14:引き摺り込まれる
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野次馬や逃げる者達は、誰も今ヨルと角都の目の前にいる人物が建物を崩したとは思わないだろう。
いや、崩したというより、斬ったと言った方がいい。
建物の1階から上が刀で斬られたかのような断面を残している。
「いらん騒ぎを起こしてくれるものだ」
トラブルが嫌いな角都はさらに低い声とともに、目の前のスペードを睨んだ。
スペードは笑みを浮かべたまま言い返す。
「客を楽しませなければ一般のショー以下だ。日ノ輪にそんな例外はない」
スペードはこちらを見つめたまま、腰に差した刀の柄を右手でつかみ、ゆっくりと刀を抜いた。
「「!?」」
ヨルと角都は目を見張った。
刀身がなかったからだ。
「角都…という名だったか…。貴様は排除するように言われている」
スペードが刀を振り下ろす。
角都は咄嗟に印を結んで全身を硬化させた。
ズバ!!
「!?」
「角都!?」
硬化を無視し、角都は見えない刀身に左肩を斬られてしまった。
ヨルが駆け寄ろうとした時、
「大人しくしてもらおうか」
スペードはこちらに刀の柄を向ける。
ドス!
ヨルは同時に左脚の脛に痛みを覚えた。
「うわああ!?」
その場に転び、半身を起こして痛みを感じた左脛を見ると、左脛に刀の刃に貫かれた傷があった。
そこから血が溢れ出て地面に小さな血だまりを作っている。
ヨルは自身の耳を疑った。
(なにも聞こえなかった…。金属音も風を切る音さえも…!)
突然の攻撃だったとはいえ、耳にはそれらしい音は欠片も拾えなかったのだ。
「なん…だよ…、あいつの能力…!?」
(朱族の血を与えられた者は、禁術を受け入れる体になる…。おそらくアレも禁術の一種か…!)
手を真っ二つにされる可能性があると判断した角都は、地怨虞を伸ばそうとしない。
「貴様、あと4回殺せば死ぬのか」
柄を振り下ろすと同時に角都は右へと飛んだ。
角都が立っていた地面に斬撃が刻まれる。
スペードは角都を追いかけ、刀を振り回した。
「!」
移動するたびになびく外套の裾は大きく切れ、頭巾も右側頭部部分が切れる。
ヨルは左脚の痛みに耐えながら立ち上がり、両手に夢魔を構え、宙を飛んだスペードの背後を狙う。
刀は角都に向けられているため背後に隙がある。
そのまま斬ってやろうと振りかぶった瞬間、
「!!」
スペードは肩越しにヨルを見やるなり、左手で腰に差している鞘をつかみ、柄のおさめられていない穴をヨルに向けた。
ドス!!
「…っ!!」
ヨルは見えない刀身に右横腹を貫かれてしまい、地面に背中を打った。
「ぐう…っ!」
夢魔を落とした左手で傷口を押さえる。
(鞘からも…!?)
ますますどんな力を使用しているのかわからない。
「やはり朱族は簡単に死なないか。死んでもらっては困るが」
地面に着地したスペードがこちらに目を向けて言った時だ。
「貴様は金になる。だから死ね」
角都がスペードの背後に迫り、コブシを振るった。
スペードは不敵な笑みを浮かべ、柄を振り払う。
ズバン!!
角都の胴体が横に切断される。
「角都ゥ!!」
だが、それはすぐに水となって溶けた。
「!? 水分身だと!?」
スペードが一瞬でもヨルに気をとられた時に分身を作り出したのだろう。
驚いたスペードが角都を捜そうと振り返ると同時に、
ド!!
分身が消えると同時に現れた角都はその腹に重い蹴りを食らわせた。
スペードの体は建物へと吹っ飛び、壁をぶち抜く。
「角都…。!!」
角都がヨルに歩み寄ると同時に、ヨルは背筋が凍りつくような殺気を感じた。
角都も感じたのか、いきなり走り出し、ヨルを抱きかかえた。
「つかまれ」
言われるままにヨルは角都にしがみつき、角都はそこから建物の屋根に飛び移り、他の建物へと身軽に飛び移っていく。
同時に、角都の背後から建物が崩れる音や断末魔が聞こえた。
“戦争”
ヨルの脳裏をよぎったのは、そんな言葉だった。
「……何人死んだと思う?」
「さあな」
悲鳴の数からして、だいぶ死んだだろう。
忍でもない一般人がたくさん。
子供の悲鳴も聞こえた。
「客を楽しませなければ」と言っていたスペードの顔を思い出し、怒りで奥歯を噛みしめる。
(なにがショーだ、ただの皆殺しじゃねえか…!!)
薄暗い路地で下りたあと、角都によって壁に背をもたせかけられた。
外套をめくられ、左脛と右横腹の傷口を見られる。
「…再生を始めているな」
「飛段より遅いけど」
(そういえば、飛段と月代は大丈夫だろうか…。まだ公園で待ってるかもしれねえのに…)
スペードがそちらに向かわないことを願いたい。
「…動くな」
角都はヨルの腹に手を近づけ、縫い目から地怨虞を1本伸ばした。
地怨虞はうねうねと動き、ヨルの右横腹の傷口を縫っていく。
「痛ててて…」
当然痛みも感じる。
縫っていくたびにグイグイと引っ張られた。
「我慢しろ」
たまに縫合されている飛段の痛みが少しわかる。
そのあと、貫かれているため背中と、左脛も治療してもらった。
ヨルにとって、縫合してもらったのは初めてのことだ。
少し痒いが、あまりいじると傷が開きそうだ。
「あのヤロー、妙な力使いやがって…」
「…術の正体、少しわかったぞ」
角都がそう言って片眉を吊り上げる。
「なに?」
「見ろ」
角都は頭巾を脱いでヨルに渡す。
こめかみをかすってしまったのか、そこからは血が流れていた。
頭巾を見ると、横に大きく破れていた。
「…これが?」
「肌や布は切り裂いても、縫えば元通りだ。だが、この切り口は普通の切り口とは違う」
「…!」
空白があった。
縫うには切り裂かれた部分を引っ張らなければならないし、そのまま縫合しても歪な形になってしまう。
「これって…」
顔を上げて角都と目を合わせた。
「奴の術は「斬る」術ではなく、「消す」術だ」
「消す…!?」
消滅系の術なら、どうりで角都の硬化が通用しないはずである。
物理攻撃ではないのだから。
「どうすんだよ、そんな相手。こっちに向かってきてるぞ」
先程から悲鳴と建物が崩れる音がこちらに接近しているのが聞こえていた。
「夢魔じゃ受け流すこともできないし、盾もムリだろ。それごと殺られちまう」
「…奴のあの術は、武器があってこそ成り立つものだと推測している」
「…あの刀の柄と鞘か」
「発射口のある武器ならなんでもいいのだろう。形状は伸縮自在の見えない刀身だと思った方がいい。柄を向けられれば貫かれるか切断されるぞ」
(そこまで見抜けるとは…、やっぱり色んな修羅場を潜ってきた角都は分析力がオレとは断然違う…)
感心しながら、ヨルは「じゃあ…」と考えを口にする。
「…それで…、対処法はやっぱり奴の武器を取り上げることか?」
問題は、どうやってスペードに近づくかだ。
「……ヨル、オレの作戦についてこれるか?」
有無を言わせない真剣な目を向けられ、ヨルは小さくため息をついた。
「ロクな作戦じゃねーんだろ?」
スペードは鋭い目つきで瓦礫の上から角都とヨルの姿を捜していた。
これ以上暴れさせるわけにはいかない、とヨルは自ら姿を現す。
「! 鬼ごっこは終わりか?」
スペードは、瓦礫の下で見上げるヨルに柄を向け、力を発動する。
ドス!
「!?」
ヨルの体が液化する。
分身蝙蝠だ。
「分身…。!?」
スペードははっと顔を上げ、辺りを見回した。
建物の陰からヨルが何人もわらわらと出現したことで驚いている。
ざっと30人の分身蝙蝠。
ヨルが今出現できる、限界の人数だ。
「ったく、貧血起こしてるっての…」
終わったらこの作戦を思いついた角都に文句を言ってやろう、とヨルは心に決める。
(さあ、どれがオレ(オリジナル)かわかるか?)
静かに薄笑みを浮かべた。
分身蝙蝠には3つの欠点がある。
1、術者の血液を大幅に消費する。
2、本来は撹乱用のため、夢魔は出せない。
3、通常の分身の術とは変わりはなく、攻撃を受ければすぐに液化する。また、術者であるヨルの意識が切れることで術は解ける。
「例外だな。貴様は捕まる側だろ。戦えない分身を使ってどうする気だ」
ヒルからヨルの力を聞いていたスペードは嘲笑の笑みを浮かべ、右手に持った刀の柄と、左手に持った鞘を振るい、分身を消していく。
ヨルを殺さないように急所には当てないようにしていた。
あくまでヒルの命令を守る気だ。
ヨルの分身達がスペードに迫る。
それをスペードは次々と消していき、残りの分身が2人に減ったとき、それはスペードに飛びかかり、角都へと姿を変えた。
「変化の術で混じっていたか!」
角都の指先がスペードの顔をつかもうと伸ばされた時、角都は喉元を貫かれる。
スペードは勝利の笑みを浮かべたが、瞬間、角都は赤い液体へと溶けた。
「!?」
それもヨルが作り出した分身だった。
他の人間の新鮮な血を取り込めば、その人間の分身を作り出すこともできる。
スペードに一瞬の隙ができた。
実体が背後から飛びかかり、両手の手首を抑える。
「!!」
「つかまえたぞ」
「へえ? だからどうした? それでは貴様も動けないだろ」
「そうだな」
「な!?」
そう言うと同時に、口から地怨虞を吐いてスペードの両腕を後ろに縛った。
煙に包まれ、ヨルの姿から角都の姿へと解ける。
今度こそ本物の角都だ。
「貴様…、最初から…」
「ああ、ヨルに化けて混じっていた」
分身を角都に化けさせたのは、オリジナルとヨルに化けた角都が混じっていると思い込ませるためだ。
しかし、ヨルは初めから分身に混じってなどいなかった。
ヨルはすぐさま建物の陰から現れ、夢魔を振るう。
ズバン!!
「ぎ…っ!!」
両手の夢魔を交差させ、堂々と真っ正面から深く斬りつけた。
「てめーは暴れすぎだ。闇で醒めな」
「…くく…っ」
「!?」
命の灯が消えかけているというのに、スペードは笑っている。
「なにを笑っている?」
角都に尋ねられ、スペードは息を、ヒュゥ、と吸いこんで答える。
「ヒルの計算に…、例外はない…」
ドス!!
「!?」
ヨルは胸に痛みを覚えた。
右胸を見ると、パックリと傷口が開いていた。
両腕は角都が縛っているはずなのに、と顔を上げると、絶命しているスペードの頭巾のてっぺんが破れているのに気付く。
頭巾が落ちると同時に、刀身のない小刀の鞘が地面に落ちた。
それが最後の奥の手だったのだ。
「げほっ、ぐ…」
ヨルは吐血し、両手で右胸を押さえて両膝をつく。
「ヨル!」
地怨虞を体内に戻した角都がこちらに近づいてくる。
「角…都…」
また縫ってくれ、と角都に手を伸ばした。
「!!」
同時に、ヨルの顔面に数量の返り血が付着した。
「う…っぐ…!!」
角都の胸が背後から槍の刃に貫かれている。
「角都ゥゥゥ!!」
「御苦労でした、スペード。あなたを失くすのは惜しいですが、安らかに…」
角都の背後には、冷徹な笑みを浮かべたヒルがいた。
「ヒル!!」
「ぐ…っ」
乱暴に槍を引き抜かれ、角都は傷口を押さえて片膝をつく。
「角都…!!」
ヨルは左手で右胸の傷口を押さえ、角都に駆け寄ろうとしたが、
「あなたはこちらでしょう? ヨル」
瞬時にヨルの背後に立ったヒルは、右手でヨルの口を覆い、左腕でその腹に手を回した。
「…っ!!」
抵抗しようとしたが、首筋にブスリと何かが刺さった。
ヒルの舌先のトゲだ。
「角…」
頭と目の前が真っ白に包まれていく。
ぼやける視界に、角都が地怨虞でこちらに右手を伸ばすのが見え、その手をつかもうとしたが、完全に脱力した手はピクリとも上がらなかった。
ヨルはそのまま、ヒルによって地面に引きずり込まれてしまった。
.To be continued