04:弱さの晒し者
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*##NAME2##
大きな女がそこにいた。
いや、オレが小さいのか。
小屋の中は真っ暗だ。
明るい外からは悲鳴や怒鳴り声が聞こえる。
オレは震える女に抱きしめられながら、ただそれを茫然と聴いていた。
なにが起きているのか、理解するには小さすぎたのかもしれない。
「痛い…」
オレがそう言うと、女はさらに強くオレを抱きしめた。
痛い痛い、と言っても、女は離してくれない。
…どこ行ったんだろ…?
さっきまで一緒だった男はどこにもいない。
どこにいるのか聞こうと口を開けたとき、力強くオレを抱きしめていた女が、突然オレから離れた。
「ここにいて」
女は声を潜め、オレの頭を優しく撫でる。
顔は真っ正面にあったのに、オレはその顔を覚えてはいない。
のっぺらぼうがオレに言った。
「―――、なにも聞こえなくなるまで、出てきてはダメ」
知らない名前を言われたが、オレはとりあえず頷いた。
女は「良い子ね」と微笑んでまたオレを撫でる。
そして、女は光の向こうへと行ってしまった。
白い光に包まれ、飲み込まれるかのように。
オレはしばらく、女に言われた通り静かになるまで暗闇の中にいた。
ただじっとそこに座っていた。
やがて、外が静かになったことに気付き、立ち上がった。
目の前の大きい扉を押して開ける。
体が小さいから、重いと思っていた扉は簡単に開いた。
扉の向こうには、女が待っているはず。
また「良い子ね」と言って頭を撫でてくれるはず。
小さなオレは、そう期待していた。
だが、光の先は、血の夢だった。
辺りは一面、赤、赤、赤。
「……………」
女はすぐ目の前にいた。
赤色に塗れて倒れていた。
「……………」
オレはその女を見下ろし、立ち尽くす。
どれくらい立ち尽くしただろうか。
「キミの母親かい?」
見上げると、眼鏡をかけた黒髪の若い青年がオレを見下ろしていた。
安心させるような笑みを浮かべ、屈んでオレと同じ目線に合わせて言葉を続ける。
「生きたいのなら生かしてあげる。死にたいのなら死なせてあげる」
「……………」
「どっち?」
オレは女を見下ろし、そして男と目を合わせて答えた。
「どっちでもいい」
天空の研究所は、隠されるように山奥にひっそりと建っていた。
着いてすぐに、その研究所の実験室でオレは手術台にのせられ、体をいじくられた。
バケモノの血肉を取り込まれ、禁術の文字を背中に彫られ、肩にコウモリのような刺青を彫られ、色んな薬を投与されるなど、痛くて苦しいめに合わされた。
それでも、悲鳴を上げることはあっても、死の恐怖は感じなかった。
本当に、生きるとか死ぬとか、どっちでもよかったのだろう。
手術が終わったあと、オレはフラフラの体で地下につれていかれた。
広く、薄暗いそこには、カプセルがズラリと並んでいた。
数は50はあったと思う。
中にはオレと同じくらいの子供が入っていた。
眠っているのか、全員、目を瞑ったままゆっくりと呼吸を繰り返している。
オレの隣にいた天空は、オレの肩を軽く叩いた。
目の前に並ぶカプセルを見据えながら彼は言う。
「死ぬか生きるかの問いに、キミは「どちらでもいい」と答えたね? このカプセルが、キミの中に組み込んだ血肉が、キミが眠っている間にそれを決める」
オレの背中を優しく押し、一番隅にあるカラのカプセルの前につれていく。
「眠っている間、血肉は年月をかけてキミの体と同化する。成功すれば、キミは人を超えた体で生きてもらう」
カプセルを開け、オレを抱き上げてそこへ入れた。
オレは抵抗しなかった。
逃げても行くところはどこにもないとわかっていたからかもしれない。
蓋が閉められる。
「おやすみ…」
透明の蓋の向こうから天空が微笑んで言った。
「おやすみ、私の子供達」
そのあと、オレは素直に突然襲いかかってきた睡魔を受け入れた。
*****
長い夢を見ていた。
あの女と男に囲まれ、可愛がられる夢だ。
オレが生まれた時から、最後に女に頭を撫でられる時まで。
やっぱり顔はのっぺらぼうだったけど、心地のいい夢だった。
突然、上に引っ張られる感覚を覚える。
真上に光が見える。
嫌いな光だ。
あそこに引っ張られる。
抵抗しても、その力に逆らえない。
嫌いな光にどんどん近づいていく。
その光に包まれ、オレは目を覚ました。
目の前には、右袖のない和服を着た女の子がいた。
白髪の髪で、前髪だけ黒髪だ。
女の子は山吹色の瞳で蓋越しからこちらを見つめ、微笑んだ。
それから後ろに振り返り、声を出した。
「父上、最後の子供が目覚めた」
「父上」と呼ばれた者が来る前に、2人の子供が駆けつけてきた。
男の子と女の子だ。
男の子は藍色の長髪で黒色の瞳を持ち、前開きのコートを着ている。
もうひとりの女の子はオレンジ色と赤色の短髪でオレンジ色の瞳を持ち、半袖半ズボンと男の子のような格好だ。
「賭けはヒルの勝ちですね」
藍色の男の子が笑みを浮かべながら言うと、男の子のような女の子が「チェー」と口を尖らせた。
「こいつも死ぬかと思ってたのに! やっぱ生きた! こいつは生きた!」
「ヒル、ユウ、賭けごとなんてどこで覚えたんだい?;」
そう言いながら、「父上」と呼ばれた男が近づいてくる。
天空だ。
眠る前に見た顔より、少し老けて見えた。
いや、実際少し老けていた。
オレが眠って、数年の月日が流れていたからだ。
しかし、体はあの時のままだった。
カプセルが開かれる。
天空は手を伸ばし、微笑みながらオレの新しい名を呼んだ。
「おはよう、##NAME2##」
あとから聞いた話だが、50人の実験体のうち、オレを含め4人しか成功しなかった。
残りは、体が腐る、心臓が止まるなどで死んだらしい。
オレは勝った、ということになるのだろうか。
勝っても負けても、どっちでもいい。
とりあえず、オレは生きた。
.
大きな女がそこにいた。
いや、オレが小さいのか。
小屋の中は真っ暗だ。
明るい外からは悲鳴や怒鳴り声が聞こえる。
オレは震える女に抱きしめられながら、ただそれを茫然と聴いていた。
なにが起きているのか、理解するには小さすぎたのかもしれない。
「痛い…」
オレがそう言うと、女はさらに強くオレを抱きしめた。
痛い痛い、と言っても、女は離してくれない。
…どこ行ったんだろ…?
さっきまで一緒だった男はどこにもいない。
どこにいるのか聞こうと口を開けたとき、力強くオレを抱きしめていた女が、突然オレから離れた。
「ここにいて」
女は声を潜め、オレの頭を優しく撫でる。
顔は真っ正面にあったのに、オレはその顔を覚えてはいない。
のっぺらぼうがオレに言った。
「―――、なにも聞こえなくなるまで、出てきてはダメ」
知らない名前を言われたが、オレはとりあえず頷いた。
女は「良い子ね」と微笑んでまたオレを撫でる。
そして、女は光の向こうへと行ってしまった。
白い光に包まれ、飲み込まれるかのように。
オレはしばらく、女に言われた通り静かになるまで暗闇の中にいた。
ただじっとそこに座っていた。
やがて、外が静かになったことに気付き、立ち上がった。
目の前の大きい扉を押して開ける。
体が小さいから、重いと思っていた扉は簡単に開いた。
扉の向こうには、女が待っているはず。
また「良い子ね」と言って頭を撫でてくれるはず。
小さなオレは、そう期待していた。
だが、光の先は、血の夢だった。
辺りは一面、赤、赤、赤。
「……………」
女はすぐ目の前にいた。
赤色に塗れて倒れていた。
「……………」
オレはその女を見下ろし、立ち尽くす。
どれくらい立ち尽くしただろうか。
「キミの母親かい?」
見上げると、眼鏡をかけた黒髪の若い青年がオレを見下ろしていた。
安心させるような笑みを浮かべ、屈んでオレと同じ目線に合わせて言葉を続ける。
「生きたいのなら生かしてあげる。死にたいのなら死なせてあげる」
「……………」
「どっち?」
オレは女を見下ろし、そして男と目を合わせて答えた。
「どっちでもいい」
天空の研究所は、隠されるように山奥にひっそりと建っていた。
着いてすぐに、その研究所の実験室でオレは手術台にのせられ、体をいじくられた。
バケモノの血肉を取り込まれ、禁術の文字を背中に彫られ、肩にコウモリのような刺青を彫られ、色んな薬を投与されるなど、痛くて苦しいめに合わされた。
それでも、悲鳴を上げることはあっても、死の恐怖は感じなかった。
本当に、生きるとか死ぬとか、どっちでもよかったのだろう。
手術が終わったあと、オレはフラフラの体で地下につれていかれた。
広く、薄暗いそこには、カプセルがズラリと並んでいた。
数は50はあったと思う。
中にはオレと同じくらいの子供が入っていた。
眠っているのか、全員、目を瞑ったままゆっくりと呼吸を繰り返している。
オレの隣にいた天空は、オレの肩を軽く叩いた。
目の前に並ぶカプセルを見据えながら彼は言う。
「死ぬか生きるかの問いに、キミは「どちらでもいい」と答えたね? このカプセルが、キミの中に組み込んだ血肉が、キミが眠っている間にそれを決める」
オレの背中を優しく押し、一番隅にあるカラのカプセルの前につれていく。
「眠っている間、血肉は年月をかけてキミの体と同化する。成功すれば、キミは人を超えた体で生きてもらう」
カプセルを開け、オレを抱き上げてそこへ入れた。
オレは抵抗しなかった。
逃げても行くところはどこにもないとわかっていたからかもしれない。
蓋が閉められる。
「おやすみ…」
透明の蓋の向こうから天空が微笑んで言った。
「おやすみ、私の子供達」
そのあと、オレは素直に突然襲いかかってきた睡魔を受け入れた。
*****
長い夢を見ていた。
あの女と男に囲まれ、可愛がられる夢だ。
オレが生まれた時から、最後に女に頭を撫でられる時まで。
やっぱり顔はのっぺらぼうだったけど、心地のいい夢だった。
突然、上に引っ張られる感覚を覚える。
真上に光が見える。
嫌いな光だ。
あそこに引っ張られる。
抵抗しても、その力に逆らえない。
嫌いな光にどんどん近づいていく。
その光に包まれ、オレは目を覚ました。
目の前には、右袖のない和服を着た女の子がいた。
白髪の髪で、前髪だけ黒髪だ。
女の子は山吹色の瞳で蓋越しからこちらを見つめ、微笑んだ。
それから後ろに振り返り、声を出した。
「父上、最後の子供が目覚めた」
「父上」と呼ばれた者が来る前に、2人の子供が駆けつけてきた。
男の子と女の子だ。
男の子は藍色の長髪で黒色の瞳を持ち、前開きのコートを着ている。
もうひとりの女の子はオレンジ色と赤色の短髪でオレンジ色の瞳を持ち、半袖半ズボンと男の子のような格好だ。
「賭けはヒルの勝ちですね」
藍色の男の子が笑みを浮かべながら言うと、男の子のような女の子が「チェー」と口を尖らせた。
「こいつも死ぬかと思ってたのに! やっぱ生きた! こいつは生きた!」
「ヒル、ユウ、賭けごとなんてどこで覚えたんだい?;」
そう言いながら、「父上」と呼ばれた男が近づいてくる。
天空だ。
眠る前に見た顔より、少し老けて見えた。
いや、実際少し老けていた。
オレが眠って、数年の月日が流れていたからだ。
しかし、体はあの時のままだった。
カプセルが開かれる。
天空は手を伸ばし、微笑みながらオレの新しい名を呼んだ。
「おはよう、##NAME2##」
あとから聞いた話だが、50人の実験体のうち、オレを含め4人しか成功しなかった。
残りは、体が腐る、心臓が止まるなどで死んだらしい。
オレは勝った、ということになるのだろうか。
勝っても負けても、どっちでもいい。
とりあえず、オレは生きた。
.