11:無力を与え
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*ヨル
角都の背中から頭刻苦が出てくる。
それは角都の横に並び、オレの方に向いた。
「火遁・頭刻苦」
角都が印を結ぶと、頭刻苦は口をパカッと開け、炎を放出した。
「わっ!」
オレは思わず目をつぶって顔を伏せる。
オレを押さえていたゾンビ達が上半身に炎に焼かれ、オレは背中に熱気を感じてその熱さのあまり、ゾンビ達の力が緩んだ隙に急いで這い出た。
背後に振り返ると、燃え上がるゾンビ達はだんだん動きが鈍くなり、やがて灰になった。
「オレの腐れゾンビ共を…」
ヒシギが舌打ちをする。
「カッコつけー」
角都の手にぶら下がってる飛段が言った。
「角都、助けに…」
オレが言いかけたとき、
ガン!
「「ゲハッ!;」」
いきなり飛段の首を額にぶつけられ、仰向けに倒れた。
思わず飛段の叫びを上げてしまった。
真上に飛び、落ちてきた飛段の首を仰向け状態のまま両手でキャッチする。
「貴様ら…」
角都がこちらに近づいてくる。
なにを言われるかと思えば、
「目当ての賞金首を見つけるとは、よくやった」
褒められてしまった。
「「やったことと言ってること違くねえ!?;」」
オレと飛段は同時にツッコんだ。
オレ達が抜け出したことは怒ってるわけだ。
「つーか、よくオレらの居場所がわかったなァ;」
「オレがコウモリ飛ばしたんだよ;」
見世物小屋に入る前にオレは、もしもの時を考えて音寄せで1匹のコウモリを呼び、角都のところへ飛ばしていた。
角都の視線が見世物小屋の壁にめり込んでいるヒルに移る。
「“ジョーカー”というのは、貴様か…」
「…くくっ、今でもそう呼ばれているのですか…。あなた、賞金稼ぎですね?」
立ち上がったヒルの瞳は、黒から朱色に変わっていた。
表情は冷静だが、興奮している。
「後ろの4人も、ビンゴブックに載っていたな…」
角都も表情は冷静だが、あれは絶対喜んでいる。
懐からビンゴブックを取り出して確認した。
「あらら、もうひとり来たわよ。強そうねぇ」とココロ。
「オレの腐れゾンビにしていいか」とヒシギ。
「ヒル、楽しそう…」とミツバ。
「食事時以外、あの瞳を見るのは久方ぶりだ」とスペード。
ヒルは立ち上がり、口元の血を長い舌で舐めとったあと、飛段の体の傍に立ち、背後のココロ達に命令する。
「あなた達は先に行っていなさい。アレを探さなくてはいけませんからね」
「アンタはどうする?」
ヒシギに問われ、ヒルは不気味な笑みをこちらに向けて答える。
「ヨルの“所有物”を壊してからいきます」
“所有物”というのは、角都と飛段のことだろう。
「出た、ヒルのいびり」
「追い付いてきてよねぇ」
ミツバとココロがそう言ったあと、日ノ輪のメンバーは煙とともに消えてしまった。
「部下を残さなくてよかったのか?」
角都に問われ、ヒルは笑いを含めて答える。
「ええ。ヒルは部下達にどん引きされたくありませんから」
オレは飛段を左手に抱えて立ち上がった。
ヒルの視線が角都からオレに移る。
「まさか…、ヨルが賞金稼ぎになっていたとは…」
落胆しているように聞こえ、ムッとした。
「賞金首になり下がった奴に言われたくねーな。つーか、オレのはバイトだ、バイト」
「ヨル、やはり奴はおまえの同族か?」
角都に問われ、オレは答える。
「ああ。“朱族”の光陽ヒル。脆いものは徹底的に壊す最悪のいびり屋だ」
始末屋時代の時は、目に入った無関係な子供まで散々痛めつけた挙句殺していたのを覚えている。
同族愛もなく、朱族の中では一番血に飢えていた奴だ。
「強気になりましたねぇ、ヨル。50年の歳月は脆弱な鬼をも変える」
「言いたいことはそれだけか?」
右手の夢魔をヒルに向ける。
「ヒルを殺す気ですか?」
「飛段の首を刎ねた時点で、テメーは完全にオレの敵だ。よって、血の夢を見せてやる」
「ふ…。そういう口まで利けるようになりましたか」
ヒルは死吹をこちらに向ける。
「!」
同時に、殺気を送ってきた。
肌がピリピリする。
「くるぞ!」
「わかってる!」
2対1(飛段は首だけなので戦力外)という状況に関わらず、ヒルは死吹を振り回しながら向かってきた。
角都の前に移動し、連続の突きを食らわす。
「!」
角都は体を硬化させ、顔の前で腕を交差させて身を守っている。
「ほう? 硬化ですか」
その隙にオレは背後を狙った。
ヒルの背中に向けて夢魔を振り下ろす。
「見えてますよ、ヨル」
ガキィン!
「!?」
鎖分銅がオレの夢魔の刃を横から砕いた。
そのあと鎖分銅が宙で曲がり、オレの顔面目掛けて飛んでくる。
「くっ」
咄嗟に首を傾けたが、頬をかすめ、そこから血が流れた。
「チッ」
舌打ちをし、右手用の夢魔の柄を捨て、飛段と左手用の夢魔を持ちかえて再びヒルに向かった。
また鎖分銅が襲いかかってくる。
それを自由自在に操るヒルは、角都に連続突きを浴びせている。
あれでは角都が印が結べないから頭刻苦が発動できない。
鎖分銅の重さはオレの夢魔以上だ。
まともに受けたらまた粉々に砕かれてしまう。
ならば、とオレは音寄せを発動した。
コウモリ達が見世物小屋に入り、ヒルに襲いかかる。
視界も見えにくいはずだ。
「!」
頭上のコウモリ達を払うヒルに隙ができた。
「角都!」
声をかける前に角都はすでに印を組んでいた。
「火遁・頭刻苦!」
角都の前に飛びだした頭刻苦がヒルに向けて炎を吐く。
ゴッ!!
勢いのありすぎた炎は見世物小屋ごと吹っ飛ばした。
危うくオレと飛段まで巻き添えを食らいそうになった。
煙の臭いが目にしみる。
「オレ達まで焼く気かよォ!?」
「テメーの攻撃はいちいちデカすぎだっての!」
ゲホゲホと咳をしながら飛段とオレは角都を睨みつける。
角都は肩にかかった灰を払いながら冷たく言った。
「オレが術を発動させると承知していたなら避けろ」
「どう避けろってんだ!?」
「つか、オレの体はァ!?;」
飛段は目だけキョロキョロさせて自分の体を捜す。
オレも捜すが、さっきまであった場所にはなかった。
まさか、灰になったんじゃないか。
「なるほど」
「!!」
オレと角都は吹き飛ばし損ねた舞台に振り返った。
そこには、飛段の体を持った半裸ヒルが立っていた。
右手で顔の右半分を覆い、左目はこちらを睨んでいる。
「少しは使える所有物のようですね」
「まだ生きてたのか」
「朱族とはしぶといものだな」
オレと角都は舞台に飛び乗り、離れた位置から向かい合った。
「確かに直撃したのに…」
「あのコート、耐熱用か」
角都がそう言って、どうやって小ダメージで済んだのか理解した。
頭刻苦の炎が直撃する寸前、ヒルは外套を素早く脱ぎ、一瞬だけ活用できる盾にしたようだ。
「このヒルに火傷を負わせるとは…、大したガキですねぇ」
言葉には明らかに怒りが含まれている。
ヒルの右手が顔から離れる。
そこは火傷でただれていた。
ガキというのは角都のことだ。
「角都のことガキって言えるのって、朱族だけだよなァ(汗)」
オレが思ったことをそのまま口にする飛段。
「仕置きが必要ですねぇ…」
一歩前に出たヒルは死吹を自分の前に突き刺し、印を結んだ。
「!!」
勘が正しければ、始末屋時代に使用していたあの術を使う気だ。
「角都! 離れろ!」
オレが叫んだと同時に、角都はオレの手から飛段の首を取り上げ、ヒル目掛けて投げつける。
「え!?;」
「ハァ!!?;」
オレと飛段は驚きの声を上げた。
「もう遅い」
ヒルは上半身を反らして飛段の首を避ける。
目的を失った飛段の首は自分の体に命中し、舞台の床に転がった。
「テメー、角都ゥ!!」
喚き始めた飛段。
そんなことされたらオレでも怒る。
「“喰沼”」
印を結び終えたヒルは前屈みになり、オレ達に向けて大量の泥を吐きだした。
「!?」
ヒルの後ろ以外、舞台の床がすべて泥で覆われる。
オレと角都のくるぶしまで浸かった。
「ヤバい…」
「なんだコレは…」
泥はすぐに固まり、足を動けなくする。
力んで持ち上げることもできない。
「う…っ」
持っていた夢魔が液化した。
「!?」
角都も異変に気付いたようだ。
苦しげに顔をしかめている。
「く…っ」
「どうです? じわじわとチャクラが奪われていく気分は…」
脱力感と疲労感に襲われ、オレと角都は片膝をついた。
続いて寒気と眠気まで体に圧し掛かってくる。
「これは…、チャクラを吸収するのか…」
「ぬ…、沼から死吹へ、死吹からヒルへと…、奪ったチャクラを食ってるんだ…」
まさにいびり向きの術だ。
「“毒寄せ”」
泥の中から無数の蛭が湧き出てオレと角都の体に這い上がってくる。
「う…!」
服の隙間から入り、肌に吸いついて血を啜りだした。
痛みはないが、血を啜られているのが伝わってくる。
「ヨル、アレに弱点はないのか…?」
ヒルはチャクラを食う力のために自分のチャクラを流し込んでいる。
そして食ったチャクラをまた食うためのチャクラへと変えている。
オレ達のチャクラが完全に尽きるまでそれは止まらない。
「沼から死吹を引っこ抜くか…、ヒルが死吹を離すかしないと…」
早くも喉が渇いてきた。
この術にかかった強い忍達が何度無力に変えられたことか。
チャクラを食われている間、動きどころか術まで封じられてしまう。
オレの夢魔も出現できない。
どうする…。
自分に問うたとき、角都は言った。
「―――だそうだ、飛段」
「!!」
ズバン!!
下から振り上げられた三連鎌が、死吹を握るヒルの右手首を切り落とした。
「ぐ!?」
ヒルは咄嗟に左手で傷口を押さえて止血し、向かってくる三連鎌の刃を飛び退いて避けた。
「ゲハハハ!! さっきの仕返しだ、バァーカ!!」
首と胴体が繋がった飛段が高笑いしている。
「ど…、どうして首が…!」
復活した飛段にヒルは動揺を隠せない。
それはオレも同じだった。
飛段はニィッと笑い、右手に持っていたものを角都に放り投げた。
それは角都の、切り離された右手だった。
「あの時か…!」
オレは思わず声を上げた。
飛段の首を投げたとき、そのまま切り離した自分の手と一緒に投げた。
ヒルがこちらに集中している隙に首と胴体を繋げたようだ。
右手は角都の右袖に入り、もとに戻る。
死吹とヒルが離れている間に、角都は印を結んで両腕を硬化させ、自分とオレの足を捉えている固まった泥を粉々に砕いた。
おかげで抜け出すことができた。
「死ねェ!!」
飛段が三連鎌を横に振ったとき、
「なあ!?」
ヒルは口から大量の蛭を吐きだした。
まともに食らった飛段はその場に尻餅をつく。
ヒルは片手で印を結びだした。
オレに顔を向け、額に汗を浮かべながら笑みを浮かべる。
「また会いましょう、ヨル」
まるで執着の強い蛇のような目だ。
そして、舞台の床を砕き、下へ逃げてしまった。
「待て!!」
急いで穴の空いた床に駆け寄って下を覗く。
下の地面には穴が空いていた。
地面に潜って逃走したのだろう。
耳を澄ませるが、掘り進む音はもはや追い付けない場所へと移動している。
「逃げられた…!」
しかし、言葉とは裏腹にどこかで安堵している自分がいた。
オレは立ち上がり、飛段へと駆け寄る。
「飛段、無事か!?」
その時、
「…!?」
目眩を覚え、うつ伏せに倒れた。
ガクガクと体が痙攣し、唐突な吐き気と頭痛がオレを襲う。
「ヨル!」
角都の声が聞こえる。
見上げようとしたが体が思うように動かない。
「飛段!」
その声で、近くで倒れている飛段を見た。
オレと同じ状態になっている。
額に汗を浮かべながらガクガクと痙攣し、息も荒く、不死身なのに死にそうな真っ青な顔だ。
ヤバい…。
これ…、死ぬ…。
オレの意識が静かに遠のいていく。
.
角都の背中から頭刻苦が出てくる。
それは角都の横に並び、オレの方に向いた。
「火遁・頭刻苦」
角都が印を結ぶと、頭刻苦は口をパカッと開け、炎を放出した。
「わっ!」
オレは思わず目をつぶって顔を伏せる。
オレを押さえていたゾンビ達が上半身に炎に焼かれ、オレは背中に熱気を感じてその熱さのあまり、ゾンビ達の力が緩んだ隙に急いで這い出た。
背後に振り返ると、燃え上がるゾンビ達はだんだん動きが鈍くなり、やがて灰になった。
「オレの腐れゾンビ共を…」
ヒシギが舌打ちをする。
「カッコつけー」
角都の手にぶら下がってる飛段が言った。
「角都、助けに…」
オレが言いかけたとき、
ガン!
「「ゲハッ!;」」
いきなり飛段の首を額にぶつけられ、仰向けに倒れた。
思わず飛段の叫びを上げてしまった。
真上に飛び、落ちてきた飛段の首を仰向け状態のまま両手でキャッチする。
「貴様ら…」
角都がこちらに近づいてくる。
なにを言われるかと思えば、
「目当ての賞金首を見つけるとは、よくやった」
褒められてしまった。
「「やったことと言ってること違くねえ!?;」」
オレと飛段は同時にツッコんだ。
オレ達が抜け出したことは怒ってるわけだ。
「つーか、よくオレらの居場所がわかったなァ;」
「オレがコウモリ飛ばしたんだよ;」
見世物小屋に入る前にオレは、もしもの時を考えて音寄せで1匹のコウモリを呼び、角都のところへ飛ばしていた。
角都の視線が見世物小屋の壁にめり込んでいるヒルに移る。
「“ジョーカー”というのは、貴様か…」
「…くくっ、今でもそう呼ばれているのですか…。あなた、賞金稼ぎですね?」
立ち上がったヒルの瞳は、黒から朱色に変わっていた。
表情は冷静だが、興奮している。
「後ろの4人も、ビンゴブックに載っていたな…」
角都も表情は冷静だが、あれは絶対喜んでいる。
懐からビンゴブックを取り出して確認した。
「あらら、もうひとり来たわよ。強そうねぇ」とココロ。
「オレの腐れゾンビにしていいか」とヒシギ。
「ヒル、楽しそう…」とミツバ。
「食事時以外、あの瞳を見るのは久方ぶりだ」とスペード。
ヒルは立ち上がり、口元の血を長い舌で舐めとったあと、飛段の体の傍に立ち、背後のココロ達に命令する。
「あなた達は先に行っていなさい。アレを探さなくてはいけませんからね」
「アンタはどうする?」
ヒシギに問われ、ヒルは不気味な笑みをこちらに向けて答える。
「ヨルの“所有物”を壊してからいきます」
“所有物”というのは、角都と飛段のことだろう。
「出た、ヒルのいびり」
「追い付いてきてよねぇ」
ミツバとココロがそう言ったあと、日ノ輪のメンバーは煙とともに消えてしまった。
「部下を残さなくてよかったのか?」
角都に問われ、ヒルは笑いを含めて答える。
「ええ。ヒルは部下達にどん引きされたくありませんから」
オレは飛段を左手に抱えて立ち上がった。
ヒルの視線が角都からオレに移る。
「まさか…、ヨルが賞金稼ぎになっていたとは…」
落胆しているように聞こえ、ムッとした。
「賞金首になり下がった奴に言われたくねーな。つーか、オレのはバイトだ、バイト」
「ヨル、やはり奴はおまえの同族か?」
角都に問われ、オレは答える。
「ああ。“朱族”の光陽ヒル。脆いものは徹底的に壊す最悪のいびり屋だ」
始末屋時代の時は、目に入った無関係な子供まで散々痛めつけた挙句殺していたのを覚えている。
同族愛もなく、朱族の中では一番血に飢えていた奴だ。
「強気になりましたねぇ、ヨル。50年の歳月は脆弱な鬼をも変える」
「言いたいことはそれだけか?」
右手の夢魔をヒルに向ける。
「ヒルを殺す気ですか?」
「飛段の首を刎ねた時点で、テメーは完全にオレの敵だ。よって、血の夢を見せてやる」
「ふ…。そういう口まで利けるようになりましたか」
ヒルは死吹をこちらに向ける。
「!」
同時に、殺気を送ってきた。
肌がピリピリする。
「くるぞ!」
「わかってる!」
2対1(飛段は首だけなので戦力外)という状況に関わらず、ヒルは死吹を振り回しながら向かってきた。
角都の前に移動し、連続の突きを食らわす。
「!」
角都は体を硬化させ、顔の前で腕を交差させて身を守っている。
「ほう? 硬化ですか」
その隙にオレは背後を狙った。
ヒルの背中に向けて夢魔を振り下ろす。
「見えてますよ、ヨル」
ガキィン!
「!?」
鎖分銅がオレの夢魔の刃を横から砕いた。
そのあと鎖分銅が宙で曲がり、オレの顔面目掛けて飛んでくる。
「くっ」
咄嗟に首を傾けたが、頬をかすめ、そこから血が流れた。
「チッ」
舌打ちをし、右手用の夢魔の柄を捨て、飛段と左手用の夢魔を持ちかえて再びヒルに向かった。
また鎖分銅が襲いかかってくる。
それを自由自在に操るヒルは、角都に連続突きを浴びせている。
あれでは角都が印が結べないから頭刻苦が発動できない。
鎖分銅の重さはオレの夢魔以上だ。
まともに受けたらまた粉々に砕かれてしまう。
ならば、とオレは音寄せを発動した。
コウモリ達が見世物小屋に入り、ヒルに襲いかかる。
視界も見えにくいはずだ。
「!」
頭上のコウモリ達を払うヒルに隙ができた。
「角都!」
声をかける前に角都はすでに印を組んでいた。
「火遁・頭刻苦!」
角都の前に飛びだした頭刻苦がヒルに向けて炎を吐く。
ゴッ!!
勢いのありすぎた炎は見世物小屋ごと吹っ飛ばした。
危うくオレと飛段まで巻き添えを食らいそうになった。
煙の臭いが目にしみる。
「オレ達まで焼く気かよォ!?」
「テメーの攻撃はいちいちデカすぎだっての!」
ゲホゲホと咳をしながら飛段とオレは角都を睨みつける。
角都は肩にかかった灰を払いながら冷たく言った。
「オレが術を発動させると承知していたなら避けろ」
「どう避けろってんだ!?」
「つか、オレの体はァ!?;」
飛段は目だけキョロキョロさせて自分の体を捜す。
オレも捜すが、さっきまであった場所にはなかった。
まさか、灰になったんじゃないか。
「なるほど」
「!!」
オレと角都は吹き飛ばし損ねた舞台に振り返った。
そこには、飛段の体を持った半裸ヒルが立っていた。
右手で顔の右半分を覆い、左目はこちらを睨んでいる。
「少しは使える所有物のようですね」
「まだ生きてたのか」
「朱族とはしぶといものだな」
オレと角都は舞台に飛び乗り、離れた位置から向かい合った。
「確かに直撃したのに…」
「あのコート、耐熱用か」
角都がそう言って、どうやって小ダメージで済んだのか理解した。
頭刻苦の炎が直撃する寸前、ヒルは外套を素早く脱ぎ、一瞬だけ活用できる盾にしたようだ。
「このヒルに火傷を負わせるとは…、大したガキですねぇ」
言葉には明らかに怒りが含まれている。
ヒルの右手が顔から離れる。
そこは火傷でただれていた。
ガキというのは角都のことだ。
「角都のことガキって言えるのって、朱族だけだよなァ(汗)」
オレが思ったことをそのまま口にする飛段。
「仕置きが必要ですねぇ…」
一歩前に出たヒルは死吹を自分の前に突き刺し、印を結んだ。
「!!」
勘が正しければ、始末屋時代に使用していたあの術を使う気だ。
「角都! 離れろ!」
オレが叫んだと同時に、角都はオレの手から飛段の首を取り上げ、ヒル目掛けて投げつける。
「え!?;」
「ハァ!!?;」
オレと飛段は驚きの声を上げた。
「もう遅い」
ヒルは上半身を反らして飛段の首を避ける。
目的を失った飛段の首は自分の体に命中し、舞台の床に転がった。
「テメー、角都ゥ!!」
喚き始めた飛段。
そんなことされたらオレでも怒る。
「“喰沼”」
印を結び終えたヒルは前屈みになり、オレ達に向けて大量の泥を吐きだした。
「!?」
ヒルの後ろ以外、舞台の床がすべて泥で覆われる。
オレと角都のくるぶしまで浸かった。
「ヤバい…」
「なんだコレは…」
泥はすぐに固まり、足を動けなくする。
力んで持ち上げることもできない。
「う…っ」
持っていた夢魔が液化した。
「!?」
角都も異変に気付いたようだ。
苦しげに顔をしかめている。
「く…っ」
「どうです? じわじわとチャクラが奪われていく気分は…」
脱力感と疲労感に襲われ、オレと角都は片膝をついた。
続いて寒気と眠気まで体に圧し掛かってくる。
「これは…、チャクラを吸収するのか…」
「ぬ…、沼から死吹へ、死吹からヒルへと…、奪ったチャクラを食ってるんだ…」
まさにいびり向きの術だ。
「“毒寄せ”」
泥の中から無数の蛭が湧き出てオレと角都の体に這い上がってくる。
「う…!」
服の隙間から入り、肌に吸いついて血を啜りだした。
痛みはないが、血を啜られているのが伝わってくる。
「ヨル、アレに弱点はないのか…?」
ヒルはチャクラを食う力のために自分のチャクラを流し込んでいる。
そして食ったチャクラをまた食うためのチャクラへと変えている。
オレ達のチャクラが完全に尽きるまでそれは止まらない。
「沼から死吹を引っこ抜くか…、ヒルが死吹を離すかしないと…」
早くも喉が渇いてきた。
この術にかかった強い忍達が何度無力に変えられたことか。
チャクラを食われている間、動きどころか術まで封じられてしまう。
オレの夢魔も出現できない。
どうする…。
自分に問うたとき、角都は言った。
「―――だそうだ、飛段」
「!!」
ズバン!!
下から振り上げられた三連鎌が、死吹を握るヒルの右手首を切り落とした。
「ぐ!?」
ヒルは咄嗟に左手で傷口を押さえて止血し、向かってくる三連鎌の刃を飛び退いて避けた。
「ゲハハハ!! さっきの仕返しだ、バァーカ!!」
首と胴体が繋がった飛段が高笑いしている。
「ど…、どうして首が…!」
復活した飛段にヒルは動揺を隠せない。
それはオレも同じだった。
飛段はニィッと笑い、右手に持っていたものを角都に放り投げた。
それは角都の、切り離された右手だった。
「あの時か…!」
オレは思わず声を上げた。
飛段の首を投げたとき、そのまま切り離した自分の手と一緒に投げた。
ヒルがこちらに集中している隙に首と胴体を繋げたようだ。
右手は角都の右袖に入り、もとに戻る。
死吹とヒルが離れている間に、角都は印を結んで両腕を硬化させ、自分とオレの足を捉えている固まった泥を粉々に砕いた。
おかげで抜け出すことができた。
「死ねェ!!」
飛段が三連鎌を横に振ったとき、
「なあ!?」
ヒルは口から大量の蛭を吐きだした。
まともに食らった飛段はその場に尻餅をつく。
ヒルは片手で印を結びだした。
オレに顔を向け、額に汗を浮かべながら笑みを浮かべる。
「また会いましょう、ヨル」
まるで執着の強い蛇のような目だ。
そして、舞台の床を砕き、下へ逃げてしまった。
「待て!!」
急いで穴の空いた床に駆け寄って下を覗く。
下の地面には穴が空いていた。
地面に潜って逃走したのだろう。
耳を澄ませるが、掘り進む音はもはや追い付けない場所へと移動している。
「逃げられた…!」
しかし、言葉とは裏腹にどこかで安堵している自分がいた。
オレは立ち上がり、飛段へと駆け寄る。
「飛段、無事か!?」
その時、
「…!?」
目眩を覚え、うつ伏せに倒れた。
ガクガクと体が痙攣し、唐突な吐き気と頭痛がオレを襲う。
「ヨル!」
角都の声が聞こえる。
見上げようとしたが体が思うように動かない。
「飛段!」
その声で、近くで倒れている飛段を見た。
オレと同じ状態になっている。
額に汗を浮かべながらガクガクと痙攣し、息も荒く、不死身なのに死にそうな真っ青な顔だ。
ヤバい…。
これ…、死ぬ…。
オレの意識が静かに遠のいていく。
.