38:鬼さんどちら
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*角都
あれから数日が経過し、オレと飛段はとある町の宿に宿泊していた。
ヨルの行方は依然つかめぬままだ。
情報を集めているうちにわかったことと言えば、奴はアサのところから離れる前にギンジ達が経営している質屋に立ち寄ったそうだ。
そこでひと悶着あったらしい。
サングラスの男、おそらくクロハのことだろう、そいつに殺されそうになったところを助けてもらったらしい。
話を聞く限り、鬼化が発動したようだ。
血を大量に消費したわけでもないのに。
これはオレの推測だが、オレと飛段のために真血を使ってしまい、鬼化の制御が困難になっているのではないか。
そうだとすれば、ひとりで行動する方が危険だ。
ストッパーが誰もいなくては。
「……………」
先程から、帳簿をつけているオレの手は止まったままだ。
ふと目の前の黒い空を映した窓を見上げる。
曇ってきたな。
そろそろ、雨が降るだろう。
シャリ、シャリ、と先程からこの部屋を占領している音は、研ぎ石の音だ。
オレの背後で、飛段は数センチの長方形の研ぎ石で三連鎌の手入れをしているところだ。
シャリ、シャリ、シャリ、シャリ…。
「…飛段」
帳簿を見下ろしたまま声をかけてみるが、返事がない。
やはり、放心状態で武器の手入れをしているようだ。
今度は肩越しの振り返り、大きめに声をかけてみる。
「飛段!」
飛段ははっとしてオレの方へ顔を上げ、「な、なんだ?」ときょとんとした表情をする。
「…鬱陶しい」
ため息の次に出た言葉がそれだ。
「ハァ!? なんだよ突然、ケンカ売ってんのかァ!?」
当然、飛段は歯を剥いて怒鳴った。
この数日よりはマシな反応をするようになった。
誰でも腹を立てるようなことを言っても、「んー」や「ああ」や「そうだな」と短い生返事を返されていたのだから。
「…あいつのことで気が気でないのはわかる…」
「……わかるだァ? へっ、呑気に金のこと書いてるくせに」
眉をひそめた飛段は帳簿に人差し指をさした。
長く目に留めておきたくもないのか、すぐに視線は部屋の壁に逸らされる。
「……あいつ…、マジで暁抜けたのかな…」
飛段の口から奴の話題が出るのも久しぶりだ。
顔を見ると、また放心しかけている。
「……だったら…、貴様も暁を抜けるか?」
気がつけば、そんなことを口走っていた。
飛段は目を大きく見開いてオレを見る。
「お…、おまえなら…、どうする…?」
その声は震えていた。
オレの答えはわかっていることだろう。
「馬鹿を言うな。損得を考えればこちらがいいに決まっているだろ」
飛段の目が鋭くなる。
「結局金かよ…。そんなの、オレ達といても賞金首狩ってけば手に入るもんだろ」
「金だけの問題ではない。暁を敵に回すのが面倒なんだ。…貴様は不死身だからいいかもしれんがな…」
「……てめーだって不死身だろ」
「何度も言わせるな」
オレは5回殺されれば死ぬ。
「……………」
飛段はうつむき、下唇を噛んだ。
「…そんなにヨルの傍がいいのなら、オレのもとを離れたらどうだ」
話はその一言で終了するつもりだった。
しかし、再び帳簿に向こうとしたオレの目の端に、なにかが飛んできて、反射的につかんだ。
研ぎ石だ。
飛段を見ると、オレを睨みつけ、片膝をついて腕を伸ばした格好だった。
「貴様…」
「そうじゃ…ねーんだよ……」
「?」
オレが片眉を吊り上げると、飛段は勢いよく立ちあがってオレに罵声を浴びせた。
「このわからずやの頑固ジジイ!! てめーはオレよりバカだ!! バァーカァ!!」
そのあと、三連鎌を手に取り、すぐに部屋から飛び出してしまう。
「飛段!」
声をかけた頃には下ではバタバタと騒がしい足音が聞こえた。
窓から下をのぞくと、飛段が右の道を駆けて行くのが見えた。
行く当てもないのにどこへ向かう気だ。
「……面倒な奴だ」
わからずやはどちらの方だ。
苛立ち、オレは目の前の帳簿にコブシを叩きつけた。
.
あれから数日が経過し、オレと飛段はとある町の宿に宿泊していた。
ヨルの行方は依然つかめぬままだ。
情報を集めているうちにわかったことと言えば、奴はアサのところから離れる前にギンジ達が経営している質屋に立ち寄ったそうだ。
そこでひと悶着あったらしい。
サングラスの男、おそらくクロハのことだろう、そいつに殺されそうになったところを助けてもらったらしい。
話を聞く限り、鬼化が発動したようだ。
血を大量に消費したわけでもないのに。
これはオレの推測だが、オレと飛段のために真血を使ってしまい、鬼化の制御が困難になっているのではないか。
そうだとすれば、ひとりで行動する方が危険だ。
ストッパーが誰もいなくては。
「……………」
先程から、帳簿をつけているオレの手は止まったままだ。
ふと目の前の黒い空を映した窓を見上げる。
曇ってきたな。
そろそろ、雨が降るだろう。
シャリ、シャリ、と先程からこの部屋を占領している音は、研ぎ石の音だ。
オレの背後で、飛段は数センチの長方形の研ぎ石で三連鎌の手入れをしているところだ。
シャリ、シャリ、シャリ、シャリ…。
「…飛段」
帳簿を見下ろしたまま声をかけてみるが、返事がない。
やはり、放心状態で武器の手入れをしているようだ。
今度は肩越しの振り返り、大きめに声をかけてみる。
「飛段!」
飛段ははっとしてオレの方へ顔を上げ、「な、なんだ?」ときょとんとした表情をする。
「…鬱陶しい」
ため息の次に出た言葉がそれだ。
「ハァ!? なんだよ突然、ケンカ売ってんのかァ!?」
当然、飛段は歯を剥いて怒鳴った。
この数日よりはマシな反応をするようになった。
誰でも腹を立てるようなことを言っても、「んー」や「ああ」や「そうだな」と短い生返事を返されていたのだから。
「…あいつのことで気が気でないのはわかる…」
「……わかるだァ? へっ、呑気に金のこと書いてるくせに」
眉をひそめた飛段は帳簿に人差し指をさした。
長く目に留めておきたくもないのか、すぐに視線は部屋の壁に逸らされる。
「……あいつ…、マジで暁抜けたのかな…」
飛段の口から奴の話題が出るのも久しぶりだ。
顔を見ると、また放心しかけている。
「……だったら…、貴様も暁を抜けるか?」
気がつけば、そんなことを口走っていた。
飛段は目を大きく見開いてオレを見る。
「お…、おまえなら…、どうする…?」
その声は震えていた。
オレの答えはわかっていることだろう。
「馬鹿を言うな。損得を考えればこちらがいいに決まっているだろ」
飛段の目が鋭くなる。
「結局金かよ…。そんなの、オレ達といても賞金首狩ってけば手に入るもんだろ」
「金だけの問題ではない。暁を敵に回すのが面倒なんだ。…貴様は不死身だからいいかもしれんがな…」
「……てめーだって不死身だろ」
「何度も言わせるな」
オレは5回殺されれば死ぬ。
「……………」
飛段はうつむき、下唇を噛んだ。
「…そんなにヨルの傍がいいのなら、オレのもとを離れたらどうだ」
話はその一言で終了するつもりだった。
しかし、再び帳簿に向こうとしたオレの目の端に、なにかが飛んできて、反射的につかんだ。
研ぎ石だ。
飛段を見ると、オレを睨みつけ、片膝をついて腕を伸ばした格好だった。
「貴様…」
「そうじゃ…ねーんだよ……」
「?」
オレが片眉を吊り上げると、飛段は勢いよく立ちあがってオレに罵声を浴びせた。
「このわからずやの頑固ジジイ!! てめーはオレよりバカだ!! バァーカァ!!」
そのあと、三連鎌を手に取り、すぐに部屋から飛び出してしまう。
「飛段!」
声をかけた頃には下ではバタバタと騒がしい足音が聞こえた。
窓から下をのぞくと、飛段が右の道を駆けて行くのが見えた。
行く当てもないのにどこへ向かう気だ。
「……面倒な奴だ」
わからずやはどちらの方だ。
苛立ち、オレは目の前の帳簿にコブシを叩きつけた。
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