16:悲鳴という拍手を
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*ヒル
ミツバはそろそろ終わった頃だろうか。
そう考えながら目の前のヨルを見つめる。
虚ろな目で宙を見つめていた。
悪夢はまだヨルの中で続いている。
普通の人間なら発狂しているところだが、ヨルは壊れない。
壊れることさえできない。
朱族とはそういうものだ。
人間らしいものをほぼ失っているから、人間のように発狂することも、頭のネジが飛ぶこともできない。
与えられるのは苦しみだけ。
それはヒルも同じこと。
誰もいないあの里で、ヒル達が出て行ったあと、ヨルはなにを思って過ごしていたのだろうか。
「……ヨル、あなたはヒル達といた頃より、人間らしくなってますよね。それだけは許さない」
それはズルい…。
あなたは、ヒルと同じ絶望を味わなければならない。
この感情は、“妬み”というものなのだろう。
だから耳元で囁く。
「あなたのお連れが死にましたよ。あなたのせいで…」
ピクリと反応が返ってきた。
「オレの…せいで…」
ヨルは宙を見つめたまま、小さく呟いた。
「ええ。角都という方が。そろそろ飛段という方も死にますよ」
「オレの……せいで……」
もう一度呟き、その表情はさらに絶望の色に染まっていった。
目を見開き、完全に放心している。
ああ、なんて人間らしいのだろう…。
死んでください。
絶望の中で死なせてやろうと舌先の針で額を貫いてやろうとしたとき、
ゴッ!!
「!?」
出入口の穴から炎が噴き出た。
「まさか…」
しばらく穴を凝視していると、始末したと思っていた角都が出てきた。
あとから仮面をつけた黒い塊の生き物が2匹ついて出てくる。
「よほどオレ達を馬鹿にしているようだな」
「まさか…、自力であの罠を…!?」
背後にいる仮面達も使ったのだろう。
ほとんど無傷なことに驚かされた。
毒にかかっている様子もない。
あれだけの数を相手にして。
「貴様のくだらないショーに付き合っている暇はない」
ピクッとヒルの目元が痙攣したのがわかった。
笑みを浮かべ、ヨルの手から死吹を引き抜いて刃先を角都に向ける。
幻術にかけられたまま両手を解放されたヨルは、力なくその場に横に倒れた。
「このヒルが、直々にお相手しますよ。だから本気でかかってきなさい」
絶望を与えてあげますから。
角都は鼻で笑い、ヒルを見据える。
「貴様如きの下衆に、オレの本気はもったいない」
マスクの下では嘲笑の笑みを浮かべているのだろう。
「言いますねぇ。次は全ての心臓を叩き潰してさしあげます!」
地面を蹴ると同時に角都の背後に回り、死吹を突き出す。
「!?」
だが、それを上回る動きで背後に回られ、コブシを振るわれる。
咄嗟に鎖分銅を角都の顔面目掛けて操作したが、角都はそれを上半身を反らしただけで軽く避けた。
ゴカッ!!
背中を殴られ、ヒルは壁に叩きつけられた。
「かは…っ」
背中には痛みが走り、口端を血が伝う。
なぜだ!? 前より速い…!?
前に戦った時より、角都の動きが素早くなっているように感じた。
角都の攻撃はやまない。
いきなり目の前に現れ、再びコブシを振るった。
ゴッ!!
「があ!!」
さらに体が壁にめり込む。
「丈夫だな。さすがは朱族だ」
その言葉と同時に長い髪をつかまれ、地面に叩きつけられる。
「ぐぅ!!」
そこでヒルはとんでもないものを相手にしているのだと知った。
今までは一部の力でしか相手にされていなかった。
冷静な顔をしているが、目の前の男はキレてるように見えた。
「馬鹿にしないでいただきたい!!」
立ち上がったヒルは鎖分銅を伸ばし、それを角都の首に巻きつけることに成功した。
あとは鎖分銅の重さで締め付けられてしまえ。
「死…」
ブチィ!!
「!!」
己の心臓の能力を使わず、鎖を両手で千切られてしまった。
「…っ!!」
分銅が落ち、地面にめり込んだ。
角都は首を軽く擦り、こちらを睨む。
このままでは、ヒルが絶望を見せられてしまう。
「これで閉幕だ」
焦るヒルに構わず、角都は硬化したコブシを振るってきた。
“喰沼”では間に合わない。
印を結んでいる間にやられてしまうと判断したヒルは口から大量の蛭を吐きだした。
動きが鈍った瞬間に槍でその首を貫いてやろうと考える。
大量の蛭が角都の正面に振りかかる。
隙を狙って死吹を構えたが、角都は止まらなかった。
「な…!」
そのまま、ヒルの顔面目掛けてコブシを振るう。
あれを当てられては顔面を潰されてしまう。
「くっ!」
寸前で後ろへ飛んだ。
「…!!」
鼻先がかすってしまったのか、ポタポタと鼻血が流れる。
カァッと羞恥と激しい怒りで顔面が熱くなる。
今度は、ヒルがブチキレた。
ブシュ!
死吹の刃先を己に向け、首筋を掻き切った。
鮮血が傷口から噴き出るのと、それに伴い、喉の渇きを覚える。
人間の血を啜れば傷も塞がり、渇きもなくなるがそれはしない。
角都は驚いた顔でこちらを見つめていた。
ヒルは笑みを浮かべ、殺意の目をそちらに向ける。
ヒルのショーはこれからです。
体が焼けるように熱い。
ヒルの体の中でなにかが蠢いた。
血を啜りたいという欲が、肉を喰らいたいという欲に変わっていく。
.To be continued
ミツバはそろそろ終わった頃だろうか。
そう考えながら目の前のヨルを見つめる。
虚ろな目で宙を見つめていた。
悪夢はまだヨルの中で続いている。
普通の人間なら発狂しているところだが、ヨルは壊れない。
壊れることさえできない。
朱族とはそういうものだ。
人間らしいものをほぼ失っているから、人間のように発狂することも、頭のネジが飛ぶこともできない。
与えられるのは苦しみだけ。
それはヒルも同じこと。
誰もいないあの里で、ヒル達が出て行ったあと、ヨルはなにを思って過ごしていたのだろうか。
「……ヨル、あなたはヒル達といた頃より、人間らしくなってますよね。それだけは許さない」
それはズルい…。
あなたは、ヒルと同じ絶望を味わなければならない。
この感情は、“妬み”というものなのだろう。
だから耳元で囁く。
「あなたのお連れが死にましたよ。あなたのせいで…」
ピクリと反応が返ってきた。
「オレの…せいで…」
ヨルは宙を見つめたまま、小さく呟いた。
「ええ。角都という方が。そろそろ飛段という方も死にますよ」
「オレの……せいで……」
もう一度呟き、その表情はさらに絶望の色に染まっていった。
目を見開き、完全に放心している。
ああ、なんて人間らしいのだろう…。
死んでください。
絶望の中で死なせてやろうと舌先の針で額を貫いてやろうとしたとき、
ゴッ!!
「!?」
出入口の穴から炎が噴き出た。
「まさか…」
しばらく穴を凝視していると、始末したと思っていた角都が出てきた。
あとから仮面をつけた黒い塊の生き物が2匹ついて出てくる。
「よほどオレ達を馬鹿にしているようだな」
「まさか…、自力であの罠を…!?」
背後にいる仮面達も使ったのだろう。
ほとんど無傷なことに驚かされた。
毒にかかっている様子もない。
あれだけの数を相手にして。
「貴様のくだらないショーに付き合っている暇はない」
ピクッとヒルの目元が痙攣したのがわかった。
笑みを浮かべ、ヨルの手から死吹を引き抜いて刃先を角都に向ける。
幻術にかけられたまま両手を解放されたヨルは、力なくその場に横に倒れた。
「このヒルが、直々にお相手しますよ。だから本気でかかってきなさい」
絶望を与えてあげますから。
角都は鼻で笑い、ヒルを見据える。
「貴様如きの下衆に、オレの本気はもったいない」
マスクの下では嘲笑の笑みを浮かべているのだろう。
「言いますねぇ。次は全ての心臓を叩き潰してさしあげます!」
地面を蹴ると同時に角都の背後に回り、死吹を突き出す。
「!?」
だが、それを上回る動きで背後に回られ、コブシを振るわれる。
咄嗟に鎖分銅を角都の顔面目掛けて操作したが、角都はそれを上半身を反らしただけで軽く避けた。
ゴカッ!!
背中を殴られ、ヒルは壁に叩きつけられた。
「かは…っ」
背中には痛みが走り、口端を血が伝う。
なぜだ!? 前より速い…!?
前に戦った時より、角都の動きが素早くなっているように感じた。
角都の攻撃はやまない。
いきなり目の前に現れ、再びコブシを振るった。
ゴッ!!
「があ!!」
さらに体が壁にめり込む。
「丈夫だな。さすがは朱族だ」
その言葉と同時に長い髪をつかまれ、地面に叩きつけられる。
「ぐぅ!!」
そこでヒルはとんでもないものを相手にしているのだと知った。
今までは一部の力でしか相手にされていなかった。
冷静な顔をしているが、目の前の男はキレてるように見えた。
「馬鹿にしないでいただきたい!!」
立ち上がったヒルは鎖分銅を伸ばし、それを角都の首に巻きつけることに成功した。
あとは鎖分銅の重さで締め付けられてしまえ。
「死…」
ブチィ!!
「!!」
己の心臓の能力を使わず、鎖を両手で千切られてしまった。
「…っ!!」
分銅が落ち、地面にめり込んだ。
角都は首を軽く擦り、こちらを睨む。
このままでは、ヒルが絶望を見せられてしまう。
「これで閉幕だ」
焦るヒルに構わず、角都は硬化したコブシを振るってきた。
“喰沼”では間に合わない。
印を結んでいる間にやられてしまうと判断したヒルは口から大量の蛭を吐きだした。
動きが鈍った瞬間に槍でその首を貫いてやろうと考える。
大量の蛭が角都の正面に振りかかる。
隙を狙って死吹を構えたが、角都は止まらなかった。
「な…!」
そのまま、ヒルの顔面目掛けてコブシを振るう。
あれを当てられては顔面を潰されてしまう。
「くっ!」
寸前で後ろへ飛んだ。
「…!!」
鼻先がかすってしまったのか、ポタポタと鼻血が流れる。
カァッと羞恥と激しい怒りで顔面が熱くなる。
今度は、ヒルがブチキレた。
ブシュ!
死吹の刃先を己に向け、首筋を掻き切った。
鮮血が傷口から噴き出るのと、それに伴い、喉の渇きを覚える。
人間の血を啜れば傷も塞がり、渇きもなくなるがそれはしない。
角都は驚いた顔でこちらを見つめていた。
ヒルは笑みを浮かべ、殺意の目をそちらに向ける。
ヒルのショーはこれからです。
体が焼けるように熱い。
ヒルの体の中でなにかが蠢いた。
血を啜りたいという欲が、肉を喰らいたいという欲に変わっていく。
.To be continued