09:不器用な不死
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*角都
もうすぐ陽も完全に沈むというのに、連れの2人の帰りが遅い。
金も数え終わり、壁から現れたゼツに金を渡し、頭巾と口布を取り外したオレは本を読みながら暇を持て余していた。
気になるせいで、ページが思うようにすすまない。
『オレなんか邪魔だって言えよォ!!』
ふと飛段の言葉を思い出し、読書をする気も失せて本を閉じた。
オレと同じ不死だと知っても、当初は存在そのものが邪魔だと思っていた。
同じ不死だからこそ、なにをするのかわからない。
殺した相方と組んでいた時もそうだった。
一度大きなものから裏切りを受けていたオレは、何者も信用しなかった。
警戒心など解いた覚えもなかった。
オレのやり方が気に食わず、寝首をかこうとする者までいた。
飛段とコンビを組んでわずか数日でオレは飛段という存在を大体把握した。
馬鹿、単純、ワガママ、野菜嫌い、信心深いなど。
不死を抜けば、今まで組んできた相方の中では一番最悪だ。
罠とは思えないほど。
なのに、いつからだろうか。
奴の目の前でも、ゆっくりと眠ることができる己に気付いたのは。
「馬鹿が…」
オレの連れはおまえ以外務まるわけがない。
窓から捨ててしまったことはそれなりに反省しているつもりだ。
2人が肩を並べて戻ってきているのではないかと思い、窓際に近づいて人通りの多い道を見下ろした。
すると、目の前に真っ赤な蝶が通過した。
「!」
屋根の上に気配を感じる。
「何者だ?」
「勘がいいのぅ、おヌシ。ダテに長生きしていないと見える」
オレの実年齢に気付いている言い方だ。
声からして女だ。
「オレの質問に答えろ」
「そういきり立つな」
「!」
屋根の上にあった気配がオレの背後へと移動した。
はっとして振り返り、相手の姿を見る。
目が隠れる編み笠を被った着物の女だ。
袖のない右腕は布で巻かれていた。
「一目拝んでおこうかと思ってのぅ。……なるほど、銀髪の坊といい、おヌシといい、あやつも男前を選ぶようになったんじゃな…」
銀髪の坊、というのは飛段のことだろう。
「飛段にも会ったのか。それでどうした?」
「安心せい。なにもしておらん」
「「あやつ」というのは、ヨルのことか?」
女の口角が上がった。
ヨルの知り合いなのだろうか。
しかし、長い間、里を一歩も出なかったあの女に知り合いがいるわけがない。
背は高くどう見ても20代の若い女だ。
「おヌシ、“ジョーカー”を知っておるか?」
「!」
唐突だったのですぐには思い出せなかったが、その名を聞いたことがある。
「…賞金稼ぎ達の中で知らない者はいない。随分前から表と裏のビンゴブックで指名手配になってる奴だな」
ビンゴブックの写真を思い出すが、顔は仮面で隠され、更新していくたびに仮面も変わっていく。
誰も素顔や本名は知らない。
謎に包まれ、今ではその存在は伝説に近い。
しかし、現に犯した大罪は何十年にも渡って積み重なり、9000万両というとんでもない賞金首に育った。
その賞金首に会えたとしたら、必ずその首を換金してやりたいと思わずにはいられない。
「9000万両なんて、魅力的な金だと思わんか?」
「……その賞金首が、まさか、貴様か?」
「くくっ。仮面から編み笠に変更か? 残念だが、違う」
馬鹿にするような言い方に殺意を覚える。
「からかいに来たのなら、相手を間違えたな」
間髪入れずに女に向かって地怨虞で両手を伸ばし、口からもそれを吐いた。
容易に捕えられると思ったが、その細い首に触れると同時に、赤い蝶の群れとなって散り、分散された蝶の群れはオレの背後で形を成し、再びあの女となって現れた。
「!?」
地怨虞を口に戻し、外套を破ってでも背中の仮面達で攻撃しようとしたとき、
「背中の仮面達を使う気じゃろうが、やめておけ。5回殺されたくなかろう」
背中に当てられた長刀の柄の先からとてつもない殺気が伝わってくる。
うかつに動けば、最低でも心臓を1つ潰されるのは免れない。
オレの背中の仮面の秘密を知っているということは、ずっと尾行されていたか遠くから観察されていたかだ。
「人がせっかく、いいことを教えにきたというのに…」
「……なんだ?」
「“ジョーカー”は海の国にいる。…いや、いるというより、1週間後に来る予定じゃ。ここからなら、1週間以内に到着できるじゃろ」
罠の確率があるが、わざわざ海の国に仕掛けることだろうか。
そんなことはせず、ここでオレを殺せばいいものを。
「なぜオレに教える? なぜ“ジョーカー”がそこに行くとわかる?」
「おヌシは金が好きじゃからのぅ。それに強い。伝説と化していく“ジョーカー”を仕留めた名高い賞金稼ぎになれる」
金が好きなことは否定しない。
「仮に前者が本当だとしても、後者の答えになっていない」
「情報収集に長けていると言えば信じるか?」
信じ難い話だ。
肩越しのオレの目を見て伝わったのか、女はクスクスと笑った。
「高額の金を逃したいのなら行かなくてもよい。死ぬかもしれんしな。…しかし、どちらにしろ、行かなくてはいけないことになる…」
女が赤い蝶の群れへと変わり、窓から飛び去っていく。
分身の一種かもしれない。
「ヨルも必ず連れて行け」
陽が沈む空へと飛び去っていく蝶の群れからあの女の声が聞こえた。
蝶の姿が一羽も見えなくなったあと、ふと下の通りを見下ろした。
「!」
宿の前に突っ立っている飛段がいた。
目が合い、飛段はビクッと体を震わせる。
入り辛いのだろか、オレと目を合わせたまま宿に入ろうとしない。
「……………」
さてどうしたものかと考える。
「なに見てんだよ」と騒ぐことなく飛段はじっとこちらを見つめている。
オレは目で訴えた。
戻ってこい。
飛段は軽く眉をひそめる。
意地を張っても仕方がないだろう。
飛段の体が再びビクッと震えた。
なぜなにも言わない。
いつものように騒げばいいものを。
あんな追いだし方をしたオレも悪かった。
そう思っても思うように口から出ない。
見上げるな、喋れ。
それでも飛段はなにも言わない。
顔がなにやら不安げだ。
オレが迎えに行けばいいのか?
*飛段
宿の前でふと2階のオレ達の部屋を見上げると、頭巾と口布を外した角都が窓際に立っているのが見えた。
空に向けられた目がこちらを見下ろし、目が合った。
思わず体がビクッと震えてしまい、硬直する。
目が離せず、動くことができない。
「……………」
このまま宿に入っていいのかと考えた。
角都はなにも言わずにじっとこちらを見つめている。
かと思えば、その目つきは急に鋭くなった。
なんだよ、まだ怒ってんのかよ。
目つきはさらに鋭くなる。
睨むなよ。なんか喋れよォ。
いつものように罵ればいいのに。
そりゃオレも言いすぎたけどさァ…。
謝ろうと思ってもすんなりと言葉が出てくれない。
見下ろすなよ、喋れよォ。
それでも角都はなにも言わない。
不機嫌になってないか。
入っていいのかァ?
.
もうすぐ陽も完全に沈むというのに、連れの2人の帰りが遅い。
金も数え終わり、壁から現れたゼツに金を渡し、頭巾と口布を取り外したオレは本を読みながら暇を持て余していた。
気になるせいで、ページが思うようにすすまない。
『オレなんか邪魔だって言えよォ!!』
ふと飛段の言葉を思い出し、読書をする気も失せて本を閉じた。
オレと同じ不死だと知っても、当初は存在そのものが邪魔だと思っていた。
同じ不死だからこそ、なにをするのかわからない。
殺した相方と組んでいた時もそうだった。
一度大きなものから裏切りを受けていたオレは、何者も信用しなかった。
警戒心など解いた覚えもなかった。
オレのやり方が気に食わず、寝首をかこうとする者までいた。
飛段とコンビを組んでわずか数日でオレは飛段という存在を大体把握した。
馬鹿、単純、ワガママ、野菜嫌い、信心深いなど。
不死を抜けば、今まで組んできた相方の中では一番最悪だ。
罠とは思えないほど。
なのに、いつからだろうか。
奴の目の前でも、ゆっくりと眠ることができる己に気付いたのは。
「馬鹿が…」
オレの連れはおまえ以外務まるわけがない。
窓から捨ててしまったことはそれなりに反省しているつもりだ。
2人が肩を並べて戻ってきているのではないかと思い、窓際に近づいて人通りの多い道を見下ろした。
すると、目の前に真っ赤な蝶が通過した。
「!」
屋根の上に気配を感じる。
「何者だ?」
「勘がいいのぅ、おヌシ。ダテに長生きしていないと見える」
オレの実年齢に気付いている言い方だ。
声からして女だ。
「オレの質問に答えろ」
「そういきり立つな」
「!」
屋根の上にあった気配がオレの背後へと移動した。
はっとして振り返り、相手の姿を見る。
目が隠れる編み笠を被った着物の女だ。
袖のない右腕は布で巻かれていた。
「一目拝んでおこうかと思ってのぅ。……なるほど、銀髪の坊といい、おヌシといい、あやつも男前を選ぶようになったんじゃな…」
銀髪の坊、というのは飛段のことだろう。
「飛段にも会ったのか。それでどうした?」
「安心せい。なにもしておらん」
「「あやつ」というのは、ヨルのことか?」
女の口角が上がった。
ヨルの知り合いなのだろうか。
しかし、長い間、里を一歩も出なかったあの女に知り合いがいるわけがない。
背は高くどう見ても20代の若い女だ。
「おヌシ、“ジョーカー”を知っておるか?」
「!」
唐突だったのですぐには思い出せなかったが、その名を聞いたことがある。
「…賞金稼ぎ達の中で知らない者はいない。随分前から表と裏のビンゴブックで指名手配になってる奴だな」
ビンゴブックの写真を思い出すが、顔は仮面で隠され、更新していくたびに仮面も変わっていく。
誰も素顔や本名は知らない。
謎に包まれ、今ではその存在は伝説に近い。
しかし、現に犯した大罪は何十年にも渡って積み重なり、9000万両というとんでもない賞金首に育った。
その賞金首に会えたとしたら、必ずその首を換金してやりたいと思わずにはいられない。
「9000万両なんて、魅力的な金だと思わんか?」
「……その賞金首が、まさか、貴様か?」
「くくっ。仮面から編み笠に変更か? 残念だが、違う」
馬鹿にするような言い方に殺意を覚える。
「からかいに来たのなら、相手を間違えたな」
間髪入れずに女に向かって地怨虞で両手を伸ばし、口からもそれを吐いた。
容易に捕えられると思ったが、その細い首に触れると同時に、赤い蝶の群れとなって散り、分散された蝶の群れはオレの背後で形を成し、再びあの女となって現れた。
「!?」
地怨虞を口に戻し、外套を破ってでも背中の仮面達で攻撃しようとしたとき、
「背中の仮面達を使う気じゃろうが、やめておけ。5回殺されたくなかろう」
背中に当てられた長刀の柄の先からとてつもない殺気が伝わってくる。
うかつに動けば、最低でも心臓を1つ潰されるのは免れない。
オレの背中の仮面の秘密を知っているということは、ずっと尾行されていたか遠くから観察されていたかだ。
「人がせっかく、いいことを教えにきたというのに…」
「……なんだ?」
「“ジョーカー”は海の国にいる。…いや、いるというより、1週間後に来る予定じゃ。ここからなら、1週間以内に到着できるじゃろ」
罠の確率があるが、わざわざ海の国に仕掛けることだろうか。
そんなことはせず、ここでオレを殺せばいいものを。
「なぜオレに教える? なぜ“ジョーカー”がそこに行くとわかる?」
「おヌシは金が好きじゃからのぅ。それに強い。伝説と化していく“ジョーカー”を仕留めた名高い賞金稼ぎになれる」
金が好きなことは否定しない。
「仮に前者が本当だとしても、後者の答えになっていない」
「情報収集に長けていると言えば信じるか?」
信じ難い話だ。
肩越しのオレの目を見て伝わったのか、女はクスクスと笑った。
「高額の金を逃したいのなら行かなくてもよい。死ぬかもしれんしな。…しかし、どちらにしろ、行かなくてはいけないことになる…」
女が赤い蝶の群れへと変わり、窓から飛び去っていく。
分身の一種かもしれない。
「ヨルも必ず連れて行け」
陽が沈む空へと飛び去っていく蝶の群れからあの女の声が聞こえた。
蝶の姿が一羽も見えなくなったあと、ふと下の通りを見下ろした。
「!」
宿の前に突っ立っている飛段がいた。
目が合い、飛段はビクッと体を震わせる。
入り辛いのだろか、オレと目を合わせたまま宿に入ろうとしない。
「……………」
さてどうしたものかと考える。
「なに見てんだよ」と騒ぐことなく飛段はじっとこちらを見つめている。
オレは目で訴えた。
戻ってこい。
飛段は軽く眉をひそめる。
意地を張っても仕方がないだろう。
飛段の体が再びビクッと震えた。
なぜなにも言わない。
いつものように騒げばいいものを。
あんな追いだし方をしたオレも悪かった。
そう思っても思うように口から出ない。
見上げるな、喋れ。
それでも飛段はなにも言わない。
顔がなにやら不安げだ。
オレが迎えに行けばいいのか?
*飛段
宿の前でふと2階のオレ達の部屋を見上げると、頭巾と口布を外した角都が窓際に立っているのが見えた。
空に向けられた目がこちらを見下ろし、目が合った。
思わず体がビクッと震えてしまい、硬直する。
目が離せず、動くことができない。
「……………」
このまま宿に入っていいのかと考えた。
角都はなにも言わずにじっとこちらを見つめている。
かと思えば、その目つきは急に鋭くなった。
なんだよ、まだ怒ってんのかよ。
目つきはさらに鋭くなる。
睨むなよ。なんか喋れよォ。
いつものように罵ればいいのに。
そりゃオレも言いすぎたけどさァ…。
謝ろうと思ってもすんなりと言葉が出てくれない。
見下ろすなよ、喋れよォ。
それでも角都はなにも言わない。
不機嫌になってないか。
入っていいのかァ?
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