12:鬼の目覚め
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*ヨル
「…天空…?」
いつもの時間に現れない天空が気になり、オレ達は勝手に檻を抜け出して天空の部屋へと様子を見に行った。
そこには、血まみれで、冷たい床にうつ伏せに倒れている天空の姿があった。
右手に薬の瓶を握りしめ、絶命していた。
最初に発見したのは、先に部屋に踏み込んだ、オレだ。
「天空!!」
天空に駆け寄って冷たい体を抱き起こし、呼びかける。
「起きろ、天空…!! …天空!! 天空!!!」
「死んでますよ、ヨル」
ヒルの冷たい言い方に、オレは振り返ってそいつを睨みつける。
「やっぱ人間、父親は人間」
ユウはヒルの隣に並び、同じようにオレと天空を冷たい目で見下ろした。
「やっと成長も止まったのに、生みの親がこのザマですか。ヒル達は、なんのために…」
「そんな言い方ないだろ! ボロボロの体引きずってまでオレ達を育ててくれたのに…!」
天空の年齢と姿は、朱族にはない「老人」というものになっていた。
黒かった髪はすっかり白くなり、皺も増え、齢70はとっくに超えていた。
それに、もともと体は弱い方で、寿命を少しでも長くするために薬を服用していたのも知っていた。
「兵器としてでしょう?」
ヒルのその言葉がオレの体に容赦なく突き刺さる。
「ボクは兵器としてこき使われるのはゴメンだって、前から思ってたね! ヨルは戦争したいの? 違うだろ? やっぱ良い子ぶってる。ヨルは良い子ぶってる!」
「そういう契約の元で天空の傍にいたんだろが!!」
オレは天空を床にそっと置き、立ち上がってユウと睨み合った。
ユウは爆発したように言い返してくる。
「いたかったんじゃない。いさせられたんだ! 子供が契約なんてどういうものかわからないじゃないか! ずっと檻の中にいたいと思う!? 親離れの年をとうに越しても親の言うことをずっと聞いていたいと思う!?
自殺も親殺しもできないように作られてるから、今まで言うこときいてやったんだよ!!」
それがずっとユウの中に溜めこんでいたものなのだろう。
オレ達は、ずっと子供なわけじゃない。
自分が利用され、自由を制限されていることも十分理解している。
だから余計に苦しかった。
「落ち着け、ユウ」
アサに制され、全てを吐きだしたユウは、鼻息荒くオレと天空を交互に見たあと、背を向けて扉へと向かった。
同じくヒルもそれについていく。
「おい、どこ行く?」
一度立ち止まったヒルは、その質問を肩越しで答えた。
「過保護な生みの親は死んだ。もう血を与えてくれることも、任務を与えることもできない。だから、十分成長した雛鳥は巣立たなくては…」
「里を出ていくのか!?」
「あなたも出て行きたければ、勝手に出ていくといい。ヒル達は、暗がりの好きなコウモリとは違うのですよ」
そう言って、ヒルとユウは部屋を出て行った。
扉は静かに閉ざされ、部屋には天空の死体とオレとアサしか残っていない。
「……………」
出て行っても、行くあてはどこにもない。
だから、ここで育てられたのではないのか。
オレに独立なんてできるわけがない。
その時、後ろからアサに優しく抱きしめられ、体が硬直した。
「ワシも残る。おヌシとともに…。ヨル…」
背筋が凍りつき、冷や汗が頬を伝う。
さらに重い足枷が、音を立ててはめられたのを感じた。
「ゴルァアヨル!!」
「ふぁあ!?;」
飛段の怒声にビクッと体を震わせ、持っていたオールを落としそうになった。
「しっかり漕げェ! 全然進んでねーぞォ!!」
オレとしたことが、白昼夢を見ていたようだ。
照りつける太陽の下、オレ達は木製の小舟の上にいた。
オレと飛段はオールを漕いで船を進ませ、小舟の真ん中に座る角都は地図を見ながら「あそこだ」「違う」「右だ」と指示を出している。
「はいはい」と言ったオレはオールを再び漕ぎだす。
「逆だァ!!」
「えぇ?;」
オールなんて漕いだことがないからそう言われても仕方がない。
飛段は暑いせいかイライラしている様子だ。
今、頭に被っている桔梗笠に意味なんてあるのか。
太陽の光を遮っているだけでもマシだろう。
「角都! テメーも漕げコラァ!!」
「船を借りてやっただけでもありがたく思え」
角都は地図を見ながら返事を返した。
それでも飛段は吠える。
「水面歩行でもいいだろが!」
「またヨルに倒れられても迷惑だ」
「ヨル!!」
飛段がこちらを睨みつける。
「悪かったから静かにしろやかましい!!」
いい加減耳鳴りするような大声に、オレはさらに上回るような怒声を返した。
「アレか…」
角都は地図から顔を上げて呟き、オレと飛段はその視線を追った。
「「!?;」」
目の前には、ぐるりと断崖に囲まれた小島がそこにあった。
島の周りでは、ウミネコ(角都に教えてもらった)が飛び回りながら「ミャー」と鳴いている。
オールを止めてオレは角都に尋ねた。
「高っ! つか、アレ登れってか!?;」
小舟をつける岸も見当たらない。
小舟はこのまま置き去りにし、高い崖を登れと言いたいのか。
「登ったところで、ただの更地しかない」
そう言いながら地図を折りたたんで懐に戻した角都はすっくと立ち上がった。
「あァ?」と飛段は首を傾げる。
同じくオレも。
「登るのではなく、潜るのだ。オレの故郷と似たような入り方だな」
そして角都は笠をとり、「ついてこい」と言って、小舟から飛び降り、海の中へ潜っていってしまった。
「あ! 角都!」
飛段も追いかけようとしたが、オレはその裾をつかんで阻止した。
「待て待て待て!! オレ、海ん中泳いだことねーよ!!;」
泳いだと言ったら、泉か川くらいなものだ。
大体、オレは朱族の中であまり水泳は得意じゃない。
「息止めて、これ持っとけ!」
飛段は三連鎌のワイヤーをオレに持たせた。
そのあと、間髪入れずに海の中へと飛び込んだ。
オレもそれに引っ張られ、海の中へと落ちる。
口に少しだけ入ってしまい、しょっぱい味がした。
鼻をつまみ、海水が入らないようにする。
下へ下へと潜っていく飛段の先に角都の姿を確認した。
その角都の目指す先には大きな穴がぽっかりと空いていた。
どうやら、あそこが出入り口となっているようだ。
一度止まった角都は振り返ってオレ達の姿を確認したあと、こっちだ、と穴を指さし、その穴へと入っていった。
飛段もそれを追い、オレはただただ引っ張られるだけだった。
暗い穴が近づいたとき、オレの息もそろそろ限界になってきた。
飛段の背中を叩き、いそげ、と促す。
飛段は呆れたような表情を浮かべ、急げというのに止まってオレに振り返り、自分の唇を人差し指の指先でさして首を傾げた。
おそらく、こう言っているのだろう。
「空気、いる?」
ガボッ!!
理解したオレは一気に口の中の空気を出してしまい、飛段を通り越して急いで穴の中へ入っていった。
穴の先はL字型になっていて、途中で上にあがらなければならない。
オレは空気を求め、急いでその上へと上がり、水面から顔を出した。
「ぷはぁっ!;」
大きく息を吸い込み、空気を貪りながら水面から出る。
角都は先に到着していた。
「なんだ、息も続かんのか」
「はっ、はぁっ、ゲホゲホッ…;」
どう言い返していいのやら。
あとから飛段も水面から顔を出した。
「ぷはっ。ヨル、おまえなに気にして…、ガボッ!;」
オレはその頭のてっぺんを押さえつけ、水面下に戻そうとした。
「頼むからいっぺん闇で醒めろ~~~!!」
「がぼっ、うぶっ、なにす…!;」
飛段はバシャバシャと水飛沫を上げながら暴れるのだった。
そこは薄暗くて広い洞窟だった。
肌寒く、上から水滴の落ちる音が聞こえる。
ところどころ出入り口のような穴が空いていて、その先は迷路のようになっているのだろう。
外套が吸った水を絞りだしたあと、耳を澄ませてみる。
だが、“月代”の手がかりになる音はどこからも聞こえない。
もっと奥の方に進まなければわからない。
「どうだ?」
角都に問われて答える。
「微かに風の音はするけど、“月代”に関する音はなにも聞こえない」
そもそも、どんな音がするのか。
オレ達と同じく心臓が動いているか呼吸をしているかさえわからない。
「進むしかないな」
角都はため息とともに言ったが、オレは首を傾げて尋ねる。
「どの穴に?」
シラミ潰しに捜していると日が暮れてしまう。
「おいおい、まさかコレ全部回る気かよ。それならオレここで待ってるぜェ;」
飛段は早くも起動停止宣言をした。
角都がなにか言い返す前にオレは割り込んだ。
「分かれて別々の穴に入ろう」
「…合流はどうする気だ?」
「それなら手は打てる。2人とも、手を出せ」
「「?」」
角都と飛段は顔を見合わせたあと、オレに右手を差し出した。
オレは先に飛段の手に噛みついた。
血を吸ったわけじゃない。
「!」
オレが牙を離すと、飛段の手の甲には、オレの肩の刺青と同じコウモリのマークが浮き出てアザのようになっている。
同じく角都にも噛みつき、同じマークをつけた。
「んだァ? こりゃあ」
「“探知蝙蝠”だ。今から24時間、おまえらの位置と状態がそのアザからオレに伝わる。オレが“月代”を見つけたら“分身蝙蝠”をおまえらに飛ばす。逆に、おまえらのどちらかが“月代”を見つけたらアザを擦れ」
「なるほど。便利な力だ」
角都は腕を組みながら頷く。
少しはやる気になった飛段が、早速左端の穴へと向かった。
「それじゃ、オレはこっちの穴に行くぜー」
そしてしばらく、オレと角都がどの穴に向かうか相談していると、
「ギャー!!;」
飛段の悲鳴が穴の向こうから聞こえた。
罠にかかったのだろう。
「……あいつホントに不死身でよかったな;」
普通の人間なら死ぬ怪我を負っているが、また進み出したのでバラバラにはなっていないようだ。
それを角都に伝え、オレは斜め右の穴へと向かった。
角都は堂々と真ん中の道へ行くらしい。
穴の向こうは1本道となっていた。
途中で気付いたのだが、やや坂道になっていて上へ上へと上がっている。
罠にかかった飛段のこともあり、一応夢魔を握っていたのはやはり正解だった。
前から無数の風を切る音が聞こえ、夢魔を交互に振り上げたり振り下ろしたりすると、刃と刃がぶつかった。
前と左右からクナイが飛んでくる。
飛段もこれにかかったのだろう。
他にも、天井や左右の壁から槍が突き出てきたり、床には落とし穴があったり、他にも起爆札などが仕掛けられていた。
ドン!!
「くっ!」
起爆する寸前に前へ飛んだが、爆風に背中を押されてうつ伏せに倒れてしまった。
「よっぽど大事なお宝のようだな…」
頬に付着した湿った泥を手の甲で拭い、穴の向こうを睨みつけた。
これだけの罠が仕掛けられてあるのはオレのところだけじゃない。
角都も飛段も、同じような目に遭っているようだ。
角都の状態は良いままだが、飛段はまた何回か受けている。
「これでターゲットがいなかったら、持ち逃げヤローに闇で醒めてもらわねえとな…」
もっとも、あれから100年は経ってるから、普通の人間なら生きてはいないだろう。
だとすれば、“月代”もオレと同じ、行き場のない闇で孤独を味わっているのではないか。
.
「…天空…?」
いつもの時間に現れない天空が気になり、オレ達は勝手に檻を抜け出して天空の部屋へと様子を見に行った。
そこには、血まみれで、冷たい床にうつ伏せに倒れている天空の姿があった。
右手に薬の瓶を握りしめ、絶命していた。
最初に発見したのは、先に部屋に踏み込んだ、オレだ。
「天空!!」
天空に駆け寄って冷たい体を抱き起こし、呼びかける。
「起きろ、天空…!! …天空!! 天空!!!」
「死んでますよ、ヨル」
ヒルの冷たい言い方に、オレは振り返ってそいつを睨みつける。
「やっぱ人間、父親は人間」
ユウはヒルの隣に並び、同じようにオレと天空を冷たい目で見下ろした。
「やっと成長も止まったのに、生みの親がこのザマですか。ヒル達は、なんのために…」
「そんな言い方ないだろ! ボロボロの体引きずってまでオレ達を育ててくれたのに…!」
天空の年齢と姿は、朱族にはない「老人」というものになっていた。
黒かった髪はすっかり白くなり、皺も増え、齢70はとっくに超えていた。
それに、もともと体は弱い方で、寿命を少しでも長くするために薬を服用していたのも知っていた。
「兵器としてでしょう?」
ヒルのその言葉がオレの体に容赦なく突き刺さる。
「ボクは兵器としてこき使われるのはゴメンだって、前から思ってたね! ヨルは戦争したいの? 違うだろ? やっぱ良い子ぶってる。ヨルは良い子ぶってる!」
「そういう契約の元で天空の傍にいたんだろが!!」
オレは天空を床にそっと置き、立ち上がってユウと睨み合った。
ユウは爆発したように言い返してくる。
「いたかったんじゃない。いさせられたんだ! 子供が契約なんてどういうものかわからないじゃないか! ずっと檻の中にいたいと思う!? 親離れの年をとうに越しても親の言うことをずっと聞いていたいと思う!?
自殺も親殺しもできないように作られてるから、今まで言うこときいてやったんだよ!!」
それがずっとユウの中に溜めこんでいたものなのだろう。
オレ達は、ずっと子供なわけじゃない。
自分が利用され、自由を制限されていることも十分理解している。
だから余計に苦しかった。
「落ち着け、ユウ」
アサに制され、全てを吐きだしたユウは、鼻息荒くオレと天空を交互に見たあと、背を向けて扉へと向かった。
同じくヒルもそれについていく。
「おい、どこ行く?」
一度立ち止まったヒルは、その質問を肩越しで答えた。
「過保護な生みの親は死んだ。もう血を与えてくれることも、任務を与えることもできない。だから、十分成長した雛鳥は巣立たなくては…」
「里を出ていくのか!?」
「あなたも出て行きたければ、勝手に出ていくといい。ヒル達は、暗がりの好きなコウモリとは違うのですよ」
そう言って、ヒルとユウは部屋を出て行った。
扉は静かに閉ざされ、部屋には天空の死体とオレとアサしか残っていない。
「……………」
出て行っても、行くあてはどこにもない。
だから、ここで育てられたのではないのか。
オレに独立なんてできるわけがない。
その時、後ろからアサに優しく抱きしめられ、体が硬直した。
「ワシも残る。おヌシとともに…。ヨル…」
背筋が凍りつき、冷や汗が頬を伝う。
さらに重い足枷が、音を立ててはめられたのを感じた。
「ゴルァアヨル!!」
「ふぁあ!?;」
飛段の怒声にビクッと体を震わせ、持っていたオールを落としそうになった。
「しっかり漕げェ! 全然進んでねーぞォ!!」
オレとしたことが、白昼夢を見ていたようだ。
照りつける太陽の下、オレ達は木製の小舟の上にいた。
オレと飛段はオールを漕いで船を進ませ、小舟の真ん中に座る角都は地図を見ながら「あそこだ」「違う」「右だ」と指示を出している。
「はいはい」と言ったオレはオールを再び漕ぎだす。
「逆だァ!!」
「えぇ?;」
オールなんて漕いだことがないからそう言われても仕方がない。
飛段は暑いせいかイライラしている様子だ。
今、頭に被っている桔梗笠に意味なんてあるのか。
太陽の光を遮っているだけでもマシだろう。
「角都! テメーも漕げコラァ!!」
「船を借りてやっただけでもありがたく思え」
角都は地図を見ながら返事を返した。
それでも飛段は吠える。
「水面歩行でもいいだろが!」
「またヨルに倒れられても迷惑だ」
「ヨル!!」
飛段がこちらを睨みつける。
「悪かったから静かにしろやかましい!!」
いい加減耳鳴りするような大声に、オレはさらに上回るような怒声を返した。
「アレか…」
角都は地図から顔を上げて呟き、オレと飛段はその視線を追った。
「「!?;」」
目の前には、ぐるりと断崖に囲まれた小島がそこにあった。
島の周りでは、ウミネコ(角都に教えてもらった)が飛び回りながら「ミャー」と鳴いている。
オールを止めてオレは角都に尋ねた。
「高っ! つか、アレ登れってか!?;」
小舟をつける岸も見当たらない。
小舟はこのまま置き去りにし、高い崖を登れと言いたいのか。
「登ったところで、ただの更地しかない」
そう言いながら地図を折りたたんで懐に戻した角都はすっくと立ち上がった。
「あァ?」と飛段は首を傾げる。
同じくオレも。
「登るのではなく、潜るのだ。オレの故郷と似たような入り方だな」
そして角都は笠をとり、「ついてこい」と言って、小舟から飛び降り、海の中へ潜っていってしまった。
「あ! 角都!」
飛段も追いかけようとしたが、オレはその裾をつかんで阻止した。
「待て待て待て!! オレ、海ん中泳いだことねーよ!!;」
泳いだと言ったら、泉か川くらいなものだ。
大体、オレは朱族の中であまり水泳は得意じゃない。
「息止めて、これ持っとけ!」
飛段は三連鎌のワイヤーをオレに持たせた。
そのあと、間髪入れずに海の中へと飛び込んだ。
オレもそれに引っ張られ、海の中へと落ちる。
口に少しだけ入ってしまい、しょっぱい味がした。
鼻をつまみ、海水が入らないようにする。
下へ下へと潜っていく飛段の先に角都の姿を確認した。
その角都の目指す先には大きな穴がぽっかりと空いていた。
どうやら、あそこが出入り口となっているようだ。
一度止まった角都は振り返ってオレ達の姿を確認したあと、こっちだ、と穴を指さし、その穴へと入っていった。
飛段もそれを追い、オレはただただ引っ張られるだけだった。
暗い穴が近づいたとき、オレの息もそろそろ限界になってきた。
飛段の背中を叩き、いそげ、と促す。
飛段は呆れたような表情を浮かべ、急げというのに止まってオレに振り返り、自分の唇を人差し指の指先でさして首を傾げた。
おそらく、こう言っているのだろう。
「空気、いる?」
ガボッ!!
理解したオレは一気に口の中の空気を出してしまい、飛段を通り越して急いで穴の中へ入っていった。
穴の先はL字型になっていて、途中で上にあがらなければならない。
オレは空気を求め、急いでその上へと上がり、水面から顔を出した。
「ぷはぁっ!;」
大きく息を吸い込み、空気を貪りながら水面から出る。
角都は先に到着していた。
「なんだ、息も続かんのか」
「はっ、はぁっ、ゲホゲホッ…;」
どう言い返していいのやら。
あとから飛段も水面から顔を出した。
「ぷはっ。ヨル、おまえなに気にして…、ガボッ!;」
オレはその頭のてっぺんを押さえつけ、水面下に戻そうとした。
「頼むからいっぺん闇で醒めろ~~~!!」
「がぼっ、うぶっ、なにす…!;」
飛段はバシャバシャと水飛沫を上げながら暴れるのだった。
そこは薄暗くて広い洞窟だった。
肌寒く、上から水滴の落ちる音が聞こえる。
ところどころ出入り口のような穴が空いていて、その先は迷路のようになっているのだろう。
外套が吸った水を絞りだしたあと、耳を澄ませてみる。
だが、“月代”の手がかりになる音はどこからも聞こえない。
もっと奥の方に進まなければわからない。
「どうだ?」
角都に問われて答える。
「微かに風の音はするけど、“月代”に関する音はなにも聞こえない」
そもそも、どんな音がするのか。
オレ達と同じく心臓が動いているか呼吸をしているかさえわからない。
「進むしかないな」
角都はため息とともに言ったが、オレは首を傾げて尋ねる。
「どの穴に?」
シラミ潰しに捜していると日が暮れてしまう。
「おいおい、まさかコレ全部回る気かよ。それならオレここで待ってるぜェ;」
飛段は早くも起動停止宣言をした。
角都がなにか言い返す前にオレは割り込んだ。
「分かれて別々の穴に入ろう」
「…合流はどうする気だ?」
「それなら手は打てる。2人とも、手を出せ」
「「?」」
角都と飛段は顔を見合わせたあと、オレに右手を差し出した。
オレは先に飛段の手に噛みついた。
血を吸ったわけじゃない。
「!」
オレが牙を離すと、飛段の手の甲には、オレの肩の刺青と同じコウモリのマークが浮き出てアザのようになっている。
同じく角都にも噛みつき、同じマークをつけた。
「んだァ? こりゃあ」
「“探知蝙蝠”だ。今から24時間、おまえらの位置と状態がそのアザからオレに伝わる。オレが“月代”を見つけたら“分身蝙蝠”をおまえらに飛ばす。逆に、おまえらのどちらかが“月代”を見つけたらアザを擦れ」
「なるほど。便利な力だ」
角都は腕を組みながら頷く。
少しはやる気になった飛段が、早速左端の穴へと向かった。
「それじゃ、オレはこっちの穴に行くぜー」
そしてしばらく、オレと角都がどの穴に向かうか相談していると、
「ギャー!!;」
飛段の悲鳴が穴の向こうから聞こえた。
罠にかかったのだろう。
「……あいつホントに不死身でよかったな;」
普通の人間なら死ぬ怪我を負っているが、また進み出したのでバラバラにはなっていないようだ。
それを角都に伝え、オレは斜め右の穴へと向かった。
角都は堂々と真ん中の道へ行くらしい。
穴の向こうは1本道となっていた。
途中で気付いたのだが、やや坂道になっていて上へ上へと上がっている。
罠にかかった飛段のこともあり、一応夢魔を握っていたのはやはり正解だった。
前から無数の風を切る音が聞こえ、夢魔を交互に振り上げたり振り下ろしたりすると、刃と刃がぶつかった。
前と左右からクナイが飛んでくる。
飛段もこれにかかったのだろう。
他にも、天井や左右の壁から槍が突き出てきたり、床には落とし穴があったり、他にも起爆札などが仕掛けられていた。
ドン!!
「くっ!」
起爆する寸前に前へ飛んだが、爆風に背中を押されてうつ伏せに倒れてしまった。
「よっぽど大事なお宝のようだな…」
頬に付着した湿った泥を手の甲で拭い、穴の向こうを睨みつけた。
これだけの罠が仕掛けられてあるのはオレのところだけじゃない。
角都も飛段も、同じような目に遭っているようだ。
角都の状態は良いままだが、飛段はまた何回か受けている。
「これでターゲットがいなかったら、持ち逃げヤローに闇で醒めてもらわねえとな…」
もっとも、あれから100年は経ってるから、普通の人間なら生きてはいないだろう。
だとすれば、“月代”もオレと同じ、行き場のない闇で孤独を味わっているのではないか。
.