10:鮮血の道化師
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赤い蝶の女は言った。
最高高額賞金首の“ジョーカー”が海の国にいる、と。
昔、角都もその賞金首を捜索していたことがあった。
しかし、情報はどれも曖昧なものばかりで、手配書の顔写真は更新するたびに変わっている。
顔写真というより、仮面と言った方がいい。
素顔も本名も誰も知らない。
いつしか誰かが“ジョーカー”と名付け、定着したのだ。
これも情報屋から聞いた話だが、ある腕の立つ賞金稼ぎが偶然見かけ、その首を狙った挙句、逆に自分の首をとられていたという。
目撃証言もあり、返り討ちに遭った人間もいるため、架空の賞金首でないことは確かだ。
ヨル達は真夏の真っ青な空の下、海の国へと向かっている。
船では金がかかるため、チャクラを使って徒歩で海を歩いていた。
海の国は諸島だ。
一番盛んな町がある島なら、情報もたくさん得られるだろう。
「あ゙あっちぃ…」
飛段は夏の暑さに顔をしかめ、猫背になりながら角都の隣を歩いている。
汗もダラダラと流していた。足どりはよろよろと危なっかしい。
くるぶしまで水面に浸かっている。
「もたもたするな」
「おめェ、暑くねーのかよォ、んなカッコでよォ。見てると暑苦しいんだよォ…」
苛立ちの目を向けられた角都だが、角都に言わせれば、頭に何も覆わず、太陽の熱を直に浴びている方が暑いに決まっている。
「暑い暑いと喚く貴様の方がよほど暑苦しい。その口、縫ってやろうか?」
「そこまでおそろいにしたかねーや」
飛段はそう言いながら角都の外套を睨みつけた。
それから「ああああクソ!」と唸ってから視線を見上げて言葉を続ける。
「なぁ、休もうぜェ角都ゥ。朝から歩きっぱなしじゃねえかァ。もう昼だぜ昼ゥ。腹減ったァ、超減ったァ。水ゥ」
そろそろ駄々をこねるとは角都も思っていたが、予想以上だ。
「黙れ。もうすぐで到着する。それまで我慢しろ」
つい先程休んだばかりだ。
飛段はその場にしゃがみ、機能停止状態になりかける。
「ヨル、テメーもさっきから黙ってねえで文句くらい言えよォ」
ヨルを味方につける気の飛段に、呆れた角都は飛段を置いて先に歩きだす。
「なあ…、おい…。……聞いてん…の…」
振り返った飛段の声が途切れた。
角都もヨルが小言も漏らさないことが気になり、途中で立ち止まって振り返る。
いつの間にか立ち上がった飛段が、慌てた様子で「角都角都!」と後ろを指さしていた。
「ヨルが死んでるゥ!!」
飛段の指先の方を目で追うと、ヨルの背中が水面に浮いているのが見えた。
プクプクと口から空気を漏らしながら沈んでいく。
「……はぁ…」
ため息をついたあと、右腕を地怨虞で伸ばした角都は、水面の下に完全に消えかけるヨルの背中の服をつかみ、救出したのだった。
角都は竹筒に入った水をヨルに飲ませたり顔にかけたりしたあと、ヨルを左脇に抱えながら島を目指す。
目的の島が見え、それを飛段に伝えると「休みたい」などと喚くことはやめてひょこひょことついてきた。
「寒いと冬眠するわ、暑いとぶっ倒れるわ、よく今まで人の手借りずに生きてこれたよなァ」
飛段は感心しているのか呆れているのか。
水を飲まされて意識を取り戻したヨルは、頭を垂れたまま唸るように言い返す。
「う…っせぇ…、引きこもりだったのが…悪ィんだ…。どうせ…、コウモリだ…。夜行性だ…」
「あーあァ、むくれた」
コウモリは夏に倒れたりはしないが、ヨルの場合、太陽の下にあまり出なかったことと過ごしてきた里の温度がほどよかったことが原因なのだろう。
この炎天下に体がもたなかった様子だ。
白い肌も今ではほんのり赤い。
「海は気に入ったが…、この暑さは地獄だ…」
ヨルがそう呟き、角都は、海を初めて見てはしゃいでいた姿を思い出す。
同じく、飛段もはしゃいでいたためデジャヴのような感覚に陥った。
すぐにそれが雪山の時と同じだと気付いた。
「角都…、なんでまたこんなとこまで来て賞金首捜しなんか…」
ヨルに聞かれたが、角都は「うるさい」と一言発したあと、無言を通した。
(“ジョーカー”の到着まであと1日…。問題は、どこに現れ、なにをやらかすかだ…)
それに、ヨルと関連があるのかどうかも気になる。
昼過ぎに町に到着し、昼食を摂ってから宿をとった。
4階建てにも関わらず安宿だ。
部屋につくなり、いきなりヨルは飛段の首筋に噛みついて血を啜りだす。
「イテテテテテ!!」
喚く飛段を無視し、何度も喉を鳴らしたあと一歩離れた。
「ぷはぁっ、生き返るぜぇ♪」
水では足りなかったのか、喉の渇きを潤したヨルは元気に回復した。
口元の血を手の甲で拭って猫のように舐める。
飛段は噛まれた首筋を押さえながら怒鳴った。
「いきなりがっつくなバカが!」
怒鳴られたヨルは顔をしかめて両手で両耳を塞いだ。
「耳元で怒鳴るな」
人間より性能がいいと言っていたその耳に飛段の声は騒音でしかない。
またいつものうるさい言い争いが起こるのかと角都がため息をついた時だ。
ドン!
窓の向こうから聞こえた花火の音にヨルと飛段は口を閉ざし、同時に仲良く窓辺へと走り寄った。
この部屋は4階だ。
町はそれなりに見渡せる。
「こんな真昼間にも花火があるのか!?」
ヨルははしゃぎながら角都に声をかけた。
その顔は輝いている。右の男も同じく。
「知らせ用の花火だ。ここでも祭りが行われるようだな」
こちらに来るとき、暑さに参っていたヨルと飛段は町の様子に気付かなかったようだ。
そわそわと落ち着かない者や、屋台の道具を運ぶ者までいたというのに。
角都は押入れの襖に背をもたせかけて座り、懐からビンゴブックを取り出し、“ジョーカー”の顔写真を見つめた。
顔を覆う仮面には、頬まで裂けた赤の口、つり上がった黒の目、その目の下には縦に黄色のラインが描かれていた。
この顔写真は1ヶ月前のものだ。今はまた別の仮面を被っているのかもしれない。
それに、仮面を被るのは新たな犯罪を起こす時だけ。
今はどこかで素顔で歩いているかもしれず、アテにもならない顔写真で未知数の多いこの賞金首をどうやって捜せというのだろうか。
「……ヨル、飛段、休憩を終えたら情報集めに付き合え」
顔写真を見つめながら聞いたが、2人の返事はない。
「聞いているのか?」
苛立ちまじりに窓の方へ顔を上げると、2人の姿は忽然と消えていた。
外套も三連鎌もなくなっている。
角都がビンゴブックに気をとられている間に窓から抜け出したのだろう。
(このオレに気配を察知されずに抜け出すとは…)
あの2人は遊びにとりつかれなければ忍としての実力を出せないものか、と嘆かずにはいられない。
「………殺す」
苛立ちが殺意へ切り替わり、大事なビンゴブックを強く握って皺を作ってしまう。
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