11:舞台の上で
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角都の背中から頭刻苦が出てくる。
それは角都の横に並び、ヨルの方に向いた。
「火遁・頭刻苦」
角都が印を結ぶと、頭刻苦は口をパカッと開けて炎を放出した。
「わっ!」
ヨルは思わず目をつぶって顔を伏せる。
ヨルを押さえていたゾンビ達の上半身が炎に焼かれ、ヨルは背中に熱気を受け、たまらずゾンビ達の力が緩んだ隙に急いで這い出た。
背後に振り返ると、燃え上がるゾンビ達はだんだんと動きが鈍くなり、やがて灰となる。
「オレの腐れゾンビ共を…」
ヒシギが舌打ちをする。
「カッコつけー」
角都の手にぶら下がってる飛段が冷やかした。
「角都、助けに…」
ヨルが言いかけたとき、
ガン!
「「ゲハッ!」」
いきなり飛段の首を額にぶつけられ、思わず飛段の叫びを上げて仰向けに倒れた。
真上に飛び、落ちてきた飛段の首を仰向け状態のまま両手でキャッチする。
「貴様ら…」
角都がこちらに近づいてくる。
何を言われるかと思えば、
「目当ての賞金首を見つけるとは、よくやった」
褒められてしまった。
「「やったことと言ってること違くねえ!?」」
ヨルと飛段は同時にツッコんだ。
ヨル達が抜け出したことに関しては許していない。
「つーか、よくオレらの居場所がわかったなァ」
「オレがコウモリ飛ばしたんだよ」
見世物小屋に入る前にヨルは、もしもの時を考えて音寄せで1匹のコウモリを呼び、角都のところへ飛ばしていた。
角都の視線が見世物小屋の壁にめり込んでいるヒルに移る。
「“ジョーカー”というのは、貴様か…」
「…くくっ、今でもそう呼ばれているのですか…。あなた、賞金稼ぎですね?」
立ち上がったヒルの瞳は、黒から朱色に変わっていた。
表情は冷静だが、興奮している。
「後ろの4人も、ビンゴブックに載っていたな…」
角都も表情は冷静だが、ヨルと飛段から見れば喜んでいるように見えた。
角都は懐からビンゴブックを取り出し、確認する。
「あらら、もうひとり来たわよ。強そうねぇ」とココロ。
「オレの腐れゾンビにしていいか」とヒシギ。
「ヒル、楽しそう…」とミツバ。
「食事時以外、あの瞳を見るのは久方ぶりだ」とスペード。
ヒルは立ち上がり、口元の血を長い舌で舐めとったあと、飛段の体の傍に立ち、背後のココロ達に命令した。
「あなた達は先に行っていなさい。アレを探さなくてはいけませんからね」
「アンタはどうする?」
ヒシギに問われ、ヒルは不気味な笑みをこちらに向けて答える。
「ヨルの“所有物”を壊してからいきます」
“所有物”というのは、角都と飛段のことだ。
「出た、ヒルのいびり」
「追い付いてきてよねぇ」
ミツバとココロがそう言ったあと、日ノ輪のメンバーは煙とともに消えてしまった。
「部下を残さなくてよかったのか?」
角都に問われ、ヒルは笑いを含めて答える。
「ええ。ヒルは部下達にどん引きされたくありませんから」
ヨルは飛段を左手に抱えて立ち上がった。
ヒルの視線が角都からヨルに移る。
「まさか…、ヨルが賞金稼ぎになっていたとは…」
落胆しているように聞こえ、ヨルは心外そうにムッとした。
「賞金首になり下がった奴に言われたくねーな。つーか、オレのはバイトだ、バイト」
「ヨル、やはり奴はおまえの同族か?」
角都に問われ、ヨルは「ああ」と答える。
「“朱族”のヒル。脆いものは徹底的に壊す最悪のいびり屋だ」
始末屋時代の時は、目に入った無関係な子供まで散々痛めつけた挙句殺していたのを覚えている。
「強気になりましたねぇ、ヨル。50年の歳月は脆弱な鬼をも変える」
「言いたいことはそれだけか?」
ヨルは右手の夢魔をヒルに向ける。
「ヒルを殺す気ですか?」
「飛段の首を刎ねた時点で、テメーは完全にオレの敵だ。よって、血の夢を見せてやる」
「ふ…。そういう口まで利けるようになりましたか」
ヒルは白日をこちらに向ける。
「!」
同時に、殺気を送ってきた。
肌がピリピリと疼く。
「くるぞ!」
「わかってる!」
2対1(飛段は首だけなので戦力外)という状況に関わらず、ヒルは白日を振り回しながら向かってきた。
角都の前に移動し、連続の突きを食らわす。
「!」
角都は体を硬化させ、顔の前で腕を交差させて身を守った。
「ほう? 硬化ですか」
その隙にヨルは背後を狙い、ヒルの背中に向けて夢魔を振り下ろす。
「見えてますよ、ヨル」
ガキィン!
「!?」
鎖分銅がヨルの夢魔の刃を横から砕いた。
そのあと鎖分銅が宙で曲がり、ヨルの顔面目掛けて飛んでくる。
「くっ」
咄嗟に首を傾けたが、頬をかすめ、わずかに皮膚が抉れて血が流れた。
「チッ」
舌打ちをし、右手用の夢魔の柄を捨て、飛段と左手用の夢魔を持ちかえて再びヒルに突っ込む。
すると、鎖分銅が襲いかかってくる。
それを自由自在に操るヒル自身は、角都に連続突きを浴びせていた。
あのままでは角都が印が結べず、頭刻苦が発動できない。
鎖分銅の重さはヨルの夢魔以上だ。
まともに受けたらまた粉々に砕かれてしまう。
ならば、とヨルは音寄せを発動した。
コウモリ達が見世物小屋に入り、ヒルに襲いかかる。
視界も奪った。
「!」
頭上のコウモリ達を払うヒルに隙ができる。
「角都!」
声をかける前に角都はすでに印を組んでいた。
「火遁・頭刻苦!」
角都の前に飛びだした頭刻苦がヒルに向けて炎を吐く。
ゴッ!!
勢いのありすぎた炎は見世物小屋ごと吹っ飛ばした。
危うくヨルと飛段まで巻き添えを食らいそうになる。
煙の臭いが目にしみた。
「オレ達まで焼く気かよォ!?」
「テメーの攻撃はいちいちデカすぎだっての!」
ゲホゲホと咳をしながら飛段とヨルは角都を睨みつける。
角都は肩にかかった灰を払いながら冷たく言った。
「オレが術を発動させると承知していたなら避けろ」
「どう避けろってんだ!?」
「つか、オレの体はァ!?」
飛段は目だけキョロキョロさせて自分の体を捜す。
ヨルも捜すが、さっきまであった場所にはなかった。
まさか灰になったのではないか、と顔を青くする。
「なるほど」
「!!」
ヨルと角都は吹き飛ばし損ねた舞台に振り返った。
そこには、飛段の体を持った半裸ヒルが立っていた。
右手で顔の右半分を覆い、左目はこちらを睨んでいる。
「少しは使える所有物のようですね」
「まだ生きてたのか」
「朱族とはしぶといものだな」
ヨルと角都は舞台に飛び乗り、離れた位置から向かい合った。
「確かに直撃したのに…」
「あのコート、耐熱用か」
角都がそう言って、どうやって小ダメージで済んだのか理解した。
頭刻苦の炎が直撃する寸前、ヒルは外套を素早く脱ぎ、一瞬だけ活用できる盾にしたのだ。
「このヒルに火傷を負わせるとは…、大したガキですねぇ」
言葉には明らかに怒気が含まれている。
ヒルの右手が顔から離れ、そこは火傷でただれていた。
「角都のことガキって言えるのって、朱族だけだよなァ…」
思ったことをそのまま口にする飛段。
「仕置きが必要ですねぇ…」
一歩前に出たヒルは白日を自分の前に突き刺し、印を結んだ。
「!!」
勘が正しければ、始末屋時代に使用していたあの術を使う気だ。
「角都! 離れろ!」
ヨルが叫んだと同時に、角都はヨルの手から飛段の首を取り上げ、ヒル目掛けて投げつける。
「え!?」
「ハァ!!?」
ヨルと飛段は驚きの声を上げた。
「もう遅い」
ヒルは上半身を反らして飛段の首を避ける。
目的を失った飛段の首は自分の体に命中し、舞台の床に転がった。
「テメー、角都ゥ!!」
喚き始めた飛段。
ヨルは転がる首に同情の目を向ける。
(あんなことされたらオレでも怒る…)
「“喰沼”」
印を結び終えたヒルは前屈みになり、ヨルと角都に向けて大量の泥を吐きだした。
「!?」
ヒルの目の前、舞台の床がすべて泥で覆われる。
ヨルと角都のくるぶしまで浸かった。
「ヤバい…」
「なんだコレは…」
泥はコンクリートのようにすぐに固まり、足を動けなくする。
力んで持ち上げることもできない。
「う…っ」
持っていた夢魔が液化した。
「!?」
角都も異変に気付いた様子だ。
苦しげに顔をしかめる。
「く…っ」
「どうです? じわじわとチャクラが奪われていく気分は…」
脱力感と疲労感に襲われ、ヨルと角都は片膝をついた。
続いて寒気と眠気まで体に圧し掛かってくる。
「これは…、チャクラを吸収するのか…」
「ぬ…、沼からあの槍へ、槍からヒルへと…、奪ったチャクラを食ってるんだ…」
まさにいびり向きの術だ。
「“毒寄せ”」
泥の中から無数の蛭が湧き出てヨルと角都の体に這い上がってくる。
「う…!」
服の隙間から入り、肌に吸いついて血を啜りだした。
痛みはないが、血を啜られているのが伝わってくる。
「ヨル、アレに弱点はないのか…?」
ヒルはチャクラを食う力のために自分のチャクラを流し込んでいる。
そして食ったチャクラをまた食うためのチャクラへと変えている。
ヨルと角都のチャクラが完全に尽きるまでそれは止まらない。
「沼から槍を引っこ抜くか…、ヒルが槍を離すかしないと…」
ヨルは早くも喉が渇いてきた。
この術にかかった強い忍達が何度無力に変えられたことか。
チャクラを搾り取られている間、動きどころか術まで封じられてしまう。
ヨルの夢魔も出現できない。
(どうする…)
ヨルが打開策を考えようとした時、角都は冷静に発した。
「―――だそうだ、飛段」
「!!」
ズバン!!
下から振り上げられた三連鎌が、白日を握るヒルの右手首を切り落とした。
「ぐ!?」
ヒルは咄嗟に左手で傷口を押さえて止血し、向かってくる三連鎌の刃を飛び退いて避けた。
「ゲハハハ!! さっきの仕返しだ、バァーカ!!」
首と胴体が繋がった飛段が高笑いしている。
「ど…、どうして首が…!」
復活した飛段にヒルは動揺を隠せない。
それはヨルも同じだった。
飛段はニィッと笑い、右手に持っていたものを角都に放り投げた。
それは角都の、切り離された右手だった。
「あの時か…!」
ヨルは思わず声を上げた。
飛段の首を投げたとき、そのまま切り離した自分の手と一緒に投げ、ヒルがヨルと角都に集中している隙に首と胴体を繋げたのだ。
右手は角都の右袖に入り、もとに戻る。
白日とヒルが離れている間に、角都は印を結んで両腕を硬化させ、自分とヨルの足を捉えている固まった泥を粉々に砕いた。
おかげで抜け出すことができた。
「死ねェ!!」
飛段が三連鎌を横に振ったとき、
ゴバッ!!
「なあ!?」
ヒルは口から大量の蛭を吐きだした。
まともに食らった飛段はその場に尻餅をつく。
ヒルは片手で印を結びだした。
ヨルに顔を向け、額に汗を浮かべながら笑みを浮かべる。
「また会いましょう、ヨル」
まるで執着の強い蛇のような目だ。
そして、舞台の床を砕き、下へ逃げてしまった。
「待て!!」
急いで穴の空いた床に駆け寄って下を覗く。
下の地面には穴が空いていた。
地面に潜って逃走したのである。
ヨルは耳を澄ませるが、掘り進む音はもはや追い付けない場所へと移動している。
「逃げられた…!」
しかし、言葉とは裏腹にどこかで安堵している自分がいた。
ヨルは立ち上がり、飛段へと駆け寄る。
「飛段、無事か!?」
その時、
「…!?」
目眩を覚え、うつ伏せに倒れた。
ガクガクと体が痙攣し、唐突な吐き気と頭痛がヨルを襲う。
「ヨル!」
角都の声が聞こえる。
見上げようとしたが体が思うように動かない。
「飛段!」
その声で、近くで倒れている飛段を見た。
ヨルと同じ状態になっている。
額に汗を浮かべながらガクガクと痙攣し、息も荒く、不死身なのに死にそうな真っ青な顔だ。
(ヤバい…。これ…、死ぬ…)
ヨルの意識が静かに遠のいていく。
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