17:己の朱に染まり
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*角都
ヒルの首筋から鮮血が噴水のように噴き出る。
自らの手で…!?
朱族は自殺ができないはずだ。
ヒルはこちらを見つめて不気味な笑みを浮かべ、カッと目を見開き、咆哮のような絶叫を上げた。
「あああああああ!!!」
「!!」
瞳の色が朱色から金色と点滅を繰り返し、やがて金色の瞳に留まった。
そこから急激な変化が起こる。
両手のひらから鋭いトゲが皮膚を破って突き出し、大きな蛭が尻尾のように生え、肌は黒ずんでいく。
チャクラの量も溢れんばかりに増加していった。
肌がピリピリと痛む。
「はぁっ、はぁっ…」
激痛を伴っていたのか、ヒルは汗を浮かべ、呼吸を荒くした。
こちらを見、舌舐めずりをする。
「!?」
同時に、一瞬でオレの懐に入り込んできた。
ゴッ!!
「ぐっ!?」
回転と同時に勢いよく横に振られた蛭の尻尾がオレの腹に直撃し、硬化が遅れたオレは後ろへと吹っ飛んだ。
背中が壁にめり込む。
「く…っ」
明らかに、先程よりパワーもスピードも上昇している。
ヘタをすれば内臓が破裂しているところだ。
「全力でお相手いたしますよ、角都」
ヒルは宙へとジャンプし、尻尾の蛭は口から濃い緑色の液体の塊をオレに飛ばす。
オレは横へと飛んで避けた。
ジュウッ!
液体の塊はオレがいた壁に当たり、岩の壁を溶かした。
マスク越しからでも悪臭が臭う。
液体の正体は酸を含んだ強力な猛毒だ。
当たれば土矛ごと溶かされるうえにサソリからもらった薬でも治せないだろう。
オレが避けたあとも猛毒は吐き続けられた。
オレは後ろへ飛びながら避けていくが、辺りに飛び散る猛毒は踏み場をなくし、行動範囲を狭くしていく。
圧害と頭刻苦で攻撃を仕掛けるが、ヒルは消えるような動きでことごとくかわしていった。
「!」
ならばと挟み打ちをさせた。
背後からの圧害の攻撃は空中でかわされたが、
ゴゴゴッ!
真っ正面から狙いを定めて頭刻苦の火炎を浴びさせた。
「!?」
黒焦げになったかと思いきや、火炎の中から飛び出してきた。
水遁の術を使ったか!
両手のトゲの先をこちらに向けたヒルが飛びかかってくると同時に、オレは素早く印を結ぶ。
両腕を硬化させ、両手のひらでヒルのトゲを受け止めた。
「かかった」
「!!」
ヒルはほくそ笑み、トゲを両手の中にしまってオレの両手をつかみ、尻尾の蛭をオレの体に巻きつかせた。
「く…っ」
体を硬化していなければあばら骨を折られていた。
それでも容赦なくオレの体を締め付ける。
蛭の口がこちらに向いた。
「死んでください」
猛毒を吐かれる前に印を結ぼうとしたとき、
ザン!!
「「!?」」
蛭の頭が切り落とされた。
「ゲハハハッ! 待たせたな、角都ゥ! 相棒のご到着だァ!」
*角都
飛段の登場に、ヒルはオレ達から離れ、様子を窺った。
切り落とされた蛭の頭部は苦しげに呻きながら蠢いている。
飛段は三連鎌の刃先をそれに振り下ろし、黙らせた。
「やられそうになってんじゃねーよ。なんだそのザマ」
三連鎌を肩に担ぎ、笑いを含めた言い方とともにオレの隣に並ぶ。
「黙れ。貴様が来なくともなんとかしていた」
「まったまたァ、強がっちゃってよォ!」
強がってはいない。
猛毒を吐かれる前に圧害達で攻撃させるつもりだった。
贄を捧げたあとなのか飛段のテンションは苛立ちを覚えるほど高かった。
「ミツバまで…」
飛段はヒルの低い独り言を聞いてヒルに顔を向け、笑みを浮かべながら言う。
「ああ、ジャシン様に捧げてやったぜェ」
飛段の左胸には、塞がりかけの小さな穴が空いていた。
「珍しいな。祈りの時間はどうした」
オレがそう言うと、飛段はこちらを睨んだ。
「オメェがピンチなんじゃないかって駆けつけてきてやったんだろが。それに、儀式は目の前の蛭野郎をブッ殺してからじっくりやらせてもらうぜ」
言い方は気に食わないが、先にチンタラと儀式をやられるよりはいい。
これで勝率が上がった。
「一人増えたところで…。大体、その方がなんの役に立つのです?」
ヒルは嘲笑の笑みを浮かべながら飛段を馬鹿にした。
当然、それを聞いた飛段は声を荒げる。
「ハァ!? てめー、バカにすんじゃねえぞコラァ!!」
不得意な論争に持ち込んでどうする。
オレは内心で呆れた。
「不死身だけが取り柄の無能者ではありませんか」
「殺…!!」
オレは、三連鎌を構えて突っ込もうとする飛段の肩をつかんで止めた。
飛段は、放せ、と目で訴えるが、オレは無視してヒルに顔を向ける。
「こいつは確かに不死身だけが取り柄の馬鹿だ」
「角都…!」
飛段ががなる前にオレは言葉を続ける。
「「それだけ」と思っている貴様の方がよほどの無能者だ。侮っていると、死ぬぞ」
このオレが唯一、“相棒”と認めた男だからな。
飛段はオレの顔を驚いた顔で見つめ、ヒルは、オレが言ったからなのか、顔から嘲笑の笑みが消えていた。
飛段は「ゲハハッ」と笑ってオレと同じようにヒルと向き合い、横目でオレを見る。
「久々の不死コンビだ。角都、いつものでいこうぜ」
「ああ」
オレは外套を脱いで放り、印を結んだ。
いつものでな。
「飛段、奴は毒を使う。気を抜くな、死ぬぞ」
「だからオレにそれを言うかよ、角都!」
三連鎌を構えながらヒルに突っ込んだ。
ヒルも同時に地面を蹴ってこちらに突っ込んでくる。
刃先で地面を削り、勢いをつけて横に振るった。
ヒルは上へ飛んでそれをかわし、オレもジャンプして追いかける。
空中で三連鎌を振り下ろすとヒルは右手で大刃をつかんで止めた。
それから左手からトゲを出してオレの顔面目掛けて突き出す。
トゲにも毒があると考えた方がいい。
オレはさっと右腕を伸ばして右袖に隠していたクナイを取り出し、ヒルに向けて投げつけた。
クナイはミツバによって体に突き刺されていたものだ。
「!」
ヒルは舌のトゲでそれを弾いた。
ゴッ!
その隙にオレはヒルの腹を蹴り飛ばした。
ヒルは真下に落ち、地面に背中を打ち付ける。
丈夫なのか、あまり痛がっていない様子だ。
「ガキが…」
オレが地面に着地すると、低い声とともにヒルは体を起こすと同時に、とんでもない速さでこちらに詰め寄ってきた。
オレは反射的に後ろへと飛んだが、ヒルの方がオレより何倍も速い。
「ぐっ」
ヒルの長い舌がオレの首に巻き付き、絞めつけた。
首を絞めても死なないことは知られている。
ヒルの右手のトゲがオレの目先に迫った。
ドッ!!
「が…!」
横からヒルを吹っ飛ばしたのは、地怨虞で伸ばされた角都のコブシだった。
ヒルの体が壁にぶつかり、土煙が起こる。
「くるぞ、飛段」
「わかってるっつーの、角都」
殺気がピリピリと肌に伝わってくる。
けど、本気の角都ほどじゃない。
土煙から姿を現したヒルは印を結び、両手からトゲを出して地面に突き刺し、口からあの泥をオレ達に向けて吐きだした。
「水遁・喰沼」
相手を動けなくするうえに、チャクラを吸収する術だ。
前に角都とヨルがやられていた。
泥がこちらに迫ってくる。
「飛段!」
「!」
真上から圧害が近づいてくる。
オレと角都は圧害に飛び乗り、空中へと回避した。
「!?」
“相手を捕える”という第一段階が失敗している時点でヒルには大きな隙ができる。
オレは圧害から飛び降り、三連鎌をヒルに振り下ろす。
「くっ!」
ヒルはすぐに避けることができず、右手のトゲでオレの三連鎌の刃を受け止めた。
左手のトゲでオレを刺そうと突き出してきたが、
「同じ手は食らわねーよォ!」
「!!」
オレは右足でヒルの左手の甲を踏みつけた。
「角都!!」
オレは肩越しの角都に振り返って叫んだ。
角都は圧害に乗ったまま印を結ぶ。
「風遁・圧害!」
圧害の口から竜巻の塊が発射される。
「味方ごと!?」
驚くヒルの顔に自分の顔を近づけ、口角を吊り上げて挑発的に言ってやる。
「てめーも知ってんだろ? 不死身だぜ、オレは」
ゴッ!!!
辺りが土煙に包まれた。
角都の足音が近づいてくる。
「生きてるか」
「だから、死なねーっての;」
仰向けになったオレは、オレの脇に立ってこちらを見下ろす角都に呆れるように言った。
半身を起こして辺りを見回すと、壁や地面は台風が通り過ぎたかのように削れていた。
崩れた時のことを考えていなかったことに気付く。
「オイオイ、ヨルまで巻き添え食らってねーだろなァ!?」
ここまで乗り込んできた意味がなくなっちまう。
「貴様と違ってオレは先のことをちゃんと考えている」
「ああ!?」
そのままいつもの口喧嘩になるかと思ったが、地面を踏む足音にオレ達はほぼ同時にはっと顔を上げた。
ヨルが倒れている方向に顔を向けると、頭部から血を流し、全身傷だらけのヒルが息を荒くして立っていた。
片腕には虚ろな目をしたヨルを支えている。
「てめ…! まだくたばってなかったのかよ!」
急いで立ち上がり、三連鎌を拾って構えた。
「……あなた達はわかっていない…。この女が…、あなた達の人生を大きく変えた張本人だということを…」
「あ?」
突然、ワケのわからないことを言いだし、オレは首を傾げる。
角都は黙ったまま、ヒルを見据えている。
「真血は禁断の血です。己にとっても、相手にとっても。バケモノを生み出す血…。覚えてませんか? あなた達はヨルに……」
「黙れ」
言葉を遮るかのように角都が言い、手を差し出した。
「連れを返してもらおうか。それと、貴様の首もな」
「……………」
ヒルは角都と睨みあったまま、舌を出し、
ドスッ
その先端にあるトゲをヨルの首筋に刺した。
ヨルの体はビクリと跳ね、虚ろな目は色を取り戻した。
ヒルが離れたため、両膝をついて頭を垂らす。
「あとは…、わかっていますね?」
見下ろしながら言ったヒルの言葉に、わずかにヨルが頷いた。
「感謝してください、ヨル」
「ヒル…」
ヨルが呟いたあと、ヒルは傷だらけの体を引きずるように大きな扉へと向かった。
「待ちやがれ!」
オレが追おうとしたとき、目の前に影が迫った。
「!!」
ヨルが両手に夢魔を構えて襲いかかってきた。
「ヨル!?」
ヨルと目が合う前に夢魔を振るわれ、三連鎌で受け流す。
ヨルは交互に両手の夢魔を振るった。
金属がぶつかり合う音が空間に響き渡る。
「やめろヨル!」
ヒルに操られているのか。
なぜ角都は黙って見ているのか。
オレがヨルの左手の夢魔を弾くと、ヨルはオレ越しの角都を見、唐突にオレの横を通過して角都へと突進する。
角都は構えもしない。
頭刻苦と圧害も動かない。
「なにやってんだ角都!!」
ヨルは角都に飛びかかり、右手の夢魔の柄を両手でつかんで角都に振り下ろした。
「角都―――!!」
ドッ!!
「……?」
夢魔は、角都の足下の地面に刺されていた。
角都は避ける素振りも見せていなかった。
角都は目の前で俯いているヨルに尋ねる。
「なぜ操られたフリをする?」
「フリ!?」
オレは思わず声を上げた。
「なんで…」
ヨルは絞りだすような声を出し、顔を上げて言葉を続ける。
「なんで殺さねえんだよ!?」
.
ヒルの首筋から鮮血が噴水のように噴き出る。
自らの手で…!?
朱族は自殺ができないはずだ。
ヒルはこちらを見つめて不気味な笑みを浮かべ、カッと目を見開き、咆哮のような絶叫を上げた。
「あああああああ!!!」
「!!」
瞳の色が朱色から金色と点滅を繰り返し、やがて金色の瞳に留まった。
そこから急激な変化が起こる。
両手のひらから鋭いトゲが皮膚を破って突き出し、大きな蛭が尻尾のように生え、肌は黒ずんでいく。
チャクラの量も溢れんばかりに増加していった。
肌がピリピリと痛む。
「はぁっ、はぁっ…」
激痛を伴っていたのか、ヒルは汗を浮かべ、呼吸を荒くした。
こちらを見、舌舐めずりをする。
「!?」
同時に、一瞬でオレの懐に入り込んできた。
ゴッ!!
「ぐっ!?」
回転と同時に勢いよく横に振られた蛭の尻尾がオレの腹に直撃し、硬化が遅れたオレは後ろへと吹っ飛んだ。
背中が壁にめり込む。
「く…っ」
明らかに、先程よりパワーもスピードも上昇している。
ヘタをすれば内臓が破裂しているところだ。
「全力でお相手いたしますよ、角都」
ヒルは宙へとジャンプし、尻尾の蛭は口から濃い緑色の液体の塊をオレに飛ばす。
オレは横へと飛んで避けた。
ジュウッ!
液体の塊はオレがいた壁に当たり、岩の壁を溶かした。
マスク越しからでも悪臭が臭う。
液体の正体は酸を含んだ強力な猛毒だ。
当たれば土矛ごと溶かされるうえにサソリからもらった薬でも治せないだろう。
オレが避けたあとも猛毒は吐き続けられた。
オレは後ろへ飛びながら避けていくが、辺りに飛び散る猛毒は踏み場をなくし、行動範囲を狭くしていく。
圧害と頭刻苦で攻撃を仕掛けるが、ヒルは消えるような動きでことごとくかわしていった。
「!」
ならばと挟み打ちをさせた。
背後からの圧害の攻撃は空中でかわされたが、
ゴゴゴッ!
真っ正面から狙いを定めて頭刻苦の火炎を浴びさせた。
「!?」
黒焦げになったかと思いきや、火炎の中から飛び出してきた。
水遁の術を使ったか!
両手のトゲの先をこちらに向けたヒルが飛びかかってくると同時に、オレは素早く印を結ぶ。
両腕を硬化させ、両手のひらでヒルのトゲを受け止めた。
「かかった」
「!!」
ヒルはほくそ笑み、トゲを両手の中にしまってオレの両手をつかみ、尻尾の蛭をオレの体に巻きつかせた。
「く…っ」
体を硬化していなければあばら骨を折られていた。
それでも容赦なくオレの体を締め付ける。
蛭の口がこちらに向いた。
「死んでください」
猛毒を吐かれる前に印を結ぼうとしたとき、
ザン!!
「「!?」」
蛭の頭が切り落とされた。
「ゲハハハッ! 待たせたな、角都ゥ! 相棒のご到着だァ!」
*角都
飛段の登場に、ヒルはオレ達から離れ、様子を窺った。
切り落とされた蛭の頭部は苦しげに呻きながら蠢いている。
飛段は三連鎌の刃先をそれに振り下ろし、黙らせた。
「やられそうになってんじゃねーよ。なんだそのザマ」
三連鎌を肩に担ぎ、笑いを含めた言い方とともにオレの隣に並ぶ。
「黙れ。貴様が来なくともなんとかしていた」
「まったまたァ、強がっちゃってよォ!」
強がってはいない。
猛毒を吐かれる前に圧害達で攻撃させるつもりだった。
贄を捧げたあとなのか飛段のテンションは苛立ちを覚えるほど高かった。
「ミツバまで…」
飛段はヒルの低い独り言を聞いてヒルに顔を向け、笑みを浮かべながら言う。
「ああ、ジャシン様に捧げてやったぜェ」
飛段の左胸には、塞がりかけの小さな穴が空いていた。
「珍しいな。祈りの時間はどうした」
オレがそう言うと、飛段はこちらを睨んだ。
「オメェがピンチなんじゃないかって駆けつけてきてやったんだろが。それに、儀式は目の前の蛭野郎をブッ殺してからじっくりやらせてもらうぜ」
言い方は気に食わないが、先にチンタラと儀式をやられるよりはいい。
これで勝率が上がった。
「一人増えたところで…。大体、その方がなんの役に立つのです?」
ヒルは嘲笑の笑みを浮かべながら飛段を馬鹿にした。
当然、それを聞いた飛段は声を荒げる。
「ハァ!? てめー、バカにすんじゃねえぞコラァ!!」
不得意な論争に持ち込んでどうする。
オレは内心で呆れた。
「不死身だけが取り柄の無能者ではありませんか」
「殺…!!」
オレは、三連鎌を構えて突っ込もうとする飛段の肩をつかんで止めた。
飛段は、放せ、と目で訴えるが、オレは無視してヒルに顔を向ける。
「こいつは確かに不死身だけが取り柄の馬鹿だ」
「角都…!」
飛段ががなる前にオレは言葉を続ける。
「「それだけ」と思っている貴様の方がよほどの無能者だ。侮っていると、死ぬぞ」
このオレが唯一、“相棒”と認めた男だからな。
飛段はオレの顔を驚いた顔で見つめ、ヒルは、オレが言ったからなのか、顔から嘲笑の笑みが消えていた。
飛段は「ゲハハッ」と笑ってオレと同じようにヒルと向き合い、横目でオレを見る。
「久々の不死コンビだ。角都、いつものでいこうぜ」
「ああ」
オレは外套を脱いで放り、印を結んだ。
いつものでな。
「飛段、奴は毒を使う。気を抜くな、死ぬぞ」
「だからオレにそれを言うかよ、角都!」
三連鎌を構えながらヒルに突っ込んだ。
ヒルも同時に地面を蹴ってこちらに突っ込んでくる。
刃先で地面を削り、勢いをつけて横に振るった。
ヒルは上へ飛んでそれをかわし、オレもジャンプして追いかける。
空中で三連鎌を振り下ろすとヒルは右手で大刃をつかんで止めた。
それから左手からトゲを出してオレの顔面目掛けて突き出す。
トゲにも毒があると考えた方がいい。
オレはさっと右腕を伸ばして右袖に隠していたクナイを取り出し、ヒルに向けて投げつけた。
クナイはミツバによって体に突き刺されていたものだ。
「!」
ヒルは舌のトゲでそれを弾いた。
ゴッ!
その隙にオレはヒルの腹を蹴り飛ばした。
ヒルは真下に落ち、地面に背中を打ち付ける。
丈夫なのか、あまり痛がっていない様子だ。
「ガキが…」
オレが地面に着地すると、低い声とともにヒルは体を起こすと同時に、とんでもない速さでこちらに詰め寄ってきた。
オレは反射的に後ろへと飛んだが、ヒルの方がオレより何倍も速い。
「ぐっ」
ヒルの長い舌がオレの首に巻き付き、絞めつけた。
首を絞めても死なないことは知られている。
ヒルの右手のトゲがオレの目先に迫った。
ドッ!!
「が…!」
横からヒルを吹っ飛ばしたのは、地怨虞で伸ばされた角都のコブシだった。
ヒルの体が壁にぶつかり、土煙が起こる。
「くるぞ、飛段」
「わかってるっつーの、角都」
殺気がピリピリと肌に伝わってくる。
けど、本気の角都ほどじゃない。
土煙から姿を現したヒルは印を結び、両手からトゲを出して地面に突き刺し、口からあの泥をオレ達に向けて吐きだした。
「水遁・喰沼」
相手を動けなくするうえに、チャクラを吸収する術だ。
前に角都とヨルがやられていた。
泥がこちらに迫ってくる。
「飛段!」
「!」
真上から圧害が近づいてくる。
オレと角都は圧害に飛び乗り、空中へと回避した。
「!?」
“相手を捕える”という第一段階が失敗している時点でヒルには大きな隙ができる。
オレは圧害から飛び降り、三連鎌をヒルに振り下ろす。
「くっ!」
ヒルはすぐに避けることができず、右手のトゲでオレの三連鎌の刃を受け止めた。
左手のトゲでオレを刺そうと突き出してきたが、
「同じ手は食らわねーよォ!」
「!!」
オレは右足でヒルの左手の甲を踏みつけた。
「角都!!」
オレは肩越しの角都に振り返って叫んだ。
角都は圧害に乗ったまま印を結ぶ。
「風遁・圧害!」
圧害の口から竜巻の塊が発射される。
「味方ごと!?」
驚くヒルの顔に自分の顔を近づけ、口角を吊り上げて挑発的に言ってやる。
「てめーも知ってんだろ? 不死身だぜ、オレは」
ゴッ!!!
辺りが土煙に包まれた。
角都の足音が近づいてくる。
「生きてるか」
「だから、死なねーっての;」
仰向けになったオレは、オレの脇に立ってこちらを見下ろす角都に呆れるように言った。
半身を起こして辺りを見回すと、壁や地面は台風が通り過ぎたかのように削れていた。
崩れた時のことを考えていなかったことに気付く。
「オイオイ、ヨルまで巻き添え食らってねーだろなァ!?」
ここまで乗り込んできた意味がなくなっちまう。
「貴様と違ってオレは先のことをちゃんと考えている」
「ああ!?」
そのままいつもの口喧嘩になるかと思ったが、地面を踏む足音にオレ達はほぼ同時にはっと顔を上げた。
ヨルが倒れている方向に顔を向けると、頭部から血を流し、全身傷だらけのヒルが息を荒くして立っていた。
片腕には虚ろな目をしたヨルを支えている。
「てめ…! まだくたばってなかったのかよ!」
急いで立ち上がり、三連鎌を拾って構えた。
「……あなた達はわかっていない…。この女が…、あなた達の人生を大きく変えた張本人だということを…」
「あ?」
突然、ワケのわからないことを言いだし、オレは首を傾げる。
角都は黙ったまま、ヒルを見据えている。
「真血は禁断の血です。己にとっても、相手にとっても。バケモノを生み出す血…。覚えてませんか? あなた達はヨルに……」
「黙れ」
言葉を遮るかのように角都が言い、手を差し出した。
「連れを返してもらおうか。それと、貴様の首もな」
「……………」
ヒルは角都と睨みあったまま、舌を出し、
ドスッ
その先端にあるトゲをヨルの首筋に刺した。
ヨルの体はビクリと跳ね、虚ろな目は色を取り戻した。
ヒルが離れたため、両膝をついて頭を垂らす。
「あとは…、わかっていますね?」
見下ろしながら言ったヒルの言葉に、わずかにヨルが頷いた。
「感謝してください、ヨル」
「ヒル…」
ヨルが呟いたあと、ヒルは傷だらけの体を引きずるように大きな扉へと向かった。
「待ちやがれ!」
オレが追おうとしたとき、目の前に影が迫った。
「!!」
ヨルが両手に夢魔を構えて襲いかかってきた。
「ヨル!?」
ヨルと目が合う前に夢魔を振るわれ、三連鎌で受け流す。
ヨルは交互に両手の夢魔を振るった。
金属がぶつかり合う音が空間に響き渡る。
「やめろヨル!」
ヒルに操られているのか。
なぜ角都は黙って見ているのか。
オレがヨルの左手の夢魔を弾くと、ヨルはオレ越しの角都を見、唐突にオレの横を通過して角都へと突進する。
角都は構えもしない。
頭刻苦と圧害も動かない。
「なにやってんだ角都!!」
ヨルは角都に飛びかかり、右手の夢魔の柄を両手でつかんで角都に振り下ろした。
「角都―――!!」
ドッ!!
「……?」
夢魔は、角都の足下の地面に刺されていた。
角都は避ける素振りも見せていなかった。
角都は目の前で俯いているヨルに尋ねる。
「なぜ操られたフリをする?」
「フリ!?」
オレは思わず声を上げた。
「なんで…」
ヨルは絞りだすような声を出し、顔を上げて言葉を続ける。
「なんで殺さねえんだよ!?」
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