13:温かい手
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*角都
明日も早いため、オレは浴衣に着替え、そのまま布団に入り眠っていた。
オレを起こしたのは、ただならぬ殺気だった。
目を見開くと、先に映ったのは天井ではなく大きな手のひらだった。
ドン!!
手のひらに押しつぶされる前に印を結んだ。
勢いよく振り下ろされた手のひらはオレごと床を突き破り、1階の無人の部屋に落ちた。
寸前で体を硬化させたオレは、1階の畳にめり込んでいるが無傷である。
「なんのつもりだ、月代」
月代の右目は金色に輝き、こちらを睨んでいた。
興奮しているのか、息も荒い。
「おまえ、ママころす。だから、おまえころす」
飛段がなにか吹き込んだのか。
月代はオレの体をつかみ、そのまま壁へと投げた。
今度は壁にめり込んでしまう。
生身の状態なら潰れていた。
他の客も起きたのか、宿中が騒がしくなる。
「やめろ月代。貴様にオレは殺せん」
「やめない。ころせない、なら…」
月代はオレに手を伸ばし、顔の右半分に不気味な笑みを浮かべた。
「喰ろうてやる」
地に響くようなその声は、明らかに月代のものではなかった。
同時に、月代の身丈よりも大きな赤い腕から無数の小さな赤い手が飛び出し、オレに向かって伸びてくる。
「!?」
壁から離れ、その手をかわしていく。
「…そんなに仕置きをされたいか」
オレは硬化した手でコブシを作り、月代に殴りかかった。
しかし、オレの攻撃は腕で防がれてしまう。
「なに!?」
月代の腕はそのままオレのコブシを呑みこもうとした。
その手に痛みはないが、ずるずるとオレを取り込もうとする。
「喰らう」とはこういうことか…!
さらに無数の手が出現し、危機を感じたオレは左手を切り離した。
左手は月代の腕に飲み込まれてしまう。
指輪まで持って行かれてしまった。
「チッ…」
ヨルのように人間の血を啜るのではなく、人間そのものを喰うのか。
あの腕に体が触れれば逃れるのは不可能そうだ。
左手に痛みが走るのが脳に伝わってくる。
焼かれるようだ。
再び無数の腕がこちらに伸びてきた。
右手を硬化させたとき、
ズバン!!
「!」
目の前に迫ってきた手を、横からヨルが夢魔で切り落とした。
切り落とされた手は畳の上でのたうったあと、血へと液化する。
まるでヨルの夢魔のように。
「角都は敵じゃねえ! だからもうやめろ! テメーは騙されてるだけだ!!」
月代は無表情でヨルを見据えた。
「ヨル、原因を知ってるのか?」
「誰かが月代に、「角都は飛段を殺す」と吹き込んだ。「だから殺せ」と。過去の夢は何度か見たが、未来の夢を見たのは初めてだ」
ヨルは月代と向き合いながらそう言った。
「…てき? やめる? だまされてる? ちがう。ちがうちがう」
月代は右手で頭を抱え、激しく首を横に振る。
そしてまた、あの声を出した。
「騙したのは、おまえ達、愚かな人間だ。この“朱鬼(しゅき)”と偽りの契約を交わし、この体を引き裂いたクセに!!」
オレは月代に埋め込まれたバケモノの血肉の存在を思い出した。
それが語っている。
体と脳が幼すぎる月代はそれの制御ができない様子だ。
「…偽りの契約?」
ヨルに問われ、朱鬼は月代の口を借りて憎々しげに答える。
「全ての人間を我に捧げるという契約だ!!」
「「!!」」
「我の血肉を奪い、こんな小さな器に封じ込めた罪、貴様らを喰らっただけで済まされると思うな!!」
無数の手が一斉にこちらに伸びてくる。
オレとヨルが構えたとき、
「やめろォ!!」
「!!」
目の前に浴衣姿の飛段が飛び出し、無数の手は飛段に触れる寸前にピタリと止まった。
*ヨル
「ママ?」
飛段が現れたおかげで、月代は自分の意思を取り戻した。
「なにしてんだよ、おまえ…」
飛段の声には怒りが含まれている。
飛段に睨まれ、月代はビクッと震える。
「そ…、そいつら…、ママころす…。だから…」
「いいんだよ」
「…え?」
「気に入らねえ奴に殺されるより、角都とヨルに殺されたい。まあ、死なないけどなァ」
そう言ってこちらに振り返り、「ゲハハ」と笑った。
だけどまた、厳しい視線を月代に投げて言う。
「こいつら殺るなら、オレはおまえを許さねえ」
「……………」
手を伸ばされ、また朱鬼というやつが出たんじゃないかと警戒したが、腕から出てきた1本の手には、角都の切り離された左手があった。
それを角都に手渡すと、1本の手は再び腕の中へと大人しく戻っていく。
角都の手は溶かされる直前だったのか、少し火傷のような傷があった。
指輪は無事だ。
「…っ、めん、なさ…、ごめんなさい…っ」
月代はボロボロと涙を流し、その場にへたりと座った。
何度も右腕で涙を拭い、「ごめんなさい」と謝り続ける。
「きらいに…ならないで…っ」
飛段が動く前に、オレはその小さな体に近づき、壊れモノを扱うように優しくそっと抱きしめた。
肩に涙を擦りつけられる。
抱きしめたあとはどうすればいいのかと困惑していたオレは、とりあえずその背中を何度も優しく叩いた。
「……~♪」
そうしているうちに、オレはいつの間にか鼻唄を歌っていた。
水面に浮いているようなゆったりしたリズムだ。
月代の背中を優しく叩きながら鼻唄を続ける。
「~♪」
歌詞は忘れた。
そもそも、どこで覚えたのかも覚えていない。
やがて静かな寝息が聞こえ、オレは歌をやめた。
月代を見ると、オレの肩に額をつけて眠っている。
「…子守唄か?」
そう言った角都に振り返り、首を傾げる。
「子守唄?」
「母親が自分の子供に歌う唄だ」
そう言われ、ふと、温かい手に背中を優しく叩かれながら聴いていた唄を思い出した。
それでも歌詞は思い出せなかったが、オレが歌っていた鼻唄と重なる。
「……母親が…。……オレ…、母親の顔は…覚えてねえんだよなぁ…」
覚えているのは、声と温かい手のひら。
それともう1つ思い出したことがある。
自分は愛され、オレも愛していたことを。
今のオレには欠落したものかもしれないが、確かにそうであったと信じたい。
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明日も早いため、オレは浴衣に着替え、そのまま布団に入り眠っていた。
オレを起こしたのは、ただならぬ殺気だった。
目を見開くと、先に映ったのは天井ではなく大きな手のひらだった。
ドン!!
手のひらに押しつぶされる前に印を結んだ。
勢いよく振り下ろされた手のひらはオレごと床を突き破り、1階の無人の部屋に落ちた。
寸前で体を硬化させたオレは、1階の畳にめり込んでいるが無傷である。
「なんのつもりだ、月代」
月代の右目は金色に輝き、こちらを睨んでいた。
興奮しているのか、息も荒い。
「おまえ、ママころす。だから、おまえころす」
飛段がなにか吹き込んだのか。
月代はオレの体をつかみ、そのまま壁へと投げた。
今度は壁にめり込んでしまう。
生身の状態なら潰れていた。
他の客も起きたのか、宿中が騒がしくなる。
「やめろ月代。貴様にオレは殺せん」
「やめない。ころせない、なら…」
月代はオレに手を伸ばし、顔の右半分に不気味な笑みを浮かべた。
「喰ろうてやる」
地に響くようなその声は、明らかに月代のものではなかった。
同時に、月代の身丈よりも大きな赤い腕から無数の小さな赤い手が飛び出し、オレに向かって伸びてくる。
「!?」
壁から離れ、その手をかわしていく。
「…そんなに仕置きをされたいか」
オレは硬化した手でコブシを作り、月代に殴りかかった。
しかし、オレの攻撃は腕で防がれてしまう。
「なに!?」
月代の腕はそのままオレのコブシを呑みこもうとした。
その手に痛みはないが、ずるずるとオレを取り込もうとする。
「喰らう」とはこういうことか…!
さらに無数の手が出現し、危機を感じたオレは左手を切り離した。
左手は月代の腕に飲み込まれてしまう。
指輪まで持って行かれてしまった。
「チッ…」
ヨルのように人間の血を啜るのではなく、人間そのものを喰うのか。
あの腕に体が触れれば逃れるのは不可能そうだ。
左手に痛みが走るのが脳に伝わってくる。
焼かれるようだ。
再び無数の腕がこちらに伸びてきた。
右手を硬化させたとき、
ズバン!!
「!」
目の前に迫ってきた手を、横からヨルが夢魔で切り落とした。
切り落とされた手は畳の上でのたうったあと、血へと液化する。
まるでヨルの夢魔のように。
「角都は敵じゃねえ! だからもうやめろ! テメーは騙されてるだけだ!!」
月代は無表情でヨルを見据えた。
「ヨル、原因を知ってるのか?」
「誰かが月代に、「角都は飛段を殺す」と吹き込んだ。「だから殺せ」と。過去の夢は何度か見たが、未来の夢を見たのは初めてだ」
ヨルは月代と向き合いながらそう言った。
「…てき? やめる? だまされてる? ちがう。ちがうちがう」
月代は右手で頭を抱え、激しく首を横に振る。
そしてまた、あの声を出した。
「騙したのは、おまえ達、愚かな人間だ。この“朱鬼(しゅき)”と偽りの契約を交わし、この体を引き裂いたクセに!!」
オレは月代に埋め込まれたバケモノの血肉の存在を思い出した。
それが語っている。
体と脳が幼すぎる月代はそれの制御ができない様子だ。
「…偽りの契約?」
ヨルに問われ、朱鬼は月代の口を借りて憎々しげに答える。
「全ての人間を我に捧げるという契約だ!!」
「「!!」」
「我の血肉を奪い、こんな小さな器に封じ込めた罪、貴様らを喰らっただけで済まされると思うな!!」
無数の手が一斉にこちらに伸びてくる。
オレとヨルが構えたとき、
「やめろォ!!」
「!!」
目の前に浴衣姿の飛段が飛び出し、無数の手は飛段に触れる寸前にピタリと止まった。
*ヨル
「ママ?」
飛段が現れたおかげで、月代は自分の意思を取り戻した。
「なにしてんだよ、おまえ…」
飛段の声には怒りが含まれている。
飛段に睨まれ、月代はビクッと震える。
「そ…、そいつら…、ママころす…。だから…」
「いいんだよ」
「…え?」
「気に入らねえ奴に殺されるより、角都とヨルに殺されたい。まあ、死なないけどなァ」
そう言ってこちらに振り返り、「ゲハハ」と笑った。
だけどまた、厳しい視線を月代に投げて言う。
「こいつら殺るなら、オレはおまえを許さねえ」
「……………」
手を伸ばされ、また朱鬼というやつが出たんじゃないかと警戒したが、腕から出てきた1本の手には、角都の切り離された左手があった。
それを角都に手渡すと、1本の手は再び腕の中へと大人しく戻っていく。
角都の手は溶かされる直前だったのか、少し火傷のような傷があった。
指輪は無事だ。
「…っ、めん、なさ…、ごめんなさい…っ」
月代はボロボロと涙を流し、その場にへたりと座った。
何度も右腕で涙を拭い、「ごめんなさい」と謝り続ける。
「きらいに…ならないで…っ」
飛段が動く前に、オレはその小さな体に近づき、壊れモノを扱うように優しくそっと抱きしめた。
肩に涙を擦りつけられる。
抱きしめたあとはどうすればいいのかと困惑していたオレは、とりあえずその背中を何度も優しく叩いた。
「……~♪」
そうしているうちに、オレはいつの間にか鼻唄を歌っていた。
水面に浮いているようなゆったりしたリズムだ。
月代の背中を優しく叩きながら鼻唄を続ける。
「~♪」
歌詞は忘れた。
そもそも、どこで覚えたのかも覚えていない。
やがて静かな寝息が聞こえ、オレは歌をやめた。
月代を見ると、オレの肩に額をつけて眠っている。
「…子守唄か?」
そう言った角都に振り返り、首を傾げる。
「子守唄?」
「母親が自分の子供に歌う唄だ」
そう言われ、ふと、温かい手に背中を優しく叩かれながら聴いていた唄を思い出した。
それでも歌詞は思い出せなかったが、オレが歌っていた鼻唄と重なる。
「……母親が…。……オレ…、母親の顔は…覚えてねえんだよなぁ…」
覚えているのは、声と温かい手のひら。
それともう1つ思い出したことがある。
自分は愛され、オレも愛していたことを。
今のオレには欠落したものかもしれないが、確かにそうであったと信じたい。
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