37:カラスが鳴くから
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*ヨル
アサが精神をとばして6日が経過した頃か。
オレ達はとある町の宿に宿泊していた。
角都と違って野宿じゃないから、妙に落ち着かない。
アサは窓際で印を結んでからピクリとも動かない。
会議にはきっとあいつらもいる。
どっちもいらないことをやっていなければいいが。
クロハは呑気に横になってサングラスも外さずに昼寝してるし、アゲハは黙ったまま本を読んでいる。
オレはなにをしていいかわからず、ただアサの向かい側で襖に背をもたせかけながら座っていた。
そういえば、とこの町のことを思い出す。
少し考えたあと、立ち上がった。
「ヨル。どこへ行く?」
肩越しに振り返ると、アゲハは本から視線を上げていた。
「散歩だ。すぐに戻ってくる」
てっきり止められるかと思ったが、アゲハは再び本に視線を落とし、「了解」と一言だけ言った。
「……………」
そっと出入口の襖から出て行ったが、やっぱり止めない。
あいつもよくわからない奴だ。
けど、都合がいい。
オレは念のため忍び足で階段を下りて宿の外へと出る。
久しぶりの単独行動だ。
天気も良い。
降り続けていた雨のあとだから、地面には水たまりがいくつか見当たった。
後ろを振り返り、誰もついてきていないことを確認する。
やってきた場所は、質屋だ。
角都の部下達が経営している店。
最初は見て通過するだけ、と決めていたが、看板を見上げているうちに足を踏み入れたくなった。
少しだけなら。
ギンジ達に会ったら、2人のことを聞くのも悪くない。
ちゃんと口止めしておけば、オレがここに来たことは2人には知られないはずだ。
質屋の中に入るためには階段を下りなければならない。
「!」
階段を下りようとしたとき、出入口に誰かが倒れているのが見えた。
確か、見張り役のフナリ、だったか。
オレは階段を駆け下り、そいつに近づく。
「おい、大丈夫か?」
殴られた痕がある。
襲撃でも受けたか。
一応、息はあるようだ。
オレは中が気になり、フナリをそのままにして扉を開けて中に入った。
荒らされたあとはないが、ソファーにはギンジとキョウヤが倒れている。
「おまえら!」
どっちも生きてはいるが、キョウヤの方は軽傷とは言い難い。
「う…」
キョウヤの具合を見ていたとき、隣に倒れていたギンジが目を覚ました。
こっちは打撲が見られたが、大した傷はなさそうだ。
「起きろ。なにがあった?」
「…!? ヨル姐さん…!?」
オレの姿が目に入ったギンジは目を大きく見開き、急いで半身を起こして辺りを見回した。
オレが角都達から離れたことは知らないのか。
「角都は一緒じゃねえから、安心しろ」
その言葉にギンジはホッと息をついた。
確かに襲撃を受けたなんて失態、角都に知られたらどんな仕置きをされるか。
「なんで…、ヨル姐さんひとりで?」
「オレのことはいいから、なにがあったか言ってみろ。角都にはチクらねえから」
もうチクる関係でもないしな。
ギンジは躊躇うように話しだす。
「いきなり若造が押し掛けてきて…。暁の情報を…」
「喋ったのか!?」
声を上げてしまったオレに、ぎくりと震えたギンジは地につくほど深く頭を下げた。
「ほ…、本当にすみません…」
表のフナリ以外、どっちも戦闘に向いた奴らじゃないし、脅されれば喋らざるを得ないだろう。
それは仕方ないことだ。
「…どんな奴だった? 忍か?」
オレはそれ以上責めずに相手の特徴を聞きだす。
「髪が白くて、大きな刀を持った奴でした。額当てをしてなかったので、忍かどうかは…」
オレの記憶に当てはまる奴はいない。
せめてどこかの隠れ里の奴かはっきりしてればいいが。
「…わかった。とにかく、おまえも、フナリとキョウヤ連れて病院に行ってこい」
「ヨル姐さん…」
一度、宿に戻ってアサからリーダーに言ってもらったほうがいいと思い、オレは質屋をあとにしようとした。
「なにやってんだ、てめーは」
「!!」
扉を開けると、そいつは目の前に立っていた。
「クロハ…」
「アサが戻ってきた。おまえも早く戻ってこい」
「話は半分以上聞かせてもらった。それで、アサに報告か?」
オレ様を見上げるヨルは頷く。
なにを心配したんだか。
オレ様が来なくても本当に戻ってくるつもりだったのか。
「そうか」
そのまま引きあげるつもりだったが、さっきの会話を思い出し、ヨルと会話していた黒髪の男をヨル越しに見る。
気の弱い奴なのか、オレと目を合わせただけで浮足立った。
「……そうか」
もう一度そう言って頷いてから、ずれたサングラスを指先で上げ、一気にヨルの横を通過した。
手を伸ばした先は黒髪の男の頭だ。
突然のことに、男は「ひっ」と仰け反って声を上げる。
「!!」
そいつの頭をつかもうとしたとき、いきなり横から伸びた手につかまれ、阻止される。
「…っにしようってんだ! クロハ!」
女の力とは思えないほどの握力でオレ様の手首を握りしめる。
オレ様の指先は男の額からわずか数ミリほどの位置にあった。
ヨルに邪魔されないように早めに走ったつもりだったが、こうもあっさりと追いつかれるとは。
手首の骨を折られる前に、その手を振り払う。
「今、殺そうとしただろ!?」
オレ様が手を出せないように男の前に立ち、ヨルは怒鳴り声を上げた。
オレ様は痛む手首を擦り、サングラス越しからヨルを睨み返す。
「そうだ。そいつは暁の情報を簡単にベラベラと喋りやがった。どこの馬の骨ともしれねー奴にだ。おまえの大事な2人を狙っている連中かもしれねーぞ。また同じことを繰り返すかもしれない。こんな情けない部下を置いとくなんて、角都もなに考えてんだ? 暁の帳簿係だからって、もっとマシな奴らを厳選すべきだ」
「暁だって人手不足なんだ! それに、角都が求めてるのは役割に合った、使える人間だ。…オレだって…、脅しの内容によっては喋らなきゃいけないことだって、不本意で動く事だってある」
また人間らしいことを。
まあ、アサの脅しでオレ達についてきてるのは事実か。
こいつ、遠回しにオレ達のやり方を責めてるのか。
「はんっ。あいつらのことになった途端に目に輝きが戻るな」
「…!」
無自覚だったか。
指摘されるとはっとした顔になった。
「私情を挟むな、ヨル。暁のルール、わかってんのか? 裏切り者には死んでもらう。これからオレ様がやろうとしてるのは、暁としての役割、粛清だ」
オレ様だって、昔はそうやって仲間だって殺してきたんだ。
「…ギンジ、キョウヤ達連れて逃げろ」
ヨルはオレ様から目を離さずに、背後のソファーにへたりと座っているギンジという男に声をかけた。
しかし、ギンジは体を震わせたまま動こうとしない。
「…腰が…」
腰が抜けてしまったようだ。
オレ様は思わず馬鹿にした笑いを出してしまう。
「はんっ。見ろ。こいつらは暁の恥だ」
「正直オレも恥ずかしい」
「ね、姐さん…;」
はっきりと落胆するヨルに、ギンジはショックを受けた顔をする。
「オレ様が代わりに拭ってやるよ」
オレ様は種を放り投げた。
それは宙で芽を出し、鋭いツルとなってギンジと転がっている男に向かって伸びる。
あと少しでツルの先端がそいつらの脳天を貫こうとしたところで、切断されて床に落ちた。
「だからって…、殺していいわけねえだろ!! てめーら忍のやり方とオレのやり方は違う!!」
叫びと共に、目に見えるほどのチャクラを洪水のように溢れ出した。
ツルを切断したのは、漆黒に染まったヨルの左腕だった。
「…!?」
その瞳は金と黒に染まっていた。
血が足りなくなったわけでもないのに、なぜ鬼化が起きているのか。
「馬鹿な…。なぜ鬼化が起きる!?」
考えているヒマはない。
器から漏れ出しているチャクラは、オレ様のチャクラよりはるかに上回っている。
よくこんな場所で。
放っておいたら町ごと破壊しかねない。
これなら村の殲滅もあっという間だろうに。
ヨルは口元から鋭い牙をのぞかせて唸ると、とんでもないスピードで突進してきた。
「くっ!」
オレ様は足下に種をばらまき、茨の壁を作った。
常人のコブシなら、穴だらけになる盾だ。
なのに、ヨルの左腕は傷一つ負わずにやすやすと突き破り、そのコブシはオレ様の目前で動きを止めた。
「な…!」
「これ以上オレから…、なにも…っ。ぐ…っ」
やはり、完全に制御できてないようだ。
黒い左腕にヒビが入る。
ユウを殺ったあの刀を出されるのはまずい。
「はんっ。手間がかかってしょうがねえな! てめーも! ユウも!」
命遊戯の術は、直接叩きこんでも不老の朱族には効かない。
なら、植物で雁字がらめにするか。
「ウウウウウッ!!」
ヨルが牙を剥いてオレ様に突進してくる。
オレ様は種を発動しようとした。
「やれやれ、ここが町中だと忘れておるのぅ」
「!!」
種をまく前に、目の前に見慣れた着物姿が現れる。
「アサ!?」
一瞬だった。
完全に鬼化しかけたヨルは、突然現れたアサにねじ伏せられていた。
首をつかまれ、床に押し倒されている。
そして、じたばたと抵抗される前に、腰から鞘ごと長刀を引き抜き、柄の先をヨルの胸の中心を打った。
「ぎゃ…っ!!」
柄を当てたままじっとしていると、カッと開かれたヨルの瞳の色が徐々に元の色に染まり、黒い左腕は肌色を取り戻していく。
鬼化の力があの長刀に吸い取られているのか。
「ふぅ…」
アサが立ちあがったときには、ヨルは床で仰向けになって気を失っていた。
「クロハ、迎えに行ったのなら、さっさと連れて戻って来んか」
笑顔でたしなめられ、オレ様はムッとした表情をして「悪かった」と素直に謝った。
「迷惑をかけたのぅ」
ヨルを抱えたアサは、完全に腰を抜かしているギンジに頭を下げて謝った。
はっとしたギンジは、暴走気味のヨルを一発でねじ伏せたアサの機嫌を損ねないように「いえいえ」と無理矢理笑みを作って首を激しく横に振る。
お咎めはないのか。
ヨルに嫌われたくないからか、ただの気紛れか。
どちらにしろ、そのつもりならオレ様も合わせてやろう。
「命拾いしたな」
オレ様に完全に怯えきっていて、声をかけただけで身震いが止まらないようだ。
「それはおまえだ」
「!」
扉のノブに手をかけたアサがオレ様にそう言った。
反射的に前に振り向くと同時に、アサを睨みつける。
アサは背を向けたまま理由を答える。
「…ヨルの動きを封じようとしたのだろうが、たかが植物で今のヨルを止められるわけがない。素人が止めようものなら…、命懸けで、そして殺す気で、止めろ」
殺したら、オレ様がおまえに殺されるだろ。
アサが先に出て行ってから、オレ様は質屋にあったツボを踏み壊してから出て行った。
ギンジの、そのツボはぁぁぁ、な顔が見物だった。
オレ達はヨルを連れて質屋をあとにした。
整った顔の美女2人。
ひとりはちゃんと女に見られているのか怪しいものだが、とにかく男女問わず注目される。
「アゲハにはきつく言っとく」
アゲハさえヨルを止めていれば、オレ様がこんな面倒な思いをせずに済んだんだ。
なのに、アサはくすくすと笑って前を見たまま、「いい。次に気をつければいいことだ」と言った。
あのままヨルが暴れ続けてたら、笑い事じゃ済まされなかったってのに。
サングラスをかけてるのをいいことに、オレ様は横目で軽くアサを睨みつけながら言う。
「……いつまで、ヨルをそのままにしておくつもりだ」
情緒が不安定になっただけで鬼化だ。
こんな危険物を放置してていいのか。
オレ様の言いたいことがわかったらしい。
アサは肩越しにヨルの寝顔を見つめ、口を開く。
「…長刀に封じた朱鬼が教えてくれた。そろそろ頃合いじゃろう…。できることなら…、明日にでも…」
ゾッとした。
口元は笑っているが、目は野心剥き出しだ。
明日、わかるのか。
アサがヨルに執着する理由が。
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アサが精神をとばして6日が経過した頃か。
オレ達はとある町の宿に宿泊していた。
角都と違って野宿じゃないから、妙に落ち着かない。
アサは窓際で印を結んでからピクリとも動かない。
会議にはきっとあいつらもいる。
どっちもいらないことをやっていなければいいが。
クロハは呑気に横になってサングラスも外さずに昼寝してるし、アゲハは黙ったまま本を読んでいる。
オレはなにをしていいかわからず、ただアサの向かい側で襖に背をもたせかけながら座っていた。
そういえば、とこの町のことを思い出す。
少し考えたあと、立ち上がった。
「ヨル。どこへ行く?」
肩越しに振り返ると、アゲハは本から視線を上げていた。
「散歩だ。すぐに戻ってくる」
てっきり止められるかと思ったが、アゲハは再び本に視線を落とし、「了解」と一言だけ言った。
「……………」
そっと出入口の襖から出て行ったが、やっぱり止めない。
あいつもよくわからない奴だ。
けど、都合がいい。
オレは念のため忍び足で階段を下りて宿の外へと出る。
久しぶりの単独行動だ。
天気も良い。
降り続けていた雨のあとだから、地面には水たまりがいくつか見当たった。
後ろを振り返り、誰もついてきていないことを確認する。
やってきた場所は、質屋だ。
角都の部下達が経営している店。
最初は見て通過するだけ、と決めていたが、看板を見上げているうちに足を踏み入れたくなった。
少しだけなら。
ギンジ達に会ったら、2人のことを聞くのも悪くない。
ちゃんと口止めしておけば、オレがここに来たことは2人には知られないはずだ。
質屋の中に入るためには階段を下りなければならない。
「!」
階段を下りようとしたとき、出入口に誰かが倒れているのが見えた。
確か、見張り役のフナリ、だったか。
オレは階段を駆け下り、そいつに近づく。
「おい、大丈夫か?」
殴られた痕がある。
襲撃でも受けたか。
一応、息はあるようだ。
オレは中が気になり、フナリをそのままにして扉を開けて中に入った。
荒らされたあとはないが、ソファーにはギンジとキョウヤが倒れている。
「おまえら!」
どっちも生きてはいるが、キョウヤの方は軽傷とは言い難い。
「う…」
キョウヤの具合を見ていたとき、隣に倒れていたギンジが目を覚ました。
こっちは打撲が見られたが、大した傷はなさそうだ。
「起きろ。なにがあった?」
「…!? ヨル姐さん…!?」
オレの姿が目に入ったギンジは目を大きく見開き、急いで半身を起こして辺りを見回した。
オレが角都達から離れたことは知らないのか。
「角都は一緒じゃねえから、安心しろ」
その言葉にギンジはホッと息をついた。
確かに襲撃を受けたなんて失態、角都に知られたらどんな仕置きをされるか。
「なんで…、ヨル姐さんひとりで?」
「オレのことはいいから、なにがあったか言ってみろ。角都にはチクらねえから」
もうチクる関係でもないしな。
ギンジは躊躇うように話しだす。
「いきなり若造が押し掛けてきて…。暁の情報を…」
「喋ったのか!?」
声を上げてしまったオレに、ぎくりと震えたギンジは地につくほど深く頭を下げた。
「ほ…、本当にすみません…」
表のフナリ以外、どっちも戦闘に向いた奴らじゃないし、脅されれば喋らざるを得ないだろう。
それは仕方ないことだ。
「…どんな奴だった? 忍か?」
オレはそれ以上責めずに相手の特徴を聞きだす。
「髪が白くて、大きな刀を持った奴でした。額当てをしてなかったので、忍かどうかは…」
オレの記憶に当てはまる奴はいない。
せめてどこかの隠れ里の奴かはっきりしてればいいが。
「…わかった。とにかく、おまえも、フナリとキョウヤ連れて病院に行ってこい」
「ヨル姐さん…」
一度、宿に戻ってアサからリーダーに言ってもらったほうがいいと思い、オレは質屋をあとにしようとした。
「なにやってんだ、てめーは」
「!!」
扉を開けると、そいつは目の前に立っていた。
「クロハ…」
「アサが戻ってきた。おまえも早く戻ってこい」
「話は半分以上聞かせてもらった。それで、アサに報告か?」
オレ様を見上げるヨルは頷く。
なにを心配したんだか。
オレ様が来なくても本当に戻ってくるつもりだったのか。
「そうか」
そのまま引きあげるつもりだったが、さっきの会話を思い出し、ヨルと会話していた黒髪の男をヨル越しに見る。
気の弱い奴なのか、オレと目を合わせただけで浮足立った。
「……そうか」
もう一度そう言って頷いてから、ずれたサングラスを指先で上げ、一気にヨルの横を通過した。
手を伸ばした先は黒髪の男の頭だ。
突然のことに、男は「ひっ」と仰け反って声を上げる。
「!!」
そいつの頭をつかもうとしたとき、いきなり横から伸びた手につかまれ、阻止される。
「…っにしようってんだ! クロハ!」
女の力とは思えないほどの握力でオレ様の手首を握りしめる。
オレ様の指先は男の額からわずか数ミリほどの位置にあった。
ヨルに邪魔されないように早めに走ったつもりだったが、こうもあっさりと追いつかれるとは。
手首の骨を折られる前に、その手を振り払う。
「今、殺そうとしただろ!?」
オレ様が手を出せないように男の前に立ち、ヨルは怒鳴り声を上げた。
オレ様は痛む手首を擦り、サングラス越しからヨルを睨み返す。
「そうだ。そいつは暁の情報を簡単にベラベラと喋りやがった。どこの馬の骨ともしれねー奴にだ。おまえの大事な2人を狙っている連中かもしれねーぞ。また同じことを繰り返すかもしれない。こんな情けない部下を置いとくなんて、角都もなに考えてんだ? 暁の帳簿係だからって、もっとマシな奴らを厳選すべきだ」
「暁だって人手不足なんだ! それに、角都が求めてるのは役割に合った、使える人間だ。…オレだって…、脅しの内容によっては喋らなきゃいけないことだって、不本意で動く事だってある」
また人間らしいことを。
まあ、アサの脅しでオレ達についてきてるのは事実か。
こいつ、遠回しにオレ達のやり方を責めてるのか。
「はんっ。あいつらのことになった途端に目に輝きが戻るな」
「…!」
無自覚だったか。
指摘されるとはっとした顔になった。
「私情を挟むな、ヨル。暁のルール、わかってんのか? 裏切り者には死んでもらう。これからオレ様がやろうとしてるのは、暁としての役割、粛清だ」
オレ様だって、昔はそうやって仲間だって殺してきたんだ。
「…ギンジ、キョウヤ達連れて逃げろ」
ヨルはオレ様から目を離さずに、背後のソファーにへたりと座っているギンジという男に声をかけた。
しかし、ギンジは体を震わせたまま動こうとしない。
「…腰が…」
腰が抜けてしまったようだ。
オレ様は思わず馬鹿にした笑いを出してしまう。
「はんっ。見ろ。こいつらは暁の恥だ」
「正直オレも恥ずかしい」
「ね、姐さん…;」
はっきりと落胆するヨルに、ギンジはショックを受けた顔をする。
「オレ様が代わりに拭ってやるよ」
オレ様は種を放り投げた。
それは宙で芽を出し、鋭いツルとなってギンジと転がっている男に向かって伸びる。
あと少しでツルの先端がそいつらの脳天を貫こうとしたところで、切断されて床に落ちた。
「だからって…、殺していいわけねえだろ!! てめーら忍のやり方とオレのやり方は違う!!」
叫びと共に、目に見えるほどのチャクラを洪水のように溢れ出した。
ツルを切断したのは、漆黒に染まったヨルの左腕だった。
「…!?」
その瞳は金と黒に染まっていた。
血が足りなくなったわけでもないのに、なぜ鬼化が起きているのか。
「馬鹿な…。なぜ鬼化が起きる!?」
考えているヒマはない。
器から漏れ出しているチャクラは、オレ様のチャクラよりはるかに上回っている。
よくこんな場所で。
放っておいたら町ごと破壊しかねない。
これなら村の殲滅もあっという間だろうに。
ヨルは口元から鋭い牙をのぞかせて唸ると、とんでもないスピードで突進してきた。
「くっ!」
オレ様は足下に種をばらまき、茨の壁を作った。
常人のコブシなら、穴だらけになる盾だ。
なのに、ヨルの左腕は傷一つ負わずにやすやすと突き破り、そのコブシはオレ様の目前で動きを止めた。
「な…!」
「これ以上オレから…、なにも…っ。ぐ…っ」
やはり、完全に制御できてないようだ。
黒い左腕にヒビが入る。
ユウを殺ったあの刀を出されるのはまずい。
「はんっ。手間がかかってしょうがねえな! てめーも! ユウも!」
命遊戯の術は、直接叩きこんでも不老の朱族には効かない。
なら、植物で雁字がらめにするか。
「ウウウウウッ!!」
ヨルが牙を剥いてオレ様に突進してくる。
オレ様は種を発動しようとした。
「やれやれ、ここが町中だと忘れておるのぅ」
「!!」
種をまく前に、目の前に見慣れた着物姿が現れる。
「アサ!?」
一瞬だった。
完全に鬼化しかけたヨルは、突然現れたアサにねじ伏せられていた。
首をつかまれ、床に押し倒されている。
そして、じたばたと抵抗される前に、腰から鞘ごと長刀を引き抜き、柄の先をヨルの胸の中心を打った。
「ぎゃ…っ!!」
柄を当てたままじっとしていると、カッと開かれたヨルの瞳の色が徐々に元の色に染まり、黒い左腕は肌色を取り戻していく。
鬼化の力があの長刀に吸い取られているのか。
「ふぅ…」
アサが立ちあがったときには、ヨルは床で仰向けになって気を失っていた。
「クロハ、迎えに行ったのなら、さっさと連れて戻って来んか」
笑顔でたしなめられ、オレ様はムッとした表情をして「悪かった」と素直に謝った。
「迷惑をかけたのぅ」
ヨルを抱えたアサは、完全に腰を抜かしているギンジに頭を下げて謝った。
はっとしたギンジは、暴走気味のヨルを一発でねじ伏せたアサの機嫌を損ねないように「いえいえ」と無理矢理笑みを作って首を激しく横に振る。
お咎めはないのか。
ヨルに嫌われたくないからか、ただの気紛れか。
どちらにしろ、そのつもりならオレ様も合わせてやろう。
「命拾いしたな」
オレ様に完全に怯えきっていて、声をかけただけで身震いが止まらないようだ。
「それはおまえだ」
「!」
扉のノブに手をかけたアサがオレ様にそう言った。
反射的に前に振り向くと同時に、アサを睨みつける。
アサは背を向けたまま理由を答える。
「…ヨルの動きを封じようとしたのだろうが、たかが植物で今のヨルを止められるわけがない。素人が止めようものなら…、命懸けで、そして殺す気で、止めろ」
殺したら、オレ様がおまえに殺されるだろ。
アサが先に出て行ってから、オレ様は質屋にあったツボを踏み壊してから出て行った。
ギンジの、そのツボはぁぁぁ、な顔が見物だった。
オレ達はヨルを連れて質屋をあとにした。
整った顔の美女2人。
ひとりはちゃんと女に見られているのか怪しいものだが、とにかく男女問わず注目される。
「アゲハにはきつく言っとく」
アゲハさえヨルを止めていれば、オレ様がこんな面倒な思いをせずに済んだんだ。
なのに、アサはくすくすと笑って前を見たまま、「いい。次に気をつければいいことだ」と言った。
あのままヨルが暴れ続けてたら、笑い事じゃ済まされなかったってのに。
サングラスをかけてるのをいいことに、オレ様は横目で軽くアサを睨みつけながら言う。
「……いつまで、ヨルをそのままにしておくつもりだ」
情緒が不安定になっただけで鬼化だ。
こんな危険物を放置してていいのか。
オレ様の言いたいことがわかったらしい。
アサは肩越しにヨルの寝顔を見つめ、口を開く。
「…長刀に封じた朱鬼が教えてくれた。そろそろ頃合いじゃろう…。できることなら…、明日にでも…」
ゾッとした。
口元は笑っているが、目は野心剥き出しだ。
明日、わかるのか。
アサがヨルに執着する理由が。
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