鬼人も人の子
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敵はヨルを放っておいて真っ直ぐに飛段へと向かう。
その間にヨルは移動し、それを目の端に確認した飛段は追いつかれる前に大きく振りかぶって角都を投げた。
ヨルは空中でそれをキャッチし、逃亡する。
隊長は指示を出した。
「2人は銀髪! 2人は黒髪! オレは赤ん坊だ!」
2人は飛段の足止めをし、もう2人は隊長とともにヨルを追いかけた。
マークされては角都をうかつに投げられない。
敵がそう考えるのはヨルは容易に予測できていた。
敵に背を向け、飛段とは反対の方向へ投げる。
「!?」
このあと、敵は2度も驚くことになる。
角都をキャッチしたのは、コウモリの群れだった。
「そんなことも…」
「できるんだよ!」
呟いた敵の右頬をアタッシュケースで殴り飛ばし、角都を追いかける。
追いついたコウモリから角都を受け取り、飛段の方をチラリと見ると、大鎌で2人の忍を薙ぎ払ったのが確認できた。
「飛段!」
飛段は受け取る体勢をとったが、飛段とヨルの間に飛段をマークしていた忍が入り、角都をキャッチした。
「「あ!!」」
ヨルと飛段の声が揃う。
角都の服の背部をつかみ、忍はしてやったりと笑った。
「もらったぞ!」
ヨルと飛段は悔しがるどころか、両手で耳を塞いだ(飛段は左肩に左耳をくっつけている)。
同時に、角都は大口を開け、
「ぎゃああああああああん!!!!」
あのフルボリュームの泣き声を上げた。
野鳥はびっくりして飛び去り、野生動物は逃げ出す。
一瞬気絶した忍は角都は手を放し、角都を落とした。
他の忍と隊長は耳の痛みに苦しんで手を出さない。
ヨルは飛段とともに木から飛び降り、角都をキャッチして茂みの中へと逃げた。
「デリケートだな、角都って。あやすのヘタクソだったら死ぬぞ」
「赤ん坊の頃から最強だったのかァ」
茂みの中で、ヨルと飛段はその場に座り込んで角都をあやしていた。
「クソ…。角都が泣くといつか耳が死ぬ」
耳を塞いでいたとはいえ、ヨルの耳は多少のダメージを受けていた。
鼓膜は破れていないが、耳鳴りがする。
耳鳴りが回復してきたところで、ヨルは角都を仰向けに寝かせた。
「なにする気だ?」
「奴らが狙ってる種を取り出す」
「できるのか?」
「多少荒っぽいがな。けど、オレが一番心配なのは、種を取り出しても、角都が元に戻るかどうかだ」
「………やろうぜ。やらないよりはいいだろ」
頷いた飛段を見たヨルは、手を差し出して「杭を寄越せ」と要求する。
飛段は懐から伸縮式の杭を取り出し、躊躇いながら渡した。
ヨルは目の前で寝転がっている角都を動かし、横向けにしたり、うつ伏せにしたりして種が入り込んだ部分を捜した。
「!」
後ろの左肩に小さな窪みのような傷を見つけた。
サイズからしてここから種が入り込んだ可能性が高い。
両脇を抱えて飛段に渡し、「押さえててくれ」と頼み、小さな肩に耳をつけた。
体内を流れる血液の通りが悪い音が聞こえる。
なにかがある、と確信したヨルは深呼吸をしてから、その部分に杭の先をゆっくりと刺した。
角都はビクッと震え、泣き声を上げるために大きく息を吸い込んだ。
ヨルは思わず離れて耳を塞いだが、飛段はその小さな背中を何度も軽く叩いて落ち着かせる。
「痛いけど…、すぐ終わるから。な? 角都」
「うぅ?」
笑みを向けられた角都は涙目だが、大声を上げて泣かなかった。
「早く終わらせてやれ、ヨル」
「ああ」
血は流れているが傷は浅い。
ヨルは歯を立てずにその傷に唇を押しつけ、吸い始めた。
そのまま種を取り出す気だ。
飛段は角都の背中を軽く叩きながらあやしている。
「「!!」」
その時、茂みから先程の忍達が飛び出し、クナイを投げつけた。
「くっ」
「う!」
それは飛段の背中と、ヨルの左肩と腹に数本突き刺さった。
「これは返してもらう」
隊長は飛段の手から角都を取り上げ、そのまま茂みの向こうへと行ってしまった。
「角都!!」
飛段は背中のクナイを抜き、茂みの方へ叫んだ。
ヨルも左肩と腹のクナイを抜く。
「ヨル! 角都がひらきにされちまう!」
「…どうなるかだな」
ヨルの、ベッと出された舌の上には、根っこと小さな赤い花弁のついた花があった。
角都を連れ去った忍達は、猫の額ほどの更地の真ん中に寝かせた角都を囲んでいた。
隊長はクナイを取り出して「すぐに取り出す」と言う。
「赤子を殺すのは抵抗がありますね」
「私情を挟むな」
「元は立派な成人だ」
クナイの刃が角都の腹に触れる直前、角都は小さな手で印を結んだ。
「!?」
警戒した隊長はすぐにその腹を裂いてしまおうと刃先を立てたが、角都の腹は傷つきもしなかった。
「なぜ切れない!?」
土矛を発動したからである。
角都の赤と緑の目がギョロリと動き、隊長を睨みつけた。
途端に、縫い目の間から地怨虞が出てきた。
ドオン!!
「あそこだ!」
「角都ゥ!」
爆発音を聞きつけたヨルと飛段はその場所へ向かい、土煙が漂う更地に到着した。
地面を見ると、先程の忍達が倒れていた。
あの隊長もだ。
「!」
ヨルは土煙の向こうに見覚えのある大きな人影を見つけた。
人影はこちらに近づき、姿を現す。
「角…、ぎゃあ!!?」
元に戻った角都は当然全裸である。
思わず悲鳴を上げて目を閉じたヨルに構わず、角都は手を差し出した。
「早く服を寄こせ、馬鹿が。殺すぞ」
「角都のセリフだァ☆」
飛段はとても嬉しそうである。
アジトへの帰り道、不死トリオは並んで山道を歩いていた。
戻る前に、飛段は角都に左腕を縫ってもらい、ヨルはアタッシュケースを持ってもらっていた。
ヨルから自分が赤ん坊になっていたことを聞かされた角都は少し機嫌が悪そうだ。
「オレとしたことが…」
まさか自分がそんなトラブルを起こすとは思ってもみなかったのだ。
1日だけヨルと飛段の世話になったと聞いただけで気分が沈んでいる。
「そんな露骨にショック受けなくたっていいだろ。こっちは大変だったんだぜ」
「そーだそーだ。マジ本気死にそうだったんだぜェ」
「飛段、貴様が言うな」
そのあと、飛段は突然噴き出し、笑いまじりに言う。
「赤ん坊の角都の世話も大変だったんだぜー」
「…昔、母親に「おまえの世話は大変だった」と同じことを言われた」
((だろうな、母親…))
ヨルと飛段は大いに納得し、母親を尊敬した。
「もう金輪際、貴様らの世話にはならん」
そう言って先を歩く角都を見て、ヨルと飛段は顔を合わせ、笑みを浮かべた。
「オレらの世話はしてくれよ、角都」
「オレ的にはァ、角都の世話も悪くねーかもって思ったんだけどなァ♪」
「黙れ、本気で殺すぞ」
*****
アジトに帰還した不死トリオを待ち構えていたのは、ベビーグッズを用意した動物コンビとデイダラだった。
角都の姿を見て、驚きとも落胆ともわからない反応をされる。
「角都さんが赤ん坊になったと聞いたので…」と鬼鮫。
「ベビーグッズを用意しておくべきだと言われました」とイタチ。
「…誰からだ?」
角都の声と雰囲気は完全に怒りを纏っていた。
それにビビった飛段とヨルは角都から一歩離れる。
「デイダラ、誰からだ?」
「え…と…、だ…、旦那からだ。うん」
「あの童顔中年はどこだ!?」
元に戻った角都を見たサソリが「あの姿、他の奴らが見たらモテモテだったのにな」と言い、角都の激怒を買うまで、あと1分。
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