視して腕を硬化させる。
「おまえ達はただの分身だ。オレには関係ない」
それを眺めているヨルはなんだかかわいそうになった。
その時、3人は一斉にヨルに顔を向けて喚く。
「ヨル! てめーも関係ねえとか思ってんのか!?」
「助けろよォ」
「仲間だろォ」
「!!」
(なんでこっちに振るんだよ、あいつらは!!)
ここも飛段と同じだった。
オリジナルの飛段も、自分の意見が角都に通らなかった場合、すぐにヨルに助けを求めるのだ。
「く…っ」
ヨルは目を逸らそうとしたが、集中する視線に目が離せない。
特に子供バージョンの飛段Cは強敵だ。
「ヨル…」
うるうるとした目で見つめられ、ヨルは飛段とわかっていてもカワイさに胸を打たれてしまう。
(飛段のクセに…!!)
なぜか敗北感を覚えた。
「か…、角都、分身って、時間が経過しても元に戻らねえのか?」
「…人と場合による」
飛段の場合は特例だからどうなるかはわからない。
「じゃあさ、明日まで様子見て元に戻ってなかったら、オレが始末する。それまでオレが面倒見る」
まるで親にペットをねだる子供のようだ。
角都は怯える分身達に目を向け、ヨルに言う。
「……それならいいだろう」
それを聞いた分身達はヨルを囲んで喜んだ。
「てめーなら角都を説得できると思ってたぜ!!」
「ヨルー!」
「オレ、殺されるならおまえがいい!」
「わかったから、囲むのはやめろ」
同じ顔に囲まれるのは落ち着かない。
「それじゃああとは任せた」
飛段は勝手なことを言って行こうとしたが、ヨルはシュバッと右手を伸ばし、飛段の肩をつかまえた。
「てめーの分身だ。てめーも手伝え」
「おめー、いつから地怨虞使えるようになったんだよ…」
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