01:闇から醒めて
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*角都
今回の任務は、この鬼隠れの里の実験体を“暁”に引き入れること。
その任務を任されたのが、オレと相方の飛段だった。
なぜオレ達なのか。
理由は簡単だ。
その里が、任務を受ける直前のオレ達の近くにあったから。
それだけだ。
野宿をしてから休むはずだったが、凶暴な獣の気配が絶えず、安易に眠ることが許されなかった。
結局、一睡もできないまま、目的の里に到着したというわけだ。
銀色に輝く満月の下にある民家は全て、長年の時が経って古びれ、人の気配がまったく感じられなかった。
民家の前にある畑も雑草だらけだ。
隣を歩く飛段は呑気に欠伸をしている。
「誰もいねえじゃねーか。角都、ホントにここに実験体がいんのかァ?」
眠気に襲われてもうるさいやつだ。
何度目の質問なのかわかって言っているのか。
「黙れ」
「またそう言う…」
「リーダーの情報では、村の奥にある民家だ」
文句を言われる前に、オレは背を向けず答えてやる。
次に同じことを尋ねられれば殺すと決めて。
飛段は「ふぅん…」と返したあと、再び大きな欠伸をした。
オレは片手に持った、実験体の資料をもう一度見直す。
飛段が横から覗きながら口にする。
「実験体は全部で4体。随分と前から始められてるなァ。角都が生まれる前じゃねえ? 実験体の…、え…と…、み?」
漢字が読めないようだ。
「“朱族(しゅぞく)”だ」
「“しゅ”って読むのか」
白紙に近い飛段の知識の辞書に、新たな漢字が加わる。
“族”と言っても、人為的に作られた元・人間だ。
戦争のために作られた化け物だというのに、それを本場の戦場に利用された記録はどこにも残っていないらしい。
オレも長年生きているが、そんな実験体の存在は昨日、リーダーの口から初めて聞いた。
作り出した者が私情を挟んだか、その実験体とトラブルでも起こしたか。
理由は色々と浮かび上がってくるが、実験体本人の口から聞いた方が早そうだ。
などと考えていると、目的の民家が見えてきた。
思っていたより普通の民家だ。
中を窺うと、住民の3、4人は暮らせそうな広さである。
「角都ゥ、間違えたんじゃねえの?」
オレが失態したとでも思ったのか、オレの背後に立つ飛段の口元がニヤニヤとしている。
「貴様と違って、オレはそんな間抜けな間違いはしない」
「オレと違って、ってどういう意味だァ!?」
「そのものズバリだ、馬鹿」
先日の賞金稼ぎの仕事でも、「賞金首を見つけたぜ」とか騒いでおきながら、結局は人違いで終わってしまった。
あの時の殺意は今でも覚えている。
リーダーから召集がかからなければ、バラバラにしているところだった。
飛段は「なんだよ」と背後で喚く。
こんな場所で馬鹿みたく騒ぐなど、本当にこいつは忍なのか。
奴の首にかけられている額当てを思わず確認する。
「じゃあ、朱族とやらがどこにいるのか答えてみろよ!」
相も変わらずうるさい奴め
喋っていなければ生きてはいけないのか
内心で毒づきながら、広い座敷へ上がり、押入れの襖を開けた。
「げ」
飛段が驚くのも無理はない。
その先が地下に続く階段となっているからだ。
「行くぞ」
.
今回の任務は、この鬼隠れの里の実験体を“暁”に引き入れること。
その任務を任されたのが、オレと相方の飛段だった。
なぜオレ達なのか。
理由は簡単だ。
その里が、任務を受ける直前のオレ達の近くにあったから。
それだけだ。
野宿をしてから休むはずだったが、凶暴な獣の気配が絶えず、安易に眠ることが許されなかった。
結局、一睡もできないまま、目的の里に到着したというわけだ。
銀色に輝く満月の下にある民家は全て、長年の時が経って古びれ、人の気配がまったく感じられなかった。
民家の前にある畑も雑草だらけだ。
隣を歩く飛段は呑気に欠伸をしている。
「誰もいねえじゃねーか。角都、ホントにここに実験体がいんのかァ?」
眠気に襲われてもうるさいやつだ。
何度目の質問なのかわかって言っているのか。
「黙れ」
「またそう言う…」
「リーダーの情報では、村の奥にある民家だ」
文句を言われる前に、オレは背を向けず答えてやる。
次に同じことを尋ねられれば殺すと決めて。
飛段は「ふぅん…」と返したあと、再び大きな欠伸をした。
オレは片手に持った、実験体の資料をもう一度見直す。
飛段が横から覗きながら口にする。
「実験体は全部で4体。随分と前から始められてるなァ。角都が生まれる前じゃねえ? 実験体の…、え…と…、み?」
漢字が読めないようだ。
「“朱族(しゅぞく)”だ」
「“しゅ”って読むのか」
白紙に近い飛段の知識の辞書に、新たな漢字が加わる。
“族”と言っても、人為的に作られた元・人間だ。
戦争のために作られた化け物だというのに、それを本場の戦場に利用された記録はどこにも残っていないらしい。
オレも長年生きているが、そんな実験体の存在は昨日、リーダーの口から初めて聞いた。
作り出した者が私情を挟んだか、その実験体とトラブルでも起こしたか。
理由は色々と浮かび上がってくるが、実験体本人の口から聞いた方が早そうだ。
などと考えていると、目的の民家が見えてきた。
思っていたより普通の民家だ。
中を窺うと、住民の3、4人は暮らせそうな広さである。
「角都ゥ、間違えたんじゃねえの?」
オレが失態したとでも思ったのか、オレの背後に立つ飛段の口元がニヤニヤとしている。
「貴様と違って、オレはそんな間抜けな間違いはしない」
「オレと違って、ってどういう意味だァ!?」
「そのものズバリだ、馬鹿」
先日の賞金稼ぎの仕事でも、「賞金首を見つけたぜ」とか騒いでおきながら、結局は人違いで終わってしまった。
あの時の殺意は今でも覚えている。
リーダーから召集がかからなければ、バラバラにしているところだった。
飛段は「なんだよ」と背後で喚く。
こんな場所で馬鹿みたく騒ぐなど、本当にこいつは忍なのか。
奴の首にかけられている額当てを思わず確認する。
「じゃあ、朱族とやらがどこにいるのか答えてみろよ!」
相も変わらずうるさい奴め
喋っていなければ生きてはいけないのか
内心で毒づきながら、広い座敷へ上がり、押入れの襖を開けた。
「げ」
飛段が驚くのも無理はない。
その先が地下に続く階段となっているからだ。
「行くぞ」
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