19:醒めた欠片
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目を開けると、そこは闇ではなく、明るい部屋だった。
ゆっくりと半身を起こし、自分がベッドで寝ていたことを知る。
体には清潔な白い包帯が巻かれ、手首には点滴が打たれていた。
鬱陶しい点滴を外して無言のまま部屋を見回すと、窓のない、一般的な一室であることがわかる。
化粧台があるため、女性の部屋かもしれない。
かけられていた布団をめくったとき、扉が開かれ、部屋に小さなものが入ってきた。
月代だ。
片目の瞳の色は金色ではなくなっていた。
「!」
月代はオレの顔を見るなり、踵を返して扉の向こうへと戻って声を上げた。
「ママ、ヨル、おきた!」
再び、月代が部屋へと戻ってくる。
その背後に、角都と飛段を引きつれて。
「よォ。元気そうだな」
「待ちくたびれたぞ」
飛段はベッドに腰掛け、同じく角都もその反対側に腰掛ける。
月代は飛段の隣にうつ伏せに寝転んだ。
脚に月代の重みを感じる。
「こ…、ここは?」
オレが問うと、角都は答える。
「日ノ輪のアジトだ。ミツバという男が用意してくれた」
それならここは、ココロの部屋なのだろう。
日ノ輪で唯一の女性は彼女しかいない。
敵のベッドで寝ていたと知り、妙な気分になる。
角都の話では、ミツバは倒れたオレ達を各々の部屋に寝かせ、手当てしたらしい。
ちなみに、飛段はヒシギの部屋、角都はスペードの部屋、月代はヒルの部屋で寝かされていた。
なにを考えてオレ達を助けたのだろうか。
懇願したのはオレだが。
「オレ…、どのくらい寝てた?」
その問いに飛段が答える。
「きっかり1日」
それから点滴を使ってオレに血を輸血したのも自分だと続けた。
「2人はもう平気なのか? 寝てなくていいのか?」
一番聞きたかったことがやっと口から出る。
「具合はいい」
「心配してくれんのか? 良いコだなァ、ヨル」
からかうような言い方とともに、飛段は笑みを見せながらオレの頭を撫でた。
「…!!」
「良い子ね」
たったそれだけのことだったのに、オレは、母親の顔を思い出した。
顔はオレに似てないけど、綺麗な、優しい顔だった。
最期を覚悟した顔とは思えないくらい。
ずっと思い出したかったものが、あっさりと思い出せた。
オレの顔を見た角都と飛段が驚いた表情を浮かべた。
「なんだ?」と首を傾げると、水滴が頬を伝った。
「……?」
天井を見上げたが、雨漏りしているわけではなかった。
水滴が口の中に入る。
「な…、これ…、しょっぱ…」
汗じゃない。
自分の瞳から流れている。
拭っても拭っても、溢れ出てくる。
「んだよ…、止まん…、ふぅっ、ひ、く…っ…」
角都と飛段がこちらを見つめているのを歪む視界で確認した。
「なんとかしろよ」と言葉にならない言葉を出しながら、両手を伸ばして2人の肩をつかんだ。
2人の存在を確かに実感した途端、
「ふぅ…ッ、あああああああ!!!」
オレは2人にしがみつき、喚いた。
「わぁああああああああ!!!」
自分の声に、鼓膜が破れそうになる。
月代がオレの背中を優しく撫でた。
「ヨル…、いたいの?」
痛いとは違う。
苦しいと嬉しい。
やっと思い出せた母親の死が、苦しい。
角都と飛段がここにいてくれて、嬉しい。
矛盾したものが込み上げて流れ出てくるようだ。
これが「泣く」ということなのだろう。
ヒルと違ってこれは酷いし、恥ずかしい。
なのに、2人はオレの手を振りほどくこともなくいてくれた。
だからオレは素直に泣き喚ける。
まるで、産声を上げる赤ん坊のようだ。
もう、“独り”には戻れない。
.To be continued