26:表裏の舞台
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見てて飽きないね、ヨル達は。
ヨルと飛段、水波とセキと分かれて角都を大捜索だ。
里や会場内をくまなく探すがどこにも角都はいなかった。
再び会場を探してもだ。
「角都ゥ―――!!」
人目を気にせず飛段は観客席から名前を叫んだ。
反対側で角都を探していた水波達はサインを送る。
「いない」と。
それを確認したヨルは歯を噛みしめた。
「…どっかで見てんだろ、ユウ…」
「おい、ヨル」
「コソコソしやがって! オレだけ狙ってんならさっさと出てきて相手しやがれ! 他人任せなんだよ! 角都を返しやがれ!! ユウ!!」
「ヨル!」
飛段はオレの肩をつかみ、「オレも叫ぶぞ。角都いねーのに」と言った。
危うく流されてボクまで名乗り出そうになったよ。
「クソ!!」
怒りを吐きだし、ヨルは観客席の欄干を思いっきり蹴った。
ほらほら、もう時間がないよ。
*****
「これより、チーム“ジャシン☆”とチーム“虚”の決勝戦を始めます」
結局、角都が見つからないままヨル達はステージへとやってきた。
走り回ったのか、メンバーはすでにヘトヘトで全員その場に座り込んでいる。
「どこ行ったんだ、角都よォ」
「あの時、無理にでも噛みついて探知蝙蝠を仕込んでおくべきだったんだ」
座っているヨルは文字通り頭を抱えていた。
やっぱ責めてる。
ヨルは自分を責めてる。
それから水波に振り返り、睨みつけた。
水波も疲れた様子で睨み返し、「あたしはなにも知らない」と首を横に振る。
「初戦は誰が出ますか?」
状況に構わずヌマチが尋ねる。
決めてないのか、メンバーが顔を合わせた。
それからヨルが手を挙げる。
「オレが最初、次に水波、最後に飛段。それでいいだろ」
セキは戦力外と決められている。
セキは気にせずに「その方がいいですね」と頷いた。
「オレが最後かァ。まあ、最後に決めたほうがカッコいいかもな」
「そういうことだ。じゃ、お先」
ヨルは小さく手を挙げて飛段に言い、階段へと向かう。
「ヨル」
水波はヨルを呼びとめ、小声で尋ねる。
「なんで飛段に言わないの?」
「言うさ。オレは隠し事は嫌いだ。けど、言うのは奴をあぶりだしてセキの命を取り返してからだ」
「ヨル…」
ヨルは階段を上がり、相手を見る。
相手は巨体。
酷く言えばデブだ。
大きな斧を背負っている。
ボクじゃないとわかると期待はずれな顔になった。
「こりゃまた体格のいいデブだな。そして血生臭ェ」
そう言って自分の鼻をつまむ。
「今まで勝ち続けてきたからって相手を甘くみるなよ。真っ二つになっちまうぜ。こう見えてオレはグロいの苦手だから、とっととお家に帰って、いい夢見てろ」
「だったらオレはアンタを八つ裂きにして血の夢見せてやる。今オレはスゲー虫の居所が悪くてな」
2人の間にヌマチが立つ。
「それでは、岩隠れ##NAME2##ヨルと岩隠れマサカリ、始め!」
ヨルが背中の夢魔をつかみとると同時にマサカリは大きく後ろに飛び、背中に携えた斧をつかみとった。
ヨルが突っ込んでくる。
マサカリは片手で大きく斧を振り上げ、
「ぬおおおおお!」
自分の足下に振り下ろし、それから素早く印を結んだ。
「“土遁・神創地”」
ガゴッ!!
「!!」
すると、轟音とともに地面が割れた。
ヨルは思わず立ち止まり、地面に刻まれたヒビを見る。
異変はすぐに起きた。
「!?」
微弱な地震が起き、観客席がざわざわと騒がしくなる。
「な…、なんだ?」
ヨルが言葉を発した瞬間、いきなりヨルの足下の地面がせり上がった。
他にもステージの地面がせり上がり、いくつもの岩の柱が出来上がる。
ヌマチは“虚”側の階段へと避難した。
「テリトリーの完成だ!」
マサカリは印を結んだまま不敵な笑みを浮かべる。
「なにあのふざけた術…」と水波が呟く。
他のメンバーもその光景に目を見張った。
石柱の頂上では、ヨルが具合の悪い顔をしている。
夢魔で体を支えている状態だ。
チャクラを乱されているからだろう。
これで忍術もうまく使えないはずだ。
「!」
突如、ヨルがいる石柱に亀裂が入り、頂上からガラガラと崩れていく。
落石にまぎれて落ちていくヨルは、落石から落石へと飛び、近くの石柱を目指した。
それから大きく飛び、両手の夢魔を同時に振り上げ、石柱に突き立てて自身の落下を止める。
「く…っ」
足にチャクラが練れないため、石柱にくっつくことができない。
マサカリはそんなヨルの様子を見つめ、不気味な笑みを浮かべる。
「休みはなしだ」
ドン!
「がっ!」
夢魔を突き立てた個所だけ大きな突起が出現し、ヨルは弾かれてしまった。
まだ終わらない。
ヨルが地面に落下する前にまた地面から石柱が現れた。
高く弾き飛ばされたヨルは宙で血を吐き、新しく出来た石柱に落ちてうつ伏せに倒れる。
「ぅ…っ」
小さく呻き、石柱に手をつき、体を支えながら立ち上がろうとする。
「どうなってんだ」と呟きながら。
簡単なことだ。
周りの石柱、いやこのステージ自体がマサカリの思うままになっただけのこと。
チャクラもその領域にじわじわと吸い取られてしまう。
“神創地”とはそういう術だ。
マサカリはただ地面を割っただけじゃない。
地面の亀裂にはマサカリのチャクラがめぐっている。
言わば種を撒かれたようなものだ。
亀裂はステージ全体に刻まれている。
ステージから出れば術の範囲から抜け出せるけど、出るわけにはいかない。
なにより、マサカリがそれを許さない。
ヨルのいる石柱がぐにゃりと曲がった。
ヨルは石柱の端をつかんで落ちないようにするが、隣から別の石柱が同じく曲がった状態でヨルに迫ってくる。
ヨルを潰す気だ。
ゴッ!!
石柱同士が衝突した。
「ヨル!!」
飛段が叫ぶ。
水波とセキも息を呑んだ。
残念ながら、ヨルは無事だ。
間で潰される前に石柱から飛び降りていた。
夢魔を1本だけ右手に構え、マサカリ目掛けて落下していく。
「その巨体は見た目だけかよ! てめー自身が突っ込んできやがれ!!」
ヨルは右手の夢魔を横に振るおうと構える。
マサカリは印を結び、笑みを浮かべたままで避ける仕草を見せようとしない。
「こう見えてオレは自分じゃ動かない派だ。ほら、だるいだろ?」
ヨルが夢魔を振るう直前、
「!!」
ゴッ!!
2人の間に小さな石柱が出現した。
「…っ…」
ヨルは正面から激突してしまい、手から夢魔を落とし、ずるりとその場に倒れた。
ヨルがぶつかった石柱には生々しいヨルの血が付着している。
これはもしかしたら頭が潰れたかも。
「ヨル! おい!」
飛段が呼びかけるが、ヨルはうつ伏せに倒れたままで無反応だ。
マサカリは「あーあ、疲れた」とロクに動きもしていないくせに腕を回していた。
ヌマチがヨルに傍に近づき、手を挙げる。
「勝者、岩隠れ・マサカ…」
その時だ。
「!?」
ヨルの右手がヌマチの右足首をつかんだ。
「まだ…、まだオレは動けるぜ、審判」
そう言って不敵な笑みを見せるヨルだが、その顔にはさすがのボクもぎょっとした。
「いや…、動けるって、顔面血まみれじゃないですか;」
「頭から流血してるだけだ」
顔を真っ青にして呟いたセキの声が聞こえたのか、ヨルはなんともないように言い返す。
それから手の甲で顔を伝う血を拭い、審判に「離れてろ」とエラそうに言って、目の前のマサカリを睨みつけた。
正直言って、ここまで変わってるなんて予想外だ。
昔は、ボクとヒルにいじめられても、うずくまったままの奴だったのに。
ボクは視線を飛段に移す。
ヨルが立ち上がったことに喜び、「よっしゃー! そのまま殺せー!」と叫んでいる。
金のことしか頭にないすぐにキレるカタブツ賞金稼ぎと、宗教のことしか頭にない頭の悪い狂信者。
そんな奴らが、一体どうやってヨルを変えたのか。
マサカリは舌を打った。
「見た目に反して丈夫だな。こう見えてオレは短気なんだ。おまえがしぶとくてイライラしてきたぜ」
「じゃあそろそろ終わらせてやるよ」
「あ?」
容易に言ったヨルに、マサカリの額にピクリと青筋が浮かんだ。
「アンタの術、ちょっとわかった。アンタは石柱を操るときに変形・出現させたいその一点を見つめて術を発動させてる。他は全部オレのやられる様を見てるのに、その時だけはな」
「それでどうする? まさか、オレの視点を追いながら戦う気か? その状態で。逃げることもできないぞ」
だいぶ体力を消費したはずだ。
フラフラで素早い動きなんてできるわけがない。
血を摂取すれば動きもよくなるが、ヌマチに襲いかかるわけにもいかないし、マサカリはもっと難しい。
エサなしでどうする気だ。
ヨルは右だけ夢魔を出現させて背中から引き抜き、左手で懐を探り、小さな袋を取り出した。
小さな袋には赤い蠍のマークがついている。
小道具じゃなくて、中身は薬のようだ。
手につかめるだけつかみ、一気に口の中に放りこんで噛み砕いた。
不味いのか、眉間に皺を寄せ、口元には笑みを浮かべる。
「逃げることになるのは、てめーの方かもな」
睨みつけるヨルの目は朱色に輝いていた。
その目を見たマサカリは思わずビビる。
「強がりやがって! なんだその目は!!」
マサカリが印を結ぶと、ヨルは石柱に持ち上げられる。
だが、ヨルは上昇中に躊躇なく飛び下りた。
落下する前にまた石柱で攻撃されるとわかっているのか。
しかし、ボクも会場内にいる全ての者が目を見張った。
「なんだ…、アレは…」
ヌマチが呟いた。
飛段は知っているのかさほど驚いていない。
「お、本番で出すのは初めてだな」
ヨルの背中から、赤黒く夢魔よりも数倍大きなコウモリの翼が生えていた。
観客の誰もが怯えた顔をする。
それはマサカリも同じだ。
赤黒い翼は羽ばたくと同時にその場で飛散し、ステージを包みこむ。
観客からも外野からも、血煙のようなそれが視界を遮り、中でなにが起こっているのかわからない。
「これは…」
ボクの目には血煙の正体が見える。
ミクロサイズの、血で作られたコウモリ。
何億、いや、何兆ものコウモリがヨルとマサカリを包むように飛び回っている。
「“黒鬼牢”。…次は、オレのテリトリーだ」
中からヨルの声が聞こえる。
「しまった! これじゃなにも…!」
マサカリの術は視点で術を発動させるため、闇に包まれてしまえばヨルを攻撃することもできない。
ボクは少しでも中が見えたらと目を凝らした。
その時、闇の中に確かに朱色の目が光ったのが見えた。
「闇で醒めろ」
その言葉が聞こえ、血煙が徐々に晴れていく。
再び姿を現したとき、立っているのはヨルだけだった。
マサカリはヨルの足下で血まみれで倒れている。
正面から深く切りつけられたようだ。
ヌマチはマサカリに近づいて見下ろし、ヨルを見て手を挙げた。
「勝者、岩隠れ・##NAME2##ヨル!」
ヨルは右手の夢魔を掲げた。
勝利の笑顔ってのを浮かべてる。
階段から下りてきたヨルは、途中で落ちてしまった。
「おいおいおい!」
飛段は落下しかけたヨルを受け止める。
それから仰向けにその場に寝かされた。
水波とセキはヨルに駆け寄り、心配そうにその顔を覗きこんだ。
「大丈夫ですか!?」
「血が…、貧血起きそ…;」
ピュ~ッとヨルの頭から血が噴き出す。
傷口が開いてしまったのか。
「いや、もう起こしかけてるし;」
水波はヨルの脇に屈み、頭に手をかざして治癒のチャクラを送りこむ。
「早く薬飲め;」
飛段はヨルの懐からあの小さな袋を取り出し、その中の薬をつかみとってヨルの口に落とした。
ヨルは眉間に皺を寄せながら噛み砕く。
「コレ食べても、血ィ呑んだ気しねーのが欠点だな。マシになってきたけど」
「それ、サソリに言ったら作ってもらえなくなるぜ;」
その薬はなんなのか。
「なんの薬なの?」
水波が尋ね、ヨルが答える。
「増血剤。知り合いが作ったもんだ。コレがないとあの術を出せないし、使用したあとは貧血で倒れちまうから、また摂取しないとダメなんだ。クソマズイから好きじゃねえけど」
そう言って不味そうに舌をベッと出す。
さっきより顔色もいい。
「水波」
セキに裾を軽く引っ張られ、水波は「ええ、次ね」とステージを見上げ、階段を上がっていく。
「気をつけろよ。またさっきみたいな奴かもしれない」
「ええ」
警告するヨルに、水波は階段をのぼり前を見ながら返事を返した。
水波は相手側の男を見る。
右側頭部だけ刈り上げ、腰に音隠れの額当てを巻いた男だ。
目蓋がないくらい左目だけカッと開いている。
「続いて、霧隠れ水波と音隠れ刺突(トゲツキ)、始め!」
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