24:勝者の行進
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*ヨル
次の選手の入場でわあっと多くの歓声がオレ達を迎えた。
会場に入ってステージを見たオレは絶句する。
ステージには大量の血が飛散していたからだ。
前の対戦で飛び散ったものだろう。
掃除はしないのか。
誘惑のように漂う血の匂いでオレの瞳が変色しそうになり、オレは咄嗟に右手で両目を隠した。
「どうした?」
右から水波が尋ねた。
オレは口元に笑みを浮かべて答える。
「日の光に弱くてな」
角都と飛段は気付いているのかこちらを見たままなにも言わない。
オレ達が会場に来たことを確認した、ステージの中央に立つヌマチは、手を挙げてオレ達と観客に愛想もなにもない暗い声で言う。
「続きましては、チーム“ジャシン☆”対チーム“亞腐露”の対戦試合です」
やっぱこのチーム名、恥ずかしい…。
オレは観客席から目を逸らした。
観客にどう思われているかなんて想像したくない。
「相手チームのネーミングセンス0だな。マジドン引きィ」
「他人事か」
角都の言う通りだ。
「1戦目は誰が出ますか?」
順番は自由のようだ。
オレは手を挙げ、ヌマチに尋ねる。
「審判、勝ったチームでも5人中ひとりでも死亡したら、そのチームはどうなるんだ?」
「3勝でそのチームの勝ちとなりますので、3人が死亡されたらその時点で退場となります。逆に言うと、2人死亡されても、3人残っていれば問題ないということです。その代わり、連続で勝ち続けていただかなくてはなりませんが」
オレは「そうか」と頷き、飛段に近づいて小声できっぱりと言う。
「つーことで、死ぬようなケガはすんな。できれば儀式もなしだ」
「ハァ?;」
なに言ってんだコイツ、という顔をされる。
こいつはなにもわかってない。
面倒だが、説明してやる。
「オレらが暁って有名人なら、あまり得意な術は見せない方がいいし、なにより不死身のおまえを見せるな。死んだはずの奴がまた会場に現れたら、客はどういう反応すると思う? 観客どころか会場内の忍に目をつけられるぞ。さり気なく勝ち続けた方がこっちとしては動きやすくなるんだ」
何事も第一印象が肝心だ。
ここが一応敵地だということを理解してほしい。
今、この場にいる全ての忍に襲われでもしたらオレの血がもたないし、角都が怒ってとばっちりを食らうのはもうたくさんだ。
「2年前までは飛段より馬鹿だった小娘が、頭を使うようになったな」
「褒め言葉として受けとっとくぜ」
飛段は角都に向かって「オレはヨルよりかは賢いっつーの!!」と怒鳴った。
そういうやり取りをしている間に、いつの間にか水波がステージに上がっていた。
「あ」とオレが声を漏らすと、飛段もそれに気付いて「あ―――!!」と大袈裟に声を上げ、水波に人差し指をさす。
「おい待てコラ! なんでてめーがそこに立ってんだァ!?」
セキはステージを見上げながらあわあわと慌てていた。
「み…、水波…;」
「すぐに下りろ!」
水波を引きずり下ろすためにステージの階段を上がろうとする飛段の前に、瞬時にヌマチが現れて手で制する。
「ステージに上がった時点で決定となります。他の選手がステージに上がれば、反則負けと判断してあなたを拘束させていただきます」
飛段は「ぐ…」と唸り、一歩あとずさる。
「譲ってよ、飛段。あたしが負けてもチャンスはあるんだし、それに、実力の方も見て信用してほしいの」
水波は振り返り、飛段に自信ありげな笑みを向けながら言った。
「……………」
飛段が大人しくなったとき、
「構わず、続けろ」
瞬時に飛段の背後に近づいた角都はヌマチにそう言って、「これ以上醜態をさらすな」と飛段の首根っこをつかんで外野へとムリヤリ引き摺り下ろした。
「相手は?」
水波が審判に尋ねたとき、
「オ・レ・だ!」
相手側から頭が爆発したモジャモジャ男が上がってきた。
爆発した頭にはいくつものバッジが飾られている。
「角都! 角都! あいつ、なんで頭爆発してるんだ!?;」
初めて見る頭にオレはすぐに袖をぐいぐいと引っ張って角都に尋ねた。
角都は答える価値がないとでも言うように腕を組んでステージを見上げたまま無視だ。
「アフロだな」
ヤンキー座りして同じくステージを見上げていた飛段が答えてくれた。
飛段でも知っている髪型なのか。
それにしても、飛段が笑いを堪えているように見えるのは気のせいか。
「アハハハハ!! なにその頭ァ―――!!」
水波は指をさし、腹を抱えながら爆笑する。
ピクリとアフロ男のこめかみに青筋が立ったのが見えた。
我慢できなくなったのか、飛段も腹を抱えて笑い始める。
耳を澄ませると、観客も密かに笑っていた。
「バ・カ・に・すんじゃねー!!」
アフロ男は顔を真っ赤にして怒鳴った。
今にも水波に躍りかかりそうな雰囲気だ。
ヌマチは両者の中央に立ち、アフロ男を手で制する。
「まだ始まっていません。…それでは、霧隠れ水波と雲隠れトガリ…」
「モザイク頭」
「ぶっ!」
水波が呟いた瞬間、あのヌマチが噴き出した。
「審判!!!」
「は、始め!」
開始の合図とともに、ヌマチはせり上がってくる笑いに堪えながら後ろに飛び退いた。
戦闘開始の合図とともにアフロ頭のトガリが動き出した。
なにをするかと思えば、真剣な面持ちで己のアフロの中に両手を突っ込んだ。
見方によっては滑稽な光景だ。
水波はその場から動かず、頭上に「?」を浮かべながらその様子を眺めていた。
トガリがアフロの中から手を出すと、トガリの指の間には、アフロの中で自分でむしったのか、いくつもの小さな毛玉が挟まれていた。
それを見た水波は思わず青い顔をしてたじろいだ。
「うわっ、キモッ!;」
その「キモい」と言ったものを投げつけられる。
「!?」
直線に飛んできたそれを水波は横に飛んで避けた。
目標を失った多くの小さな毛玉は、降下することなく直線にステージ外の壁へと当たる。
見ると、モジャモジャの毛玉はいつの間にか鋭いトゲに覆われ、壁の中に埋まっていた。
投げられた時に尖ったのか。
当たっていればタダじゃすまなかったはずだ。
それを見つめたまま、水波は「うひゃー」と間の抜けた声を漏らして愕然としていた。
「“土遁・鋼針化のじゅ・つ”・だ」
トガリは口端を吊り上げ、気味の悪い笑みを浮かべた。
それから右手をアフロに突っ込み、今度は手のひらでつかめるくらいの大きさの、むしり取った毛玉を取り出す。
「毛玉にチャクラを加えたか」と角都の呟きが聞こえた。
「こんなことも、で・き・る!」
トガリが大きめの毛玉を投げつけたが、直線攻撃なので避けやすい。
水波は余裕の表情で一歩右へと避けてそれをかわした。
「なにができるって?」
「こんなこ・と・さ」
「水波!!」
オレが声をかけたとき、水波は同時にはっと背後に振り返った。
今、大きめの毛玉は振り返った水波の顔面に迫っていた。
「きゃあ!」
水波は右横に飛んで避けようとしたが、左二の腕をかすってしまった。
左二の腕の傷を右手で押さえつけ、その場に片膝をつく。
「ど…、どういうこと…? !」
種はすぐにわかったようだ。
投げられた毛玉は、壁や床やトガリに当たる寸前でただの毛玉に戻って跳ね返っているからだ。
ステージに立っているヌマチもそれを目で追っている。
「毛玉の速さは跳ねかえるごとにドンドン増してくぜ。審判も当たらねえように気をつ・け・な! まあ、当たる前にちゃんとただの毛玉に変えてやるがな」
トガリの言う通り、どんどん毛玉の速さが増している。
よくこんな素早くただの毛玉と尖った毛玉に切り替えられるものだ。
それだけでなく、毛玉の数を増やされていく。
「グッシャグシャにしてや・る・よ!」
よほどアフロをバカにされたことが頭にきているのか、こめかみに青筋を立たせて笑みを浮かべ、水波に向かって中指を立てる。
水波は己に迫る毛玉を避け続けるが、いつまでもつかは時間の問題だ。
「グシャグシャになるのは、どっちだか」
水波は片方の口角をつり上げてそう言いながら印を結んだ。
一時の間ができた瞬間、その場に立ち止まって目を閉じ、両腕を広げて術を発動させる。
「“水遁・水媒華の術”!」
水波の周りに、大気中に浮かぶ水分が細い線状となって集まり、水波の両手の指先にくっついた。
オレはその姿を、傀儡を操るサソリの姿と思わず重ねる。
「“水魔絃”、完成」
明らかに水波の目付きが変わった。
水底のように暗く、冷たい目だ。
このオレでさえ、今にも殺されかねないと恐ろしく感じてしまうほどに。
お手並み拝見だ。
四方八方から容赦なく鋭い毛玉が襲いかかる。
水波は慌てる様子も見せず、腕と指を動かし、水魔絃を巧みに操った。
「“操絃・飛沫”」
たった10本の水魔絃は水波を護るように水波の周りを囲み、襲いかかる毛玉をすべて受け止めた。
跳ねかえるはずの毛玉は勢いを殺され、床に落ちる。
「!?」
それを見たトガリは驚愕していた。
だがすぐに印を結んで術を仕掛けにくる。
「“雷遁・鼠走”!」
右手に電気を纏わせたトガリは片膝をつき、右手を地面につけて術を発動させた。
すると右手から、ネズミの形をしたたくさんの小さな電撃が駆け抜け、水波に襲いかかる。
水には雷をと考えたのだろう。
「“操絃・渦潮”」
水波を囲む水魔絃が回転を始め、
バチン!!
電撃を弾き返し、弾き返された電撃は空中で飛散した。
唖然としているトガリを見た水波は嘲笑の笑みを浮かべて冷たい声で言う。
「絶縁体の水を使ってるから、電撃はムリよ。水は雷に弱いなんて馬鹿でも知ってる常識には、ちゃんと対策を打っておかないとね」
「く…!」
トガリは悔しそうに顔をしかめ、また印を結ぼうと一度下ろした手をあげようとしたが、
「!?」
見えない手につかまれているかのように動かなかった。
それどころか、体の自由もきかず、プルプルと震えている。
「な…!?」
「今頃気付いた?」
水波はくつくつと笑いながらゆっくりとトガリに近づいていく。
「オレに…、なにを…」
水波の左手に垂れ下がっている水魔絃の先を見ると、トガリへと続き、トガリの体を真っ正面から貫通していた。
「いつの間にやったんだ? あいつ」
飛段がこぼした疑問に、角都が答える。
「あの男が術を発動したあとだ。右手の絃で攻撃を弾き返している間に、左手の絃をあの男につけたようだな」
さすが、よく見てる。
つまり、右手のたった5本の絃であの攻撃を弾き返したわけだ。
「もうアンタはあたしに捕らわれた」
「な・ん・だ・と!?」
水波は左手の水魔絃を見せつける。
「この水魔絃は相手の体に触れたあと、皮膚の穴という穴から体内へ侵入し、体中の水分と結合してあたしの術中にはまる。アンタの体の自由は今、あたしが握ってるってわけ」
ようやくレベルの違いを見せつけられたトガリの額から冷たい汗が滝のように流れた。
唾を飲む音も聞こえる。
危機を感じたトガリが「まいった」と言おうと口を開けたとき、
「ま…、参っ…、がぼ…!?」
トガリの口から水が溢れでた。
「聞いてなかった? 戦闘放棄は反則だって」
角都に聞いたら、水分を肺に集められて吐きだしたらしい。
惨いことをする。
相手は自由を制限されているため、その場に倒れることもできない。
「グシャグシャがお好みだったよね? だったら、お望み通り…」
「待…」
水波は容赦なく左手と指を動かした。
「“操絃・奔流”」
グシャ!!
肉が弾け飛び、骨が砕ける音が聞こえ、トガリは白目を剥いてその場にうつ伏せに倒れた。
外側は皮膚から少量の血が噴き出した程度だが、内部はボロボロだ。
まだかすかに呼吸しているのが驚きだ。
「勝者、霧隠れ・水波!」
戦いの始終を観戦していた観客から歓声が湧きあがる。
会場の出入口から急いで治療班がやってきて、トガリを担架にのせてステージから下りて会場を出ていった。
「今のは…」
飛段が呟いたとき、オレは答えた。
「水圧で内部を潰したんだ」
敵だったら厄介だった。
味方につけて正解だ。
ステージから水波が飛び下り、角都の前に着地し、勝利の笑みを見せる。
「どう?」
「あの程度の相手に勝って当たり前でないとこちらが困る」
それだけ言って背を向け、ステージへと向かう。
一瞬茫然としていた水波だが、すぐに歯を剥いてその背中を睨みつけた。
「なによ! ヤな奴―!!」
「「知ってる;」」
オレと飛段は同時に言った。
角都に褒め言葉を求めること自体間違っている。
「んでいつの間にかあいつステージに行ってるしィ!!」
角都がステージに向かった時点で止めておけばよかったのに。
オレは飛段の肩に手を置いてなだめる。
「1分ガマンすればすぐ出番まわってくるって;」
角都が終われば飛段の出番がきて、連続3勝で“ジャシン☆”の勝ちだ。
オレはとりあえず次のチーム戦に備えておこう。
.
次の選手の入場でわあっと多くの歓声がオレ達を迎えた。
会場に入ってステージを見たオレは絶句する。
ステージには大量の血が飛散していたからだ。
前の対戦で飛び散ったものだろう。
掃除はしないのか。
誘惑のように漂う血の匂いでオレの瞳が変色しそうになり、オレは咄嗟に右手で両目を隠した。
「どうした?」
右から水波が尋ねた。
オレは口元に笑みを浮かべて答える。
「日の光に弱くてな」
角都と飛段は気付いているのかこちらを見たままなにも言わない。
オレ達が会場に来たことを確認した、ステージの中央に立つヌマチは、手を挙げてオレ達と観客に愛想もなにもない暗い声で言う。
「続きましては、チーム“ジャシン☆”対チーム“亞腐露”の対戦試合です」
やっぱこのチーム名、恥ずかしい…。
オレは観客席から目を逸らした。
観客にどう思われているかなんて想像したくない。
「相手チームのネーミングセンス0だな。マジドン引きィ」
「他人事か」
角都の言う通りだ。
「1戦目は誰が出ますか?」
順番は自由のようだ。
オレは手を挙げ、ヌマチに尋ねる。
「審判、勝ったチームでも5人中ひとりでも死亡したら、そのチームはどうなるんだ?」
「3勝でそのチームの勝ちとなりますので、3人が死亡されたらその時点で退場となります。逆に言うと、2人死亡されても、3人残っていれば問題ないということです。その代わり、連続で勝ち続けていただかなくてはなりませんが」
オレは「そうか」と頷き、飛段に近づいて小声できっぱりと言う。
「つーことで、死ぬようなケガはすんな。できれば儀式もなしだ」
「ハァ?;」
なに言ってんだコイツ、という顔をされる。
こいつはなにもわかってない。
面倒だが、説明してやる。
「オレらが暁って有名人なら、あまり得意な術は見せない方がいいし、なにより不死身のおまえを見せるな。死んだはずの奴がまた会場に現れたら、客はどういう反応すると思う? 観客どころか会場内の忍に目をつけられるぞ。さり気なく勝ち続けた方がこっちとしては動きやすくなるんだ」
何事も第一印象が肝心だ。
ここが一応敵地だということを理解してほしい。
今、この場にいる全ての忍に襲われでもしたらオレの血がもたないし、角都が怒ってとばっちりを食らうのはもうたくさんだ。
「2年前までは飛段より馬鹿だった小娘が、頭を使うようになったな」
「褒め言葉として受けとっとくぜ」
飛段は角都に向かって「オレはヨルよりかは賢いっつーの!!」と怒鳴った。
そういうやり取りをしている間に、いつの間にか水波がステージに上がっていた。
「あ」とオレが声を漏らすと、飛段もそれに気付いて「あ―――!!」と大袈裟に声を上げ、水波に人差し指をさす。
「おい待てコラ! なんでてめーがそこに立ってんだァ!?」
セキはステージを見上げながらあわあわと慌てていた。
「み…、水波…;」
「すぐに下りろ!」
水波を引きずり下ろすためにステージの階段を上がろうとする飛段の前に、瞬時にヌマチが現れて手で制する。
「ステージに上がった時点で決定となります。他の選手がステージに上がれば、反則負けと判断してあなたを拘束させていただきます」
飛段は「ぐ…」と唸り、一歩あとずさる。
「譲ってよ、飛段。あたしが負けてもチャンスはあるんだし、それに、実力の方も見て信用してほしいの」
水波は振り返り、飛段に自信ありげな笑みを向けながら言った。
「……………」
飛段が大人しくなったとき、
「構わず、続けろ」
瞬時に飛段の背後に近づいた角都はヌマチにそう言って、「これ以上醜態をさらすな」と飛段の首根っこをつかんで外野へとムリヤリ引き摺り下ろした。
「相手は?」
水波が審判に尋ねたとき、
「オ・レ・だ!」
相手側から頭が爆発したモジャモジャ男が上がってきた。
爆発した頭にはいくつものバッジが飾られている。
「角都! 角都! あいつ、なんで頭爆発してるんだ!?;」
初めて見る頭にオレはすぐに袖をぐいぐいと引っ張って角都に尋ねた。
角都は答える価値がないとでも言うように腕を組んでステージを見上げたまま無視だ。
「アフロだな」
ヤンキー座りして同じくステージを見上げていた飛段が答えてくれた。
飛段でも知っている髪型なのか。
それにしても、飛段が笑いを堪えているように見えるのは気のせいか。
「アハハハハ!! なにその頭ァ―――!!」
水波は指をさし、腹を抱えながら爆笑する。
ピクリとアフロ男のこめかみに青筋が立ったのが見えた。
我慢できなくなったのか、飛段も腹を抱えて笑い始める。
耳を澄ませると、観客も密かに笑っていた。
「バ・カ・に・すんじゃねー!!」
アフロ男は顔を真っ赤にして怒鳴った。
今にも水波に躍りかかりそうな雰囲気だ。
ヌマチは両者の中央に立ち、アフロ男を手で制する。
「まだ始まっていません。…それでは、霧隠れ水波と雲隠れトガリ…」
「モザイク頭」
「ぶっ!」
水波が呟いた瞬間、あのヌマチが噴き出した。
「審判!!!」
「は、始め!」
開始の合図とともに、ヌマチはせり上がってくる笑いに堪えながら後ろに飛び退いた。
戦闘開始の合図とともにアフロ頭のトガリが動き出した。
なにをするかと思えば、真剣な面持ちで己のアフロの中に両手を突っ込んだ。
見方によっては滑稽な光景だ。
水波はその場から動かず、頭上に「?」を浮かべながらその様子を眺めていた。
トガリがアフロの中から手を出すと、トガリの指の間には、アフロの中で自分でむしったのか、いくつもの小さな毛玉が挟まれていた。
それを見た水波は思わず青い顔をしてたじろいだ。
「うわっ、キモッ!;」
その「キモい」と言ったものを投げつけられる。
「!?」
直線に飛んできたそれを水波は横に飛んで避けた。
目標を失った多くの小さな毛玉は、降下することなく直線にステージ外の壁へと当たる。
見ると、モジャモジャの毛玉はいつの間にか鋭いトゲに覆われ、壁の中に埋まっていた。
投げられた時に尖ったのか。
当たっていればタダじゃすまなかったはずだ。
それを見つめたまま、水波は「うひゃー」と間の抜けた声を漏らして愕然としていた。
「“土遁・鋼針化のじゅ・つ”・だ」
トガリは口端を吊り上げ、気味の悪い笑みを浮かべた。
それから右手をアフロに突っ込み、今度は手のひらでつかめるくらいの大きさの、むしり取った毛玉を取り出す。
「毛玉にチャクラを加えたか」と角都の呟きが聞こえた。
「こんなことも、で・き・る!」
トガリが大きめの毛玉を投げつけたが、直線攻撃なので避けやすい。
水波は余裕の表情で一歩右へと避けてそれをかわした。
「なにができるって?」
「こんなこ・と・さ」
「水波!!」
オレが声をかけたとき、水波は同時にはっと背後に振り返った。
今、大きめの毛玉は振り返った水波の顔面に迫っていた。
「きゃあ!」
水波は右横に飛んで避けようとしたが、左二の腕をかすってしまった。
左二の腕の傷を右手で押さえつけ、その場に片膝をつく。
「ど…、どういうこと…? !」
種はすぐにわかったようだ。
投げられた毛玉は、壁や床やトガリに当たる寸前でただの毛玉に戻って跳ね返っているからだ。
ステージに立っているヌマチもそれを目で追っている。
「毛玉の速さは跳ねかえるごとにドンドン増してくぜ。審判も当たらねえように気をつ・け・な! まあ、当たる前にちゃんとただの毛玉に変えてやるがな」
トガリの言う通り、どんどん毛玉の速さが増している。
よくこんな素早くただの毛玉と尖った毛玉に切り替えられるものだ。
それだけでなく、毛玉の数を増やされていく。
「グッシャグシャにしてや・る・よ!」
よほどアフロをバカにされたことが頭にきているのか、こめかみに青筋を立たせて笑みを浮かべ、水波に向かって中指を立てる。
水波は己に迫る毛玉を避け続けるが、いつまでもつかは時間の問題だ。
「グシャグシャになるのは、どっちだか」
水波は片方の口角をつり上げてそう言いながら印を結んだ。
一時の間ができた瞬間、その場に立ち止まって目を閉じ、両腕を広げて術を発動させる。
「“水遁・水媒華の術”!」
水波の周りに、大気中に浮かぶ水分が細い線状となって集まり、水波の両手の指先にくっついた。
オレはその姿を、傀儡を操るサソリの姿と思わず重ねる。
「“水魔絃”、完成」
明らかに水波の目付きが変わった。
水底のように暗く、冷たい目だ。
このオレでさえ、今にも殺されかねないと恐ろしく感じてしまうほどに。
お手並み拝見だ。
四方八方から容赦なく鋭い毛玉が襲いかかる。
水波は慌てる様子も見せず、腕と指を動かし、水魔絃を巧みに操った。
「“操絃・飛沫”」
たった10本の水魔絃は水波を護るように水波の周りを囲み、襲いかかる毛玉をすべて受け止めた。
跳ねかえるはずの毛玉は勢いを殺され、床に落ちる。
「!?」
それを見たトガリは驚愕していた。
だがすぐに印を結んで術を仕掛けにくる。
「“雷遁・鼠走”!」
右手に電気を纏わせたトガリは片膝をつき、右手を地面につけて術を発動させた。
すると右手から、ネズミの形をしたたくさんの小さな電撃が駆け抜け、水波に襲いかかる。
水には雷をと考えたのだろう。
「“操絃・渦潮”」
水波を囲む水魔絃が回転を始め、
バチン!!
電撃を弾き返し、弾き返された電撃は空中で飛散した。
唖然としているトガリを見た水波は嘲笑の笑みを浮かべて冷たい声で言う。
「絶縁体の水を使ってるから、電撃はムリよ。水は雷に弱いなんて馬鹿でも知ってる常識には、ちゃんと対策を打っておかないとね」
「く…!」
トガリは悔しそうに顔をしかめ、また印を結ぼうと一度下ろした手をあげようとしたが、
「!?」
見えない手につかまれているかのように動かなかった。
それどころか、体の自由もきかず、プルプルと震えている。
「な…!?」
「今頃気付いた?」
水波はくつくつと笑いながらゆっくりとトガリに近づいていく。
「オレに…、なにを…」
水波の左手に垂れ下がっている水魔絃の先を見ると、トガリへと続き、トガリの体を真っ正面から貫通していた。
「いつの間にやったんだ? あいつ」
飛段がこぼした疑問に、角都が答える。
「あの男が術を発動したあとだ。右手の絃で攻撃を弾き返している間に、左手の絃をあの男につけたようだな」
さすが、よく見てる。
つまり、右手のたった5本の絃であの攻撃を弾き返したわけだ。
「もうアンタはあたしに捕らわれた」
「な・ん・だ・と!?」
水波は左手の水魔絃を見せつける。
「この水魔絃は相手の体に触れたあと、皮膚の穴という穴から体内へ侵入し、体中の水分と結合してあたしの術中にはまる。アンタの体の自由は今、あたしが握ってるってわけ」
ようやくレベルの違いを見せつけられたトガリの額から冷たい汗が滝のように流れた。
唾を飲む音も聞こえる。
危機を感じたトガリが「まいった」と言おうと口を開けたとき、
「ま…、参っ…、がぼ…!?」
トガリの口から水が溢れでた。
「聞いてなかった? 戦闘放棄は反則だって」
角都に聞いたら、水分を肺に集められて吐きだしたらしい。
惨いことをする。
相手は自由を制限されているため、その場に倒れることもできない。
「グシャグシャがお好みだったよね? だったら、お望み通り…」
「待…」
水波は容赦なく左手と指を動かした。
「“操絃・奔流”」
グシャ!!
肉が弾け飛び、骨が砕ける音が聞こえ、トガリは白目を剥いてその場にうつ伏せに倒れた。
外側は皮膚から少量の血が噴き出した程度だが、内部はボロボロだ。
まだかすかに呼吸しているのが驚きだ。
「勝者、霧隠れ・水波!」
戦いの始終を観戦していた観客から歓声が湧きあがる。
会場の出入口から急いで治療班がやってきて、トガリを担架にのせてステージから下りて会場を出ていった。
「今のは…」
飛段が呟いたとき、オレは答えた。
「水圧で内部を潰したんだ」
敵だったら厄介だった。
味方につけて正解だ。
ステージから水波が飛び下り、角都の前に着地し、勝利の笑みを見せる。
「どう?」
「あの程度の相手に勝って当たり前でないとこちらが困る」
それだけ言って背を向け、ステージへと向かう。
一瞬茫然としていた水波だが、すぐに歯を剥いてその背中を睨みつけた。
「なによ! ヤな奴―!!」
「「知ってる;」」
オレと飛段は同時に言った。
角都に褒め言葉を求めること自体間違っている。
「んでいつの間にかあいつステージに行ってるしィ!!」
角都がステージに向かった時点で止めておけばよかったのに。
オレは飛段の肩に手を置いてなだめる。
「1分ガマンすればすぐ出番まわってくるって;」
角都が終われば飛段の出番がきて、連続3勝で“ジャシン☆”の勝ちだ。
オレはとりあえず次のチーム戦に備えておこう。
.