11:無力を与え
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*角都
あれから1日が経過した。
ヨルと飛段を回収したオレは、宿泊している宿に戻り、2人の外套を脱がして布団に寝かせた。
それから1時間ほど様子を見ていたが、一向に回復する気配もなかった。
おそらく、ヒルの吐いたあの蛭が原因だろう。
喰沼を食らった時も、ヨルはその蛭に血を吸われていた。
あの蛭は血を吸うだけではなく、傷口から体内に入り込むようだ。
オレの場合、地怨虞が、体内に入り込もうとする有害物(蛭)を押し出してくれるため、蛭に侵されずに済んだ。
飛段の額に手を当てる。
昨夜より熱が上がっていた。
同じくヨルも。
死ねない体と死ににくい体だが、この状態が続けばいつまで経っても宿から発つことができない。
「……遅い…」
寝かした2人の前で胡坐をかいて腕組みをしていたオレは苛立ちを含めて呟いた。
こういう事態が起きた場合、不本意だが奴に頼るしかない。
連絡したのは2人の様子を見てすぐだった。
「待っていろ」と言ってあと何時間待たせる気なのか。
「か…くず…」
「!」
飛段の瞳とぶつかった。
目をしっかりと開けることすら億劫そうだ。
「ヨル…は…?」
呼吸を荒くしながらオレに問うた。
「貴様の隣で眠っている」
頭痛と吐き気が酷いのか、首を動かそうとせず「そうか」と言って続ける。
「オレは…、ともかく…、ヤベーんじゃ…ねえの…?」
死ねない体と死ににくい体はだいぶ違う。
ヨルには飛段にはない“死”も持っているのだ。
飛段はそれを心配していた。
「喋るな。悪化するぞ、飛段」
オレはそれには答えず、飛段の額に手をのせて安静を促す。
「ん……」
飛段は返事を返したあと、再び目を閉じて眠りについた。
「……………」
2人の寝顔を見つめ、水を持ってきてやるかと立ち上がろうとしたとき、
「子守りは大変そうだな、角都」
「!」
声が聞こえた、開け放たれた窓に顔を上げると、粘土の鳥に乗ったサソリとデイダラがそこにいた。
「遅いぞ、サソリ、デイダラ」
その言葉とともに2人を睨みつける。
「これでも飛ばしてきてやったんだ。文句より感謝してほしいくらいだ、うん」
「まさか、おまえから頼みごとされる日がくるとはな」
気にしていることをサソリに言われ、「黙れ、殺すぞ」と言い返しそうになるのを堪える。
今は下手に出なければ、目の前で寝込んでいる連れの治療をしてもらえない。
巨大な粘土の鳥を小型に戻したデイダラは、ヨルの横に座り、その寝顔を窺った。
「こいつが“朱族”か。見た目は顔のいい兄ちゃんだな、うん」
「デイダラ、そいつは女だ」
「うん!?;」
人形越しからでも、普段傀儡を扱っているサソリにはわかったようだ。
驚いたデイダラはもう一度ヨルを眺めた。
「まさに、永遠の美。“朱族”ってのはどうやってそれを手に入れたのか興味が湧くな」
「サソリの旦那、この姉ちゃんは確かに綺麗だが、枯れない花に“美”の意味はねーんじゃねえか? うん」
「枯れた花に“美”が残るとでも思ってんのか?」
いい加減苛立ちを押さえることに耐えかねたオレは、右手のコブシを畳にたたきつけ、サソリとデイダラのくだらない口争いを止めた。
2人の顔がこちらに向けられ、オレは低い声で言う。
「いい加減にしろ。貴様らのくだらん美学論を聴くために呼んだわけではない。サソリ、わかっているな?」
オレが頼んだことを忘れたとは言わせない。
サソリはため息をつき、ヒルコの体から出てきた。
「今月の給料上げろよ、角都」
そう言ったあと、飛段とヨルの間に入って片膝をつき、体を調べ始めた。
最初に調べ始めたのは飛段の体だ。
額に手を当てて熱の温度を確認したり、目を開かせたり、片手でアゴをつかんで口の中を覗き込んだり、脈を確認したりなど。
調べ方は医者と変わりはない。
「…毒をもらってる。おまえが最初に言ってた蛭が原因だな」
「…入り込んだ蛭はどうなった?」
「数分で体内で溶けて、毒そのものと化している。じわじわと熱を上げ、全身に苦痛を与えた挙句、3日後にはあの世行きだ。術者はよっぽどのドSだな。話が合うんじゃないか?」
サソリはそう一笑し、肩越しにオレを見た。
貴様も人のことが言えるのか、とオレは睨みつけながら肝心なことを尋ねる。
「それで、治せるのか?」
「オレの毒より弱い。この程度の毒なら、半日ありゃ薬が作れる」
さっそくサソリは準備にとりかかった。
「ギャ―――!!;」
「「!?」」
突然悲鳴を上げたデイダラに振り返ると、寝惚けたヨルがデイダラの髷をしっかりとつかんでいた。
「オイラの髷が―――!」
サソリに解毒剤を打たれ、数分後、飛段とヨルの呼吸が楽になっていくのが確認できた。
飛段の額に手を当てれば熱も徐々に下がってきている。
「…礼を言う」
「心こもってねーぜ」
いちいち指摘するな。
「旦那、髷おかしくねえか? うん?;」
「フサフサが逆になってるぞ」
ちなみに、しっかりと髷を握ったヨルの手をオレとサソリの2人がかりで外してやった。
「角都」
サソリの声が突然真剣になり、続けられる。
「ついでに任務ももってきてやった」
「任務だと?」
オレの片眉がつり上がる。
「リーダーに頼まれたんだ。角都達に伝えてくれってな」
「オレ達ではないとダメな理由でもあるのか?」
「“朱族”をつれてる。理由はそれだ」
そう言われ、ヨルを一瞥した。
「朱族関係か?」
「ああ。…“月代”を捜せ、だそうだ」
「“月代”?」
ヨルの口からも聞いたことのない名前だ。
「5人目の朱族だ」
「! 4人だけではなかったのか…」
「それは鬼隠れの里の朱族共だ。5人目は、持ち逃げされた奴だ」
「持ち逃げだと?」
「朱族の生みの親の部下が、余ったバケモノの肉片とカプセルに入った実験体のガキを持ち出し、この海の国へ逃げたそうだ。もう何十年になることやら…。それと、居場所の地図、渡すようにも言われてる」
懐からその地図を取り出そうとしたサソリをオレは手で制し、待ったをかけた。
「ちょっと待て。なぜそんな情報を知っている?」
いくら“暁”といえど、世の中に知られることのなかった“朱族”について知りすぎじゃないのか。
「オレに聞くな。とりあえず、おまえらの任務は、その“月代”を保護するか始末するかしろってことだ。あれは相当な危険物らしいからな」
「ヨルと同じではないのか?」
「そこまでは聞いてねえよ。テメーらの任務だからな」
知ったことではない、か。
「だったら…、早くしねーと…」
「!」
どこから聞いていたのか、ヨルは上半身を起こし、苦しげに布団を握りしめてこちらに顔を向けた。
「ヒルのヤローも…、それを捜してやがった…。居場所は知らねえみたいだったけど…、この国にあるってんなら…」
見世物小屋で、オレがいない間にヒルから聞いたのか。
それが本当なら、先に見つけられるのも時間の問題だろう。
「動けるか?」
「…ああ」
どう見てもまだ安静にした方がいい状態だが、ヨルの回復力に任せるしかない。
飛段もとっくに回復しているはずだ。
「角都」
サソリはオレに地図と小瓶を渡して言葉を続ける。
「また遠方から呼び出されちゃ面倒だからな。そいつと争奪戦になるなら、持って行け」
デイダラは窓の外に向けて小型の鳥を投げ、巨大に変えた。
その上に乗り、続いてヒルコに戻ったサソリも乗る。
「ヨルとか言ったな。髷のカリはいつか返す。うん(怒)」
「またな、ゾンビトリオ」
言いたいことだけ言ってサソリとデイダラは粘土の鳥に乗って飛び去っていった。
「暁って、綺麗ものが多いな」
ベッドから起き上がったヨルは、そう呟きながら暁の外套を着た。
オレも飛段を叩き起こさなくては。
.
あれから1日が経過した。
ヨルと飛段を回収したオレは、宿泊している宿に戻り、2人の外套を脱がして布団に寝かせた。
それから1時間ほど様子を見ていたが、一向に回復する気配もなかった。
おそらく、ヒルの吐いたあの蛭が原因だろう。
喰沼を食らった時も、ヨルはその蛭に血を吸われていた。
あの蛭は血を吸うだけではなく、傷口から体内に入り込むようだ。
オレの場合、地怨虞が、体内に入り込もうとする有害物(蛭)を押し出してくれるため、蛭に侵されずに済んだ。
飛段の額に手を当てる。
昨夜より熱が上がっていた。
同じくヨルも。
死ねない体と死ににくい体だが、この状態が続けばいつまで経っても宿から発つことができない。
「……遅い…」
寝かした2人の前で胡坐をかいて腕組みをしていたオレは苛立ちを含めて呟いた。
こういう事態が起きた場合、不本意だが奴に頼るしかない。
連絡したのは2人の様子を見てすぐだった。
「待っていろ」と言ってあと何時間待たせる気なのか。
「か…くず…」
「!」
飛段の瞳とぶつかった。
目をしっかりと開けることすら億劫そうだ。
「ヨル…は…?」
呼吸を荒くしながらオレに問うた。
「貴様の隣で眠っている」
頭痛と吐き気が酷いのか、首を動かそうとせず「そうか」と言って続ける。
「オレは…、ともかく…、ヤベーんじゃ…ねえの…?」
死ねない体と死ににくい体はだいぶ違う。
ヨルには飛段にはない“死”も持っているのだ。
飛段はそれを心配していた。
「喋るな。悪化するぞ、飛段」
オレはそれには答えず、飛段の額に手をのせて安静を促す。
「ん……」
飛段は返事を返したあと、再び目を閉じて眠りについた。
「……………」
2人の寝顔を見つめ、水を持ってきてやるかと立ち上がろうとしたとき、
「子守りは大変そうだな、角都」
「!」
声が聞こえた、開け放たれた窓に顔を上げると、粘土の鳥に乗ったサソリとデイダラがそこにいた。
「遅いぞ、サソリ、デイダラ」
その言葉とともに2人を睨みつける。
「これでも飛ばしてきてやったんだ。文句より感謝してほしいくらいだ、うん」
「まさか、おまえから頼みごとされる日がくるとはな」
気にしていることをサソリに言われ、「黙れ、殺すぞ」と言い返しそうになるのを堪える。
今は下手に出なければ、目の前で寝込んでいる連れの治療をしてもらえない。
巨大な粘土の鳥を小型に戻したデイダラは、ヨルの横に座り、その寝顔を窺った。
「こいつが“朱族”か。見た目は顔のいい兄ちゃんだな、うん」
「デイダラ、そいつは女だ」
「うん!?;」
人形越しからでも、普段傀儡を扱っているサソリにはわかったようだ。
驚いたデイダラはもう一度ヨルを眺めた。
「まさに、永遠の美。“朱族”ってのはどうやってそれを手に入れたのか興味が湧くな」
「サソリの旦那、この姉ちゃんは確かに綺麗だが、枯れない花に“美”の意味はねーんじゃねえか? うん」
「枯れた花に“美”が残るとでも思ってんのか?」
いい加減苛立ちを押さえることに耐えかねたオレは、右手のコブシを畳にたたきつけ、サソリとデイダラのくだらない口争いを止めた。
2人の顔がこちらに向けられ、オレは低い声で言う。
「いい加減にしろ。貴様らのくだらん美学論を聴くために呼んだわけではない。サソリ、わかっているな?」
オレが頼んだことを忘れたとは言わせない。
サソリはため息をつき、ヒルコの体から出てきた。
「今月の給料上げろよ、角都」
そう言ったあと、飛段とヨルの間に入って片膝をつき、体を調べ始めた。
最初に調べ始めたのは飛段の体だ。
額に手を当てて熱の温度を確認したり、目を開かせたり、片手でアゴをつかんで口の中を覗き込んだり、脈を確認したりなど。
調べ方は医者と変わりはない。
「…毒をもらってる。おまえが最初に言ってた蛭が原因だな」
「…入り込んだ蛭はどうなった?」
「数分で体内で溶けて、毒そのものと化している。じわじわと熱を上げ、全身に苦痛を与えた挙句、3日後にはあの世行きだ。術者はよっぽどのドSだな。話が合うんじゃないか?」
サソリはそう一笑し、肩越しにオレを見た。
貴様も人のことが言えるのか、とオレは睨みつけながら肝心なことを尋ねる。
「それで、治せるのか?」
「オレの毒より弱い。この程度の毒なら、半日ありゃ薬が作れる」
さっそくサソリは準備にとりかかった。
「ギャ―――!!;」
「「!?」」
突然悲鳴を上げたデイダラに振り返ると、寝惚けたヨルがデイダラの髷をしっかりとつかんでいた。
「オイラの髷が―――!」
サソリに解毒剤を打たれ、数分後、飛段とヨルの呼吸が楽になっていくのが確認できた。
飛段の額に手を当てれば熱も徐々に下がってきている。
「…礼を言う」
「心こもってねーぜ」
いちいち指摘するな。
「旦那、髷おかしくねえか? うん?;」
「フサフサが逆になってるぞ」
ちなみに、しっかりと髷を握ったヨルの手をオレとサソリの2人がかりで外してやった。
「角都」
サソリの声が突然真剣になり、続けられる。
「ついでに任務ももってきてやった」
「任務だと?」
オレの片眉がつり上がる。
「リーダーに頼まれたんだ。角都達に伝えてくれってな」
「オレ達ではないとダメな理由でもあるのか?」
「“朱族”をつれてる。理由はそれだ」
そう言われ、ヨルを一瞥した。
「朱族関係か?」
「ああ。…“月代”を捜せ、だそうだ」
「“月代”?」
ヨルの口からも聞いたことのない名前だ。
「5人目の朱族だ」
「! 4人だけではなかったのか…」
「それは鬼隠れの里の朱族共だ。5人目は、持ち逃げされた奴だ」
「持ち逃げだと?」
「朱族の生みの親の部下が、余ったバケモノの肉片とカプセルに入った実験体のガキを持ち出し、この海の国へ逃げたそうだ。もう何十年になることやら…。それと、居場所の地図、渡すようにも言われてる」
懐からその地図を取り出そうとしたサソリをオレは手で制し、待ったをかけた。
「ちょっと待て。なぜそんな情報を知っている?」
いくら“暁”といえど、世の中に知られることのなかった“朱族”について知りすぎじゃないのか。
「オレに聞くな。とりあえず、おまえらの任務は、その“月代”を保護するか始末するかしろってことだ。あれは相当な危険物らしいからな」
「ヨルと同じではないのか?」
「そこまでは聞いてねえよ。テメーらの任務だからな」
知ったことではない、か。
「だったら…、早くしねーと…」
「!」
どこから聞いていたのか、ヨルは上半身を起こし、苦しげに布団を握りしめてこちらに顔を向けた。
「ヒルのヤローも…、それを捜してやがった…。居場所は知らねえみたいだったけど…、この国にあるってんなら…」
見世物小屋で、オレがいない間にヒルから聞いたのか。
それが本当なら、先に見つけられるのも時間の問題だろう。
「動けるか?」
「…ああ」
どう見てもまだ安静にした方がいい状態だが、ヨルの回復力に任せるしかない。
飛段もとっくに回復しているはずだ。
「角都」
サソリはオレに地図と小瓶を渡して言葉を続ける。
「また遠方から呼び出されちゃ面倒だからな。そいつと争奪戦になるなら、持って行け」
デイダラは窓の外に向けて小型の鳥を投げ、巨大に変えた。
その上に乗り、続いてヒルコに戻ったサソリも乗る。
「ヨルとか言ったな。髷のカリはいつか返す。うん(怒)」
「またな、ゾンビトリオ」
言いたいことだけ言ってサソリとデイダラは粘土の鳥に乗って飛び去っていった。
「暁って、綺麗ものが多いな」
ベッドから起き上がったヨルは、そう呟きながら暁の外套を着た。
オレも飛段を叩き起こさなくては。
.