39:故郷へ
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*飛段
「村に行くためのアシと、協力者はいるの」
そう言った水波のあとについていって立ち止まった場所は、この町の広場だった。
そこには親子連れが多くいた。
なにが始まるのか、奴らはあらかじめ敷かれていたシートの上に座り、目の前の幕が閉まったままの小さな舞台を見ている。
これから見世物が始まるようだ。
空いてる場所がなかったため、オレ達は立ったまま見物することになった。
「なあ、なんでこんなところに…」
腕を組んで幕が上がるのを待ちながら、オレは隣に立つ水波に尋ねる。
水波も前を見たまま答えた。
「ちょうど、この町で仕事があったから、それが終わるまであたし達は待機」
じゃあ、協力者は見世物小屋の仕事をしているのか。
いや、待て。
あの見世物小屋、どこかで見たことがあるぞ。
首を傾げるオレが目の端に映ったのか、水波は小さく笑った。
「そう、飛段の知ってる人」
同時に、広場の灯りが消え、スポットライトによって舞台が照らされる。
幕が開けた。
舞台袖から人が現れる。
「!?」
両目に仮面をつけた男。
「ヒル!?」
いや、ヒルより少し小柄だ。
わかめ頭にあの格好。
目が隠されているおかげでそいつが誰なのかすぐに思い出した。
「ミツバか!?」
そいつは観客に向け、大きく両腕を広げる。
「お集まりの皆さま、今宵、我ら“日ノ輪”のショー、存分に楽しんでください! 血も凍るような場面にでくわしても、けして瞑ってはいけません。それではせっかく来た甲斐ありません。恐怖も含め、楽しい夜を共に…」
その姿とセリフは、2年前のヒルと重なった。
ミツバは礼儀正しく一礼をしたあと、ボンッ、という音とともに煙に包まれて消え、観客は驚いたあと無人の舞台に拍手を送った。
「まるで忍だ…」
オレはあの時のセリフをもう1度口にした。
この2年であいつは見世物小屋を共に営む仲間をたくさん増やしたようだ。
舞台を見ただけでも12人。
2年前のような戦慄を覚えさせるものは少し欠けていたが、客の反応はいい。
他のメンバーは、綱渡りだったり、ボール乗りだったり、死闘ごっこだったり。
その中で、やっぱり、ミツバのナイフ投げが一番受けている様子だ。
さすがに、串刺しの箱はやってないようだったがな。
ショーが終わったあと、客が去ったのを見計らってオレ達は片付けの最中の見世物小屋に声をかけた。
「久しぶり、飛段」
2年前は殺し合った仲だったってのに、ミツバは友好的に声をかけてきた。
オレの呪いで仕留めそこなった人間の中のひとりだ。
ジャシン様の贄にできなかったことを思い出すが、今は大事な協力者だ。
ミツバが最初に話しかけてくれたおかげでオレも話しやすい。
「水波と知り合いだったとはな」
「つい最近知り合ったばかりよ。死にかけてたところを助けられてね」
ヨルから逃げ切ったあと、拾われたようだ。
なるほど、そのままオレ達の情報を頼りにここまで乗せてもらったってわけか。
「飛段達のこと聞いてびっくり」
そう言うミツバにオレは苦笑する。
「妙な縁だぜ」
「送っていくのいい。けど、角都どうした?」
問われたオレは少し黙り、「ちょっとな…」とはぐらかそうとした。
そこで、頭に強烈な痛みを覚えた。
「痛!? イッデデデデデデェェ!!?;」
なにかに後ろから頭を噛まれた。
ミツバはそいつに近づき、慌てて止める。
「ストップ、トランプ!」
ようやく歯が放され、オレはそいつに振り返って目を丸くした。
馬だ。
横腹に日ノ輪のマーク、額にダイヤ、右目にクローバー、左目にスペード、首にハートのマークがついた白い馬がそこにいた。
口をもしゃもしゃと動かしている。
「なんだその馬ァ!」
オレは指をさしてミツバに怒鳴る。
「トランプ」
ミツバはあっさりと答えた。
それから「珍しい。トランプ、オレ以外に懐いている」と和やかに言うが、オレはたった今こいつに噛まれたんだぞ。
「てめーは馬に毎日自分の頭かじらせてるのか?」
「甘噛みだから大丈夫」
ミツバがトランプのうなじを撫でると、トランプは嬉しそうにミツバの頭にかじりついた。
妙な光景だ。
確かに甘く噛んでいる様子だ。
「オレの時はマジ噛みだったクセに」
オレの頭から滴るこの出血に気付いているのか。
目が見えてなくても感じられるだろが。
協力してくれるのはいいが、先が思いやられる。
「キャー!」
頭を抱えていると、水波の悲鳴が聞こえた。
何事かと思えば、トランプに胸倉を引っ張られている。
上から見たら胸が丸見えだ。
ミツバは首を傾げ、他の日ノ輪メンバーは「おおっ」と喜びの声を上げている。
「見るなぁ!! ヤロウ共ぉ!!」
水波は水魔絃を発動させ、片付け中の舞台の上から胸を見ようとした不届きものを縛り上げる。
ホントに先が思いやられる。
それでも待ってろよな、ヨル。
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「村に行くためのアシと、協力者はいるの」
そう言った水波のあとについていって立ち止まった場所は、この町の広場だった。
そこには親子連れが多くいた。
なにが始まるのか、奴らはあらかじめ敷かれていたシートの上に座り、目の前の幕が閉まったままの小さな舞台を見ている。
これから見世物が始まるようだ。
空いてる場所がなかったため、オレ達は立ったまま見物することになった。
「なあ、なんでこんなところに…」
腕を組んで幕が上がるのを待ちながら、オレは隣に立つ水波に尋ねる。
水波も前を見たまま答えた。
「ちょうど、この町で仕事があったから、それが終わるまであたし達は待機」
じゃあ、協力者は見世物小屋の仕事をしているのか。
いや、待て。
あの見世物小屋、どこかで見たことがあるぞ。
首を傾げるオレが目の端に映ったのか、水波は小さく笑った。
「そう、飛段の知ってる人」
同時に、広場の灯りが消え、スポットライトによって舞台が照らされる。
幕が開けた。
舞台袖から人が現れる。
「!?」
両目に仮面をつけた男。
「ヒル!?」
いや、ヒルより少し小柄だ。
わかめ頭にあの格好。
目が隠されているおかげでそいつが誰なのかすぐに思い出した。
「ミツバか!?」
そいつは観客に向け、大きく両腕を広げる。
「お集まりの皆さま、今宵、我ら“日ノ輪”のショー、存分に楽しんでください! 血も凍るような場面にでくわしても、けして瞑ってはいけません。それではせっかく来た甲斐ありません。恐怖も含め、楽しい夜を共に…」
その姿とセリフは、2年前のヒルと重なった。
ミツバは礼儀正しく一礼をしたあと、ボンッ、という音とともに煙に包まれて消え、観客は驚いたあと無人の舞台に拍手を送った。
「まるで忍だ…」
オレはあの時のセリフをもう1度口にした。
この2年であいつは見世物小屋を共に営む仲間をたくさん増やしたようだ。
舞台を見ただけでも12人。
2年前のような戦慄を覚えさせるものは少し欠けていたが、客の反応はいい。
他のメンバーは、綱渡りだったり、ボール乗りだったり、死闘ごっこだったり。
その中で、やっぱり、ミツバのナイフ投げが一番受けている様子だ。
さすがに、串刺しの箱はやってないようだったがな。
ショーが終わったあと、客が去ったのを見計らってオレ達は片付けの最中の見世物小屋に声をかけた。
「久しぶり、飛段」
2年前は殺し合った仲だったってのに、ミツバは友好的に声をかけてきた。
オレの呪いで仕留めそこなった人間の中のひとりだ。
ジャシン様の贄にできなかったことを思い出すが、今は大事な協力者だ。
ミツバが最初に話しかけてくれたおかげでオレも話しやすい。
「水波と知り合いだったとはな」
「つい最近知り合ったばかりよ。死にかけてたところを助けられてね」
ヨルから逃げ切ったあと、拾われたようだ。
なるほど、そのままオレ達の情報を頼りにここまで乗せてもらったってわけか。
「飛段達のこと聞いてびっくり」
そう言うミツバにオレは苦笑する。
「妙な縁だぜ」
「送っていくのいい。けど、角都どうした?」
問われたオレは少し黙り、「ちょっとな…」とはぐらかそうとした。
そこで、頭に強烈な痛みを覚えた。
「痛!? イッデデデデデデェェ!!?;」
なにかに後ろから頭を噛まれた。
ミツバはそいつに近づき、慌てて止める。
「ストップ、トランプ!」
ようやく歯が放され、オレはそいつに振り返って目を丸くした。
馬だ。
横腹に日ノ輪のマーク、額にダイヤ、右目にクローバー、左目にスペード、首にハートのマークがついた白い馬がそこにいた。
口をもしゃもしゃと動かしている。
「なんだその馬ァ!」
オレは指をさしてミツバに怒鳴る。
「トランプ」
ミツバはあっさりと答えた。
それから「珍しい。トランプ、オレ以外に懐いている」と和やかに言うが、オレはたった今こいつに噛まれたんだぞ。
「てめーは馬に毎日自分の頭かじらせてるのか?」
「甘噛みだから大丈夫」
ミツバがトランプのうなじを撫でると、トランプは嬉しそうにミツバの頭にかじりついた。
妙な光景だ。
確かに甘く噛んでいる様子だ。
「オレの時はマジ噛みだったクセに」
オレの頭から滴るこの出血に気付いているのか。
目が見えてなくても感じられるだろが。
協力してくれるのはいいが、先が思いやられる。
「キャー!」
頭を抱えていると、水波の悲鳴が聞こえた。
何事かと思えば、トランプに胸倉を引っ張られている。
上から見たら胸が丸見えだ。
ミツバは首を傾げ、他の日ノ輪メンバーは「おおっ」と喜びの声を上げている。
「見るなぁ!! ヤロウ共ぉ!!」
水波は水魔絃を発動させ、片付け中の舞台の上から胸を見ようとした不届きものを縛り上げる。
ホントに先が思いやられる。
それでも待ってろよな、ヨル。
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