04:弱さの晒し者
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飛段の儀式を終えたあと、出発した3人は角都を先頭に、狭い山道を進んでいた。
飛段は隣のヨルを何度も見たが、以前と変わらない振る舞いだ。
戦いが終わってから、飛段はずっと考え込んでいた。
(ヨルが角都をなァ…。まあ、ヨルはああだけど女だし。……けど、年の差が…、あ……)
はっとする。若く見えるが、2人とも飛段よりかなりの年上だ。
(おかしくねえよ! ヨルの方が年上だけど、角都と年近いじゃねえかァ!)
しかも、2人とも美形だ。不釣り合いは感じさせない。
祭りの時の雰囲気も、傍から見れば良い方だ。
りんご飴をプレゼントした角都、嬉しそうに「ありがとう、角都」と礼を言ったヨル。
(……なんだこのラブフラグ)
考えただけで恥ずかしくなる飛段。
(別にィ、あいつらがうまくいって好き合おうが付き合おうがオレには関係ねえじゃん。気にする必要は……)
「ぐむっ」
その時、ドン、と飛段の顔に角都の背中がぶつかった。
「どこか痛むのか?」
「へ?」
立ち止まった角都に肩越しに聞かれ、間の抜けた顔を浮かべる。
それを、隣のヨルが覗きこんだ。
「なんで無口なんだよ。気味悪ィな」
(テメーらのことで考えてたんだよォ!!)
飛段は素直に言えるわけもなく、それはとりあえず内心で叫んでおいた。
とにかくこの場は誤魔化したいところだ。
「え…と…、いやァ、ヨルのああいう術系初めて見たからよォ。アレなんだ? 口寄せかァ?」
ヨルは「ああ、アレか…」と言って続ける。
「“音寄せ”って言ってな、普通の人間には聞こえない特殊な音波を出して野性のコウモリを呼ぶんだ。他の動物を催眠状態にもできる」
角都も興味が湧き、黙って耳を傾けていた。
「へぇ。他になんか術あんのかァ?」
「…そうだな……」
出会った時のヨルならば簡単に明かしていなかっただろう。
ヨルは考える仕草をしたあと、右手の親指のはらを噛み切り、その血を肩のコウモリの刺青に塗りつける。
「“闇染”」
「「!」」
ヨルの姿が揺らめき、半透明になって静かに消えた。
「ヨル!?」
「気配も完全に消えたな」
飛段は慌てて辺りを見回し、角都は冷静に視線でヨルの姿を確認しようとしながら呟いたとき、突然飛段は背後から首をつかまれた。
「!?」
振り返ると、ヨルの姿がそこにあった。
「気配は消せるけど、こんなふうに、攻撃を仕掛けると術が解ける。“夢魔”出しても解ける。逃亡用の術なんだ、これは」
便利な術だが、ヨルの声に無意識に苛立ちがこもり、眉根を寄せた。
飛段から見ても、本人は気に入っていないのだろう、とわかりやすい空気を察する。
(かくれんぼの時に便利だと思うけどなァ)
実際に“闇染”を使用されて身を隠されては見つけられない気がした。
「五大性質変化はなにが使える?」
今度は角都が質問する。
だが、ヨルはきょとんとした顔をしたまま黙った。
「……これ以上言いたくなければいい」
“闇染”の術だけでも他に知られるべきものではないだろう、とそれ以上追究せず、角都は再び進み始めたので、ヨルは「?」の顔のままついていく。
その後ろで飛段は少しむくれていた。
(オレだったら、「言わないと殺す」とか言うくせによォ…)
ちなみに、ヨルは言いたくなかったわけではない。
知らなかっただけなのだ。
数十分後、絶壁の崖を下ろうとした時、ヨルは目前の崖を前に声を上げた。
「できるかァ!!」
「ハァ!? こんなんチャクラ使えば一発だろ!」
「……チャクラ?」
「なにそれおいしいの?」という顔だ。ボケてるわけではない。
それを見た角都は、頭痛がするわけでもなく、自身の両目を片手で覆ったまま問う。
「……まさかとは思うが、貴様、チャクラが使えないのか?」
「???」
本当になにも知らない反応だ。
「おいおい、マジで言ってんのか!?」
飛段も信じがたい目でヨルを凝視する。
角都はとりあえず見本を見せることにした。
印を組み、足にチャクラを溜めて崖を垂直に下っていく。
「!!」
それを見たヨルは驚いた顔をした。
「チャクラを足に練れば、木の上を歩くことも、水の上を歩くこともできる。貴様、忍でなくても戦闘術で教えられなかったのか。オレより長く生きていながら…」
「……はい…。忍者がそうやってるのは見たことありましたけど…、チャクラとか、具体的なことはまったく知りませんでした」
実力の差を見せつけられて敬語になる。
今まで敵を知らずに戦っていたのと同じだ。角都と飛段は逆に驚かされる。
「アカデミーのガキ以下ってことか」
「飛段以下ということだ」
ヨルと飛段が同時に角都を睨みつける。
「なんでオレ以下!!?」
「そこまで言われる覚えはねえ!!」
「テメーも過剰反応すんなコラァ!!」
喧嘩を始めるヨルと飛段の様子に、角都がコブシを鳴らすと、2人は同時に黙り込んだ。容赦なく殴られると察したからだ。
(つまり、五大性質も知らないわけだな…)
角都は数十分前にその単語を聞いてきょとんしていたヨルの呆けた顔を思い出す。
「はぁ…」
「はぁ…」
角都に続き、飛段もため息をついた。
「飛段にため息つかれた…」
ヨルは露骨にショックを受けた。
「…時間の無駄だ。特別に担いでやる」
角都がヨルに手を伸ばしたとき、
「オレが担ぐ!!」
「……なに?」
角都の手首をつかんだ飛段が必死な顔で言いだした。
「オレが担ぐゥ!!」
必死な飛段に怪訝な顔をする角都だったが、「……遅れるなよ」と角都が口にした時には、飛段はヨルを肩に担いで崖を駆け下りた。
崖下から「飛段―――! 速い―――!!」とヨルの叫びが聞こえる。
「なんなんだ」
今日一日、黙ったり、誤魔化すように言ったり、苛々したり、必死になったり。
飛段の様子が明らかにおかしいことに角都は疑問を抱いた。
*****
それからしばらく進んだあと、日も沈み、更地で野宿をすることにした。
枯れ木に火をつけたとき、背後にゼツが現れた。
「頼まれてたもの持ってきたよ」
「オマエ、コンナモノドウスル気ダ?」
角都はゼツが取り出した巻物を受け取り、ヨルに投げ渡す。
「……“忍術初段の書?”」
ヨルは世の中のことは知らずとも文字は読める。
「アカデミーで習う術が記された巻物だ」
「太いな…。長いし…」
紐を解き、その長さにげんなりしている。
「貴様の実力はアカデミークラスだ。それで勉強し、使えそうな術を覚えろ。チャクラの云々はそれからだ」
才能があるかどうかは、術の覚えの早さと扱いで決める。
「角都が教えればいいのに」
白いゼツがそう言ったが、笑ったのは飛段だった。
「クク…ッ。お厳しい角都が先生になったらヨルが死ぬってェ」
角都の「厳しい」は度を越しているからだ。
ゼツが帰ったあとも、巻物を読むヨルは「ええ」だの「うわ」だの「ムリ」だの言っている。
「次は甘やかすと思うな」
角都の圧をかける言葉に、ヨルは黙々と巻物を読んでいく。
試しに巻物を見ながら印を組み、「分身の術」と呟いた。
しかし、ヨルが2人に増えることはない。
すると唐突に、巻物を読みながら角都と飛段に話しかける。
「忍者学校(アカデミー)ってさぁ…、角都と飛段も通ってたのか」
「ああ」
角都は干し肉を目の前の焚火で焼きながら答えた。
「卒業したのか? つーか、飛段、卒業できたのか?」
「いちいち失礼だな、おい」
生焼けの干し肉を頬張りながら飛段はヨルを睨みつける。
「卒業すれば、忍の額当てが手に入る」
角都は自分の額を指先でコツコツと叩いた。
ヨルは視線を上げてそれを一瞥し、再び視線を巻物へと落として「傷はわざとか?」と投げかける。
額当てのマークにつけた一線の傷のことだ。
「抜け忍の証だ。故郷を捨てた証…」
この額当てに傷をつけた日を、角都は忘れはしない。
「……そっか…。……“変化”! ……クソ…」
角都の返答を聞きながらヨルは印を結んで変化の術を使用としたが、煙に包まれもしない。
それでも諦めず再チャレンジしようとするヨルの姿に、角都はふと、アカデミーで勉強していた頃の自分自身を思い出した。
なんのために忍者になろうとしたのか。今となっては、思い出すのも苦々しい。
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