鬼人も人の子
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「―――ってなワケだ」
「…一服盛られたか?」
「オレもそう思って、あの飯屋に問い詰めに行った。けど、店主は本当になにも知らないらしい」
調べても、忍でもない普通の店主だった。
「それに」とヨルは言葉を続ける。
「一服盛るなら、仲間であるオレらにも盛るはずだ。オレなら、全員赤ん坊になったところを一気に…」
だが、いくら強敵といえど、ヨルは相手を赤ん坊にして殺そうなどとは考えない。
サソリはアゴに指先を当て、考える仕草をする。
ふと、顔を上げてヨル越しの角都を見た。
「角都がなに食べてたか具体的に覚えてるか?」
そう言われ、ヨルは視線を見上げて思い出しながら口にする。
「え…と…、魚…、さんまかな? 米、野菜、みそ汁…、あ、漬物も…」
「どれも一服盛れそうなのばっかだな」
聞きだしたところで対処のしようもない。
「他に、角都が食べたもの、もしくは賞金首に傷をつけられたか、術をかけられたか…」
ヨルは首を横に振った。
「朝はなにも口にしてないし、賞金首は会った直後に殺した」
それを聞きながらサソリは膝で頬杖をつく。
「オレに相談しにきたのは?」
「そりゃ、角都を元に戻してほしいから…」
「ムリだ。原因が術か薬かもわからねーんじゃ、解決なんてできるわけねえだろ」
手をヒラヒラと振りながら冷たくそう言った。
サソリならなんとかしてくれるだろうと期待していたヨルは焦る。
「せめて調べるとかしてから言えよ。これじゃ、仕事もできやしねえ」
飛段もヨルひとりでは面倒が見きれない。
「解体(バラ)していいなら調べてやる」
「いえ、けっこうです」
思わず敬語で断ってしまった。
「逃げるな角都ゥー!」
四つん這いで逃げる赤ん坊の角都を追いかける飛段。
ドタドタという騒がしい足音がサソリの部屋に響く。
「部屋で暴れるな!!」
サソリに一喝される始末だ。
ヨルは、ひょいと飛段に抱えられた角都の変わり果てた姿を改めてじっくりと見つめる。
さすがに、赤ん坊になったからと言って、地怨虞が消えるわけではない。
赤と緑の瞳も、縫い目も、背中の心臓達もそのままだ。
けれど、敵と出くわしても、闘争心のない赤ん坊はそれを発動させることができるわけがない。
任務の途中で飛段が体をバラされても、縫合することもできない。
「どうしよ…」
サソリにも見放されてしまった。
遠い目をしたとき、
「ぎゃあああああああん!!!!」
アジト中に響き渡るほどのフルボリュームの泣き声に、鼓膜が破れたヨルと飛段はその場に倒れ、死にかけた。
サソリは傀儡なので鼓膜がないため、無事である。
「な…、なんだ…?」
ヨルと飛段は両耳を両手で押さえながら角都を窺った。
角都は未だに泣き続けている。
「腹減ってんじゃねーの? ヨル、メシ係な」
わずかに聞きとれた飛段の声にヨルは首を傾げる。
「赤ん坊ってなに食べるんだ?」
「確か…、ぼにゅー?」
「ぼにゅー?」
「ミルクだ。女のおっぱいから出るらしい」
ボゴッ!!
間髪いれずに、ヨルはその顔を思いっきり殴って横に吹っ飛ばした。
「んなもん100年生きてて一回も出たことねえわ!!!」
そこでサソリが言う。
「母親から出るもんだ、それは。けど、飛段、頑張れば出るんじゃねーか? おまえでも」
「え? 出るかな?」
起き上がった飛段は首を傾げる。
サソリは意地悪な笑みを浮かべて頷く。
「おう、おまえならできる」
「よし! 待ってろ、角…」
「出るかあ!!!」
ゴソゴソと準備を始めた飛段に、ヨルは容赦なくツッコミという名の鉄拳を食らわせた。
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