鬼人も人の子
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飛段の部屋で、ヨルと飛段は角都の面倒を見ていた。
飛段は角都の小さな体を抱き、ヨルは人肌温度に温めたミルクをスプーンで掬い、角都の口に運んでいく。
角都は文句も言わずに喉を鳴らしてそれを飲んだ。
「あの角都がミルク飲んでる…。角都をカワイイなんて思うこと、絶対にないと思ってた」
角都にそれを与えながら、ヨルは苦笑した。
「だなァ。今と昔じゃ大違いだって実感させられるぜ」
そう言いながら飛段も「うんうん」と頷く。
「飛段、もうちょっと緩めて抱いてやれ」
先程、抱き方を失敗して再びフルボリュームで泣かれたのだ。
ヨルにとって、赤ん坊の角都の泣き声は恐怖となっていた。
角都がぐずりそうになれば、すぐに両手で耳を塞いだ。
「明日、どうしよう…」
ミルクを与え終わり、ヨルは翌日の仕事に不安を覚えていた。
明日も賞金稼ぎの仕事で付近の山に出かけならなくてはならないのだ。
このアジトにいるのは、不運にも自分達と芸術コンビしかいない。
しかも、芸術コンビは明日任務に出かけるそうだ。
角都を預けたいのに誰もいない。
だからといって、アジトにひとり残して行くわけにもいかない。
「連れて行くしかねーんじゃねえのォ? それか仕事なんて休もうぜェ。文句言う奴はこんな状態だしィ」
「うー?」
角都は飛段に両脇をつかまれて持ちあげられた。
不思議そうに首を傾げている。
「…角都を元に戻す術を捜すついでだ」
時間が経過しても元に戻らない場合、早めに原因を見つけ出さないと手の打ちようもないのだ。
「……あー…。それなら行くゥ」
飛段も納得の声を漏らし、座った状態で角都を頭上まで、高い高い、と持ち上げた。
「うー?」
角都はまた顔を傾げるだけだった。
その夜、3人は飛段の部屋で一夜を過ごすことにした。
角都は飛段と一緒に風呂に入り、飛段の横でスヤスヤと眠った。
翌日、赤ん坊のままの角都を連れて賞金稼ぎの仕事に出かけたヨルと飛段は、早くも賞金稼ぎとその部下達に手こずっていた。
「なんで角都がこんな状態の時に限って敵が多いんだよ!!」
ヨルは逆切れしながら迫ってくる敵を切り倒していく。
片腕に角都を抱えたままで。
「くっちゃべってねえでさっさと片付けろォ!!」
「テメーがそれを言うな!!」
いつもの角都なら、ここで「うるさい黙れ」と一喝しているところだ。
「まさか、あの暁が子連れとは…」
「どっちの子だ?」
挙句、敵に笑われる始末だ。
「「オレの子じゃねえ!!」」
見事に2人の声がハモり、同時に賞金首へと突進して武器を振るった。
*****
換金所は近くの山の廃屋にある。
2・3度立ち寄った場所をヨルは覚えていた。
入口で飛段と角都を待たせ、賞金首の死体を肩に担いで廃屋の扉をくぐって地下へと向かう階段を下り、その先の大きな部屋にいた男に死体を渡し、確認をとったあと金と交換することに成功した。
しかし、この場合、角都なら無表情ながらも機嫌が良くなるのだが、ヨルの場合は逆だ。
金の入ったアタッシュケースを手に廃屋から出てきたヨルの顔は、この世の不幸を背負った顔をしていた。
それを一目見た飛段はビビる。
「き…、気分最悪そうだなァ」
「おまえの言葉を借りれば、超スーパー最悪だァ…」
どんよりとしたまま、飛段の隣に腰を下ろした。
ヨルは血の臭いは好きだが、死臭や腐臭は嫌いなのだ。
その嫌いな臭いめいいっぱい吸ってしまい、気分が落ち込んでいた。
息を大きく吸っては吐きを繰り返し、体内を換気している。
「角都がいないのが、こんなに応えるとは…」
ヨルの想像を大幅に超えていた。
先程の敵も、角都の心臓達がいれば簡単に片がついたし、換金所だって、通い慣れた角都が一人で行き、その間飛段と一緒に待っていればいいだけの話だった。
おまけに、
「左腕まで切られやがって…」
ヨルは唸るように言いながら、現在角都が遊んでいる飛段の左腕を睨みつけた。
ヨルと飛段によってトドメを刺される直前、賞金首は最後の悪足掻きに飛段の左腕を切れ味のいい刀で、左腕の二の腕から下を切り落としたのだ。
ヨルは飛段の腕を縫合する力も物も持っていない。
「くっつかねえのか?」
「んー。ずっと右手で押さえつけとかねーと…。時間かかるけど」
「んぅー」
角都は小さな両手で飛段の左手をギュッギュと握りしめていた。
飛段は「あまり遊ぶな、角都」とやわらかく叱る。
それを見たヨルはふと尋ねた。
「飛段…、角都がずっとこのままだったらどうする?」
飛段はヨルの顔を一瞥し、再び角都に視線戻した。
「…角都がいたからオレは暁に入ったんだぜ。角都がこのままなら、暁抜けて、角都育てて、ジャシン教の布教に専念する」
飛段の子育てはまともではないだろう。
元通りの角都に育てるのは容易ではなく、確実にどこかがねじ曲がってしまう。
「今の言葉、ゼツやリーダーに聞かれたらどうすんだ」
聞いたのは自分だが、「暁を抜ける」という言葉はうかつに口にするものではない。
「オレは、角都とヨル以外、誰とも組まされたくねェ」
「…そっか」
それを聞いたヨルは少し嬉しく思った。
「「!」」
気配を感じたヨルと飛段は、その場から前へと飛んだ。
すると、さっきまで座っていたところに大量のクナイが降ってきた。
辺りを見回すと、周りの木の枝に忍服を着た5人の忍達が立ってヨルと飛段を見下ろしていた。
額当てをしていないため、どこの里の忍かはわからない。
「貴様らが弱るのを待っていた!」
その中の隊長が声を上げた。
「敵…」
「みてーだなァ…」
ヨルはアタッシュケースを右手に持ち、左手で夢魔を抜き取って構えた。
飛段は口に自分の左腕の袖を咥え、右手で角都を持っているため大鎌が構えられない。
隊長は手を差し出した。
「その赤子、こちらに渡してもらおうか」
敵の狙いは角都だ。
ヨルと飛段は同時に角都を凝視した。
「なんで角都を…!」
ヨルが問うと、隊長は理由を話す。
「我らが欲しいのは、その赤子の体内にある、“稚児返りの種”だ。その男は、それを取り込んでそんな姿になったのだ」
聞き覚えのないモノだ。
「なんだそりゃ?」
首を傾げるヨルに隊長はまた答える。
「チャクラを吸わなければすぐに腐ってしまう種で、常に忍の体の外側に植え付けておかなければならない。今回、とある研究施設からその種が我々のもとに届くはずだったのに、運んでいた飛脚がその男に殺され、種をとられたのだ」
「飛脚…?」
赤ん坊になる前に角都が殺したのは賞金首だった。
それを思い出したヨルははっとする。
「賞金首を、飛脚に使ったのか?」
「並の忍ではチャクラを全て吸われてしまうからな」
稚児返りの種は、賞金首の首の後ろに植え付けられていた。
角都に殺されたことによってチャクラはストップし、吸収できなくなった種は角都の体に付いたのだ。
換金所に運ぶまで死体は角都の背中に密着しているため、種が入りこむ機会はいくらでもあった。
隊長は説明を続ける。
「種の間は発動しないが、ある条件を満たせば、種は体内に入り込み開花する」
「条件ってのは?」
「栄養だ。植え付けている間、水以外のものは摂取してはならん」
食堂で角都が栄養満点な魚定食を食べていた姿がヨルと飛段の脳裏をよぎった。
((あれか――――!!))
「ぎゃぅ?」
赤ん坊の角都はもちろん理解不能。
「赤ん坊から取り出し、開花したものをもう一度育て、種を作らせてもらう! やっと成功した貴重な代物だからな!」
忍達は一斉にクナイを構えた。
「うわ!?」
「なんだ!? 口寄せか!?」
クナイが投げられる前に、ヨルは音寄せでコウモリ達を呼び、忍達を混乱させた。
その隙に、飛段の口に咥えられていた左腕を左手で取り、「逃げるぞ」と言って足の裏にチャクラを練り、木の枝に飛び移りながら逃げる。
「なんでだ!? あのまま殺っちまえばいいだろォ!?」
飛段はそう言いながらヨルの背中を追いかける。
「確かに数は少ないが、その状態で戦えるのかよ!? テメーは死なないが、角都はどうなる!?」
赤ん坊の角都は戦力外で自分の身を守ることさえできないのだ。
それに、今の飛段には左腕もない上に、右腕に角都を抱え、大鎌を振るえない。
ヨルは右手にアタッシュケース、左手には飛段の腕を持っていてうまく戦うのは難しい。
角都をまったく巻き込むことなく戦うのはムリだ。
後ろから忍達が木の枝に飛び移りながら追いかけてくる。
ヨルと飛段より少し速く、だんだん追いつかれてきた。
「ヨル、角都頼む!」
自分が一番遅いことを理解している飛段は、右腕に抱えた角都をヨルに差し出した。
「わかった!」
ヨルは飛段の左腕の袖を口に咥え、空いた左腕に角都を受け取る。
飛段は立ち止まって振り返り、空いた右手で柄をつかんで大鎌を構えた。
「ジャシン様の贄になりなァ!!」
大鎌を振り回しながら向かってくる忍と刃を交える。
「!?」
しかし、残りの4人は飛段を通り越し、ヨルと角都に向かっていった。
振り返ったヨルもそれに気付く。
(角都だけを狙ってくるか!)
舌打ちをし、疲れが残る体で必死に逃げる。
「チッ!」
うかうかしていられず、飛段は敵を空中で蹴り落としたあと、すぐにヨルのあとを追いかけた。
敵はもうそこまで迫ってきている。
角都を抱えたまま、1対4で楽に勝つ自信はない。
そこでヨルは閃いた。
立ち止まって右手のアタッシュケースを敵に向けて振るう。
「おっと!」
2人に分かれた隙に、ヨルは左腕を振りかぶった。
「飛段!!」
そのまま勢いよく飛段に向けて角都の小さな体をストレートに投げる。
「!?」
これには飛段どころか敵もびっくりだ。
荒っぽいこと極まりない。
「危ね!!」
飛段は右腕で角都を見事にキャッチする。
角都の顔はキョトンとしていた。
「バカ! こっちは片腕なんだぞォ!!」
「いいから逃げろバカ!!」
追いかけっこ再開。
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