12:鬼の目覚め
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
吹っ飛ばされた飛段は、壁を突き破って地面にうつ伏せに倒れていた。
陣が破壊されたことにより、変色した体は元の肌色に戻っている。
「ってぇ…」
頭を擦りながら三連鎌を支えに起き上がり、周りを見回す。
先程の場所より小さな空間だ。
先は通路になっていて、その奥には茶色い木製の扉が見えた。
「?」
首を傾げ、警戒しながら先へ進む。
扉の前に立ち、ノブを回して押すと、妙な匂いがした。
死体のような悪臭ではなく、かと言って、お香のような甘い匂いでもない。
扉の向こうには、カプセルがあった。
ぐるりとガラスに囲まれたカプセルの中には、大量のチューブに繋がれた子供が立ったまま眠っていた。
見た目は4・5歳くらいだ。
角都の目のような深い緑色の髪は腰よりも長く、左腕と頭から右目は包帯で巻かれ、格好は布一枚だ。
「まさか…、これが“月代”…?」
子供だとは思わず、困惑した。
ヨルと同じ、見た目に反する年齢なのだろうが、寝顔は子供そのものだ。
「生きてんのか…?」
カプセルに耳を当て、微かな呼吸音を聞きとった。
しかし、年季の入ったそれに体重をかけたのがいけなかったのか、呼吸音の他にヒビが刻まれる音が聞こえた。
飛段は慌ててカプセルから離れたが、もう遅い。
ヒビは徐々に枝のように分かれ続け、パリィンッ、と音を立てて割れた。
「!」
カプセルが割れて外気に触れ、月代の体がピクリと動いた。
やがて、ゆっくりと目を開けて飛段を見据える。
包帯の巻かれていない左目は、血を欲する時のヨルと同じ朱色だ。
「…あ……」
なんて声をかけていいのやら、言葉も通じるかわからないが、飛段は月代におそるおそる話しかける。
「え…と…、おまえ、月代かァ?」
「……………」
「オレら、おまえを始末するか保護するかって言われてきたんだけどよォ。オレらっつっても、今、オレ一人だけど…」
「……………」
「…もしかして、言葉喋れねえとかァ?」
すると突然、体と繋がっていたチューブを引き抜き、月代は飛段に飛び付いた。
「うお!?」
その衝撃で尻餅をつく飛段。
「痛って!」
そのままなにかされるのではないか、と押し退けようとしたが、
「ママ…」
そう言われ、思考と動きが停止した。
「……なに?」
「ママ…!」
月代の大きな瞳には涙が浮かび、表情は満面の笑みだ。
ずっと待ち焦がれていたのだと訴えるように腕に力を込める。
「オレが…?」
飛段の頭が混乱する。
なぜ自分が母親扱いされなければならないのか。
「見つけたぁ」
「!!」
背後の気配に気付いたが、
「っ!?」
飛段は、4枚の飛輪が背中に突き刺さるのを感じた。
その衝撃に押され、月代を抱いたまま前に倒れる。
「そのコが月代ぉ? 思ってたのと全然違うわねぇ」
ココロは前屈みになり、笑みを浮かべて興味深げに月代を見下ろす。
「バラッバラにしてから、そのコをいただくわ」
「この…クソアマ…!」
起き上がろうとしたとき、月代に頬を触れられる。
まるで自分が痛みを受けたかのような悲痛な顔をしていた。
「ママ、いたい? いたい?」
それを聞いたココロは腹を抱えて笑いだす。
「あははは!「ママ」って…、アンタ、そのコの母親……」
ドス!!
「…え…っ?」
月代の左腕の包帯が破って現れたのは、その小さな体に見合わない大きな真っ赤な腕だった。
飛段の肩越しに伸ばされたそれが、ココロの胸を貫いた。
ココロは息をひゅっと吸ったあと、呆気なく絶命する。
腕が引き抜かれ、その体は仰向けに倒れた。
「ママに、いたい、だめ…」
月代の顔の包帯が緩み、その隙間から金色の右目が見えた。
血が足りなくなった時に見せる、ヨルの瞳と同じだ。
左目の朱色の目といい、血が欲しいのかと思ったが要求もない。
ただ飛段の背中に触れ、「いたい? ママ、いたい?」と首を傾げて聞くだけだった。
「ママ、へいき? ママ、ママ…」
.To be continued
5/5ページ