空の巻物
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ひとりで買い出しに行った途中、道の真ん中で見知らぬ女に呼び止められた。
警戒したオレだが、相手は慌てた様子で「怪しい者じゃないの」と否定する。
オレはますます怪訝な顔をした。
「おまえ、オレ達のことつけてただろ」
指摘すると、女は顔を強張らせた。
図星らしい。
向こうから現れてくれて手間が省けた。
このまま人気のない場所に誘い込んでやろうかと計画していたがな。
「な、なんでわかったの?」
「耳がいいんだ、オレは」
オレ達がこの町に立ち寄った時だ。同じ足音と息遣いは気になっていたが、角都と飛段には言わなかった。
あとでオレが始末しようと考えたからだ。
飛段は無駄に「儀式だ儀式だ」って騒ぎ立てるし、角都は仲間を呼ばれては面倒だと町から離れようとするからな。
せっかくの宿泊が台無しになるところだ。
「騒ぐのは好きじゃねーんだ。オレ達になんの用か話してもらおうか」
「ちょ、ちょっと待って! 私、こういうものなんだけど…」
女は急いで懐に手を入れたが、オレは構えなかった。
この女からは武器らしき金属音がしなかったからだ。
煙玉が出てきたとしても、オレからは逃げられない。
目の前に名刺が突き出された。
見ると、どこかの出版社と本名とは思えないようなふざけた名前と職業が書かれていた。
「小説家…?」
「そうです。知ってます?」
「知らん」
「ですよねぇ…」
女はしゅんと落ち込んだ。
とりあえず、忍じゃなさそうだ。
「尾けてすみませんでした。でもお願いします。話を聞いてください」と両手を合わせて頭を下げる女に、オレは「話だけなら…」と渋々答えて頷いた。
*****
オレと女は近くの茶屋に寄り、店の奥の席にテーブルを挟んで向かい合わせで座っていた。
オレと女の前には運ばれてきたばかりの茶が湯気を上げていた。
女は一度落ち着こうと茶を一口飲み、息をつく。
「…オレの連れ2人も呼ぼうか?」
女は湯飲みをドンとテーブルに置き、両手をブンブンと振った。
「い、いえ! あなたに話を聞きたくて…、女同士で」
「!」
オレは再び警戒した。
まさかただの一般人に一発で女だと見破られるとは。
サラシの巻きが緩かっただろうか、と思わずサラシを確認する。
「それで、話って?」
女は頷いたあと、「町の出入り口付近の団子屋で仲良く食べている姿をお見かけしてから、尾行してしまいました。すみません」と白状と謝罪をし、言葉を続ける。
「実は今、私が書いている本のネタに困っていて…。あなた達、旅の方ですよね? そこで旅のお話をお聞きしたいと…」
「それくらいなら、べつにいいけど…」
色々と省くのが面倒だなぁ。
目の前の女の目は期待でキラキラとさせている。
手にはもうメモ用紙と筆を持ってるし。
「…オレ達は主に賞金稼ぎのバイトをしながら旅をしている。賞金首を殺して、換金所で金に換える仕事だ」
「!! カッコいいです!!」
身を乗り出した女に思わず仰け反ってしまう。
「……………」
怖がらせてやろうかと思ったが、逆に興味が増したようだ。
オレは気を取り直して話を続ける。
「ほら…、頭巾かぶってる奴いただろ。あいつがほとんど、というか全部そのバイトを請け負ってる。オレと銀髪は渋々それに付きあわされてんだ」
「けど、なんだかんだ言って仲が良いですね」
「……………」
団子屋で、並んで座って団子を食べてるオレ達は、傍からはそんなふうに見えてるのか。
その時のことを思い出しながら思うと、顔がほのかに熱くなった。
「お連れの方たちのこと、もっと詳しく聞かせてください!」
「えと…、銀髪の方が飛段で頭巾の方が角都っていうんだけど、こいつら性格が逆なクセに初めて会った時から仲が悪いようで良い。角都はよくそいつを馬鹿にしたりするクセに、ヤバくなったら助けるし、治療もする。飛段も角都のことグチグチ言うクセに、「角都ゥ、角都ゥ」ってよく頼って…」
女は相槌を打ちながら「それでそれで」と先を促したり、質問をぶつけたりしてくる。
オレは若干疑問に思った。
なぜ角都と飛段のことばかり聞いてくるのか。
「暁」「抜け忍」「ジャシン教」「S級犯罪者」という単語は避け、2・3時間が経過し、話は終わった。
女は「ありがとうございました」と礼を言い、オレの分の茶代まで払って去って行った。
その背中を見送り、オレは「ふぅ」と息をつき、「いいものが書けるといいな」と呟く。
まだまだあいつらに関して語りたいことは山ほどあったが、数時間で話しきれるものじゃない。
宿に帰ってから、とりあえずあの女に言っておきたかった言葉を思い出す。
オレの連れ2人は、買い出しを忘れたくらいで頭を殴ったり、「腹減った」と耳元で騒いだりする、ガキ並みの短気の持ち主だと。
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