36:深淵の底へ
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*ヨル
目の前が真っ赤に染まった瞬間、血のように真っ赤な空間の中で倒れていた。
オレは確か、ユウに両腕を切断され、成す術もなく飛段が痛めつけられているところを眺めていたはずなのに。
「!」
オレの真上に、大きな金色の瞳が開き、ギョロリとオレを見下ろした。
「キキキッ、ようやく発動していただけましたか」
空間にその声が響き渡り、その目は喜びに細めた。
「だ…、誰だ…?」
「ご冗談を。共に長い月日を過ごしてきたというのに、今更ですね。…私は…、あなたの中の朱鬼とでも言いましょうか」
声は笑い混じりにそう言った。
「朱鬼!?」
「…失礼。朱鬼の細胞ともいいます。理解できますよね? 朱鬼の細胞に、噛みつかれたことがある、あなたなら…」
2年前、ヒルによって月代から呼び覚まされた朱鬼のことを思い出した。
そう言えば、あいつは自分の体から、分身を出していた。
今、オレに話しかけている奴も、その類のものなのか。
「朱鬼の分身…てことか」
「その言い方は気に食わないのですが、まあ…、そんなものです。あなたを通して、世の中の言葉や知識を覚えていくうちに、朱鬼の分身より、このように、賢い存在となりました。そしてあなたが鬼化し、こうして目覚めてあなたと喋ることもできた」
えらく紳士的に喋る奴だな。
「さしずめここは、オレの精神世界ってとこか。オレは…、気絶したのか?」
「ええ、そして、今、お仲間を食べようとしているところですよ」
「!!」
鬼化をすれば、前半は暴走状態になる。
つまり、オレは今、意思とは関係なく飛段を襲っていることになるのか。
「オレを止めないと…!」
オレは立ち上がり、とにかく空間を走った。
「無駄ですよ。あなたはムリをしすぎた。同族と闘い、仲間を助け、真血をやり、そしてまた仲間を助けようとしている。…そう何度も思い通りにはいくわけがねえでしょう」
声は近くもなく遠くもない。
「おいコラ、朱鬼の分身! どうしたらオレは意識を取り戻せる!?」
「血を啜って落ち着くしかないでしょう」
「それじゃ遅ェーんだよ!!」
朱鬼の分身はため息をついた。
「自業自得。確か、そんな言葉でしたっけ? あなたが血の補給を怠った結果がコレでしょう。いい加減、諦めたら…」
「うるせえ!!」
オレは感情のままに空間にコブシを振るった。
すると、なにかがぶつかった感触がコブシに伝わり、空間に黒い亀裂が入る。
真上を見上げると、朱鬼の分身も目を大きく見開いて驚いている様子だ。
「せっかく目覚めたんだ。オレの中の鬼だっつーんなら、オレに協力しろ!」
「…エラそうな主だ。私は仮にもあの朱鬼の一部ですよ。あなたは私のおかげでその力とその体を手に入れた。感謝されたいくらいだ。それとも、今すぐに完全に体を乗っ取ってしまおうか…」
オレは再び空間にコブシを打ちこみ、空間の亀裂を増やす。
「オレの中にいる以上、オレに従え!! わかったか!! 朱鬼の分身!!」
「その呼び方をやめろ!!」
怒りを露わに、朱鬼は怒鳴った。
地震のように、空間が揺らぐ。
「……いいでしょう。私の力、貸してやってもいい。だが、その呼び方だけはやめろ。新しい名で私を呼べ。だが、勘違いするな。私の目的は、貴様の体を奪うことだ」
オレは口端を吊り上げた。
「いい名前をやるよ。じゃあ早速、その力の使い方、教えてもらおうか」
「根暗だったガキが、生意気になったものだ。一度しか言わない。よく聞きやがってください」
そして、オレはその空間を蹴破り、抜け出した。
「…まあ、確かに? 簡単に制御できるほど甘く見てたわけじゃねーけどよ。てめーはやっぱオレの敵だ。実体化して目の前にいたら闇で醒ましてるとこだ」
オレはまたこうして、精神世界に来ていた。
なにか一言罵ってやろうかと思ったが、まさかこんなあっさり来れるとは思わなかった。
オレの意思なのか、夢魘の意思なのか。
その空間に立っていたオレはその場に胡坐をかいて座り、その脚に頬杖をついて真上の金色の目を睨みつけた。
「一言も、私があなたの味方とは申してませんが?」
やっぱり、その鬼は反省の色を見せていない。
オレは舌を打った。
「そのでけー目ん玉、今すぐくりぬいてやろうか」
「ご冗談を。わかっているはずですよ。この世界ではあなたは無力だ。あなたの力は私自身なのですよ。空間をブチ抜いたのはあなたの精神力ですけどね。長くは持ちませんでしたが。キキッ」
嘲笑っているのか、目を細めた。
実際、力は使えないし、罵ることしかできない。
けど、口でも勝てない気がしてきた。
「……ヤな奴を起こしちまったもんだ」
その呟きもしっかりと聞こえたのか、すぐに夢魘が言い返す。
「あなたに言われたくねえです。なんですか、“夢魘”とは。夢にうなされる、という意味ですよ」
「お似合いだろうが」
これ以上にぴったりな名前があるものか。
それに、ここは精神世界でもあり、オレの夢でもある。
「ネーミングは変更なしだ。これからもオレに協力しろ。体は譲らないし、鬼化しても精いっぱい抵抗させてもらうけどな。わかったか、夢魘」
そろそろ時間だろう。
時計はないが、感覚が伝えてくれる。
オレは立ち上がり、目を覚ます用意をした。
「キキッ。仲間から見放されたあなたに、精いっぱい出来ることがあるのですか? 笑える。笑えますよ」
夢魘はまた「キキキッ」と独特な笑いをした。
夢の中でも思い出したくなかった。
思わず、飛段に殴られた頬を押さえる。
傷はすっかり消えたのに、まだ、痛みは続いているようだ。
「うるせえ」
本当に笑える。
それだけしか言い返せないのだから。
「…おまえはオレの体を乗っ取ってどうするつもりだ?」
「決まっているでしょう? 直に血を啜り、直に肉を食します。私のもとである、朱鬼の欲望を私自身が叶える。覚悟しやがってください」
意識が薄れながらも、オレは口端を吊り上げ、真上の目に向かって中指を立てた。
「一生、オレの中で血の夢見てろ」
.
目の前が真っ赤に染まった瞬間、血のように真っ赤な空間の中で倒れていた。
オレは確か、ユウに両腕を切断され、成す術もなく飛段が痛めつけられているところを眺めていたはずなのに。
「!」
オレの真上に、大きな金色の瞳が開き、ギョロリとオレを見下ろした。
「キキキッ、ようやく発動していただけましたか」
空間にその声が響き渡り、その目は喜びに細めた。
「だ…、誰だ…?」
「ご冗談を。共に長い月日を過ごしてきたというのに、今更ですね。…私は…、あなたの中の朱鬼とでも言いましょうか」
声は笑い混じりにそう言った。
「朱鬼!?」
「…失礼。朱鬼の細胞ともいいます。理解できますよね? 朱鬼の細胞に、噛みつかれたことがある、あなたなら…」
2年前、ヒルによって月代から呼び覚まされた朱鬼のことを思い出した。
そう言えば、あいつは自分の体から、分身を出していた。
今、オレに話しかけている奴も、その類のものなのか。
「朱鬼の分身…てことか」
「その言い方は気に食わないのですが、まあ…、そんなものです。あなたを通して、世の中の言葉や知識を覚えていくうちに、朱鬼の分身より、このように、賢い存在となりました。そしてあなたが鬼化し、こうして目覚めてあなたと喋ることもできた」
えらく紳士的に喋る奴だな。
「さしずめここは、オレの精神世界ってとこか。オレは…、気絶したのか?」
「ええ、そして、今、お仲間を食べようとしているところですよ」
「!!」
鬼化をすれば、前半は暴走状態になる。
つまり、オレは今、意思とは関係なく飛段を襲っていることになるのか。
「オレを止めないと…!」
オレは立ち上がり、とにかく空間を走った。
「無駄ですよ。あなたはムリをしすぎた。同族と闘い、仲間を助け、真血をやり、そしてまた仲間を助けようとしている。…そう何度も思い通りにはいくわけがねえでしょう」
声は近くもなく遠くもない。
「おいコラ、朱鬼の分身! どうしたらオレは意識を取り戻せる!?」
「血を啜って落ち着くしかないでしょう」
「それじゃ遅ェーんだよ!!」
朱鬼の分身はため息をついた。
「自業自得。確か、そんな言葉でしたっけ? あなたが血の補給を怠った結果がコレでしょう。いい加減、諦めたら…」
「うるせえ!!」
オレは感情のままに空間にコブシを振るった。
すると、なにかがぶつかった感触がコブシに伝わり、空間に黒い亀裂が入る。
真上を見上げると、朱鬼の分身も目を大きく見開いて驚いている様子だ。
「せっかく目覚めたんだ。オレの中の鬼だっつーんなら、オレに協力しろ!」
「…エラそうな主だ。私は仮にもあの朱鬼の一部ですよ。あなたは私のおかげでその力とその体を手に入れた。感謝されたいくらいだ。それとも、今すぐに完全に体を乗っ取ってしまおうか…」
オレは再び空間にコブシを打ちこみ、空間の亀裂を増やす。
「オレの中にいる以上、オレに従え!! わかったか!! 朱鬼の分身!!」
「その呼び方をやめろ!!」
怒りを露わに、朱鬼は怒鳴った。
地震のように、空間が揺らぐ。
「……いいでしょう。私の力、貸してやってもいい。だが、その呼び方だけはやめろ。新しい名で私を呼べ。だが、勘違いするな。私の目的は、貴様の体を奪うことだ」
オレは口端を吊り上げた。
「いい名前をやるよ。じゃあ早速、その力の使い方、教えてもらおうか」
「根暗だったガキが、生意気になったものだ。一度しか言わない。よく聞きやがってください」
そして、オレはその空間を蹴破り、抜け出した。
「…まあ、確かに? 簡単に制御できるほど甘く見てたわけじゃねーけどよ。てめーはやっぱオレの敵だ。実体化して目の前にいたら闇で醒ましてるとこだ」
オレはまたこうして、精神世界に来ていた。
なにか一言罵ってやろうかと思ったが、まさかこんなあっさり来れるとは思わなかった。
オレの意思なのか、夢魘の意思なのか。
その空間に立っていたオレはその場に胡坐をかいて座り、その脚に頬杖をついて真上の金色の目を睨みつけた。
「一言も、私があなたの味方とは申してませんが?」
やっぱり、その鬼は反省の色を見せていない。
オレは舌を打った。
「そのでけー目ん玉、今すぐくりぬいてやろうか」
「ご冗談を。わかっているはずですよ。この世界ではあなたは無力だ。あなたの力は私自身なのですよ。空間をブチ抜いたのはあなたの精神力ですけどね。長くは持ちませんでしたが。キキッ」
嘲笑っているのか、目を細めた。
実際、力は使えないし、罵ることしかできない。
けど、口でも勝てない気がしてきた。
「……ヤな奴を起こしちまったもんだ」
その呟きもしっかりと聞こえたのか、すぐに夢魘が言い返す。
「あなたに言われたくねえです。なんですか、“夢魘”とは。夢にうなされる、という意味ですよ」
「お似合いだろうが」
これ以上にぴったりな名前があるものか。
それに、ここは精神世界でもあり、オレの夢でもある。
「ネーミングは変更なしだ。これからもオレに協力しろ。体は譲らないし、鬼化しても精いっぱい抵抗させてもらうけどな。わかったか、夢魘」
そろそろ時間だろう。
時計はないが、感覚が伝えてくれる。
オレは立ち上がり、目を覚ます用意をした。
「キキッ。仲間から見放されたあなたに、精いっぱい出来ることがあるのですか? 笑える。笑えますよ」
夢魘はまた「キキキッ」と独特な笑いをした。
夢の中でも思い出したくなかった。
思わず、飛段に殴られた頬を押さえる。
傷はすっかり消えたのに、まだ、痛みは続いているようだ。
「うるせえ」
本当に笑える。
それだけしか言い返せないのだから。
「…おまえはオレの体を乗っ取ってどうするつもりだ?」
「決まっているでしょう? 直に血を啜り、直に肉を食します。私のもとである、朱鬼の欲望を私自身が叶える。覚悟しやがってください」
意識が薄れながらも、オレは口端を吊り上げ、真上の目に向かって中指を立てた。
「一生、オレの中で血の夢見てろ」
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