26:表裏の舞台
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*ヨル
オレ達は控え室で、夕方に開戦される決勝戦を静かに待っていた。
その間はなにをしてもいいと言われたが、オレはバラバラに行動することを避けるようメンバーを説得した。
あの女がなにを考えているのかわからない。
なぜスズメ達を口封じしたのか。
自分のことを隠すつもりはなかった。
そのつもりなら、オレが知ってるあの方法で始末しないだろう。
なにを口封じしたかったか。
居場所、目的。
たぶんこの2つのどちらか、あるいは両方だろう。
「ふぅ…」
部屋中をウロウロしながら考えていたが、疲れて飛段の隣に座った。
錆びれたベンチがギシリと音を立てる。
三連鎌の手入れをしている飛段はこちらを横目で見た。
「考えたってしょーがねーだろォ?」
「そうだけど、あいつの目的がなんなのかはっきりさせたくてな」
わからないけど。
部屋の奥の壁に背をもたせかけながら本を立ち読みしていた角都は、本を閉じて扉へと向かう。
「ど、どこ行く気だ?」
「厠だ。それと、決勝戦に対戦する相手について、情報を集めてくる」
「オレも行く!」
オレはベンチから立ち上がろうとしたが、角都に手で制される。
「結構だ。心配するな」
「じゃあせめて探知蝙蝠を…」
「すぐに戻る」
そう言って角都は扉から出て行ってしまう。
オレは「角都!」と名を呼んだが、扉は躊躇なく閉められた。
「クソッ。勝手にしろ」
オレは苛立ってベンチに再び腰を下ろした。
「大丈夫だって。あいつ強いし、攻撃も派手だから、すぐにわかるだろ。その時にオレ達が駆けつければいいだけの話だ」
「……………」
「あの術ってそんなにヤベーわけ?」
スズメが赤い羽を吐きだした術のことだろうか。
とりあえずオレは答えておく。
「“天命換羽”っていう術で、相手の心臓を羽根に変えて体内から取り出す。取り出されても相手は死にはしないが、術者の気まぐれで最悪その命を握り潰されてしまう。脅しや遊びでユウが使用していた」
「じゃあ、角都ヤバくね?」
手入れをしていた飛段の手が止まる。
「その術には、ユウの血を飲ませないといけない。命の羽根は吐きだされても、また体内に取り込めば元に戻るらしい。面倒な上につまらないからと言って、あいつはあまり使用しなかったがな」
「オレの呪いみたいなものか」
「飛段の場合は、相手の血を取り込み、地面に描いた陣の上に立ってなきゃいけないから、ユウのより面倒かもな」
そう言ってオレは小さく笑う。
飛段は「ジャシン様の術を面倒なんて言うな」と顔をムスッとさせた。
オレは、向かい側の壁に背をもたせかけて座っている水波とセキを見た。
水波は目をつぶって集中しながらセキの右腕を治療している。
「水波、調子はどうだ?」
「良好。決勝戦には出られる」
水波は目を開け、こちらを見ずに答えた。
「ここで負けると、オレ達バカみたいだな」
飛段は「ゲハハ」と笑う。
「みたいじゃなくて…」
セキが苦笑しながらそう口にしたとき、飛段は三連鎌の刃先をセキに向けた。
「バカだってのかァ?」
「ひ…っ!;」
オレは「コラ、やめろ」と注意する。
水波は黙ったままなにも言わない。
「水波」
「ん?」
水波がこちらに顔を向ける。
「ちょっと厠ついてきてくれるか?」
「え」
「オレは角都と違って単独で行動するほど、相手をナメてるわけじゃねーからな」
オレはベンチから立ち上がり、水波の右手首をつかんだ。
「けど、セキが…」
「気にしないでついてってあげてよ、水波。ここには飛段さんもいるし…」
心配そうに顔を向けられたセキは、笑みを浮かべ、視線を飛段に移して言った。
「つうか、オレがついてってやろーか? 連れション」
「あまり言いたくねーけど、オレは! 女だ!」
他の女が聞いたら殴られてるところだ。
オレだって、ちゃんと女子トイレでする。
オレは水波と一緒に女子トイレに来ていた。
控え室を出て右を真っ直ぐ進んだところにある。
男子トイレを過ぎる前に中の音を聞いたが、角都はいないようだ。
オレは個室に入り、水波はトイレの出入口に立っていた。
しばらく間を置き、オレは周りの音を聞いた。
誰もいない。
誰かが通る気配もない。
トイレの窓も閉めたし、幸い窓は曇りガラスだ。
あいつにも見られる心配はない。
「ここなら大丈夫だろ」
トイレ内にオレの声が響く。
「なにが?」
水波はトイレに顔を出したようだ。
「いや、そろそろ白状してもらおうかと思ってな」
「……………」
水波は返事をしない。
オレは構わず言葉を続ける。
「最初から疑っていた。おまえが襲撃であんなやられ方するとは思えない」
「あたしを高くみすぎだって」
「部屋には相手の血の匂いがしなかった。いくらなんでも傷一つくらいつけられただろ。あれじゃ、わざとやられましたってカンジだ」
「……………」
「ここならあいつは見ていない。話せ。なにが目的でオレ達に近づいた?」
「だから、なんのこと…」
「“天命換羽”の話をしたとき、治癒のチャクラが乱れた。おまえもその術を受けたのか? 違うなら心音を聞かせろ」
瞬間、トイレの個室が弾け飛んだ。
その前にオレは上から個室を抜けだし、床に着地する。
そこには、水魔絃を構えた水波の姿があった。
「そのためにあたしを呼びだしたってわけ?」
「2人きりの方が話しやすいかと思ってな。あの場で話せばよかったか?」
セキと飛段がいる前で。
右手の水魔絃が迫ってくる。
窓から逃げてもいいが、水波には聞きたいことが山ほどある。
オレは背中から夢魔を引き抜き、水魔絃を断ち切ろうとした。
だが、
「!?」
右手の夢魔は、右手の水魔絃に絡め取られてしまう。
左手で断ち切ろうとしたが、
「く…!」
その前に動きを止められてしまった。
夢魔を絡め取った右手の水魔絃が伸び、オレの右腕に侵入してきた。
左腕の夢魔がオレの意思とは関係なく下ろされ、右手の夢魔とともに床に落ちて液体化する。
「気を遣ってくれてありがとう。おかげで、セキにバレずに済むし、こうしてゆっくりお喋りできる」
水波の表情は無表情だ。
オレはため息をついた。
「これを解いてお喋りする気はねーようだな」
「当然」
「じゃあ、このまま話を続けてもいいか? …続けるぞ。いつからオレ達を?」
「この里に来る1週間前くらいかな。鳥に頼まれてね」
「鳥に?」
「ヨルがさっきから言ってるユウって奴には直接会ったことはない。けれど、鳥に指令をくくりつけたり、なにかを運んできたりする」
「それってオレに詳しく話せるものか?」
「…指令の内容は、大会に参加すること、ヨル達と組むこと、勝ち続けること、戦いに参加しないこと。次の指令は決勝戦にでること」
実際のその内容は細かく書かれた指令かもしれない。
「…銀色の血をもらわなかったか?」
「…ええ。最初にね。最初は半信半疑だったけど、小瓶にわずか2・3滴入ったそれを飲んだ瞬間、体がすごく熱くなってのたうち回ったし、死ぬかと思った。けど、楽になった途端、今までの自分とは明らかに違うことを感じた。試しに術を使ったら、今まで使えなかった術が使えるようになってた。この水魔絃も」
「まさか、“天命換羽”の術を…」
口にした途端、水波は苦虫を噛み潰した顔をした。
「セキがそれを受けてるの」
「!」
「あたし宛てに銀色の瓶、セキ宛てに赤色の瓶。力を手に入れる代わりに赤い羽根を渡せって書いてあったから最初はなんのことかわからなかったけど、セキが吐いたそれを素直に鳥にくくりつけて飛ばしてしまった。渡さないと力を消すって最後に書いてあったから」
「…それで?」
「数時間後にまた鳥が飛んできてそのことを知った。指令通りに動かなければセキの命を潰すと」
後悔しているのだろう。
水波は悔しげに唇を噛んでいる。
「セキは知ってるのか?」
「知らない。セキには関わらせてないわ。あたしが動けばあのコも動いてくれるから、指令のことを話す必要はない」
「命握られてるんだ。無関係じゃねーだろ」
「じゃあ話せって言うの!? 謝って済む話だと思ってるの!?」
「正直に言えよ! セキに嫌われたり、セキが離れてしまうのが嫌なだけだろ!」
「そうよ!! …いけないこと? 無責任なことしてしまったから?」
「…とりあえず、話を戻すぞ」
ついカッとなってしまった。
オレも少し落ち着こう。
オレがされてムカつくことをこいつがしているからだろうか。
あいつらが動けば、オレも動く。
けれど、オレはあいつらの仲間だから、あいつらが知ってることをオレも知りたい。
信じあえる仲ってそういうもんだろ。
「他に重要な指令とかないのか?」
「この大会のデマを流すこと」
「それは興味深いな。どういうデマだ?」
「ハンが出てくるって噂。これだけ」
「オレ達にとっては重要なデマだな」
角都がいなくてよかった。
いたら水波が殺されてる。
報告したいところだが、今更そんなこと話したらこの大会はどうなってしまうのか。
飛段もキレたら恐ろしい。
ユウはオレ達をこの大会におびきだすために、その指令を出したのだろう。
「質問ばっかりで悪いが、“鉤爪”ともグルなのか?」
「あと“虚”とね。これはさっきの戦いに出るなっていう指令の時にわかったことよ。襲撃してきたのは“鉤爪”の連中。フリじゃなかったし、セキは腕を折られてしまったから、思わず手が出そうになったけど」
決勝戦もあいつが関わってるのか。
もういい加減にしてくれ。
「…この大会が終わったあとの見返りはどうなってる? セキの命か?」
「…さらに力がもらえる。あの銀色の血を…」
水波の瞳に野心が見えた。
「……………」
「正直に言えば、それも欲しいの」
「最後の質問だ。いくらあいつが見ていないからって、ここまで詳しくオレに話してくれるのはなぜだ?」
「ここで死んでもらうから」
「なるほど。殺すなっていう指令はなかったわけだ」
水波が手を動かした時だ。
ブツリと音を立てて、オレの体から水魔絃が切れた。
「!?」
水波は驚いた顔をし、オレは口角を吊り上げる。
「相手が悪かったな。てめーが相手の体内の水分を操るなら、オレは自分の体内の血を操れる」
じっとしてたから集中して、体内の水魔絃を逆に絡め取って追いだすことができた。
「そういえば、そういう器用なことができたわね」
水波は水魔絃を、オレは夢魔を構える。
「それ以上力を手に入れてどうする気だ?」
「質問はさっきので最後だったでしょ」
「鬼と契約すればロクなことねーぞ。あいつが、抜いた羽根をまた元に戻したことなんて一度もない」
「うるさい!!」
水波とオレが同時に動き出そうとした時だ。
「水波!」
いきなりトイレの出入口からセキが現れた。
オレと水波は動きを止め、そちらに振り返る。
「セキ? どうしたの?」
よほど知られたくないのか、水波は水魔絃を消した。
オレも液体化させて消す。
あとでなにを言われようが誤魔化せばいい。
あとを追うように飛段も駆けつけてきた。
「ヨル! まずいことになった!」
「どうした?」
嫌な予感が的中する。
「角都がいなくなった!」
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オレ達は控え室で、夕方に開戦される決勝戦を静かに待っていた。
その間はなにをしてもいいと言われたが、オレはバラバラに行動することを避けるようメンバーを説得した。
あの女がなにを考えているのかわからない。
なぜスズメ達を口封じしたのか。
自分のことを隠すつもりはなかった。
そのつもりなら、オレが知ってるあの方法で始末しないだろう。
なにを口封じしたかったか。
居場所、目的。
たぶんこの2つのどちらか、あるいは両方だろう。
「ふぅ…」
部屋中をウロウロしながら考えていたが、疲れて飛段の隣に座った。
錆びれたベンチがギシリと音を立てる。
三連鎌の手入れをしている飛段はこちらを横目で見た。
「考えたってしょーがねーだろォ?」
「そうだけど、あいつの目的がなんなのかはっきりさせたくてな」
わからないけど。
部屋の奥の壁に背をもたせかけながら本を立ち読みしていた角都は、本を閉じて扉へと向かう。
「ど、どこ行く気だ?」
「厠だ。それと、決勝戦に対戦する相手について、情報を集めてくる」
「オレも行く!」
オレはベンチから立ち上がろうとしたが、角都に手で制される。
「結構だ。心配するな」
「じゃあせめて探知蝙蝠を…」
「すぐに戻る」
そう言って角都は扉から出て行ってしまう。
オレは「角都!」と名を呼んだが、扉は躊躇なく閉められた。
「クソッ。勝手にしろ」
オレは苛立ってベンチに再び腰を下ろした。
「大丈夫だって。あいつ強いし、攻撃も派手だから、すぐにわかるだろ。その時にオレ達が駆けつければいいだけの話だ」
「……………」
「あの術ってそんなにヤベーわけ?」
スズメが赤い羽を吐きだした術のことだろうか。
とりあえずオレは答えておく。
「“天命換羽”っていう術で、相手の心臓を羽根に変えて体内から取り出す。取り出されても相手は死にはしないが、術者の気まぐれで最悪その命を握り潰されてしまう。脅しや遊びでユウが使用していた」
「じゃあ、角都ヤバくね?」
手入れをしていた飛段の手が止まる。
「その術には、ユウの血を飲ませないといけない。命の羽根は吐きだされても、また体内に取り込めば元に戻るらしい。面倒な上につまらないからと言って、あいつはあまり使用しなかったがな」
「オレの呪いみたいなものか」
「飛段の場合は、相手の血を取り込み、地面に描いた陣の上に立ってなきゃいけないから、ユウのより面倒かもな」
そう言ってオレは小さく笑う。
飛段は「ジャシン様の術を面倒なんて言うな」と顔をムスッとさせた。
オレは、向かい側の壁に背をもたせかけて座っている水波とセキを見た。
水波は目をつぶって集中しながらセキの右腕を治療している。
「水波、調子はどうだ?」
「良好。決勝戦には出られる」
水波は目を開け、こちらを見ずに答えた。
「ここで負けると、オレ達バカみたいだな」
飛段は「ゲハハ」と笑う。
「みたいじゃなくて…」
セキが苦笑しながらそう口にしたとき、飛段は三連鎌の刃先をセキに向けた。
「バカだってのかァ?」
「ひ…っ!;」
オレは「コラ、やめろ」と注意する。
水波は黙ったままなにも言わない。
「水波」
「ん?」
水波がこちらに顔を向ける。
「ちょっと厠ついてきてくれるか?」
「え」
「オレは角都と違って単独で行動するほど、相手をナメてるわけじゃねーからな」
オレはベンチから立ち上がり、水波の右手首をつかんだ。
「けど、セキが…」
「気にしないでついてってあげてよ、水波。ここには飛段さんもいるし…」
心配そうに顔を向けられたセキは、笑みを浮かべ、視線を飛段に移して言った。
「つうか、オレがついてってやろーか? 連れション」
「あまり言いたくねーけど、オレは! 女だ!」
他の女が聞いたら殴られてるところだ。
オレだって、ちゃんと女子トイレでする。
オレは水波と一緒に女子トイレに来ていた。
控え室を出て右を真っ直ぐ進んだところにある。
男子トイレを過ぎる前に中の音を聞いたが、角都はいないようだ。
オレは個室に入り、水波はトイレの出入口に立っていた。
しばらく間を置き、オレは周りの音を聞いた。
誰もいない。
誰かが通る気配もない。
トイレの窓も閉めたし、幸い窓は曇りガラスだ。
あいつにも見られる心配はない。
「ここなら大丈夫だろ」
トイレ内にオレの声が響く。
「なにが?」
水波はトイレに顔を出したようだ。
「いや、そろそろ白状してもらおうかと思ってな」
「……………」
水波は返事をしない。
オレは構わず言葉を続ける。
「最初から疑っていた。おまえが襲撃であんなやられ方するとは思えない」
「あたしを高くみすぎだって」
「部屋には相手の血の匂いがしなかった。いくらなんでも傷一つくらいつけられただろ。あれじゃ、わざとやられましたってカンジだ」
「……………」
「ここならあいつは見ていない。話せ。なにが目的でオレ達に近づいた?」
「だから、なんのこと…」
「“天命換羽”の話をしたとき、治癒のチャクラが乱れた。おまえもその術を受けたのか? 違うなら心音を聞かせろ」
瞬間、トイレの個室が弾け飛んだ。
その前にオレは上から個室を抜けだし、床に着地する。
そこには、水魔絃を構えた水波の姿があった。
「そのためにあたしを呼びだしたってわけ?」
「2人きりの方が話しやすいかと思ってな。あの場で話せばよかったか?」
セキと飛段がいる前で。
右手の水魔絃が迫ってくる。
窓から逃げてもいいが、水波には聞きたいことが山ほどある。
オレは背中から夢魔を引き抜き、水魔絃を断ち切ろうとした。
だが、
「!?」
右手の夢魔は、右手の水魔絃に絡め取られてしまう。
左手で断ち切ろうとしたが、
「く…!」
その前に動きを止められてしまった。
夢魔を絡め取った右手の水魔絃が伸び、オレの右腕に侵入してきた。
左腕の夢魔がオレの意思とは関係なく下ろされ、右手の夢魔とともに床に落ちて液体化する。
「気を遣ってくれてありがとう。おかげで、セキにバレずに済むし、こうしてゆっくりお喋りできる」
水波の表情は無表情だ。
オレはため息をついた。
「これを解いてお喋りする気はねーようだな」
「当然」
「じゃあ、このまま話を続けてもいいか? …続けるぞ。いつからオレ達を?」
「この里に来る1週間前くらいかな。鳥に頼まれてね」
「鳥に?」
「ヨルがさっきから言ってるユウって奴には直接会ったことはない。けれど、鳥に指令をくくりつけたり、なにかを運んできたりする」
「それってオレに詳しく話せるものか?」
「…指令の内容は、大会に参加すること、ヨル達と組むこと、勝ち続けること、戦いに参加しないこと。次の指令は決勝戦にでること」
実際のその内容は細かく書かれた指令かもしれない。
「…銀色の血をもらわなかったか?」
「…ええ。最初にね。最初は半信半疑だったけど、小瓶にわずか2・3滴入ったそれを飲んだ瞬間、体がすごく熱くなってのたうち回ったし、死ぬかと思った。けど、楽になった途端、今までの自分とは明らかに違うことを感じた。試しに術を使ったら、今まで使えなかった術が使えるようになってた。この水魔絃も」
「まさか、“天命換羽”の術を…」
口にした途端、水波は苦虫を噛み潰した顔をした。
「セキがそれを受けてるの」
「!」
「あたし宛てに銀色の瓶、セキ宛てに赤色の瓶。力を手に入れる代わりに赤い羽根を渡せって書いてあったから最初はなんのことかわからなかったけど、セキが吐いたそれを素直に鳥にくくりつけて飛ばしてしまった。渡さないと力を消すって最後に書いてあったから」
「…それで?」
「数時間後にまた鳥が飛んできてそのことを知った。指令通りに動かなければセキの命を潰すと」
後悔しているのだろう。
水波は悔しげに唇を噛んでいる。
「セキは知ってるのか?」
「知らない。セキには関わらせてないわ。あたしが動けばあのコも動いてくれるから、指令のことを話す必要はない」
「命握られてるんだ。無関係じゃねーだろ」
「じゃあ話せって言うの!? 謝って済む話だと思ってるの!?」
「正直に言えよ! セキに嫌われたり、セキが離れてしまうのが嫌なだけだろ!」
「そうよ!! …いけないこと? 無責任なことしてしまったから?」
「…とりあえず、話を戻すぞ」
ついカッとなってしまった。
オレも少し落ち着こう。
オレがされてムカつくことをこいつがしているからだろうか。
あいつらが動けば、オレも動く。
けれど、オレはあいつらの仲間だから、あいつらが知ってることをオレも知りたい。
信じあえる仲ってそういうもんだろ。
「他に重要な指令とかないのか?」
「この大会のデマを流すこと」
「それは興味深いな。どういうデマだ?」
「ハンが出てくるって噂。これだけ」
「オレ達にとっては重要なデマだな」
角都がいなくてよかった。
いたら水波が殺されてる。
報告したいところだが、今更そんなこと話したらこの大会はどうなってしまうのか。
飛段もキレたら恐ろしい。
ユウはオレ達をこの大会におびきだすために、その指令を出したのだろう。
「質問ばっかりで悪いが、“鉤爪”ともグルなのか?」
「あと“虚”とね。これはさっきの戦いに出るなっていう指令の時にわかったことよ。襲撃してきたのは“鉤爪”の連中。フリじゃなかったし、セキは腕を折られてしまったから、思わず手が出そうになったけど」
決勝戦もあいつが関わってるのか。
もういい加減にしてくれ。
「…この大会が終わったあとの見返りはどうなってる? セキの命か?」
「…さらに力がもらえる。あの銀色の血を…」
水波の瞳に野心が見えた。
「……………」
「正直に言えば、それも欲しいの」
「最後の質問だ。いくらあいつが見ていないからって、ここまで詳しくオレに話してくれるのはなぜだ?」
「ここで死んでもらうから」
「なるほど。殺すなっていう指令はなかったわけだ」
水波が手を動かした時だ。
ブツリと音を立てて、オレの体から水魔絃が切れた。
「!?」
水波は驚いた顔をし、オレは口角を吊り上げる。
「相手が悪かったな。てめーが相手の体内の水分を操るなら、オレは自分の体内の血を操れる」
じっとしてたから集中して、体内の水魔絃を逆に絡め取って追いだすことができた。
「そういえば、そういう器用なことができたわね」
水波は水魔絃を、オレは夢魔を構える。
「それ以上力を手に入れてどうする気だ?」
「質問はさっきので最後だったでしょ」
「鬼と契約すればロクなことねーぞ。あいつが、抜いた羽根をまた元に戻したことなんて一度もない」
「うるさい!!」
水波とオレが同時に動き出そうとした時だ。
「水波!」
いきなりトイレの出入口からセキが現れた。
オレと水波は動きを止め、そちらに振り返る。
「セキ? どうしたの?」
よほど知られたくないのか、水波は水魔絃を消した。
オレも液体化させて消す。
あとでなにを言われようが誤魔化せばいい。
あとを追うように飛段も駆けつけてきた。
「ヨル! まずいことになった!」
「どうした?」
嫌な予感が的中する。
「角都がいなくなった!」
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