01:闇から醒めて
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*飛段
角都もそうだが、あの朱族の仕組みもさっぱりわからない。
オレもよく体の仕組みとか聞かれたりするけど。
格好は、サラシがへそから上まで巻かれていて、その上に、腹から上のボロい長袖を着ている。
それと、白のメッシュの入った黒のセミロングの髪と、瞳の色が印象的な奴だった。
瞳の色はさっきまで瑠璃色だったはずなのに、オレの首筋に噛みつく時と今の瞳の色は、血のような赤色に変わっている。
これが“朱族”というものだと知った。
しかし、資料を持ってる角都は、朱族について詳しいことを知ってるくせに、相方のオレに全部教えてくれねえってのはどういう了見なのか。
理由は、「面倒だから」と答えそうな確率が高い。
コンビを組んだのは最近だが、それで角都のことがほとんどわかったのだから。
「それが答えだというのなら、殺されても文句は言えまい」
構える角都を見て、オレは「待った待った」と声を上げた。
「角都、手ェ出すなよ。こいつは儀式用だ」
「またか」
角都の呆れ声に、苛立ちを込めて言い返す。
「今日はひとつもやってねえんだよ! これでジャシン様からバチが当たったら、テメーのせいだからな!」
「……好きにしろ」
そう言って角都は下がり、柵に背をもたせかけ、こちらを見物する。
それを一瞥し、目の前の相手を見据えた。
向こうがじりじりと動き、こちらも様子を見ながら同じ動きをする。
オレと朱族が動いたのはほぼ同時だった。
最初の一太刀は鎌で弾き、首に向かって横に振られたもう一太刀は屈んで避け、オレもそいつの首に向かって鎌を横に振った。
だが、そいつは上半身を後ろに反らしてそれを避け、再び2本の剣を交互に振り回しながら攻撃してくる。
スピードはオレより速いし、得物が1本でも多い分、いつまでも攻撃を防いだり避けたりするのは難しい。
そろそろ頃合いか。
オレは鎌を両手で握って思いっきり振り上げ、横に振られた剣を上に弾き飛ばした。
左手に握られていた剣は宙を掻き、天井に突き刺さる。
「!」
朱族は目を見開いたあと、すぐにほくそ笑んだ。
「バカが、ムキになりやがって」
オレの両手は振り上げたままだ。
そこを狙ってきた。
朱族はもう一本の剣を両手で握り、右斜めに振り上げる。
すると、オレの腰から肩にかけて赤い線が出来上がり、そこから血が噴き出した。
「ガキが。油断して……」
「ゲハハッ」
「!?」
片膝もつかず笑っているオレの姿を見て、朱族の笑みが驚愕とともに消えうせる。
すぐにオレは手持ちの鎌を朱族の顔面に向けて横に振るった。
小、中、大のうちの、大の鎌の刃先がそいつの頬を掠る。
血が付着したのを確認した。
「くっ」
朱族は壁際に飛び退き、オレから離れる。
もう遅いとも知らずに。
オレは両脚を動かし、足下に飛び散っている自分の血で印を描く。
円を作り、その真ん中に三角を書けば、ジャシン様のシンボルの完成だ。
そのシンボルの上に立ったまま、大の鎌の先に付着した血を舐めとり、儀式の準備が全て整った。
「ゲハハハッ。これで全ての準備が整ったァ! 儀式を始めるぜ!」
朱族は怪訝な顔をする。
「儀式…だと?」
あとは懐の杭を使って自分を傷つければいいだけだ。
そうすれば、あいつはオレと同じ痛みを味わうことができる。
懐から伸縮式の杭を取り出そうとしたとき、背後の角都が声をかけた。
「飛段」
「なんだ!? ジャマすんな角都ゥ!!」
オレにとっては大事な儀式に水を差されてはたまらない。
だが、角都が言ったのは、思いもしないことだった。
「おまえ、なぜ変色しない?」
「……え?」
自分のてのひらを見ると、肌色のままだ。
おかしい。
相手の血を舐めとったあと、白黒に変色し、見た目が骸骨のようになるはずだ。
こんなことは今まで一度もなかった。
戸惑っていると、いきなり懐に朱族が入ってきた。
それと同時に、腹に鋭い痛みが走る。
ああ、腹を貫かれたのか、と知った。
そして、どういうことか、と考えた。
オレはちゃんとシンボルの上に立ってる。
血も舐めとった。
なのに、なぜこいつはオレと同じ傷を負わないのか。
「タフで血の気が多いのは好きだぜ。だから、さっさと…、闇で醒めろ」
さらに深く剣の刃が埋められ、吐血する。
「……オレは…」
「!?」
「テメーなんか大嫌いだ。バーカァ」
「おまえ…、なんで死なない!?」
普通ならとっくに死んでるのに、まともに喋ってりゃびっくりするのも無理はない。
朱族は自分の目を疑っているようだ。
「死なねえんじゃねえ。死ねねえんだよ」
朱族がオレの体から離れる前に、オレは自分の両腕を朱族の背中にまわし、逃げられないように力を込める。
当然、朱族は腕の中で暴れだした。
「テメッ、離れろっ、気持ち悪ぃ!!」
オレの体を突き飛ばせば逃れることは可能だが、オレはその両腕もしっかり抑えている。
オレは角都に振り返って怒鳴った。
「角都! 今だ、殺れ!!」
「「手を出すな」とどこかの馬鹿に言われたばかりだが?」
「ああ、クソッ、メンドクセー奴だな! 空気読め! 出していい! 出していいから早くしろォ!!(怒)」
首筋を噛まれ、血を吸われる。
失血死させようとしているのか。
それでも死なないけど、早くしてくれないと抑えているのも限界だ。
「ワガママな奴め」
角都は「やれやれ」と言いながら、右の袖を手首から少し上に捲った。
すると、肘から下の円状のツギハギの間から、黒い繊維状の触手―――地怨虞(じおんぐ)が出てきた。
「!?」
動きを止めた朱族は目を見張る。
角都は右腕を振るい、肘から下を切り離して天井に飛ばした。
切り離された部分と切り離されている部分の間は、神経とともに地怨虞で繋がっている。
角都の武器のひとつだ。
飛ばされた手は、天井に刺さっている朱族の剣を抜き、勢いをつけてこちらに飛ばした。
再び鋭い痛みに襲われる。
角都がオレごと朱族の腹を剣で貫いたからだ。
「うああっ!?」
目の前で朱族が悲鳴を上げた。
抵抗がなくなり、ダラリと両腕を下げ、オレに全体重をかける。
「殺ったか?」
角都が近づいてくる。
その時、
「!」
朱族の瞳がこちらを見た。
オレと角都は同時に驚く。
「テメー…、まだ生きて…」
朱族はオレの顔を見たあと、角都に顔を向けた。
「人間を超えた者に会うのは、朱族以外で初めてだ」
横顔でも、その瞳の色が瑠璃色に戻ったのが見てわかった。
その顔が妙に嬉しそうに見えるのは、オレだけじゃないはずだ。
「とりあえず…」
オレ達を貫いていた剣は、2本とも黒い液状と化し、朱族の腹の傷口へと入っていく。
すると、みるみる朱族の傷口が塞がっていった。
オレは朱族から一歩下がり、傷口があった個所を指さす。
「おまえも…、不死身?」
「「も」ってことは、おまえ、やっぱり不死身か」
朱族は腕組をしたまま、オレの足下から頭を見て納得の声を出し、言葉を続けた。
「オレは不死身じゃなくて、死ににくい体だ。しかも、あの男が突き刺したのはオレの体の一部だ。あの剣でオレを刺しても無意味だ」
一歩歩きだしたとき、またひと勝負するのかと思ったが、そうじゃない。
無防備にオレに背を向け、角都の横を通過して牢屋から出ていく。
「どこへ行く?」
角都が質問し、朱族はこちらに振り返って答える。
「どこって…。“暁”って組織の本部じゃないのか?」
一瞬、オレは耳を疑い、首を傾げた。
「……は?」
朱族はきょとんとしてる。
「なんだ、他に用があるのか?」
「いや…、用って…;」
朱族を仲間に引き入れ、断るもんなら殺せとしか聞いてないが。
角都と目を合わせたあと、オレはおそるおそる尋ねた。
「…おまえ、“暁”に入るのか?」
「「入らない」なんて一言も言ってねえけど?」
記憶を遡ってみる。
確かに、一言も言ってない。
「じゃあなんで襲いかかってきたんだよ?」
そしたらこいつはこんなことを言いやがった。
「腹が減ってたから。…けど…、もういい。逆に貧血起こしそうだ」
.
角都もそうだが、あの朱族の仕組みもさっぱりわからない。
オレもよく体の仕組みとか聞かれたりするけど。
格好は、サラシがへそから上まで巻かれていて、その上に、腹から上のボロい長袖を着ている。
それと、白のメッシュの入った黒のセミロングの髪と、瞳の色が印象的な奴だった。
瞳の色はさっきまで瑠璃色だったはずなのに、オレの首筋に噛みつく時と今の瞳の色は、血のような赤色に変わっている。
これが“朱族”というものだと知った。
しかし、資料を持ってる角都は、朱族について詳しいことを知ってるくせに、相方のオレに全部教えてくれねえってのはどういう了見なのか。
理由は、「面倒だから」と答えそうな確率が高い。
コンビを組んだのは最近だが、それで角都のことがほとんどわかったのだから。
「それが答えだというのなら、殺されても文句は言えまい」
構える角都を見て、オレは「待った待った」と声を上げた。
「角都、手ェ出すなよ。こいつは儀式用だ」
「またか」
角都の呆れ声に、苛立ちを込めて言い返す。
「今日はひとつもやってねえんだよ! これでジャシン様からバチが当たったら、テメーのせいだからな!」
「……好きにしろ」
そう言って角都は下がり、柵に背をもたせかけ、こちらを見物する。
それを一瞥し、目の前の相手を見据えた。
向こうがじりじりと動き、こちらも様子を見ながら同じ動きをする。
オレと朱族が動いたのはほぼ同時だった。
最初の一太刀は鎌で弾き、首に向かって横に振られたもう一太刀は屈んで避け、オレもそいつの首に向かって鎌を横に振った。
だが、そいつは上半身を後ろに反らしてそれを避け、再び2本の剣を交互に振り回しながら攻撃してくる。
スピードはオレより速いし、得物が1本でも多い分、いつまでも攻撃を防いだり避けたりするのは難しい。
そろそろ頃合いか。
オレは鎌を両手で握って思いっきり振り上げ、横に振られた剣を上に弾き飛ばした。
左手に握られていた剣は宙を掻き、天井に突き刺さる。
「!」
朱族は目を見開いたあと、すぐにほくそ笑んだ。
「バカが、ムキになりやがって」
オレの両手は振り上げたままだ。
そこを狙ってきた。
朱族はもう一本の剣を両手で握り、右斜めに振り上げる。
すると、オレの腰から肩にかけて赤い線が出来上がり、そこから血が噴き出した。
「ガキが。油断して……」
「ゲハハッ」
「!?」
片膝もつかず笑っているオレの姿を見て、朱族の笑みが驚愕とともに消えうせる。
すぐにオレは手持ちの鎌を朱族の顔面に向けて横に振るった。
小、中、大のうちの、大の鎌の刃先がそいつの頬を掠る。
血が付着したのを確認した。
「くっ」
朱族は壁際に飛び退き、オレから離れる。
もう遅いとも知らずに。
オレは両脚を動かし、足下に飛び散っている自分の血で印を描く。
円を作り、その真ん中に三角を書けば、ジャシン様のシンボルの完成だ。
そのシンボルの上に立ったまま、大の鎌の先に付着した血を舐めとり、儀式の準備が全て整った。
「ゲハハハッ。これで全ての準備が整ったァ! 儀式を始めるぜ!」
朱族は怪訝な顔をする。
「儀式…だと?」
あとは懐の杭を使って自分を傷つければいいだけだ。
そうすれば、あいつはオレと同じ痛みを味わうことができる。
懐から伸縮式の杭を取り出そうとしたとき、背後の角都が声をかけた。
「飛段」
「なんだ!? ジャマすんな角都ゥ!!」
オレにとっては大事な儀式に水を差されてはたまらない。
だが、角都が言ったのは、思いもしないことだった。
「おまえ、なぜ変色しない?」
「……え?」
自分のてのひらを見ると、肌色のままだ。
おかしい。
相手の血を舐めとったあと、白黒に変色し、見た目が骸骨のようになるはずだ。
こんなことは今まで一度もなかった。
戸惑っていると、いきなり懐に朱族が入ってきた。
それと同時に、腹に鋭い痛みが走る。
ああ、腹を貫かれたのか、と知った。
そして、どういうことか、と考えた。
オレはちゃんとシンボルの上に立ってる。
血も舐めとった。
なのに、なぜこいつはオレと同じ傷を負わないのか。
「タフで血の気が多いのは好きだぜ。だから、さっさと…、闇で醒めろ」
さらに深く剣の刃が埋められ、吐血する。
「……オレは…」
「!?」
「テメーなんか大嫌いだ。バーカァ」
「おまえ…、なんで死なない!?」
普通ならとっくに死んでるのに、まともに喋ってりゃびっくりするのも無理はない。
朱族は自分の目を疑っているようだ。
「死なねえんじゃねえ。死ねねえんだよ」
朱族がオレの体から離れる前に、オレは自分の両腕を朱族の背中にまわし、逃げられないように力を込める。
当然、朱族は腕の中で暴れだした。
「テメッ、離れろっ、気持ち悪ぃ!!」
オレの体を突き飛ばせば逃れることは可能だが、オレはその両腕もしっかり抑えている。
オレは角都に振り返って怒鳴った。
「角都! 今だ、殺れ!!」
「「手を出すな」とどこかの馬鹿に言われたばかりだが?」
「ああ、クソッ、メンドクセー奴だな! 空気読め! 出していい! 出していいから早くしろォ!!(怒)」
首筋を噛まれ、血を吸われる。
失血死させようとしているのか。
それでも死なないけど、早くしてくれないと抑えているのも限界だ。
「ワガママな奴め」
角都は「やれやれ」と言いながら、右の袖を手首から少し上に捲った。
すると、肘から下の円状のツギハギの間から、黒い繊維状の触手―――地怨虞(じおんぐ)が出てきた。
「!?」
動きを止めた朱族は目を見張る。
角都は右腕を振るい、肘から下を切り離して天井に飛ばした。
切り離された部分と切り離されている部分の間は、神経とともに地怨虞で繋がっている。
角都の武器のひとつだ。
飛ばされた手は、天井に刺さっている朱族の剣を抜き、勢いをつけてこちらに飛ばした。
再び鋭い痛みに襲われる。
角都がオレごと朱族の腹を剣で貫いたからだ。
「うああっ!?」
目の前で朱族が悲鳴を上げた。
抵抗がなくなり、ダラリと両腕を下げ、オレに全体重をかける。
「殺ったか?」
角都が近づいてくる。
その時、
「!」
朱族の瞳がこちらを見た。
オレと角都は同時に驚く。
「テメー…、まだ生きて…」
朱族はオレの顔を見たあと、角都に顔を向けた。
「人間を超えた者に会うのは、朱族以外で初めてだ」
横顔でも、その瞳の色が瑠璃色に戻ったのが見てわかった。
その顔が妙に嬉しそうに見えるのは、オレだけじゃないはずだ。
「とりあえず…」
オレ達を貫いていた剣は、2本とも黒い液状と化し、朱族の腹の傷口へと入っていく。
すると、みるみる朱族の傷口が塞がっていった。
オレは朱族から一歩下がり、傷口があった個所を指さす。
「おまえも…、不死身?」
「「も」ってことは、おまえ、やっぱり不死身か」
朱族は腕組をしたまま、オレの足下から頭を見て納得の声を出し、言葉を続けた。
「オレは不死身じゃなくて、死ににくい体だ。しかも、あの男が突き刺したのはオレの体の一部だ。あの剣でオレを刺しても無意味だ」
一歩歩きだしたとき、またひと勝負するのかと思ったが、そうじゃない。
無防備にオレに背を向け、角都の横を通過して牢屋から出ていく。
「どこへ行く?」
角都が質問し、朱族はこちらに振り返って答える。
「どこって…。“暁”って組織の本部じゃないのか?」
一瞬、オレは耳を疑い、首を傾げた。
「……は?」
朱族はきょとんとしてる。
「なんだ、他に用があるのか?」
「いや…、用って…;」
朱族を仲間に引き入れ、断るもんなら殺せとしか聞いてないが。
角都と目を合わせたあと、オレはおそるおそる尋ねた。
「…おまえ、“暁”に入るのか?」
「「入らない」なんて一言も言ってねえけど?」
記憶を遡ってみる。
確かに、一言も言ってない。
「じゃあなんで襲いかかってきたんだよ?」
そしたらこいつはこんなことを言いやがった。
「腹が減ってたから。…けど…、もういい。逆に貧血起こしそうだ」
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