06:見捨てない目
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ヨルにとって、里の外は知らないことが多すぎる。
どれだけ自分の里がちっぽけだったのかを思い知らされた。
ヨル達は現在、雪の国の雪山を登っていた。
辺り一面白の世界。
国に入り、これから登る雪山の入口付近で初めて雪を目にしたヨルは、最初はこんなカンジだった。
「スッゲエエエエ!! なんだこれ!? 白い地面!? 冷たいし、サクサクする!!」
露骨にはしゃぎまくりだ。
角都が若干引いていた。
わずかな雪を手のひらにのせ、「これは雪だ」と教えたのは飛段だった。
ヨルは話には聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだった。
「へぇ…」と目を輝かせながら辺りを見回していると、
「!?」
いきなり、硬くて冷たいものが後頭部にぶつかり、崩れた。
振り返ると、雪の塊を持った飛段がニヤニヤとしていた。
「これが雪玉だー!」
声を上げ、ヨルに向けて雪玉を次々と投げる。
「うぷっ」
顔面に当たり、尻餅をついた。
頭にきたヨルは、雪玉を作っている飛段の手元を見ながら同じく雪玉を作り始めた。
両手で足下の雪を掬い、おにぎりのように握って固めて振り被り、飛段に向けて投げつける。
「うぶっ!」
見事に顔面に命中。
飛段もムキになって作っては投げ作っては投げを繰り返す。
負けていられない、とヨルは雪玉を避けながら雪玉を作り、飛段に向けて投げつける。
「食らえヨル!」
「おまえこれ石入ってんじゃねーか!」
※絶対に雪に石を仕込んで投げないでください。
雪合戦が白熱してきたとき、
ボゴッ!!
「「!!?」」
大きな2つの雪玉が飛んできてヨルと飛段に見事に直撃した。
「気は済んだか」
遠くから角都が投げたのだ。
ヨルと飛段が雪合戦をおっぱじめた辺りから、わざわざ大きな雪玉を2人分作っていた。
「「はい…」」
雪まみれで倒れたヨルと飛段は情けない声で返事した。
雪玉に岩が仕込まれてなくてよかった、と思う二人。
そして現在、山登りをしてだいぶ経つヨル達の状況。
「寒い―――!! 顔面凍る―――!!」
登る前のはしゃぎようはどこへやら。
「わーい、雪だ雪だ」と楽しめずにいた。
崖に挟まれた道を通る、粉雪の混ざった風が容赦なくヨル達の正面に当たり、身を竦めずにはいられず前も直視できる状態ではない。
それは前を歩く飛段も同じだった。
寒さも気にせず前を堂々と歩く角都に、「寒い」「寒い」と体と声を震わせながら訴えている。
しかし、角都は「うるさい」と一声かけてから無視し続けていた。
角都になにを言っても無駄だと諦めた飛段は歩きながら振り返り、肩越しのヨルに要求する。
「ヨル…、テメーの外套寄越せ」
ヨルは両手で襟をギュッと握りしめ、飛段を睨みつける。
「ヤ」
「一文字かよ!!」
「オレだって寒い!」
「オレの方が寒ィんだよ! 下、半裸だし!」
ヨルは外套の下はボロい夏袖にその下はサラシだけだ。
「せめて夏袖着ろよ」
「オレすぐにダメにするしィ」
そう言われ、ヨルは戦闘中と儀式中の飛段を思い出した。
クナイや手裏剣で刺されようが、杭で心臓を貫こうが死にはしないが、着ている服はボロボロになりそうだ。
角都には「それならなにも着るな」などと言われたのだろう。
ヨルは夢魔を出す時に背中の服破くが、どの位置から生えるか自覚しているため、その部分だけ服を切り取ったりサラシをずらしたりしている。
それに、飛段と違って、わざわざ敵の攻撃を食らいに行ったりはしない。
「角都ゥ、外套貸せ」
再び角都にねだる飛段。角都は無視続行。
飛段は角都の背後に近づいてしゃがみ、下から角都の外套の中に入った。
角都の背中が不自然にもっこりと大きく膨らむ。
(二人羽織…)
ヨルは内心で呟いた。
当然、角都は「仕方ないな」と受け入れるわけがない。
ドカ!!
「!!」
「おっと」
外套の前を開いて緩め、後ろ蹴りで飛段を外套下から追いだした。
その後ろを歩いていたヨルに当たりそうになり、右に軽く飛んでそれを避ける。
「角都にああいうことできるのって、世の中でおまえだけだよ…」
吹っ飛んで下に転がっていく飛段を眺めながら呟いた。
再び前を閉じた角都はそのまま飛段を放っておいて上がっていく。
「角都、頂上付近に賞金首がいるって情報、アテになるのか?」
ヨルが尋ねると、角都は前を向いたまま答えた。
「ガセでなければな」
ヨルは、自分が情報屋なら角都を前にガセは言わない、と思う。
報復が恐ろしいからだ。
賞金首は2人組の水の国の抜け忍で、今はこの雪山で山賊を生業としていると3日前に立ち寄った町でその情報を角都が入手した。
賞金は、ひとり50万両で2人始末すれば合わせて100万両手に入るが、今まで殺して換金した賞金首の中で最も値段が低いというのに、場所が場所なだけに割に合わない気がする。
「首を手に入れたあとは?」
「山を下りれば小さな町がある。換金もそこで済ませて宿をとる」
宿がとれるなら文句はない。
さすがにこの寒い中で野宿は耐えられなかった。
「あったけー風呂に入れるのかァ!?」
「早っ」
ヨルがはっと後ろに振り返ると、いつの間にか飛段が戻ってきていた。
「宿をとる」と聞いて目を輝かせている。
「貴様のために贅沢はしない」
角都はこの寒さに勝るような冷たい言い方で返した。
飛段は明らかに不機嫌そうに顔をしかめ、なにか言う前にヨルはそれをなだめる。
「宿をとれるだけでいいだろ」
(頼むから、オレを挟んで言い合いをしないでくれ)
「…?」
急激に頭と目蓋が重くなってきた。
足下もフラフラする。
(なん…だ…?)
ヨルは目を擦るが、じわじわと身体に圧し掛かる重さが消えない。
角都と飛段を交互に見たが、2人に異変は見られなかった。
(オレだけ…?)
目を閉じて倒れたら気持ちいいくらい楽になれる気がする。
(オレ…、眠いのか…?)
納得できる感覚だ。
しかし、昨日はちゃんと睡眠をとったというのに、こんな急激に眠くなるはずはない。
それでも、眠ってたまるかと目を擦ったり頬をつねったりしながら睡魔と戦っていると、
「!?」
「あ!?」
振り返った角都に不意に突き飛ばされ、後ろの飛段も巻き込まれる。
「なにす…!」
尻餅をつき、ヨルを突き飛ばしたと同時に後ろに飛んだ角都を睨みつけ、罵声を浴びせようとしたとき、
「!!」
ヨルがさっきまで立っていた地面に、上から飛んできたクナイが数本そこに突き刺さった。
見上げると、崖の上に立つ2人の男がこちらを見下ろしていた。
ターゲットの2人組だ。
「失敗した!」
「忍か!」
先程飛ばしたクナイでヨル達を始末し、物品を奪おうとしたのだろう。
ヨルは奴らが山賊だということを思い出す。
「油断するな、死ぬぞ」
角都の言葉にヨルはぐっと唸った。
さっき突き飛ばされてなかったら、確実に串刺しになっていたからだ。
「だからオレにそれを言うかよ、角都」
そう言って起き上がった飛段は鎌を構える。
続いてヨルも起き上がり、背中に生やした夢魔を抜きとった。
ヨル達が攻撃を仕掛ける前に、背の高い男が印を組む。
「土遁・地縛の術!」
「!!」
「んだァ!?」
地面から土で出来た手のようなものが生え、ヨル達のそれぞれの両足首をしっかりとつかんだ。
すぐには抜けだせない。
それを確認し、すぐに背の低い男が印を組んだ。
「水遁・氷柱雨!」
すると、頭上から無数のツララが雨のように降ってきた。
ヨルは頭上で夢魔を交差させて頭を守り、角都は土矛で体を硬化させて防ぎ、飛段は鎌のワイヤーを伸ばし巧みに操って防いだ。
そんなヨル達を見て2人組は驚愕する。
「防がれただと!?」
「何者だ!?」
足首をつかむ土の手を自分の武器で壊し、奴らを見上げる。
「なるほど。この氷点下を利用すれば、水を氷と化すことも容易。だが…、今度はこちらの番だ」
そう言った角都に、ようやく奴らはなにを相手にしているのか理解したようだ。
顔色を変え、一歩たじろいだのが見えた。
「!?」
「な!!」
角都は地怨虞で両腕を伸ばして奴らの服の裾をつかみ、崖から引きずりおろして地面に叩きつける。
「ぐあ!!」
「うぐ!!」
鈍いに痛みに耐えながら、2人組はゆっくりと起き上がった。
観念する気はないようだ。
土遁使いの男が下がり、印を組む。
同時にヨルと飛段は武器を、角都は土矛のコブシを足下に振るった。
「同じ手は食らうかよ!」
「バァーカ!」
地面から生えた土の手を破壊する。
「飛段!」
「よっしゃー!!」
角都の横を通過し、ヨルと飛段が水遁の男に突っ込んだ。
水遁の男は印を組もうと両手を動かす。
印を組まれる前に、ヨルは夢魔を液化させて消し、親指を噛み切って肩のコウモリの刺青に塗りつけた。
“闇染”
武器を一度消さないとこの術は使えない。
「!?」
姿が見えなくなったヨルに、2人組は驚いて目を大きく見開いた。
「く…!」
見えない恐怖は隙を作る。
水遁の男は迫る飛段に慌てて印を組むが、組み終える前に飛段は三連鎌を振るった。
「遅ェよ!」
そして、死神の如く男の首を刎ねる。
「そんな…! ぐ!?」
ヨルは土遁の男を背後から右手の夢魔で貫いた。
当然、姿は見えている。
「お…まえ…!」
「足跡と、5秒前に気付かなかったおまえが悪い」
ヨルは飛段と一緒に水遁の男に突っ込んだと見せかけ、姿と気配を消したあとは土遁の男の背後に回った。
姿が消えるだけの術だから、雪を踏む音と足跡で気付かれると思ったが、よほど驚いたのかその心配はなかった。
5秒前、飛段が水遁の男の首を刎ねる直前、夢魔を出現させると同時に闇染が解けてもだ。
それが助かるチャンスになったかもしれないのに。
「闇で醒めな」
「ぐ…」
夢魔を液化させ、土遁の男が膝をついてそのまま倒れる。
倒れる直前、印を組んでいたのを、この時ヨルは見逃していた。
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