23:猛者よ集え
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*ヨル
オレは直接人の口から聞くなんてことはしない。
口下手だから、角都みたいにうまく聞きだすことができない。
最悪、金取られるかもしれないし、それで怒られるのはオレだ。
悪趣味かもしれないが、聞き耳を立てての情報収集だ。
真も偽りも自然と耳の中に入ってくる。
それらの情報を必要な部分だけ抜き取って繋ぎ合わせる。
今回は割と早く集まり、早く繋がった。
ちょうどいいところで角都に呼ばれ、オレは角都が待機している場所へと飛んだ。
屋根を飛び移りながら進んでいくと、家と家を繋いだ吊り橋に角都は腕を組んで待っていた。
オレが目の前に着地すると同時にさっそく質問する。
「情報はつかめたのか?」
「だいぶな。明日、大会があるらしい。今日はその予選日だ」
「その大会の最終戦後に五尾が出てくる。ある者は優勝者には五尾からその力が与えられるなどとふれまわっているそうだ」
「さすが、そっちの方が情報が多そうだな。どうする? 大会なんて無視してこっちから攻めるか?」
大会はどうでもいい。
問題はどうやって五尾を捕まえるかだ。
「焦るな。今回はいささか分が悪い。観客という大量の忍の中には土影もいるだろう」
「…飛段なら全部殺せばいいとか言いだすだろうな」
「己を過信するな。貴様らはともかく、オレの心臓が足りん」
現在、角都の心臓は5つある。
2年前はヘタして2つ失っていたが、ヒルのことが終わったあと、数日かけて2つの穴を埋め直した。
命に限界があるぶん、飛段と違って角都は慎重派だ。
だからオレ達は火に飛びこむことなくうまくやっていけてるのだろう。
「……出るのか? 予選」
やはり予選の内容も知っているのだろう。
角都は頷いた。
「郷に入れば郷に従え、だ。その方がスムーズにことが進むだろう。派手に動くのは間違っている」
予選に出て派手に動くなというのは矛盾してやないだろうか。
難しく考えそうになったとき、オレ達の前を数人の忍が通過した。
「おい、予選前に里違いの忍同士の喧嘩だぞ!」
「どこだ!?」
「いつも行ってる居酒屋知ってるだろ!? あそこでデカい男と銀髪の男が…」
その単語にオレと角都がピクリと反応した。
「……銀髪…;」
今、角都の顔を見るのが恐ろしい。
オレは祈った。
うちの馬鹿じゃありませんように…!!
とばっちりはたくさんだ。
*****
「オラァァァァ!!」
今まさに目撃中。
銀髪の男がデカい男の顔面に容赦ない飛び蹴りを食らわせていた。
勝負がついたところで、デカい男を片足で踏みながら「ゲハゲハ」と笑っている。
うちの馬鹿だった―――!!
「……………」
殺気が背後からわかりやすいほど伝わってくる。
オレは殺意のままに行動される前に角都の肩をおさえつけた。
つま先立ちしなくては両手が肩に届かないのが難儀だ。
「待て角都! 派手に動くんじゃなかったのかよ!;」
「オレはトラブると殺意が湧くのは理解しているはずだ」
もうすでに腕が硬化している。
「これ以上トラブル起こすな!!;」
角都の殺意にも気付かず、飛段は「アーイム、ウィンナー♪」と勝ち誇っていた。
間違ってることは指摘してやらん。
「もーらい」
飛段は倒した男の手首の腕輪を外し、自分の腕につけた。
予選のルールは理解しているようだ。
「ほ、ほら、いつの間にかあいつも予選出る気満々だし、結果オーライだろ(汗)」
オレがそう言うと角都は舌打ちし、腕を戻した。
「…予選会場に行くぞ」
「その前に、あの腕輪と…」
オレは予選を突破する前にある物を手に入れないと。
ちょうどいいことに、飛段はそれを手に入れてくれた。
オレ達は宿で荷物を置きに来ていた。
「ぎゃはははは!!」
飛段は腹を抱えてオレを指さし笑っている。
「オレが額当てをするのがそんなにおかしいか」
オレの額には、飛段が倒した男の額当てが結ばれてある。
大会は忍しか出られないのでオレには忍の証である額当てが必要だった。
この見た目と年齢でアカデミーとは言えないからな。
だから、しばらくの間借りている。
断じて盗んだわけではない。
「似合わねーんだよ!」
畳みで腹を抱えてゴロゴロしてるそいつを蹴り飛ばしたくなる。
角都の時は笑わないクセに。
どう違うってんだ。
頭巾の上から付ければいいのか。
飛段のように首に巻くのもありかと思ったが、お揃いは外套だけで十分だ。
オレは額当てを外し、左肩につけ直した。
これでちょうどコウモリの刺青が隠れる。
その時、どこかに行っていた角都が宿の部屋に戻ってきた。
その手には外套と腕輪があった。
それをオレ達に投げつける。
「エントリーしてきたぞ。着替えてから腕輪をつけろ」
「!」
新しい外套には暁の赤い雲のマークがない、ただの黒い外套だ。
まあ、あのままだったら、「オレ達暁です」って自己アピールしてるようなものだからな。
「…ホント、慎重だな。つうか、エントリーって…、大丈夫だったのかよ」
怪しまれなかったのか。
「…この大会には、オレ達のような裏を抱えた忍も大勢参加している。賞金首もな。企画者はなにを考えているのか…。とにかく、五尾のことと言い、ただの大会ではなさそうだ」
最後の角都の言葉はどこか期待が含まれている。
他の任務の時でも金のことか。
オレは着替えながら少し呆れた。
「…で、この腕輪が参加の証か。…うわっ、なんだコレ、重…っ;」
右手首だけつけてみたが、それだけでもズシリと重さが伝わってくる。
一体、何キロあるのか。
「片方10キロはあるな」
「10キロだと!?;」
角都の言葉にオレは思わず声を上げた。
急いで別の個所に取りつけようとしたが外せない。
「あ、あれ、これ取れねえぞ;」
「あー…、それ、自分じゃ外せねーようになってるな」
よく見ると、鉄の腕輪の縁になにやら文字が刻まれている。
封印術みたいなものだろうか。
「クソ…ッ、10キロってことは、左右合わせて20キロ。それを左右10個集めたら200キロってことか(汗)」
やっぱり筋肉のつき方と男と女の力の差だ。
飛段は20キロつけたまま平然としていたのだから。
角都も両方つけても苦にもしていない。
「集めれば集めるほど動きは鈍り、狙われる確率も増える。筋力のまったくない忍はムリだろう」
「こんな体力馬鹿な予選、オレが不利に決まってんだろ!」
オレは逆切れした。
こっちは両手に夢魔持って戦うわけだし。
「でよォ、予選会場ってのはどこだよ;」
飛段はそこまでは聞いていないようだ。
そろそろ時間だし、早く教えなければ。
「予選会場は、ここら一帯だ」
「は?」
ドン!
「!?」
宿の近くで爆発が起こり、窓を見るとすぐ近くで黒煙が上がっていた。
それからどこかでクナイとクナイがぶつかり合う音が聞こえる。
予選はもう始まったのだ。
角都は予選について説明する。
「この付近と岩山だ。制限時間は日が沈むまで。場所はあの岩山のてっぺんだ。倒した忍から腕輪を左右10個奪い取ることを忘れるな」
ここは町外れの一部だから含まれてしまったのだろう。
オレは重い腕を動かし、背中から夢魔を抜きとった。
飛段は三連鎌をつかんで立ち上がり、角都は腕を硬化させる。
「まず目指すは予選突破ァ! それから大会に優勝して五尾をとっ捕まえるぜェ!」
腕重いはずなのに器用にブンブンと振り回せるものだ。
窓から忍達が入り込もうと飛びかかり、オレ達はすぐに反応した。
宿に入られて中を荒らされたら請求書が届くに違いない。
オレ達は窓から飛び降り、まず各々腕輪を確保した。
腕輪が増えると同時に敵も増えていく。
正直言って、腕がつりそうだ。
オレの両腕には6組の腕輪がつけている。
片方60キロ。
人間ひとりが片腕につかまっている感じだ。
こっちは両手に夢魔を持ってるから振り回しづらい。
草木もない岩山の斜面もきつくなってきた。
傍にいる2人に追いつこうと必死に地面を蹴った。
角都は残り1組、飛段は残り2組の腕輪を手にしてゴールすれば予選通過だ。
「へばってんじゃねえぞ、ヨル!」
「誰がへばってるって!?」
飛段の挑発がオレに休みを与えず進ませてくれる。
右と左から忍が迫ってきた。
オレは夢魔を構え、最初に右に来た忍を真っ正面から右手の夢魔を斜めに振り下ろして切り倒し、背後に迫ってきた忍を振り返りざまに左手の夢魔でその右肩を貫いた。
オレは2人の忍から腕輪をいただく。
手に持っただけで40キロ分の重みがズシリとくる。
これ以上腕に追加していけば、夢魔を持ち上げられなくなってしまう。
オレの腕もそろそろ限界だ。
そこでオレは考えた。
べつに、腕だけじゃなくていいのでは。
オレは両足に装着した。
腕よりはマシだ。
急いで角都と飛段に追いつき、残りの2組の腕輪を手に入れようと奮闘する。
*****
頂上の石造りでドーム型の建物についた頃には、オレ達3人の体には10組の腕輪が装着されていた。
建物の前にいた岩隠れの忍に腕輪を外してもらい、建物の中へと入る。
腕輪が取れたときの解放感は、気持ちのいいものがある。
「若干体が痛い…(汗)」
薄暗い通路を歩きながら腕を回し、痛みをほぐす。
飛段も「ん~」と体を伸ばしている。
角都は平気なのだろうか。
まあ、バイトの時に何人もの死体担いでるくらいだから平気なのだろう。
通路を抜けると、天井が大きく開いた広い場所に出た。
ステージにはオレ達より先に予選を突破した忍達が集まっていた。
腕輪のせいで疲れ切っている忍やケガを負った忍が何人か見られる。
オレは建物内を見回し、ぐるり囲むように観客席があることから、ここで大会が行われる闘技場だと察した。
オレ達のあとにも次々と予選を突破した忍達がやってくる。
予選突破にしてはけっこう人数がいる。
100…、いや、それ以上か。
観客席から、岩隠れの忍達がこちらを見下ろしているのが見えた。
「…五尾らしき奴はいねえな」
五尾であるハンの特徴のひとつ、ヨロイを着た奴はいない。
あと、ヒョウタンを持った奴もいない。
「やっぱ、最終戦で出てくるんじゃねーの?」
「焦ることはない。それと、あまりキョロキョロするな。なんのために予選を突破したと思っている」
ここでマークされてしまえば、面倒なことになる。
暁とバレたら、五尾は隠されるだろう。
一番面倒なのが、それで角都がキレることだ。
ステージの真ん中にひとりの岩隠れの忍が煙とともに姿を現した。
両目が前髪で隠れていて、どこか暗い雰囲気がある忍だ。
「皆様、予選突破おめでとうございます。私は大会の審判を務めさせていただきます、ヌマチといいます」
声も暗い。
ヌマチは忍達を見回し、言葉を続ける。
「明日は本戦です。それまでに、これから皆様には、違う里同士で5人で1チームを組んでもらいます」
「なんで違う里同士なんだよ」
忍のひとりが問い、ヌマチは答える。
「他の里同士、親睦を深めるためでもあります」
「ウソ臭い」とオレは思った。
おそらく、オレだけじゃないはずだ。
場内にいる忍のほとんどが思ったに違いない。
たとえそうだとしても、喧嘩が起きないだろうか。
どちらにしても、それが決まりならその決まりに従うまで。
滝隠れ、湯隠れ、岩隠れ。
あと2人、別の里の忍と組まなくてはならない。
「鬼鮫とイタチとか引っ張ってくればよかったな;」
オレがボソリと呟くと、
「いや、それは今はやめた方がいいぜ;」
飛段が苦笑いで言った。
会議中になにかあったらしい。
もう他の忍達はそれぞれチームを組み始めている。
オレ達も誰かと組まなければ。
ゾクッ
「!?」
その時、突然背中に突き刺さるような殺気を感じた。
はっと振り返ると、セミロングの水色髪の女の忍と目が合った。
額につけている額当てには、鬼鮫と同じ霧隠れのマークがある。
その女の横には、ショートヘアーの赤髪のガキの忍がいる。
その額につけている額当てには、砂隠れのマークがあった。
怪訝な目で見つめていると、その2人がこちらにやってきた。
「ホントに予選にきたんだ?」
霧隠れの忍に声をかけられ、オレは首を傾げる。
どこかで会ったか。
「おっ。おまえらか」
それに答えたのは飛段だ。
「飛段、こいつらは?」
「えーと確か…」
飛段が答える前に、霧隠れの忍が名乗る。
「あたしは水波。こいつはセキ」
「ど…、どうも…」
セキは水波の後ろからこちらを窺いながら、ペコリと一礼する。
「滝隠れに岩隠れ…。連れつきだったとはね。こいつは都合がいいわ」
「おまえ、もうひとりいただろ。そいつは?」
飛段が問うと、水波は右手をヒラヒラとさせた。
「落選…、と言っても、アンタがフルボッコにしたから参加もできなかったけどね。今頃病院で寝てるわよ」
オレは飛段が、予選が始まる前にボコボコにしていた忍を思い出した。
オレが身につけている額当てはそいつのだ。
なんだか申し訳なくなってくる。
「まあ、気にしてないけどね。今日会ったばかりだったし、全然弱っちぃことがわかってむしろよかったのよ。ね、セキ」
「そ、その言い方はどうかと思いますが…;」
「とにかく、あたしは霧隠れでセキは砂隠れ。…あたし達が言いたいこと、わかるでしょ?」
水波はこちらに視線をやった。
「…オレ達と組む気か?」
「いいじゃない。これでちょうど5人よ」
勝手なことを言ってくれる。
オレは角都をチラリと見る。
相変わらず、目だけではなにを考えているのかわからない。
角都の中の心情まで聞きとれたらいいのに。
「…どうする? 角都」
答えを促すと、角都は水波達に背を向けて冷静に答えた。
「…好きにしろ。どうせ他のメンバーは他のノルマで忙しい。あくまで数合わせだ」
水波とセキは小さく手を打ちあった。
「やった」と。
しかし、角都の話は終わらない。
「だが…」と肩越しに振り向いて言う。
「オレ達の足を引っ張るようなら…、その邪魔な腕を引き千切ってやる」
どこからそんな恐ろしい言葉と声が出てくるのか。
その迫力に2人の表情が強張った。
セキは顔を真っ青にして水波の腰にしがみついている。
「ま、まあ…、期待してくれていいから」
一瞬どもった水波だったが、すぐに口角を吊り上げ、自信のある顔に戻った。
「……………」
オレは無意識に自分の背中に触れる。
突き刺さっていた殺意がまだ少し、ピリピリと痛みを感じさせていた。
宿に戻ってきたオレ達は、部屋に集まって酒を飲み交わしていた。
5人だと部屋が狭い。
「予選突破おめでとー!」
水波がテンションを上げ、勢いよくオレのグラスに己のグラスをぶつけてきた。
危うく、コップが割れそうになる。
「おいおい、手加減しろよ。こぼれただろ;」
オレは注意しながら、おしぼりで手にかかった酒を拭いた。
予選突破しただけですごい盛り上がりようだな。
飛段は飛段でテンションを上げていた。
後先考えず飲むところは相変わらずだ。
角都は窓際に背をもたせかけながら静かに飲んでいた。
酒の金は水波持ちだ。
数時間ほど前、親睦を深めたいということで酒を持って部屋に来たのだ。
水波とセキは別の宿に泊まっているらしい。
「み、水波、飲みすぎ;」
セキは心配した様子で別のグラスに注いだ水を水波に手渡した。
水波は「そんなに飲んでないけど…」と呂律があまり回らない言葉で受け取った水を飲み干す。
「…おまえらはいつから組んでんだ?」
オレが問うと、水波はまた酒を一口一口飲みながら答える。
「半年ぐらいかな…。あたしらは抜け忍なの。旅の途中で追い忍に追われてケガしたセキと出会って、それから組むようになったの…。ほっとけないでしょ、こんな小さな抜け忍」
そう言いながら、セキの頭を撫でた。
セキは嬉しそうに口元を緩ませている。
一応、オレ達よりは悪い奴らではなさそうだ。
その時、窓から夜風が部屋に吹き、懐かしい匂いがした。
「…?」
オレは匂いに誘われるままに窓に近づき、部屋の外を見た。
町は見えず、ただ岩山が見える。
「ああ、あれか…」
呟いたオレが見た先には赤い花が何輪も咲いていた。
いくつもの小さな赤いユリが四方八方かたまったようで、夜風に吹かれるたびに揺らぎ、その匂いを発する。
「彼岸花か」
オレの様子に気付いた角都がオレの視線を追って教えてくれた。
「彼岸花…」
そう、確かそんな名前だった気がする。
オレの脳裏に蘇ったのは、朱族になる前の一瞬の記憶だ。
「そういえば…、オレの村にも…」
そこで「あれ?」と思った。
オレの村に咲いていたのは蓮華草だったはずだ。
「…?」
どこかで見かけただけだろうか。
それでも、オレの鼻を通りぬけるのは、懐かしさが込められた匂いだけだった。
じっと眺めていると、だんだんと赤い蝶に見えきて、ゾッとする。
オレは窓から離れ、グラスに入った酒を、一瞬の恐怖とともに一気飲み干した。
.To be continued
オレは直接人の口から聞くなんてことはしない。
口下手だから、角都みたいにうまく聞きだすことができない。
最悪、金取られるかもしれないし、それで怒られるのはオレだ。
悪趣味かもしれないが、聞き耳を立てての情報収集だ。
真も偽りも自然と耳の中に入ってくる。
それらの情報を必要な部分だけ抜き取って繋ぎ合わせる。
今回は割と早く集まり、早く繋がった。
ちょうどいいところで角都に呼ばれ、オレは角都が待機している場所へと飛んだ。
屋根を飛び移りながら進んでいくと、家と家を繋いだ吊り橋に角都は腕を組んで待っていた。
オレが目の前に着地すると同時にさっそく質問する。
「情報はつかめたのか?」
「だいぶな。明日、大会があるらしい。今日はその予選日だ」
「その大会の最終戦後に五尾が出てくる。ある者は優勝者には五尾からその力が与えられるなどとふれまわっているそうだ」
「さすが、そっちの方が情報が多そうだな。どうする? 大会なんて無視してこっちから攻めるか?」
大会はどうでもいい。
問題はどうやって五尾を捕まえるかだ。
「焦るな。今回はいささか分が悪い。観客という大量の忍の中には土影もいるだろう」
「…飛段なら全部殺せばいいとか言いだすだろうな」
「己を過信するな。貴様らはともかく、オレの心臓が足りん」
現在、角都の心臓は5つある。
2年前はヘタして2つ失っていたが、ヒルのことが終わったあと、数日かけて2つの穴を埋め直した。
命に限界があるぶん、飛段と違って角都は慎重派だ。
だからオレ達は火に飛びこむことなくうまくやっていけてるのだろう。
「……出るのか? 予選」
やはり予選の内容も知っているのだろう。
角都は頷いた。
「郷に入れば郷に従え、だ。その方がスムーズにことが進むだろう。派手に動くのは間違っている」
予選に出て派手に動くなというのは矛盾してやないだろうか。
難しく考えそうになったとき、オレ達の前を数人の忍が通過した。
「おい、予選前に里違いの忍同士の喧嘩だぞ!」
「どこだ!?」
「いつも行ってる居酒屋知ってるだろ!? あそこでデカい男と銀髪の男が…」
その単語にオレと角都がピクリと反応した。
「……銀髪…;」
今、角都の顔を見るのが恐ろしい。
オレは祈った。
うちの馬鹿じゃありませんように…!!
とばっちりはたくさんだ。
*****
「オラァァァァ!!」
今まさに目撃中。
銀髪の男がデカい男の顔面に容赦ない飛び蹴りを食らわせていた。
勝負がついたところで、デカい男を片足で踏みながら「ゲハゲハ」と笑っている。
うちの馬鹿だった―――!!
「……………」
殺気が背後からわかりやすいほど伝わってくる。
オレは殺意のままに行動される前に角都の肩をおさえつけた。
つま先立ちしなくては両手が肩に届かないのが難儀だ。
「待て角都! 派手に動くんじゃなかったのかよ!;」
「オレはトラブると殺意が湧くのは理解しているはずだ」
もうすでに腕が硬化している。
「これ以上トラブル起こすな!!;」
角都の殺意にも気付かず、飛段は「アーイム、ウィンナー♪」と勝ち誇っていた。
間違ってることは指摘してやらん。
「もーらい」
飛段は倒した男の手首の腕輪を外し、自分の腕につけた。
予選のルールは理解しているようだ。
「ほ、ほら、いつの間にかあいつも予選出る気満々だし、結果オーライだろ(汗)」
オレがそう言うと角都は舌打ちし、腕を戻した。
「…予選会場に行くぞ」
「その前に、あの腕輪と…」
オレは予選を突破する前にある物を手に入れないと。
ちょうどいいことに、飛段はそれを手に入れてくれた。
オレ達は宿で荷物を置きに来ていた。
「ぎゃはははは!!」
飛段は腹を抱えてオレを指さし笑っている。
「オレが額当てをするのがそんなにおかしいか」
オレの額には、飛段が倒した男の額当てが結ばれてある。
大会は忍しか出られないのでオレには忍の証である額当てが必要だった。
この見た目と年齢でアカデミーとは言えないからな。
だから、しばらくの間借りている。
断じて盗んだわけではない。
「似合わねーんだよ!」
畳みで腹を抱えてゴロゴロしてるそいつを蹴り飛ばしたくなる。
角都の時は笑わないクセに。
どう違うってんだ。
頭巾の上から付ければいいのか。
飛段のように首に巻くのもありかと思ったが、お揃いは外套だけで十分だ。
オレは額当てを外し、左肩につけ直した。
これでちょうどコウモリの刺青が隠れる。
その時、どこかに行っていた角都が宿の部屋に戻ってきた。
その手には外套と腕輪があった。
それをオレ達に投げつける。
「エントリーしてきたぞ。着替えてから腕輪をつけろ」
「!」
新しい外套には暁の赤い雲のマークがない、ただの黒い外套だ。
まあ、あのままだったら、「オレ達暁です」って自己アピールしてるようなものだからな。
「…ホント、慎重だな。つうか、エントリーって…、大丈夫だったのかよ」
怪しまれなかったのか。
「…この大会には、オレ達のような裏を抱えた忍も大勢参加している。賞金首もな。企画者はなにを考えているのか…。とにかく、五尾のことと言い、ただの大会ではなさそうだ」
最後の角都の言葉はどこか期待が含まれている。
他の任務の時でも金のことか。
オレは着替えながら少し呆れた。
「…で、この腕輪が参加の証か。…うわっ、なんだコレ、重…っ;」
右手首だけつけてみたが、それだけでもズシリと重さが伝わってくる。
一体、何キロあるのか。
「片方10キロはあるな」
「10キロだと!?;」
角都の言葉にオレは思わず声を上げた。
急いで別の個所に取りつけようとしたが外せない。
「あ、あれ、これ取れねえぞ;」
「あー…、それ、自分じゃ外せねーようになってるな」
よく見ると、鉄の腕輪の縁になにやら文字が刻まれている。
封印術みたいなものだろうか。
「クソ…ッ、10キロってことは、左右合わせて20キロ。それを左右10個集めたら200キロってことか(汗)」
やっぱり筋肉のつき方と男と女の力の差だ。
飛段は20キロつけたまま平然としていたのだから。
角都も両方つけても苦にもしていない。
「集めれば集めるほど動きは鈍り、狙われる確率も増える。筋力のまったくない忍はムリだろう」
「こんな体力馬鹿な予選、オレが不利に決まってんだろ!」
オレは逆切れした。
こっちは両手に夢魔持って戦うわけだし。
「でよォ、予選会場ってのはどこだよ;」
飛段はそこまでは聞いていないようだ。
そろそろ時間だし、早く教えなければ。
「予選会場は、ここら一帯だ」
「は?」
ドン!
「!?」
宿の近くで爆発が起こり、窓を見るとすぐ近くで黒煙が上がっていた。
それからどこかでクナイとクナイがぶつかり合う音が聞こえる。
予選はもう始まったのだ。
角都は予選について説明する。
「この付近と岩山だ。制限時間は日が沈むまで。場所はあの岩山のてっぺんだ。倒した忍から腕輪を左右10個奪い取ることを忘れるな」
ここは町外れの一部だから含まれてしまったのだろう。
オレは重い腕を動かし、背中から夢魔を抜きとった。
飛段は三連鎌をつかんで立ち上がり、角都は腕を硬化させる。
「まず目指すは予選突破ァ! それから大会に優勝して五尾をとっ捕まえるぜェ!」
腕重いはずなのに器用にブンブンと振り回せるものだ。
窓から忍達が入り込もうと飛びかかり、オレ達はすぐに反応した。
宿に入られて中を荒らされたら請求書が届くに違いない。
オレ達は窓から飛び降り、まず各々腕輪を確保した。
腕輪が増えると同時に敵も増えていく。
正直言って、腕がつりそうだ。
オレの両腕には6組の腕輪がつけている。
片方60キロ。
人間ひとりが片腕につかまっている感じだ。
こっちは両手に夢魔を持ってるから振り回しづらい。
草木もない岩山の斜面もきつくなってきた。
傍にいる2人に追いつこうと必死に地面を蹴った。
角都は残り1組、飛段は残り2組の腕輪を手にしてゴールすれば予選通過だ。
「へばってんじゃねえぞ、ヨル!」
「誰がへばってるって!?」
飛段の挑発がオレに休みを与えず進ませてくれる。
右と左から忍が迫ってきた。
オレは夢魔を構え、最初に右に来た忍を真っ正面から右手の夢魔を斜めに振り下ろして切り倒し、背後に迫ってきた忍を振り返りざまに左手の夢魔でその右肩を貫いた。
オレは2人の忍から腕輪をいただく。
手に持っただけで40キロ分の重みがズシリとくる。
これ以上腕に追加していけば、夢魔を持ち上げられなくなってしまう。
オレの腕もそろそろ限界だ。
そこでオレは考えた。
べつに、腕だけじゃなくていいのでは。
オレは両足に装着した。
腕よりはマシだ。
急いで角都と飛段に追いつき、残りの2組の腕輪を手に入れようと奮闘する。
*****
頂上の石造りでドーム型の建物についた頃には、オレ達3人の体には10組の腕輪が装着されていた。
建物の前にいた岩隠れの忍に腕輪を外してもらい、建物の中へと入る。
腕輪が取れたときの解放感は、気持ちのいいものがある。
「若干体が痛い…(汗)」
薄暗い通路を歩きながら腕を回し、痛みをほぐす。
飛段も「ん~」と体を伸ばしている。
角都は平気なのだろうか。
まあ、バイトの時に何人もの死体担いでるくらいだから平気なのだろう。
通路を抜けると、天井が大きく開いた広い場所に出た。
ステージにはオレ達より先に予選を突破した忍達が集まっていた。
腕輪のせいで疲れ切っている忍やケガを負った忍が何人か見られる。
オレは建物内を見回し、ぐるり囲むように観客席があることから、ここで大会が行われる闘技場だと察した。
オレ達のあとにも次々と予選を突破した忍達がやってくる。
予選突破にしてはけっこう人数がいる。
100…、いや、それ以上か。
観客席から、岩隠れの忍達がこちらを見下ろしているのが見えた。
「…五尾らしき奴はいねえな」
五尾であるハンの特徴のひとつ、ヨロイを着た奴はいない。
あと、ヒョウタンを持った奴もいない。
「やっぱ、最終戦で出てくるんじゃねーの?」
「焦ることはない。それと、あまりキョロキョロするな。なんのために予選を突破したと思っている」
ここでマークされてしまえば、面倒なことになる。
暁とバレたら、五尾は隠されるだろう。
一番面倒なのが、それで角都がキレることだ。
ステージの真ん中にひとりの岩隠れの忍が煙とともに姿を現した。
両目が前髪で隠れていて、どこか暗い雰囲気がある忍だ。
「皆様、予選突破おめでとうございます。私は大会の審判を務めさせていただきます、ヌマチといいます」
声も暗い。
ヌマチは忍達を見回し、言葉を続ける。
「明日は本戦です。それまでに、これから皆様には、違う里同士で5人で1チームを組んでもらいます」
「なんで違う里同士なんだよ」
忍のひとりが問い、ヌマチは答える。
「他の里同士、親睦を深めるためでもあります」
「ウソ臭い」とオレは思った。
おそらく、オレだけじゃないはずだ。
場内にいる忍のほとんどが思ったに違いない。
たとえそうだとしても、喧嘩が起きないだろうか。
どちらにしても、それが決まりならその決まりに従うまで。
滝隠れ、湯隠れ、岩隠れ。
あと2人、別の里の忍と組まなくてはならない。
「鬼鮫とイタチとか引っ張ってくればよかったな;」
オレがボソリと呟くと、
「いや、それは今はやめた方がいいぜ;」
飛段が苦笑いで言った。
会議中になにかあったらしい。
もう他の忍達はそれぞれチームを組み始めている。
オレ達も誰かと組まなければ。
ゾクッ
「!?」
その時、突然背中に突き刺さるような殺気を感じた。
はっと振り返ると、セミロングの水色髪の女の忍と目が合った。
額につけている額当てには、鬼鮫と同じ霧隠れのマークがある。
その女の横には、ショートヘアーの赤髪のガキの忍がいる。
その額につけている額当てには、砂隠れのマークがあった。
怪訝な目で見つめていると、その2人がこちらにやってきた。
「ホントに予選にきたんだ?」
霧隠れの忍に声をかけられ、オレは首を傾げる。
どこかで会ったか。
「おっ。おまえらか」
それに答えたのは飛段だ。
「飛段、こいつらは?」
「えーと確か…」
飛段が答える前に、霧隠れの忍が名乗る。
「あたしは水波。こいつはセキ」
「ど…、どうも…」
セキは水波の後ろからこちらを窺いながら、ペコリと一礼する。
「滝隠れに岩隠れ…。連れつきだったとはね。こいつは都合がいいわ」
「おまえ、もうひとりいただろ。そいつは?」
飛段が問うと、水波は右手をヒラヒラとさせた。
「落選…、と言っても、アンタがフルボッコにしたから参加もできなかったけどね。今頃病院で寝てるわよ」
オレは飛段が、予選が始まる前にボコボコにしていた忍を思い出した。
オレが身につけている額当てはそいつのだ。
なんだか申し訳なくなってくる。
「まあ、気にしてないけどね。今日会ったばかりだったし、全然弱っちぃことがわかってむしろよかったのよ。ね、セキ」
「そ、その言い方はどうかと思いますが…;」
「とにかく、あたしは霧隠れでセキは砂隠れ。…あたし達が言いたいこと、わかるでしょ?」
水波はこちらに視線をやった。
「…オレ達と組む気か?」
「いいじゃない。これでちょうど5人よ」
勝手なことを言ってくれる。
オレは角都をチラリと見る。
相変わらず、目だけではなにを考えているのかわからない。
角都の中の心情まで聞きとれたらいいのに。
「…どうする? 角都」
答えを促すと、角都は水波達に背を向けて冷静に答えた。
「…好きにしろ。どうせ他のメンバーは他のノルマで忙しい。あくまで数合わせだ」
水波とセキは小さく手を打ちあった。
「やった」と。
しかし、角都の話は終わらない。
「だが…」と肩越しに振り向いて言う。
「オレ達の足を引っ張るようなら…、その邪魔な腕を引き千切ってやる」
どこからそんな恐ろしい言葉と声が出てくるのか。
その迫力に2人の表情が強張った。
セキは顔を真っ青にして水波の腰にしがみついている。
「ま、まあ…、期待してくれていいから」
一瞬どもった水波だったが、すぐに口角を吊り上げ、自信のある顔に戻った。
「……………」
オレは無意識に自分の背中に触れる。
突き刺さっていた殺意がまだ少し、ピリピリと痛みを感じさせていた。
宿に戻ってきたオレ達は、部屋に集まって酒を飲み交わしていた。
5人だと部屋が狭い。
「予選突破おめでとー!」
水波がテンションを上げ、勢いよくオレのグラスに己のグラスをぶつけてきた。
危うく、コップが割れそうになる。
「おいおい、手加減しろよ。こぼれただろ;」
オレは注意しながら、おしぼりで手にかかった酒を拭いた。
予選突破しただけですごい盛り上がりようだな。
飛段は飛段でテンションを上げていた。
後先考えず飲むところは相変わらずだ。
角都は窓際に背をもたせかけながら静かに飲んでいた。
酒の金は水波持ちだ。
数時間ほど前、親睦を深めたいということで酒を持って部屋に来たのだ。
水波とセキは別の宿に泊まっているらしい。
「み、水波、飲みすぎ;」
セキは心配した様子で別のグラスに注いだ水を水波に手渡した。
水波は「そんなに飲んでないけど…」と呂律があまり回らない言葉で受け取った水を飲み干す。
「…おまえらはいつから組んでんだ?」
オレが問うと、水波はまた酒を一口一口飲みながら答える。
「半年ぐらいかな…。あたしらは抜け忍なの。旅の途中で追い忍に追われてケガしたセキと出会って、それから組むようになったの…。ほっとけないでしょ、こんな小さな抜け忍」
そう言いながら、セキの頭を撫でた。
セキは嬉しそうに口元を緩ませている。
一応、オレ達よりは悪い奴らではなさそうだ。
その時、窓から夜風が部屋に吹き、懐かしい匂いがした。
「…?」
オレは匂いに誘われるままに窓に近づき、部屋の外を見た。
町は見えず、ただ岩山が見える。
「ああ、あれか…」
呟いたオレが見た先には赤い花が何輪も咲いていた。
いくつもの小さな赤いユリが四方八方かたまったようで、夜風に吹かれるたびに揺らぎ、その匂いを発する。
「彼岸花か」
オレの様子に気付いた角都がオレの視線を追って教えてくれた。
「彼岸花…」
そう、確かそんな名前だった気がする。
オレの脳裏に蘇ったのは、朱族になる前の一瞬の記憶だ。
「そういえば…、オレの村にも…」
そこで「あれ?」と思った。
オレの村に咲いていたのは蓮華草だったはずだ。
「…?」
どこかで見かけただけだろうか。
それでも、オレの鼻を通りぬけるのは、懐かしさが込められた匂いだけだった。
じっと眺めていると、だんだんと赤い蝶に見えきて、ゾッとする。
オレは窓から離れ、グラスに入った酒を、一瞬の恐怖とともに一気飲み干した。
.To be continued