01:闇から醒めて
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里を訪れた男達の今回の任務は、この“鬼隠れの里”の実験体を“暁”に引き入れること。
その任務を任されたのが、角都と、相方の飛段だった。
なぜこの2人なのか、理由は簡単だ。
別の任務帰りの角都と飛段が、里の付近にいたからだ。
野宿をしてから休むはずだったが、凶暴な獣の気配が絶えず、安易に眠ることが許されなかった。
結局、一睡もできないまま、目的の里に到着したというわけだ。
銀色に輝く満月の下にある民家は全て、長年の時が経って古びれ、人の気配がまったく感じられなかった。
民家の前にある畑も雑草だらけだ。
角都の隣を歩く飛段は呑気に欠伸をしている。
「誰もいねえじゃねーか。角都、ホントにここに実験体がいんのかァ?」
眠気に襲われてもうるさいやつだ、と角都はため息をついた。
「黙れ」
「またそう言う…」
「リーダーの情報では、村の奥にある民家だ」
文句を言われる前に、角都は背を向けず答える。
次に同じことを尋ねられれば殺すと決めて。
飛段は「ふぅん…」と返したあと、再び大きな欠伸をした。
角都は片手に持った、実験体の資料をもう一度見直す。
飛段が横から覗きながら口にした。
「実験体は全部で4体。随分と前から始められてるなァ。角都が生まれる前じゃねえ? 実験体の…、え…と…、み?」
漢字が読めないようだ。
「“朱族(しゅぞく)”だ」
「“しゅ”って読むのか」
白紙に近い飛段の知識の辞書に、新たな漢字が加わった。
角都は資料の文字を目で追いながら“朱族”とは何かを反芻する。
“族”とはいえ、人為的に作られた元・人間だ。
戦争のために作られた存在だというのに、本場の戦場に利用された記録はどこにも残っていない。
角都も長年生きているが、“朱族”の存在は昨日、リーダーの口から初めて聞いた。
作り出した者が私情を挟んだか、その実験体とトラブルでも起こしたか。
理由は色々と浮かび上がってくるが、実験体本人の口から聞いた方が早そうだ、と判断する。
目的の民家が見えてきた。
角都が思っていたより普通の民家だ。
中を窺うと、住民の3、4人は暮らせそうな広さである。
「角都ゥ、間違えたんじゃねえの?」
角都が失態したとでも思ったのか、背後に立つ飛段の口元がニヤニヤとしている。
「貴様と違って、オレはそんな間抜けな間違いはしない」
「オレと違って、ってどういう意味だァ!?」
「そのものズバリだ、馬鹿」
先日の賞金稼ぎの仕事でも、「賞金首を見つけたぜ」と騒いでおきながら、結局は人違いで終わってしまった。
あの時の殺意は今でも覚えている。
リーダーから召集がかからなければ、バラバラにしているところだった。
飛段は「なんだよ」と背後で喚く。
こんな場所で馬鹿みたく騒ぐなど本当にこいつは忍なのか、と角都は呆れた。
飛段の首にかけられている額当てを思わず確認する。
(鬱陶しい…。喚き散らさなければ呼吸もできないのか)
内心で毒づきながら、先頭に立った角都は広い座敷へ上がり、押入れの襖を開けた。
「げ」
飛段が驚くのも無理はない。
その先が地下に続く階段となっているからだ。
資料に記載されていた通りで角都は動じず踏み込む。
「行くぞ」
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