38:鬼さんどちら
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*アサ
雨隠れの里にある、廃虚の建物の屋上でワシはそやつに会った。
相手は待ち合わせの時間より早めに来たようだ。
クロハとアゲハはこの建物の出入口に待たせてある。
雨に打たれる屋上の端に座って里を見下ろすそやつに近づき、ワシは声をかけた。
「マダラ」
名を呼ばれたマダラは振り返る。
フードの下の顔には右目だけ穴の空いたオレンジ色の仮面がついていた。
トビの役目を終えても、その仮面だけは外さないのか。
マダラは肩越しにワシの姿を確認すると、また前に向き直った。
「アサ…、急な呼び出しだな」
こうして話をするのも久方ぶりだ。
数年前とは変らぬ声だ。
「わざとらしい。用件はわかっておるのじゃろう?」
「…角都と飛段のところには戻ってはいない」
「! 戻ってない?」
あれから3日が経過しているというのに。
「ああ。相も変わらず、2人だけで旅を続けているそうだ」
ワシはマダラから視線を上げ、雨を降らせるどんよりとした雨雲を見上げた。
「なら…、どこへ……」
ヨルはどこへ行ってしまったのじゃ。
ようやく、と思ったところで逃げられてしまうとは。
ワシとしたことが、迂闊じゃった。
なにを安心しきっていたのだろうか。
「フッ…。早々、自分の思い通りにはいかないものだな」
心の内を読んだように、マダラは小さく笑った。
ワシは再度マダラに視線を落とし、低い声を出す。
「そのセリフ…。おヌシにそのまま返そう」
「可能性は、オレの方が上だ。そんなことより、オレも聞きたいことがある」
マダラはまたこちらに振り返った。
しかし、その目は先程より鋭いものだ。
「ヨルは…、暁を抜けたことになるのか?」
裏切り者は死罪。
それが暁のルールじゃったな。
「わからんが…、外套を持って行った。暁を抜ける意思があるのなら、そんなものは不要じゃろう」
ましてや、あの2人のもとに帰ろうとしているのなら。
「そんな曖昧なものでは困るんだ。はっきりしない場合は…」
「ワシはヨルを連れ戻す。今、おヌシに言えるのはそれだけじゃ。絶対に手は出すな。さもなくば、ワシがおヌシを殺す」
用件も、警告も済ませた。
ワシはマダラに背を向けて屋上の出入口へと向かう。
「近々、声をかける。オレの思惑通りに行けばな」
その言葉を背中で聞きながら、ワシは出入口の扉を開けた。
アサに頼まれ、とある町のめし屋の店内から“木目連の術”で角都と飛段の様子を見ることになった。
2人は今オレ様がいる店から数百メートル離れた先の宿に宿泊していた。
宿の天井から見た限り、2人でツインの部屋を借りているようだ。
暁はほとんどシングルって聞いてたのに。
角都は窓際に座ってアタッシュケースの中の金を数え、飛段は部屋の中央に敷かれた布団の上でうつ伏せに寝転んでいる。
その表情はなにか言いたげだ。
「……角都ゥ」
「…なんだ?」
「……………」
「……用もないのに呼ぶな」
見ててじれったくなる雰囲気だ。
飛段が気にしているのはヨルのことだろうか。
あれだけ酷いことを吐かれておきながら。
角都はいつも通りといった感じだ。
ヨルのことはもう諦めているのか。
頭巾と口布のせいで表情が読みづらい。
外套をとったのなら、その顔の邪魔なものも外せばいいのに。
「…ヨル…、今頃なにしてると思う?」
「知るか。あの女が勝手に決めたことだ。いちいち気にするな。仕事に支障が出る」
なんだ、ヨルがアサから逃げたことは知らないのか。
「…冷てェよ、てめーはよォ…。今頃ヨルの奴、アサにいびられて泣いてるかもしれねーし、山でイノシシに追いかけられてるかもしれねーし、海でサメに追いかけれてるかもしれねーし…」
ちょっと当たってる。
そうとは知らず、角都は呆れた声を出した。
「馬鹿を言ってないでさっさと寝ろ。明日も早い」
金を数え終えた角都はアタッシュケースに鍵をかけ、頭巾と口布を取り去った。
寝る時もそれつけたままなのかと思ってた。
それでも、無表情すぎてなに考えてるのか読めない。
角都は飛段の隣の布団に潜り込もうとした。
「角都…、おまえ、なに隠してんだ?」
「!」
飛段のその言葉に角都は大きく目を見開き、動きを止めた。
その反応を見て飛段の目が鋭くなり、上半身を起こして角都と向かい合う。
「角都、オレに隠し事はなしだぜ。びっくりするくらい冷たいのが尚更怪しいっての。…なぁ、角都…」
飛段が角都に顔を近づけたとき、角都は飛段の両肩をつかみ、押し倒した。
「てっ!」
背中を打ち、飛段は顔をしかめた。
それでも構わず、角都は飛段の肩を強くにぎりしめ、顔を近づける。
「普段は呆けているくせに、妙に勘がいいから困る。飛段、余計な詮索はするな。オレと貴様、ヨルのためでもある」
当然、そんな言葉で飛段が納得するわけがない。
「わかんねーよ、なに言ってんのか…。オレ達のため? 角都、それマジで言ってんのか? 本当にこの状況がオレ達のためになってんのか?」
「飛段…」
意外だった。
長年の時を生きている武人が、歳も、力も、知識も己より劣っている人間に押されているのだから。
それにしてもなんて光景だ。
口元の動きがなければ、そっち側の関係かと疑ってしまう。
いや、聞こえててもそう見えてしまう。
「いいから…、今は寝ろ。いずれ話す」
角都は飛段から離れ、布団にもぐりこみ、飛段に背を向けた。
「角都…」
飛段はその背を見つめ呟くが、角都は返事を返さなかった。
「天丼おまたせしましたぁ」
術を解き、ちょうど注文していた天丼が運ばれてきた。
先に食べるか、注文を変更すればよかった。
あの2人のせいで食欲がない。
.
雨隠れの里にある、廃虚の建物の屋上でワシはそやつに会った。
相手は待ち合わせの時間より早めに来たようだ。
クロハとアゲハはこの建物の出入口に待たせてある。
雨に打たれる屋上の端に座って里を見下ろすそやつに近づき、ワシは声をかけた。
「マダラ」
名を呼ばれたマダラは振り返る。
フードの下の顔には右目だけ穴の空いたオレンジ色の仮面がついていた。
トビの役目を終えても、その仮面だけは外さないのか。
マダラは肩越しにワシの姿を確認すると、また前に向き直った。
「アサ…、急な呼び出しだな」
こうして話をするのも久方ぶりだ。
数年前とは変らぬ声だ。
「わざとらしい。用件はわかっておるのじゃろう?」
「…角都と飛段のところには戻ってはいない」
「! 戻ってない?」
あれから3日が経過しているというのに。
「ああ。相も変わらず、2人だけで旅を続けているそうだ」
ワシはマダラから視線を上げ、雨を降らせるどんよりとした雨雲を見上げた。
「なら…、どこへ……」
ヨルはどこへ行ってしまったのじゃ。
ようやく、と思ったところで逃げられてしまうとは。
ワシとしたことが、迂闊じゃった。
なにを安心しきっていたのだろうか。
「フッ…。早々、自分の思い通りにはいかないものだな」
心の内を読んだように、マダラは小さく笑った。
ワシは再度マダラに視線を落とし、低い声を出す。
「そのセリフ…。おヌシにそのまま返そう」
「可能性は、オレの方が上だ。そんなことより、オレも聞きたいことがある」
マダラはまたこちらに振り返った。
しかし、その目は先程より鋭いものだ。
「ヨルは…、暁を抜けたことになるのか?」
裏切り者は死罪。
それが暁のルールじゃったな。
「わからんが…、外套を持って行った。暁を抜ける意思があるのなら、そんなものは不要じゃろう」
ましてや、あの2人のもとに帰ろうとしているのなら。
「そんな曖昧なものでは困るんだ。はっきりしない場合は…」
「ワシはヨルを連れ戻す。今、おヌシに言えるのはそれだけじゃ。絶対に手は出すな。さもなくば、ワシがおヌシを殺す」
用件も、警告も済ませた。
ワシはマダラに背を向けて屋上の出入口へと向かう。
「近々、声をかける。オレの思惑通りに行けばな」
その言葉を背中で聞きながら、ワシは出入口の扉を開けた。
アサに頼まれ、とある町のめし屋の店内から“木目連の術”で角都と飛段の様子を見ることになった。
2人は今オレ様がいる店から数百メートル離れた先の宿に宿泊していた。
宿の天井から見た限り、2人でツインの部屋を借りているようだ。
暁はほとんどシングルって聞いてたのに。
角都は窓際に座ってアタッシュケースの中の金を数え、飛段は部屋の中央に敷かれた布団の上でうつ伏せに寝転んでいる。
その表情はなにか言いたげだ。
「……角都ゥ」
「…なんだ?」
「……………」
「……用もないのに呼ぶな」
見ててじれったくなる雰囲気だ。
飛段が気にしているのはヨルのことだろうか。
あれだけ酷いことを吐かれておきながら。
角都はいつも通りといった感じだ。
ヨルのことはもう諦めているのか。
頭巾と口布のせいで表情が読みづらい。
外套をとったのなら、その顔の邪魔なものも外せばいいのに。
「…ヨル…、今頃なにしてると思う?」
「知るか。あの女が勝手に決めたことだ。いちいち気にするな。仕事に支障が出る」
なんだ、ヨルがアサから逃げたことは知らないのか。
「…冷てェよ、てめーはよォ…。今頃ヨルの奴、アサにいびられて泣いてるかもしれねーし、山でイノシシに追いかけられてるかもしれねーし、海でサメに追いかけれてるかもしれねーし…」
ちょっと当たってる。
そうとは知らず、角都は呆れた声を出した。
「馬鹿を言ってないでさっさと寝ろ。明日も早い」
金を数え終えた角都はアタッシュケースに鍵をかけ、頭巾と口布を取り去った。
寝る時もそれつけたままなのかと思ってた。
それでも、無表情すぎてなに考えてるのか読めない。
角都は飛段の隣の布団に潜り込もうとした。
「角都…、おまえ、なに隠してんだ?」
「!」
飛段のその言葉に角都は大きく目を見開き、動きを止めた。
その反応を見て飛段の目が鋭くなり、上半身を起こして角都と向かい合う。
「角都、オレに隠し事はなしだぜ。びっくりするくらい冷たいのが尚更怪しいっての。…なぁ、角都…」
飛段が角都に顔を近づけたとき、角都は飛段の両肩をつかみ、押し倒した。
「てっ!」
背中を打ち、飛段は顔をしかめた。
それでも構わず、角都は飛段の肩を強くにぎりしめ、顔を近づける。
「普段は呆けているくせに、妙に勘がいいから困る。飛段、余計な詮索はするな。オレと貴様、ヨルのためでもある」
当然、そんな言葉で飛段が納得するわけがない。
「わかんねーよ、なに言ってんのか…。オレ達のため? 角都、それマジで言ってんのか? 本当にこの状況がオレ達のためになってんのか?」
「飛段…」
意外だった。
長年の時を生きている武人が、歳も、力も、知識も己より劣っている人間に押されているのだから。
それにしてもなんて光景だ。
口元の動きがなければ、そっち側の関係かと疑ってしまう。
いや、聞こえててもそう見えてしまう。
「いいから…、今は寝ろ。いずれ話す」
角都は飛段から離れ、布団にもぐりこみ、飛段に背を向けた。
「角都…」
飛段はその背を見つめ呟くが、角都は返事を返さなかった。
「天丼おまたせしましたぁ」
術を解き、ちょうど注文していた天丼が運ばれてきた。
先に食べるか、注文を変更すればよかった。
あの2人のせいで食欲がない。
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