19:醒めた欠片
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「角都!! 飛段!!」
ここにいれば、オレまで巻き込まれてしまう。
ミツバは月代を抱え、こちらに駆け寄ってくる。
「逃げよう。オレ達、巻き込まれる」
逃げられない。
角都と飛段を置いて。
「逃げられるかよ!!」
「なら、どうする?」
オレは増加していく地怨虞を睨み、考えた。
すぐに案は浮かんだ。
オレにしかできないことだ。
「…オレが、角都の体内に入り込んだ真血を吸いだす。体内に取り込んでそんなに経ってないはずだ。完全に体に回る前に、吸い取れるだけ吸い取る」
「できるの?」
そんなのオレにだってわからない。
100年生きてきたが、そんな全神経を使うような精密な吸血をやったことは一度もない。
「やらなきゃ2人が死ぬ!! できるかできないかの選択肢はハナっからねえんだよ!!」
オレは思わずミツバを睨みつけて怒鳴った。
「真血を吸いだすには、あの中に入らなきゃいけない。正気じゃない」
「もともと、オレ達朱族は狂った存在だ」
正気じゃないのは当たり前だろ。
「月代は任せた」
オレは背中から夢魔を生やそうとした。
だが、
「…くっ…!」
目眩と激しい喉の渇きを覚え、片膝をついた。
限界だ。
血を流しすぎたうえ、夢魔を使いすぎた。
血の渇きに、オレが自分を押さえるハメになる。
背後から漂うミツバの血臭が鼻と喉を刺激し、意思と反して襲いかかりそうになるのを耐えた。
「!?」
そうしていると、いきなり前方から一束の地怨虞がこちらに伸びてきた。
オレは咄嗟に右に転がる。
目標を失った地怨虞はオレの横を通過し、壁に突き刺さった。
心臓を…、求めてる…。
避けられなかったら、胸に突き刺さっていたかもしれない。
角都の意思とは関係なく、地怨虞が心臓を欲している。
「同族も、鬼も、おまえらも、全部全部この血のせいで…」
胸部の服を握りしめて体内にある真血を憎々しく思い、それからオレは、地面に突き刺さった、ミツバが使用していたクナイを引き抜き、両手に構えた。
「けど…、おまえらがそうなったのは血を与えたオレのせいだ。だから、絶対、闇で醒まさせてたまるか」
立ち上がり、地面を蹴って地怨虞の塊に向かって走り出す。
鋭い地怨虞が向かってくるが、オレは足を止めずにクナイを使って弾きながら突っ込んだ。
慣れない武器を使用しているため、何度か体をかすめたが、オレは地怨虞の塊の前に到達した。
それから迷わず中へと飛び込んだ。
足に力を入れ、触手を掻きわけながら進む。中に光はないが、オレにとって闇は自分の一部だ。
角都と飛段に出会うまで、ずっと闇の中にいたのだから。
傍から見れば自殺行為だ。
オレ達朱族は自殺ができない体だ。
なのに、なぜ飛び込めた?
いつ心臓をとられるかわからないのに。
……そうか…。
オレは気付いた。
2人を助けに行かないのは、オレにとっちゃ、“自殺”みたいなものなのか…。
2人分の心音が聞こえる。
近づいていくにつれ、その音量は上がっていく。
このまま真っ直ぐ行けば、角都と飛段がいる。
2人とも、気を失っているのか大人しい。
オレが怪訝に思ったのは、飛段の心音が正常に動いていることだ。
心臓を取られていないのか。
「…!」
飛段に近づいたのはわかった。
だが、地怨虞の球体の中にいる。
頑丈にできているため、手で掻き分けられない。
オレの手が冷たいものに触れた。
地怨虞の感触ではない、硬くて丸みのあるもの。覚えのある感触だ。
探ると、もうひとつ同じものがある。
「圧害…、頭刻苦…」
飛段を護っている。
角都も完全に地怨虞を制御できなくなったわけじゃない。
全てをそちらに集中させている。
そして、わずか数歩でオレは本体である角都にたどり着いた。
「角都…!」
返事はないが生きている。
それに、人間の形は保ったままだ。
オレは首筋に噛みつき、血を啜った。
血が喉を通った瞬間、己がどれだけ渇いていたから実感する。
貪るのを耐えながら、真血を捜す。
それこそ気が狂いそうになった。
ドッ!!
「!!」
胸の中心に、地怨虞が入り込んできた。
それでもオレは吸血を続ける。
心臓を締め付けられ、激痛が走ろうとも。
オレの心臓…、欲しけりゃいくらでもくれてやる…。
その前に、オレにしかできないことをやり終わってからにしてくれよ!!
体に地怨虞が巻きついてくる。
引き剥がされたら終わりだ。
「うぅぅ…!」
口の中に、今まで飲んだこともないような極度に甘い血の味が広がった。
首筋から口を放すと同時に、地怨虞の動きが大人しくなった。
心臓を締め付ける地怨虞が角都の体内へゆっくりと戻っていく。
「…!」
溢れ出ていた地怨虞も、ゆっくりと角都の背中へと戻っていった。
球体に守られていた飛段が地面へと倒れる。
オレも地怨虞から解放されて尻餅をつき、口の中のものを吐きだした。
やはり真血だ。
真血は地面に触れると同時に気化した。
「けほっ、げほっ」
角都の血を多少取り込んだおかげで、どうにかオレの血の欲は落ち着いた。
だが、立ち上がる気力が湧かない。
圧害と頭刻苦が背中に戻り、角都の体もその場にうつ伏せに倒れた。
「う…っ…」
オレもその場に仰向けに倒れた。
目の前が霞み、意識が朦朧とする。
天井だけを映していた視界に、月代を抱えたミツバが入り、こちらを見下ろしている。
ヒルは死んだ。
朱鬼は倒した。
角都を助けた。
全部終わった。
オレ達の敵であるミツバはどうする気なのだろうか。
オレは息を吸い、言葉を吐く。
「角都と…飛段…だけ…は…、助けて…くれ…」
2人の代わりになれるなら、それでいい。
.