05:記憶の水滴
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朱族4人が揃ったとき、天空は言った。
『“真血”を他の者に教えてはいけない。与えてはいけない』
*****
その言葉を聞いて数日後、向かい側のアサの檻で、なにかが潰される音が聞こえ、ヨルは目を覚ました。
ベッドからおりて自分の檻の柵へと近づき、向かい側の檻を窺う。
見えたのは、足でネズミを踏み潰すアサの姿だった。
噛みついて血を啜るならともかく、なぜ潰すのか。
しかも足で。
『な…にしてんだ…?』
ヨルはおそるおそる声をかけた。
潰したネズミを冷たい目で見下ろしていたアサは、顔をこちらに向け、薄笑みを浮かべる。
『このネズミ、死にかけていてな。少しだけ、“真血”を与えた。ほんの、2・3滴…』
『天空は…与えちゃダメだって…』
『そう言われてものぅ…。好奇心には勝てん。子供も、大人も、動物も、バケモノも…』
“バケモノ”という言葉が、ヨルの胸に深く突き刺さったのを感じた。
アサはなんてことなく受け入れている様子だ。
ヨルの気も知らずにアサは言葉を続ける。
『2・3滴…。それだけでこのネズミはバケモノになった。だから殺した。殺してやったんじゃ…』
『……………』
『父上が言っていたのはこういうことじゃ。ワシ達の中にある“真血”は、バケモノを生み出す。“真血”はワシ達に組み込まれたバケモノの血じゃろう。それを使いきればどうなってしまうのか…』
想像もつかない。
けれど、使い切っても、人間に戻れないのはわかる。
ヨル達の体は、完全にバケモノと同化しているのだから。
ならば、死ぬのだろうか。
ヨルの勘だが、どの道、良い結果ではないだろう。
『小動物で試してよかった。人間なら、あとのことを考えると面倒じゃ』
人間はネズミと違って大きいし、命も長いし、知能もあるうえに、凶暴だ。
バケモノに変える力があるというなら、ヨルだって人間には使用しない。
天空がそのことを話さなかったのは、優しさだと思った。
バケモノの血を持っているという事実を知り、ショックを受けないための。
それでも、話してくれればよかった、とヨルは歯を食いしばる。
ヨル達はこの先永く生きる。
いつか必ず自分をバケモノと受け入れる日がくるのだから。
それに、天空の口から聞いた方がショックが少なくて済んだかもしれない。
直接『バケモノを生み出す』とは言わないだろう。
アサは『ヒルとユウにも言った方がいいのぅ』と呟いた。
ユウはヨルの隣の檻、ヒルはアサの隣の檻で眠っている。
『ヨル』
ヨルがベッドに戻ろうとしたとき、アサに『ヨル』声をかけられ、立ち止まってアサに振り返った。
「人間には与えるな」
その顔は真剣だった。
しかし、言葉は脅迫するかのように低かった。
「…わかってる」
しかしヨルは、その“禁”を破ることになる。
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