13:温かい手
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・ヒル
暗く、湿った広い洞窟の奥でヒルはひとり、岩に座りながら、これからのことを考えていた。
仲間の前では言いたくありませんが、頭を悩ませていると言ってもいい。
その原因があのヨルであることに苛立ちを覚えていた。
月代をヨル達に奪われた挙句、ヒシギとココロまで失ってしまった。
ヒシギの死体を操る力とココロの身軽な身体能力は大事な戦力だったというのに、また補充しなければならない。
しかし、できればもう真血は使いたくない。
“鬼”にはなりたくありませんから。
「……甘かったのは、ヒルの方ですか…」
ドームのような広い空間に呟き声が響き渡る。
「そう! やっぱ甘々! ヒルは甘々!」
「!」
風を切る音とともに、その声は聞こえた。
「ヨル如きになに手こずってんだよ、ヒル!」
目の前に舞い降りてきたのは、ユウだった。
両足に生えている翼を畳み、意地の悪そうな笑みを浮かべている。
ヒルはその顔を睨みつけた。
「ユウ…」
最後に会った時から、その姿は変わっていない。
「やっぱボクがいないとなにもできない! ヒルはなにもできない! ヨルを苛めることもできない!」
ヒルは口から死吹を取り出し、先程から愚弄しているその口に刃先を向けた。
その舌を切り落としますよ、と脅すように。
「よくも、のこのことヒルの前に顔を出せましたね」
ユウは「くひっ」と笑い、両手の鉤爪をこちらに向ける。
「なになに? まだ気にしてんの? もうあれから30年だよ。仲直りしよーよ」
「正確には32年と2ヶ月半です。なにを考えてるんです?」
「なにが?」
「…本気で聞いてます?」
低い声でそう言うと、ユウは笑みを浮かべたまま首を傾げた。
その仕草でなにかを隠していることは見え見えだ。
そのままその顔面を槍の刃で貫くか分銅で破壊してやろうかと構えたとき、
「喧嘩はやめろ」
「「!」」
洞窟の出入り口から赤い蝶を引きつれ、編み笠を被ったアサが入ってきた。
「またあなたですか、アサ」
アサは編み笠を外し、ふっと微笑を浮かべた。
「なんじゃ、久しぶりに会えた仲間じゃろう。見ない間に随分と仲が悪くなったのぅ」
ヒルとユウは一瞬目を合わせ、すぐにアサに向き直る。
「昔、“鬼”となりかけたユウに殺されかけましてね」
それを聞いたアサから笑みが消え、顔つきが変わった。
視線がユウに移る。
「“鬼化”したのか?」
ユウは肩を竦めて答える。
「聞いたでしょ。「なりかけた」って。すぐにその場にいた人間の血を飲んで留めた。でも、ヒルに嫌われたんだよねぇ」
ユウは眉をハの字にし、口角を吊り上げたままヒルに目を向けた。
ヒルはその目を逸らし、アサに移す。
「それで、まだなにかヒルに用があるのですか? ユウを呼んだのもあなたですね」
「そうそう。ボク、アサに「ここに集合」って言われたんだよね」
30年の間、行方知らずだったユウをどうやって見つけ出したのか。
「ヨルに会えと言ったり、月代の居場所を教えたり、ユウを呼びだしたり…。あなたはなにがしたいのですか?」
ヨルと出会う1週間前、長い間月代を捜していたヒルはアサと再会した。
偶然でないことは確かだ。
再会を喜び合うわけもなく、アサはヒルに「1週間後、海の国の町に行き、ヨルに会ってみろ」と言った。
「月代に関する情報が手に入る」と。
しかし、ヨルはなにも知らなかった。
アサとも接触しなかった様子だった。
戦いのあと、騙されたのではないかと思いながらも、月代の捜索をしていた矢先にまたアサが現れ、月代の詳細を告げて消えた。
アサの意図がまったく読めない。
「もうあなたの言葉は信じないし宛にもしない。あなたのせいで、部下を2人も失いましたからね」
「……信じないのならそれでいい。ただ、これは渡しておこうと思ってな」
アサは懐から数枚の紙を取り出し、ヒルに差しだした。
古び、手帳から千切ったようなそれに書かれている文字を見て、ヒルは目を見開く。
「!! いつそれを…!?」
それには答えず、アサは言う。
「そこに書いてある通り、月代の封印解除に必要なものは、ワシらの血じゃ」
当然、ヨルの血も。
.To be continued
暗く、湿った広い洞窟の奥でヒルはひとり、岩に座りながら、これからのことを考えていた。
仲間の前では言いたくありませんが、頭を悩ませていると言ってもいい。
その原因があのヨルであることに苛立ちを覚えていた。
月代をヨル達に奪われた挙句、ヒシギとココロまで失ってしまった。
ヒシギの死体を操る力とココロの身軽な身体能力は大事な戦力だったというのに、また補充しなければならない。
しかし、できればもう真血は使いたくない。
“鬼”にはなりたくありませんから。
「……甘かったのは、ヒルの方ですか…」
ドームのような広い空間に呟き声が響き渡る。
「そう! やっぱ甘々! ヒルは甘々!」
「!」
風を切る音とともに、その声は聞こえた。
「ヨル如きになに手こずってんだよ、ヒル!」
目の前に舞い降りてきたのは、ユウだった。
両足に生えている翼を畳み、意地の悪そうな笑みを浮かべている。
ヒルはその顔を睨みつけた。
「ユウ…」
最後に会った時から、その姿は変わっていない。
「やっぱボクがいないとなにもできない! ヒルはなにもできない! ヨルを苛めることもできない!」
ヒルは口から死吹を取り出し、先程から愚弄しているその口に刃先を向けた。
その舌を切り落としますよ、と脅すように。
「よくも、のこのことヒルの前に顔を出せましたね」
ユウは「くひっ」と笑い、両手の鉤爪をこちらに向ける。
「なになに? まだ気にしてんの? もうあれから30年だよ。仲直りしよーよ」
「正確には32年と2ヶ月半です。なにを考えてるんです?」
「なにが?」
「…本気で聞いてます?」
低い声でそう言うと、ユウは笑みを浮かべたまま首を傾げた。
その仕草でなにかを隠していることは見え見えだ。
そのままその顔面を槍の刃で貫くか分銅で破壊してやろうかと構えたとき、
「喧嘩はやめろ」
「「!」」
洞窟の出入り口から赤い蝶を引きつれ、編み笠を被ったアサが入ってきた。
「またあなたですか、アサ」
アサは編み笠を外し、ふっと微笑を浮かべた。
「なんじゃ、久しぶりに会えた仲間じゃろう。見ない間に随分と仲が悪くなったのぅ」
ヒルとユウは一瞬目を合わせ、すぐにアサに向き直る。
「昔、“鬼”となりかけたユウに殺されかけましてね」
それを聞いたアサから笑みが消え、顔つきが変わった。
視線がユウに移る。
「“鬼化”したのか?」
ユウは肩を竦めて答える。
「聞いたでしょ。「なりかけた」って。すぐにその場にいた人間の血を飲んで留めた。でも、ヒルに嫌われたんだよねぇ」
ユウは眉をハの字にし、口角を吊り上げたままヒルに目を向けた。
ヒルはその目を逸らし、アサに移す。
「それで、まだなにかヒルに用があるのですか? ユウを呼んだのもあなたですね」
「そうそう。ボク、アサに「ここに集合」って言われたんだよね」
30年の間、行方知らずだったユウをどうやって見つけ出したのか。
「ヨルに会えと言ったり、月代の居場所を教えたり、ユウを呼びだしたり…。あなたはなにがしたいのですか?」
ヨルと出会う1週間前、長い間月代を捜していたヒルはアサと再会した。
偶然でないことは確かだ。
再会を喜び合うわけもなく、アサはヒルに「1週間後、海の国の町に行き、ヨルに会ってみろ」と言った。
「月代に関する情報が手に入る」と。
しかし、ヨルはなにも知らなかった。
アサとも接触しなかった様子だった。
戦いのあと、騙されたのではないかと思いながらも、月代の捜索をしていた矢先にまたアサが現れ、月代の詳細を告げて消えた。
アサの意図がまったく読めない。
「もうあなたの言葉は信じないし宛にもしない。あなたのせいで、部下を2人も失いましたからね」
「……信じないのならそれでいい。ただ、これは渡しておこうと思ってな」
アサは懐から数枚の紙を取り出し、ヒルに差しだした。
古び、手帳から千切ったようなそれに書かれている文字を見て、ヒルは目を見開く。
「!! いつそれを…!?」
それには答えず、アサは言う。
「そこに書いてある通り、月代の封印解除に必要なものは、ワシらの血じゃ」
当然、ヨルの血も。
.To be continued