空の巻物
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オレの暮らしていた里は、雪が降らなかった。
だから、あいつらと旅をするまで雪とものを知らなかった。
けど、里にも冬という季節はちゃんと存在する。
空気が冷たくなると、うとうとと眠くなる。
その時は冬眠の自覚がなかったから、ただ単に冬は眠くなるものだとしか感じていなかった。
それに元々暖かい里だったから、春まで冬眠することはなかった。
冬が始まる日と終わる日は音でわかる。
始まりの日、辺りは静寂に包まれる。
動物の息も、虫の声も、オレの耳に入ってこない。
冷たさをつれた風の音だけしか、聞こえなかった。
世界が終わったあとも、こんな静けさなんだろうと感じた。
オレは冷たい石のベッドに腰掛け、両手で両肩をつかんで小さく震えながら、じっと春の音を待っていたのを覚えている。
カタカタ、カタカタ。
雪が降っていれば、気が紛れたかもしれない。
春まで冬眠できたかもしれない。
オレの里は雪に嫌われていたようだ。
*****
ゴトゴト、ゴトゴト。
その音に誘われるように目を覚まし、灰色の空を見上げた。
鼻先に雪の一粒が落ちてくる。
追いかけるように、他の雪がちらちらと空から落ちてきた。
「お客さん、もう1枚毛布お貸ししますよ。寒いでしょう?」
オレ達と荷物を乗せた荷車を引っ張っていた男が、こちらに振り返って言った。
「いや、いい。それに、寒くない」
オレは、オレを挟んで眠る2人を起こさないように男に声をかけた。
男は「そうですか?」と言って前方に向き直り、そのまま目的地の町へと向かう。
あと数時間はこの状態だ。
横から2人の寝息が聞こえる。
落ち着いた寝息と、たまに寝言が混じる寝息。
そういえば、旅を始めてからか。
冬の音が聴こえなくなったのは。
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