36:深淵の底へ
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*角都
あれから数日が経過した。
道中、飛段とはあまり会話を交わしていない。
まだ怒っているようだ。当然といえば、当然か。
ヨルと別れてアジトを出たあと、建物が見えなくなったところで珍しくオレの一歩先を歩いていたそいつは、急に「おい」と言って立ち止まり、いきなり振り返ってオレの胸倉を両手でつかみ、力任せに背後の木にオレの背中を押しつけた。
その顔を見て、今の怒りはヨルではなく、オレに向けられていると察した。
「なんで止めた!?」
ヨルに飛びかかってオレが止めたことを言っているのだろう。
オレは胸倉をつかまれたまま、正直に答える。
「…止めたというより、助けてやったと言った方がいいか?」
飛段は怪訝な顔をせず、余計に眉間に皺を寄せた。
「気付いてたのか…?」
「ヨルに襲いかかると見せかけ、そのまま傍にいたアサを切り捨てようとしただろう」
そんな手に出るとは思わなかったがな。
演技にしては、どちらかと言えば上手く出来ていた方だ。
こいつも、オレも。
「わかってんなら尚更だろ!! 気持ち悪ィ別れ方させやがって!!」
確かに後味のいいものではない別れ方だった。
だが、オレひとりのせいではないだろう。
オレさえも騙せなかった飛段も悪い。
オレはともかく、飛段を騙せなかったヨルも悪い。
飛段はうなったあと、ゆっくりとオレの胸倉から手を放した。
「…なあ、考えようぜ。ヨルの奴、なに言われたか知らねえけど、あの女についていくのは間違ってんだろ。あの女の話する時のあいつ、覚えてるだろ? 話するのさえ、スゲー嫌そうだったし…」
「これはヨル自身が決めたことだ。オレ達にできることは、もうなにもない」
そう言うと、飛段は顔を上げ、歯を剥いた。
「それが仲間が言うセリフかよ!! オレら、2年もずっと一緒だったんだぜ!?」
「…オレにとっては…、たかが2年だ」
飛段はなにか言おうと口を開いたが、躊躇った表情を浮かべて止まり、代わりに隣の木にコブシを強く打ちこんだ。
八つ当たりを受けた木は小さく揺れ、木の葉を降らせた。
“角都、飛段、五尾を封印する。今すぐ飛べ”
ちょうど回想を終えると、頭の中にリーダーからの指示が響いた。
どこか人気のない場所に移動して精神を飛ばさなくてはならない。
「飛段、道を逸れるぞ」
「……おう」
背後で小さな返事を聞き、オレは先導してすぐに道を逸れ、茂みを掻き分けながら進んだ。
後ろにはちゃんと飛段がついていきている。
そのことに、オレはなぜかわずかな安堵を覚えた。
そして、なぜかわずかな物足りなさを覚えた。
返事がひとつ足りないだけで。
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あれから数日が経過した。
道中、飛段とはあまり会話を交わしていない。
まだ怒っているようだ。当然といえば、当然か。
ヨルと別れてアジトを出たあと、建物が見えなくなったところで珍しくオレの一歩先を歩いていたそいつは、急に「おい」と言って立ち止まり、いきなり振り返ってオレの胸倉を両手でつかみ、力任せに背後の木にオレの背中を押しつけた。
その顔を見て、今の怒りはヨルではなく、オレに向けられていると察した。
「なんで止めた!?」
ヨルに飛びかかってオレが止めたことを言っているのだろう。
オレは胸倉をつかまれたまま、正直に答える。
「…止めたというより、助けてやったと言った方がいいか?」
飛段は怪訝な顔をせず、余計に眉間に皺を寄せた。
「気付いてたのか…?」
「ヨルに襲いかかると見せかけ、そのまま傍にいたアサを切り捨てようとしただろう」
そんな手に出るとは思わなかったがな。
演技にしては、どちらかと言えば上手く出来ていた方だ。
こいつも、オレも。
「わかってんなら尚更だろ!! 気持ち悪ィ別れ方させやがって!!」
確かに後味のいいものではない別れ方だった。
だが、オレひとりのせいではないだろう。
オレさえも騙せなかった飛段も悪い。
オレはともかく、飛段を騙せなかったヨルも悪い。
飛段はうなったあと、ゆっくりとオレの胸倉から手を放した。
「…なあ、考えようぜ。ヨルの奴、なに言われたか知らねえけど、あの女についていくのは間違ってんだろ。あの女の話する時のあいつ、覚えてるだろ? 話するのさえ、スゲー嫌そうだったし…」
「これはヨル自身が決めたことだ。オレ達にできることは、もうなにもない」
そう言うと、飛段は顔を上げ、歯を剥いた。
「それが仲間が言うセリフかよ!! オレら、2年もずっと一緒だったんだぜ!?」
「…オレにとっては…、たかが2年だ」
飛段はなにか言おうと口を開いたが、躊躇った表情を浮かべて止まり、代わりに隣の木にコブシを強く打ちこんだ。
八つ当たりを受けた木は小さく揺れ、木の葉を降らせた。
“角都、飛段、五尾を封印する。今すぐ飛べ”
ちょうど回想を終えると、頭の中にリーダーからの指示が響いた。
どこか人気のない場所に移動して精神を飛ばさなくてはならない。
「飛段、道を逸れるぞ」
「……おう」
背後で小さな返事を聞き、オレは先導してすぐに道を逸れ、茂みを掻き分けながら進んだ。
後ろにはちゃんと飛段がついていきている。
そのことに、オレはなぜかわずかな安堵を覚えた。
そして、なぜかわずかな物足りなさを覚えた。
返事がひとつ足りないだけで。
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