13:温かい手
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*ヨル
目の前の海は、空より濃い青色で、太陽の光が反射してキラキラと輝いていた。
オレはあの綺麗な光のどこを嫌っていたのか。
頭上の空を何羽目かのカモメが通過する。
波は、砂浜に座っているオレの足の先のギリギリまで押し寄せ、砂を巻き込む音を立てて引き返していった。
ふと、近くにいる飛段と子供に視線を移した。
飛段は伸縮式の杭を伸ばし、砂浜の上になにやら描いている。
子供もそれをマネしていた。
「ママ、これなに?」
「ジャシン様のマークだァ」
飛段の綺麗な円に対し、子供―――月代の円は歪みが目立っている。
それを見たオレは、飛段は綺麗な円を描くのが誰よりも上手なことに気が付いた。
あまり気にしたことはないが、オレでもあんなバランスよく歪みのない円は描けない。
「……………」
傍に落ちていた枝を拾い、飛段のジャシンマークを描いてみる。
丸が小さいうえに、三角が片寄ってしまった。
戦闘時、飛段はこのマークを枝ではなく足で描いている。
そっちの方が難しくないか。
納得いく円を描き続けてみようかと思ったとき、オレの右隣に、換金所から帰ってきた角都が腰掛けた。
換金してきたのは、ココロとヒシギの遺体だ。
「…金は?」
角都の手には金の入ったアタッシュケースがない。
「ゼツに渡した。ついでに報告も済ませた」
「…そうか」
報告というのは、月代のことだ。
仲間に引き入れることに成功した、と。
引き入れたというか、ただ単に飛段に懐いて離れないだけだ。
「なにをしていた?」
角都の視線がオレの前の落書きに移る。
「ジャシンマークの練習」
「入信するのか?」
「円と三角の練習」
否定を含めて言い返したあと、練習しているのがアホらしくなったオレは砂のついた枝を海に投げた。
枝は波に巻き込まれ、海面上をプカプカと浮く。
「…アレのことは気にしないのか?」
角都の視線を追うと、月代が目に映った。
「気にしたってわかんねーよ。同族でも、お互い初対面だし。それに…、あの子供は同じで同じじゃない」
「同じで同じではない?」
オレは角都に説明する。
「オレとヒル達と共通点が違う。目の前に美味そうなエサ(飛段)がいても血を欲しがらない」
飛段の血は真血が混ざってるせいか普通の人間より美味だ。
同じく角都も。
ヒルも欲しがっていたから、他の朱族も欲しがるはず。
なのに、出会ってから1日が経過するというのに、月代は血を求める気配がまったくない。
「それと、姿がガキのまま」
100年以上、カプセルの中で眠り続けていたからだろうか。
オレより遥かに遅すぎる。
「あと、背中以外の刺青がないことだ」
オレの左肩に刻まれているコウモリの刺青のような刺青だ。
アサは右腕に蝶の刺青が、ヒルは舌に蛭の刺青が、ユウは両脚に鳥の刺青が刻まれている。
だが、包帯を巻いてる時に、月代にはそれらしい刺青が見当たらなかった。
「…匂いが他の朱族より濃いのも気になる…」
オレがそう呟いたとき、角都は懐から古びた手帳を取り出して読み始めた。
「月代を作った者は、バケモノの血肉のほとんどを月代の体に埋め込んだようだな」
「…それは?」
「死体のポケットに入っていた」
オレは初めて月代と出会った時のことを思い出した。
角都と一緒に隠された部屋に入り、月代に懐かれている飛段に声をかけたとき、月代はこちらを警戒し、大きな赤い左腕で攻撃しようとした。
飛段が月代をなだめなければ、間違いなく戦闘になっていただろう。
その部屋には死体が2つあった。
ひとつは、胸を貫かれたココロの死体、もうひとつは、部屋の隅に転がっていた白衣を着た白骨死体だ。
おそらく、月代を持ち逃げした天空の部下だろう。
角都はそいつのポケットから手帳を抜き取ったのかもしれない。
「だから、月代の腕の封印の仕方を知ってたのか」
月代の右目と左腕には角都が作った新しい包帯が巻かれている。
実は包帯の後ろには封印術の文字が書かれている。
「ああ、これに記されていた。ただし、この封印術は完璧ではない。アレが望めば、すぐに解除されるようになっている」
「他にはなんて書いてある?」
「…1年おきに様子を見ながら血肉を少しずつ埋め込んだらしい。そのせいであの腕が出来上がったのだろう」
血を欲しがらないのと関係あるのだろうか。
その質問はせず、オレは飛段を一瞥してから角都に質問する。
「飛段を母親と呼んでるのは?」
「…最後の仕上げだ。眠りから目覚めれば、そいつを母親と思いこむように作られていた。刷り込みというやつだな。おまえ達はどうだった?」
「…天空は父親のように思ってたけど、刷り込みされたから思ったわけじゃないのは確かだ。月代のように、あんなに懐かなかったし」
自殺や親殺ししないようには作られてたけど。
オレは気になったことを尋ねる。
「なんで刷り込みを?」
「なんでも言うことを聞く兵器にしたかったのだろう。飛段が「ヨルを殺せ」と一言言えば、月代はすぐに貴様を殺しにかかるだろう」
「嫌な例えだな(汗)」
飛段がオレに殺意を持っていたとしても、自分でかかってきそうだ。
角都は「だが…」と言って本を閉じ、言葉を続ける。
「準備は万端だったというのに、月代が目覚める前に第2の生みの親は殺された。わからないのは、殺害した者がなぜ月代に手を出さなかったかだ」
「……………」
角都が言うには、心臓を一突きだったそうだ。
敵の狙いが月代でないなら、天空の部下の命だけだった、ということなのか。
だが、怨恨の理由が見つからない。
そいつは長い間あの島で研究を続けていたのだから、食糧を調達する以外で人との接触はなかったはずだ。
唯一そいつに恨みを持っているとしたら、天空だ。
しかし、先に死んだのは天空だ。
矛盾が生じてしまう。
難しい顔をして考えていると、杭の先を自分の胸の中心に当てる飛段と、細長い枝で飛段と同じようにしている月代が目に映った。
「躊躇っちゃジャシン様に失礼だァ。思いっきりブッスリ貫け。いいか、ブッスリだ」
「ブッスリ」
「そう! せーの!」
同時にオレは足下の砂をつかみ、飛段の顔面にかける。
「ママが儀式させるなァ!!」
「ぶっ!;」
口の中に砂が入ったのか、飛段はペッペッとし、顔の砂を払った。
「せっかく信者が一人増えたってのにジャマすんなァ!!」
「不死身のテメーと一緒にすんな!! ちょっとパパからもなにか言ってや…、がはっ!!;」
角都に振り返ると同時に、投げられたサザエがオレの顔面を直撃して砕けた。
.
目の前の海は、空より濃い青色で、太陽の光が反射してキラキラと輝いていた。
オレはあの綺麗な光のどこを嫌っていたのか。
頭上の空を何羽目かのカモメが通過する。
波は、砂浜に座っているオレの足の先のギリギリまで押し寄せ、砂を巻き込む音を立てて引き返していった。
ふと、近くにいる飛段と子供に視線を移した。
飛段は伸縮式の杭を伸ばし、砂浜の上になにやら描いている。
子供もそれをマネしていた。
「ママ、これなに?」
「ジャシン様のマークだァ」
飛段の綺麗な円に対し、子供―――月代の円は歪みが目立っている。
それを見たオレは、飛段は綺麗な円を描くのが誰よりも上手なことに気が付いた。
あまり気にしたことはないが、オレでもあんなバランスよく歪みのない円は描けない。
「……………」
傍に落ちていた枝を拾い、飛段のジャシンマークを描いてみる。
丸が小さいうえに、三角が片寄ってしまった。
戦闘時、飛段はこのマークを枝ではなく足で描いている。
そっちの方が難しくないか。
納得いく円を描き続けてみようかと思ったとき、オレの右隣に、換金所から帰ってきた角都が腰掛けた。
換金してきたのは、ココロとヒシギの遺体だ。
「…金は?」
角都の手には金の入ったアタッシュケースがない。
「ゼツに渡した。ついでに報告も済ませた」
「…そうか」
報告というのは、月代のことだ。
仲間に引き入れることに成功した、と。
引き入れたというか、ただ単に飛段に懐いて離れないだけだ。
「なにをしていた?」
角都の視線がオレの前の落書きに移る。
「ジャシンマークの練習」
「入信するのか?」
「円と三角の練習」
否定を含めて言い返したあと、練習しているのがアホらしくなったオレは砂のついた枝を海に投げた。
枝は波に巻き込まれ、海面上をプカプカと浮く。
「…アレのことは気にしないのか?」
角都の視線を追うと、月代が目に映った。
「気にしたってわかんねーよ。同族でも、お互い初対面だし。それに…、あの子供は同じで同じじゃない」
「同じで同じではない?」
オレは角都に説明する。
「オレとヒル達と共通点が違う。目の前に美味そうなエサ(飛段)がいても血を欲しがらない」
飛段の血は真血が混ざってるせいか普通の人間より美味だ。
同じく角都も。
ヒルも欲しがっていたから、他の朱族も欲しがるはず。
なのに、出会ってから1日が経過するというのに、月代は血を求める気配がまったくない。
「それと、姿がガキのまま」
100年以上、カプセルの中で眠り続けていたからだろうか。
オレより遥かに遅すぎる。
「あと、背中以外の刺青がないことだ」
オレの左肩に刻まれているコウモリの刺青のような刺青だ。
アサは右腕に蝶の刺青が、ヒルは舌に蛭の刺青が、ユウは両脚に鳥の刺青が刻まれている。
だが、包帯を巻いてる時に、月代にはそれらしい刺青が見当たらなかった。
「…匂いが他の朱族より濃いのも気になる…」
オレがそう呟いたとき、角都は懐から古びた手帳を取り出して読み始めた。
「月代を作った者は、バケモノの血肉のほとんどを月代の体に埋め込んだようだな」
「…それは?」
「死体のポケットに入っていた」
オレは初めて月代と出会った時のことを思い出した。
角都と一緒に隠された部屋に入り、月代に懐かれている飛段に声をかけたとき、月代はこちらを警戒し、大きな赤い左腕で攻撃しようとした。
飛段が月代をなだめなければ、間違いなく戦闘になっていただろう。
その部屋には死体が2つあった。
ひとつは、胸を貫かれたココロの死体、もうひとつは、部屋の隅に転がっていた白衣を着た白骨死体だ。
おそらく、月代を持ち逃げした天空の部下だろう。
角都はそいつのポケットから手帳を抜き取ったのかもしれない。
「だから、月代の腕の封印の仕方を知ってたのか」
月代の右目と左腕には角都が作った新しい包帯が巻かれている。
実は包帯の後ろには封印術の文字が書かれている。
「ああ、これに記されていた。ただし、この封印術は完璧ではない。アレが望めば、すぐに解除されるようになっている」
「他にはなんて書いてある?」
「…1年おきに様子を見ながら血肉を少しずつ埋め込んだらしい。そのせいであの腕が出来上がったのだろう」
血を欲しがらないのと関係あるのだろうか。
その質問はせず、オレは飛段を一瞥してから角都に質問する。
「飛段を母親と呼んでるのは?」
「…最後の仕上げだ。眠りから目覚めれば、そいつを母親と思いこむように作られていた。刷り込みというやつだな。おまえ達はどうだった?」
「…天空は父親のように思ってたけど、刷り込みされたから思ったわけじゃないのは確かだ。月代のように、あんなに懐かなかったし」
自殺や親殺ししないようには作られてたけど。
オレは気になったことを尋ねる。
「なんで刷り込みを?」
「なんでも言うことを聞く兵器にしたかったのだろう。飛段が「ヨルを殺せ」と一言言えば、月代はすぐに貴様を殺しにかかるだろう」
「嫌な例えだな(汗)」
飛段がオレに殺意を持っていたとしても、自分でかかってきそうだ。
角都は「だが…」と言って本を閉じ、言葉を続ける。
「準備は万端だったというのに、月代が目覚める前に第2の生みの親は殺された。わからないのは、殺害した者がなぜ月代に手を出さなかったかだ」
「……………」
角都が言うには、心臓を一突きだったそうだ。
敵の狙いが月代でないなら、天空の部下の命だけだった、ということなのか。
だが、怨恨の理由が見つからない。
そいつは長い間あの島で研究を続けていたのだから、食糧を調達する以外で人との接触はなかったはずだ。
唯一そいつに恨みを持っているとしたら、天空だ。
しかし、先に死んだのは天空だ。
矛盾が生じてしまう。
難しい顔をして考えていると、杭の先を自分の胸の中心に当てる飛段と、細長い枝で飛段と同じようにしている月代が目に映った。
「躊躇っちゃジャシン様に失礼だァ。思いっきりブッスリ貫け。いいか、ブッスリだ」
「ブッスリ」
「そう! せーの!」
同時にオレは足下の砂をつかみ、飛段の顔面にかける。
「ママが儀式させるなァ!!」
「ぶっ!;」
口の中に砂が入ったのか、飛段はペッペッとし、顔の砂を払った。
「せっかく信者が一人増えたってのにジャマすんなァ!!」
「不死身のテメーと一緒にすんな!! ちょっとパパからもなにか言ってや…、がはっ!!;」
角都に振り返ると同時に、投げられたサザエがオレの顔面を直撃して砕けた。
.