37:カラスが鳴くから
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*ヨル
「角都、飛段、見ろ。今度はイノシシを仕留めてやったぜ」
大型のイノシシを狩って気分の良いオレは、イノシシの牙をつかんで引き摺りながら、木陰に背をもたせかける2人に近づく。
仲良く眠っているのか、オレが声をかけても2人は振り返らない。
いや、2人じゃない。
他に誰かいる。
あれは、オレか。
2人の傍でなにか食べている。
「…?」
イノシシをその場に置き、怪訝な顔で3人の前へと回り込んだ。
「!!」
オレが…、鬼化したオレが、美味そうに2人を食べていた。
「うわああああああ!!」
絶叫し、布団から飛び起きた。
電気も点けられていない1人部屋にいることを認識し、いい加減にしろ、と胸元を握りしめた。
アサ達は隣の部屋か。
オレはまた鬼化してしまったようだ。
今度は何日眠っていたのだろうか。
布団のシーツは、オレの汗で湿っていた。
さっきの夢を思い出し、冷や汗が再び頬を伝う。
眠るのが怖い。
またあの夢を見てしまいそうで。
昔は居心地が良かった、毛布のように柔らかく包んでくれた闇も、今はこんなに恐ろしい。
オレは今、ちゃんと意識があるのか、わからなくなる。
外が人の声で騒がしい。
楽しげな声まで聞こえ、苛立ちを覚えながらオレは立ち上がって窓際に近づいた。
そこから通りを見ると、浴衣で行き来する通行人達が見えた。
「……祭り…」
オレの部屋の窓からでは見れないので、窓から宿の屋根に上がり、ここから少し遠くにある神社付近で屋台が並んでいるのを眺める。
たこやき、わたあめ、金魚すくい、大判焼き、ベビーカステラ、お面、風車、りんご飴…。
どいつもこいつも笑ってやがる。
オレの気持ちとは正反対に。
けれど、あいつらと組んでた時のオレも、きっとあんな顔をしていたのだろう。
辛いはずなのに、勝手に思い出してしまう。
2年前は角都の仕事を手伝うために浴衣着て飛段と一緒に囮役になってたけど、去年はちゃんと3人一緒に浴衣着て、祭りを楽しんだな。
そこでもやっぱり、りんご飴をねだって買ってもらったっけ。
「……………」
もう、祭りには行けないんだな。
そう思ったら、鼻がツンとした。
「……ギンジ達、大丈夫かな」
目元を手の甲でぬぐい、ふと、質屋に置いてきてしまったギンジ達のことを思い出した。
きっと、鬼化したオレを見て恐怖したことだろう。
そのつもりはなかったのに、怖がらせてしまったな。
腹を立てただけで、鬼化。
意識まで飛んでしまう始末だ。
普通の人間でいうなら、発作みたいなものかもしれない。
いや、それよりタチが悪いか。
一応自分の匂いを嗅いで、ギンジ達の血の匂いがしなくて心底ホッとする。
「……夢魘に体を乗っ取られかけたな…。クソ…」
内心で夢魘を呼んでも、オレの体を完全に乗っ取れなくて気を悪くしているのか、無視を決め込んでる。
「…ずっと続くのか? こんなことが…」
自問自答しても、答えなんてわからない。
祭りもそろそろ目の毒になってきた。
部屋に戻って布団に寝転がろう。
そのまま眠らずに日が昇るのを待てばいい。
その時、隣から、コツコツ、という音が聞こえた。
「…!」
聞こえた方向に顔を向ける。
そこには、一羽のカラスがいた。
手を伸ばせば届く距離にいる。
「カラス…」
夜の闇に溶け込みそうな色をしたカラスは、くちばしで屋根の瓦をつつく。
コツコツ、コツコツ、と。
なにかの合図のように。
数回つついたあと、満足したのか、オレに顔を上げ、「カァッ」と小さく鳴いた。
「おまえも、祭りの騒ぎで起こされたか?」
小さく笑い、オレはそいつに話しかけた。
なぜか、今と、アサといる時より心が安らぐ。
「キミは夢に起こされただろう」
「!!」
背後から聞こえた声にはっと肩越しに振り返ると、そこにはこちらに背を向けた男が座っていた。
後ろに束ねられたツヤのある黒髪、そして、赤雲の外套。
「イ…、イタチ!?」
どうして、イタチがここにいるのか。
オレの聞きたいことがわかったのか、イタチは背を向けたまま答えてくれる。
「この町で、アサに抱えられたキミを見かけてね…」
欠片ほどしか覚えていないが、アサに鬼化を止められた時のことを思い出す。
そうだ、アサまで質屋に来たんだった。
本当にギンジ達、大丈夫かな。
本格的に心配になってきた。
「それ見かけたの、いつ?」
「…? 今日の昼時だが」
鬼化の反動はそんなになかったわけだ。
血が足りなくて鬼化したわけじゃないからか。
「…忍らしい目になってきたな」
それは、オレの目付きが冷たくなってきたってことか。
イタチなりの褒め言葉だとしても、嬉しくない。
「だから…、オレは忍じゃねーっての。目でそんなものがわかってたまるか。デイダラといい…、今度はおまえもオレに説教しに来たのか?」
前に向き直ったオレは、イタチに背を向けながら刺のある言葉を返した。
デイダラがなにか言ったのだろうか。
イタチまでしゃしゃり出てきて。
オレの様子をあの2人にも報告したのだろうか。
だったら、迷惑な話だ。
ため息をつこうと、息を大きく吸いこんだ時だ。
「デイダラは、死んだ」
吐き出しかけた息が止まる。
死んだ?
誰が死んだか、死ぬってなにか。
自分なりに冷静に思い出してからゆっくりと息をつき、言葉を返す。
「あ…、そう…」
声が震えていた。
言葉に釣りあげられるように、その感情は“平静”をブチ抜いて頭のてっぺんまでのぼってきた。
バキャ!!
気付いたら、オレはコブシですぐ隣の瓦を叩き割っていた。
カラスは驚いて空へと逃げる。
「なんで…っ」
呼吸がうまくできなくて、言葉が詰まる。
「なんでこんなに仲間が死ななきゃならねーんだ!! デイダラと話したのだって…、つい…、この間…っ」
腹立たしい気持ちと苦痛に任せて怒鳴り、膝に顔を埋めた。
サソリも、デイダラも、どうして死ななければならない。
角都も、飛段も、なぜ殺されかけなければならない。
暁にいるから?
忍だから?
オレがアサのもとへ行こうが、仲間の誰かが死ぬのなら…。
「……………」
「なにを考えた?」
「!」
「今…、誰のことを考えた?」
察しのいい男だ。
いや、オレがわかりやすすぎるのかもしれない。
「正直に言えばいい。2人のところに戻りたい、と」
「…簡単に言ってくれるじゃねえか…」
膝から顔を上げたオレは、勢いよく立ち上がってイタチの前に移動し、その無表情の顔を睨みつけ、上着を脱いでサラシだけになり、朱色に染まった瞳とキバを見せ、本音をぶちまけた。
「ああ、戻りてえよ!! けど、この目を見ろ! この体を見ろ! 鬼化はこれより醜い姿になる。そうなったオレはいつか2人を食っちまうかもしれない! バラバラに引き裂いちまうかもしれない! それだけは闇で醒めてもゴメンだ!! そんなことになったら、オレがオレでなくなっ…」
そこまで言いかけて、オレははっとした。
今のオレは、本当のオレなのか。
「…ならば、この目を見て…、どう思う?」
「!」
イタチの赤い瞳には、常人にはない紋様がある。
うちは一族だけが持つ“写輪眼”だ。
「…おまえもオレも、見た目に関しては大した違いなんてない。ヨルを悩ませているのは、その鬼化のことだけだろう」
そう言われればそうだ。
自分の中の鬼を起こしてしまったから、こうして頭を悩ませているんだ。
「その悩みは…、アサと組んで解決することなのか? アサといれば、鬼化はしないのか?」
「…!」
気付いてしまった。
オレはなにを勘違いしていたのか。
鬼化をしたら、ということしか頭になかった。
アサは言った。
「あの2人と、ワシの止め方は違う」と。
「鬼化はさせない」とは言わなかった。
鬼化前提で話がすすんでいた。
今日みたいに、鬼化してからじゃ遅いんだ。
周りの人間を傷つけてしまう。
他人任せじゃダメだ。
「オレ…、ホント馬鹿だ…。オレ自身でなんとかしなきゃいけない悩みだったのに!」
オレの気付いたことが伝わったのか、イタチはフッと笑い、立ち上がった。
「オレはもう戻れない。だが…、キミはまだ間に合う」
戻れる。
戻りたい、角都と飛段のところに。
「…まったく…、おまえも、デイダラも、おせっかいもいいとこだ」
オレは口元を緩ませて言った。
見上げると、驚いて飛び立ったはずのカラスが頭上で旋回し、イタチの右肩に舞い降りた。
「…奴に会ったら、そう伝えておこう」
これから死んだデイダラに会いにでも行くようなセリフを残し、イタチの体は数羽のカラスとなって空へ飛び立った。
「……最後に不吉なモン、言い残すんじゃねーよ」
空の闇へと消えていくカラス達を見上げ、呟いた。
下を見ると、祭りから帰って行く人が増えてきた。
そろそろ屋台もたたみ始める頃だ。
まだ、りんご飴の店はやっているだろうか。
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「角都、飛段、見ろ。今度はイノシシを仕留めてやったぜ」
大型のイノシシを狩って気分の良いオレは、イノシシの牙をつかんで引き摺りながら、木陰に背をもたせかける2人に近づく。
仲良く眠っているのか、オレが声をかけても2人は振り返らない。
いや、2人じゃない。
他に誰かいる。
あれは、オレか。
2人の傍でなにか食べている。
「…?」
イノシシをその場に置き、怪訝な顔で3人の前へと回り込んだ。
「!!」
オレが…、鬼化したオレが、美味そうに2人を食べていた。
「うわああああああ!!」
絶叫し、布団から飛び起きた。
電気も点けられていない1人部屋にいることを認識し、いい加減にしろ、と胸元を握りしめた。
アサ達は隣の部屋か。
オレはまた鬼化してしまったようだ。
今度は何日眠っていたのだろうか。
布団のシーツは、オレの汗で湿っていた。
さっきの夢を思い出し、冷や汗が再び頬を伝う。
眠るのが怖い。
またあの夢を見てしまいそうで。
昔は居心地が良かった、毛布のように柔らかく包んでくれた闇も、今はこんなに恐ろしい。
オレは今、ちゃんと意識があるのか、わからなくなる。
外が人の声で騒がしい。
楽しげな声まで聞こえ、苛立ちを覚えながらオレは立ち上がって窓際に近づいた。
そこから通りを見ると、浴衣で行き来する通行人達が見えた。
「……祭り…」
オレの部屋の窓からでは見れないので、窓から宿の屋根に上がり、ここから少し遠くにある神社付近で屋台が並んでいるのを眺める。
たこやき、わたあめ、金魚すくい、大判焼き、ベビーカステラ、お面、風車、りんご飴…。
どいつもこいつも笑ってやがる。
オレの気持ちとは正反対に。
けれど、あいつらと組んでた時のオレも、きっとあんな顔をしていたのだろう。
辛いはずなのに、勝手に思い出してしまう。
2年前は角都の仕事を手伝うために浴衣着て飛段と一緒に囮役になってたけど、去年はちゃんと3人一緒に浴衣着て、祭りを楽しんだな。
そこでもやっぱり、りんご飴をねだって買ってもらったっけ。
「……………」
もう、祭りには行けないんだな。
そう思ったら、鼻がツンとした。
「……ギンジ達、大丈夫かな」
目元を手の甲でぬぐい、ふと、質屋に置いてきてしまったギンジ達のことを思い出した。
きっと、鬼化したオレを見て恐怖したことだろう。
そのつもりはなかったのに、怖がらせてしまったな。
腹を立てただけで、鬼化。
意識まで飛んでしまう始末だ。
普通の人間でいうなら、発作みたいなものかもしれない。
いや、それよりタチが悪いか。
一応自分の匂いを嗅いで、ギンジ達の血の匂いがしなくて心底ホッとする。
「……夢魘に体を乗っ取られかけたな…。クソ…」
内心で夢魘を呼んでも、オレの体を完全に乗っ取れなくて気を悪くしているのか、無視を決め込んでる。
「…ずっと続くのか? こんなことが…」
自問自答しても、答えなんてわからない。
祭りもそろそろ目の毒になってきた。
部屋に戻って布団に寝転がろう。
そのまま眠らずに日が昇るのを待てばいい。
その時、隣から、コツコツ、という音が聞こえた。
「…!」
聞こえた方向に顔を向ける。
そこには、一羽のカラスがいた。
手を伸ばせば届く距離にいる。
「カラス…」
夜の闇に溶け込みそうな色をしたカラスは、くちばしで屋根の瓦をつつく。
コツコツ、コツコツ、と。
なにかの合図のように。
数回つついたあと、満足したのか、オレに顔を上げ、「カァッ」と小さく鳴いた。
「おまえも、祭りの騒ぎで起こされたか?」
小さく笑い、オレはそいつに話しかけた。
なぜか、今と、アサといる時より心が安らぐ。
「キミは夢に起こされただろう」
「!!」
背後から聞こえた声にはっと肩越しに振り返ると、そこにはこちらに背を向けた男が座っていた。
後ろに束ねられたツヤのある黒髪、そして、赤雲の外套。
「イ…、イタチ!?」
どうして、イタチがここにいるのか。
オレの聞きたいことがわかったのか、イタチは背を向けたまま答えてくれる。
「この町で、アサに抱えられたキミを見かけてね…」
欠片ほどしか覚えていないが、アサに鬼化を止められた時のことを思い出す。
そうだ、アサまで質屋に来たんだった。
本当にギンジ達、大丈夫かな。
本格的に心配になってきた。
「それ見かけたの、いつ?」
「…? 今日の昼時だが」
鬼化の反動はそんなになかったわけだ。
血が足りなくて鬼化したわけじゃないからか。
「…忍らしい目になってきたな」
それは、オレの目付きが冷たくなってきたってことか。
イタチなりの褒め言葉だとしても、嬉しくない。
「だから…、オレは忍じゃねーっての。目でそんなものがわかってたまるか。デイダラといい…、今度はおまえもオレに説教しに来たのか?」
前に向き直ったオレは、イタチに背を向けながら刺のある言葉を返した。
デイダラがなにか言ったのだろうか。
イタチまでしゃしゃり出てきて。
オレの様子をあの2人にも報告したのだろうか。
だったら、迷惑な話だ。
ため息をつこうと、息を大きく吸いこんだ時だ。
「デイダラは、死んだ」
吐き出しかけた息が止まる。
死んだ?
誰が死んだか、死ぬってなにか。
自分なりに冷静に思い出してからゆっくりと息をつき、言葉を返す。
「あ…、そう…」
声が震えていた。
言葉に釣りあげられるように、その感情は“平静”をブチ抜いて頭のてっぺんまでのぼってきた。
バキャ!!
気付いたら、オレはコブシですぐ隣の瓦を叩き割っていた。
カラスは驚いて空へと逃げる。
「なんで…っ」
呼吸がうまくできなくて、言葉が詰まる。
「なんでこんなに仲間が死ななきゃならねーんだ!! デイダラと話したのだって…、つい…、この間…っ」
腹立たしい気持ちと苦痛に任せて怒鳴り、膝に顔を埋めた。
サソリも、デイダラも、どうして死ななければならない。
角都も、飛段も、なぜ殺されかけなければならない。
暁にいるから?
忍だから?
オレがアサのもとへ行こうが、仲間の誰かが死ぬのなら…。
「……………」
「なにを考えた?」
「!」
「今…、誰のことを考えた?」
察しのいい男だ。
いや、オレがわかりやすすぎるのかもしれない。
「正直に言えばいい。2人のところに戻りたい、と」
「…簡単に言ってくれるじゃねえか…」
膝から顔を上げたオレは、勢いよく立ち上がってイタチの前に移動し、その無表情の顔を睨みつけ、上着を脱いでサラシだけになり、朱色に染まった瞳とキバを見せ、本音をぶちまけた。
「ああ、戻りてえよ!! けど、この目を見ろ! この体を見ろ! 鬼化はこれより醜い姿になる。そうなったオレはいつか2人を食っちまうかもしれない! バラバラに引き裂いちまうかもしれない! それだけは闇で醒めてもゴメンだ!! そんなことになったら、オレがオレでなくなっ…」
そこまで言いかけて、オレははっとした。
今のオレは、本当のオレなのか。
「…ならば、この目を見て…、どう思う?」
「!」
イタチの赤い瞳には、常人にはない紋様がある。
うちは一族だけが持つ“写輪眼”だ。
「…おまえもオレも、見た目に関しては大した違いなんてない。ヨルを悩ませているのは、その鬼化のことだけだろう」
そう言われればそうだ。
自分の中の鬼を起こしてしまったから、こうして頭を悩ませているんだ。
「その悩みは…、アサと組んで解決することなのか? アサといれば、鬼化はしないのか?」
「…!」
気付いてしまった。
オレはなにを勘違いしていたのか。
鬼化をしたら、ということしか頭になかった。
アサは言った。
「あの2人と、ワシの止め方は違う」と。
「鬼化はさせない」とは言わなかった。
鬼化前提で話がすすんでいた。
今日みたいに、鬼化してからじゃ遅いんだ。
周りの人間を傷つけてしまう。
他人任せじゃダメだ。
「オレ…、ホント馬鹿だ…。オレ自身でなんとかしなきゃいけない悩みだったのに!」
オレの気付いたことが伝わったのか、イタチはフッと笑い、立ち上がった。
「オレはもう戻れない。だが…、キミはまだ間に合う」
戻れる。
戻りたい、角都と飛段のところに。
「…まったく…、おまえも、デイダラも、おせっかいもいいとこだ」
オレは口元を緩ませて言った。
見上げると、驚いて飛び立ったはずのカラスが頭上で旋回し、イタチの右肩に舞い降りた。
「…奴に会ったら、そう伝えておこう」
これから死んだデイダラに会いにでも行くようなセリフを残し、イタチの体は数羽のカラスとなって空へ飛び立った。
「……最後に不吉なモン、言い残すんじゃねーよ」
空の闇へと消えていくカラス達を見上げ、呟いた。
下を見ると、祭りから帰って行く人が増えてきた。
そろそろ屋台もたたみ始める頃だ。
まだ、りんご飴の店はやっているだろうか。
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