35:林檎と涙
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*飛段
ここは崖下に建てられた、今は廃虚となってるコンクリートの建物だ。
暁のアジトのひとつで、そこでヨルが目覚めるのを待ってたが、1階で角都と一緒にヒマな時間を持て余してたとき、角都がアジトに誰かが侵入してきたことに気付いた。
気配は2階から。
ヨルがいる部屋だ。
オレ達は急いで向かった。
「侵入者って…、なんですぐに気付かなかったんだよ!」
やっと食いちぎられた右肩が完治したところなのに。
「黙って急げ」
2階の階段を駆け上がって角を曲がったとき、奥のヨルの部屋に2人組の影があった。
「ここから先はご遠慮願おうか」
「てめー…」
どこかで見たことあるツラだと思ったら、オレの里で喧嘩売ってきた奴じゃねーか。
「顔を合わすのは2度目だな。狂信者ヤロー」
「…アサの側近の者たちか」
角都の言葉に金の短髪女が頷く。
「このオレ、クロハ様とアゲハはおまえらが部屋に入らないよう止めるのを任されてる」
「命令。話が終わるまで待て」
オレは「ハァ?」と青筋を立たせた。
「話ィ? どうせそっちに来るか来ないかのくっだらねー勧誘だろォ?」
オレはビシッと指をさして言葉を続ける。
「ヨルはオレ達の仲間! イコール! ジャシン教信者! てめーら無神論者の勧誘なんて断るに決まってんだろ! バーカァ!」
「…初めて聞いたぞ」
「うるせェ。黙ってろっ」
「オレもジャシン教に入ってることになるのか」
「いいから話合わせろKY!」
小声で角都に言われ、オレも小声で言い返す。
「とにかくそこを…」
オレが一歩踏み出した途端、
「!!」
オレ達の足下から何本もの赤いトゲが生え、オレ達を囲んだ。
わざと外したのか、先端がオレ達の喉元で止まる。
前を見ると、アゲハが床に手をつき、血を流している。
その血はこの赤いトゲに繋がっていた。
血を硬化させたり変形したりできる術か。
「警告。それ以上動けば殺す」
「はんっ。せっかく拾われた命だ。無駄にすることになるぜ?」
せせら笑うクロハの顔は角都に向けられた。
角都はまだ2つしか心臓を持っていない。
ここで2回心臓を刺されたらアウトだ。
角都と目を合わせる。
考えてることは一緒ってか。
「だからそれをオレに言うかよ!」
オレは懐から杭を取り出し、周りの赤いトゲを砕いた。
同じく角都も両手を硬化させてそれを叩き壊す。
クロハとアゲハが戦闘態勢に入った。
「兄貴」
「はんっ。ついでだ。ユウの仇も討ってやろうぜ!」
「やめぬか」
その言葉にオレ達は同時に動きを止めた。
扉が開けられ、アサが出てくる。
「誰が殺しにかかれと言った?」
「チッ…」
クロハは舌を打ち、アゲハとともにアサの隣に立ち、オレ達に振り返った。
不服そうな顔だ。
アサが懐に手を差し入れて巻物を取り出し、なにか仕掛けてくるんじゃないかとオレと角都は構えた。
しかし、アサが巻物から口寄せしたのは、オレの鎌とオレ達の額当てだった。
「オレの鎌! 額当ても!」
拾ったとき、オレははっとする。
「か、感謝なんてしねーぞ! こんなんでヨルと交換なんてしないからな!」
「馬鹿が…」
思わず見せてしまった醜態に角都はため息をついた。
クロハにも笑われ、怒りと恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じる。
「てめーらバカにしてんじゃねー!」
「うっせぇぞ」
「!」
不機嫌そうな声とともに、アサに続いて扉からヨルが出てきた。
「ヨル! オイオイ、もういいのかよ。1週間も爆睡しやがって…」
いつものように近づいてその首に腕をまわしてからかってやるつもりだった。
だが、オレの足はそのヨルの顔を見て思わず立ち止まる。
暗く、沈んだ目だった。
なんだあの目は。
まるで、初めて会った時のヨルだ。
ヨルはオレと角都を交互に見たあと、こんなことを言いだした。
「飛段、角都、オレ…アサについていくことにしたから」
飛段は「は?」と間抜けな声を出した。
オレはもう一度ヨルの目を見た。
その据えた目に冗談でないことが窺える。
幻術で操られている様子もない。
「…本気か?」
「ああ。アサとツーマンセルを組む。まあ、クロハとアゲハを入れたらフォーマンセルか」
「…てめー…、てめーが今なに言ってんのかわかってんのか!? ああ!?」
飛段はコブシを握りしめ、ヨルに向かって怒鳴った。
ヨルは平然と言い返す。
「いや、だから。直球で言わせてもらうと…、もうてめーらと組む気はねえっつってんだよ」
そう言って目付きを鋭くさせた。
拒絶の目だ。
「な…」
「……………」
飛段は明らかに動揺していた。
オレは腕を組んだままヨルの話を黙って聞く。
「ユウが言ってた通り、あんまり真血を与えすぎるとオレの理性がなくなって完全に鬼化するわけ。飛段も聞いただろ? そうなったらもうおまえらの手じゃ負えねえし、今度こそおまえらの体を食べつくしちまうんだよ。おまえらだってそんなの嫌だろ? オレだってそれでオレのせいにされても困るし…」
自分のことしか考えていないようなセリフだ。
オレは飛段の手首をつかみ、今にもつかみかからんとする飛段を止める。
それでもヨルは挑発的に言葉を続ける。
「これで最後だ。てめーら助けてたら、オレの命と血がいくつあっても足らねーよ」
飛段はオレの手を払って走り出し、ヨルの胸倉をつかんだ。
「ヨル…!!」
鼻息を荒くさせる飛段の様子にヨルは「フン」と嘲笑う。
「なにムキになってんだよ。それが恩人に対する態度か? 生き埋めにされたところ、わざわざ助けてやったんだ。それとも放置がよかったか?」
「…っ!」
飛段は、ギリッ、と歯を噛みしめた。
「今回、オレは痛感したぜ…。不死身でも、足手まといじゃ話になんねェ。大好きなジャシン様も、守っちゃくれなかったしな」
ゴッ!!
飛段のコブシがヨルの頬に直撃する。
「っと!」
後ろに吹っ飛んだヨルをクロハが受け止めた。
「てめー! 今までオレのことそんなふうに思ってたのかよ! 仲間だって言ってただろが! てめーも!」
ヨルは口端の血を手の甲で拭い、再び嘲笑を浮かべた。
「誰だってあの場面でああいうカッコいいセリフ、言ってみたいもんだろ。仲間? …違うな。一人がヒマだったから、ただの暇つぶし相手だ」
飛段は今度は三連鎌を手にヨルに飛びかかった。
オレは右手を地怨虞で伸ばして飛段の体に絡ませ、動きを封じる。
「やめろ、飛段」
「やめられるか!! 放せ角都!! あのアマ、ブッ殺してやる!!」
「…殺す価値もない」
瞬間、オレは確かに見た。
悲しげに強張らせたヨルの顔を。
「……………」
オレと目を合わせたヨルは、少し慌てて顔をうつむかせた。
アサはヨルと飛段の間に入り、手を1回叩く。
「さて、これ以上のいざこざはやめてもらおうか。聞いての通り、ヨルはワシと組む。おヌシ達はまたツーマンセルで任務をこなせばよい。それだけじゃ。九尾はリーダーの担当となった。おヌシらにはまた別の尾獣を捜してほしいとのことじゃ」
地怨虞から解放されて立ち上がった飛段はヨルを精いっぱい睨みつけたあと、背を向けて歩きだした。
お互い、もう何も言わなかった。
「…じゃあな、ヨル」
オレはそう声をかけ、飛段のあとについていった。
.
ここは崖下に建てられた、今は廃虚となってるコンクリートの建物だ。
暁のアジトのひとつで、そこでヨルが目覚めるのを待ってたが、1階で角都と一緒にヒマな時間を持て余してたとき、角都がアジトに誰かが侵入してきたことに気付いた。
気配は2階から。
ヨルがいる部屋だ。
オレ達は急いで向かった。
「侵入者って…、なんですぐに気付かなかったんだよ!」
やっと食いちぎられた右肩が完治したところなのに。
「黙って急げ」
2階の階段を駆け上がって角を曲がったとき、奥のヨルの部屋に2人組の影があった。
「ここから先はご遠慮願おうか」
「てめー…」
どこかで見たことあるツラだと思ったら、オレの里で喧嘩売ってきた奴じゃねーか。
「顔を合わすのは2度目だな。狂信者ヤロー」
「…アサの側近の者たちか」
角都の言葉に金の短髪女が頷く。
「このオレ、クロハ様とアゲハはおまえらが部屋に入らないよう止めるのを任されてる」
「命令。話が終わるまで待て」
オレは「ハァ?」と青筋を立たせた。
「話ィ? どうせそっちに来るか来ないかのくっだらねー勧誘だろォ?」
オレはビシッと指をさして言葉を続ける。
「ヨルはオレ達の仲間! イコール! ジャシン教信者! てめーら無神論者の勧誘なんて断るに決まってんだろ! バーカァ!」
「…初めて聞いたぞ」
「うるせェ。黙ってろっ」
「オレもジャシン教に入ってることになるのか」
「いいから話合わせろKY!」
小声で角都に言われ、オレも小声で言い返す。
「とにかくそこを…」
オレが一歩踏み出した途端、
「!!」
オレ達の足下から何本もの赤いトゲが生え、オレ達を囲んだ。
わざと外したのか、先端がオレ達の喉元で止まる。
前を見ると、アゲハが床に手をつき、血を流している。
その血はこの赤いトゲに繋がっていた。
血を硬化させたり変形したりできる術か。
「警告。それ以上動けば殺す」
「はんっ。せっかく拾われた命だ。無駄にすることになるぜ?」
せせら笑うクロハの顔は角都に向けられた。
角都はまだ2つしか心臓を持っていない。
ここで2回心臓を刺されたらアウトだ。
角都と目を合わせる。
考えてることは一緒ってか。
「だからそれをオレに言うかよ!」
オレは懐から杭を取り出し、周りの赤いトゲを砕いた。
同じく角都も両手を硬化させてそれを叩き壊す。
クロハとアゲハが戦闘態勢に入った。
「兄貴」
「はんっ。ついでだ。ユウの仇も討ってやろうぜ!」
「やめぬか」
その言葉にオレ達は同時に動きを止めた。
扉が開けられ、アサが出てくる。
「誰が殺しにかかれと言った?」
「チッ…」
クロハは舌を打ち、アゲハとともにアサの隣に立ち、オレ達に振り返った。
不服そうな顔だ。
アサが懐に手を差し入れて巻物を取り出し、なにか仕掛けてくるんじゃないかとオレと角都は構えた。
しかし、アサが巻物から口寄せしたのは、オレの鎌とオレ達の額当てだった。
「オレの鎌! 額当ても!」
拾ったとき、オレははっとする。
「か、感謝なんてしねーぞ! こんなんでヨルと交換なんてしないからな!」
「馬鹿が…」
思わず見せてしまった醜態に角都はため息をついた。
クロハにも笑われ、怒りと恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じる。
「てめーらバカにしてんじゃねー!」
「うっせぇぞ」
「!」
不機嫌そうな声とともに、アサに続いて扉からヨルが出てきた。
「ヨル! オイオイ、もういいのかよ。1週間も爆睡しやがって…」
いつものように近づいてその首に腕をまわしてからかってやるつもりだった。
だが、オレの足はそのヨルの顔を見て思わず立ち止まる。
暗く、沈んだ目だった。
なんだあの目は。
まるで、初めて会った時のヨルだ。
ヨルはオレと角都を交互に見たあと、こんなことを言いだした。
「飛段、角都、オレ…アサについていくことにしたから」
飛段は「は?」と間抜けな声を出した。
オレはもう一度ヨルの目を見た。
その据えた目に冗談でないことが窺える。
幻術で操られている様子もない。
「…本気か?」
「ああ。アサとツーマンセルを組む。まあ、クロハとアゲハを入れたらフォーマンセルか」
「…てめー…、てめーが今なに言ってんのかわかってんのか!? ああ!?」
飛段はコブシを握りしめ、ヨルに向かって怒鳴った。
ヨルは平然と言い返す。
「いや、だから。直球で言わせてもらうと…、もうてめーらと組む気はねえっつってんだよ」
そう言って目付きを鋭くさせた。
拒絶の目だ。
「な…」
「……………」
飛段は明らかに動揺していた。
オレは腕を組んだままヨルの話を黙って聞く。
「ユウが言ってた通り、あんまり真血を与えすぎるとオレの理性がなくなって完全に鬼化するわけ。飛段も聞いただろ? そうなったらもうおまえらの手じゃ負えねえし、今度こそおまえらの体を食べつくしちまうんだよ。おまえらだってそんなの嫌だろ? オレだってそれでオレのせいにされても困るし…」
自分のことしか考えていないようなセリフだ。
オレは飛段の手首をつかみ、今にもつかみかからんとする飛段を止める。
それでもヨルは挑発的に言葉を続ける。
「これで最後だ。てめーら助けてたら、オレの命と血がいくつあっても足らねーよ」
飛段はオレの手を払って走り出し、ヨルの胸倉をつかんだ。
「ヨル…!!」
鼻息を荒くさせる飛段の様子にヨルは「フン」と嘲笑う。
「なにムキになってんだよ。それが恩人に対する態度か? 生き埋めにされたところ、わざわざ助けてやったんだ。それとも放置がよかったか?」
「…っ!」
飛段は、ギリッ、と歯を噛みしめた。
「今回、オレは痛感したぜ…。不死身でも、足手まといじゃ話になんねェ。大好きなジャシン様も、守っちゃくれなかったしな」
ゴッ!!
飛段のコブシがヨルの頬に直撃する。
「っと!」
後ろに吹っ飛んだヨルをクロハが受け止めた。
「てめー! 今までオレのことそんなふうに思ってたのかよ! 仲間だって言ってただろが! てめーも!」
ヨルは口端の血を手の甲で拭い、再び嘲笑を浮かべた。
「誰だってあの場面でああいうカッコいいセリフ、言ってみたいもんだろ。仲間? …違うな。一人がヒマだったから、ただの暇つぶし相手だ」
飛段は今度は三連鎌を手にヨルに飛びかかった。
オレは右手を地怨虞で伸ばして飛段の体に絡ませ、動きを封じる。
「やめろ、飛段」
「やめられるか!! 放せ角都!! あのアマ、ブッ殺してやる!!」
「…殺す価値もない」
瞬間、オレは確かに見た。
悲しげに強張らせたヨルの顔を。
「……………」
オレと目を合わせたヨルは、少し慌てて顔をうつむかせた。
アサはヨルと飛段の間に入り、手を1回叩く。
「さて、これ以上のいざこざはやめてもらおうか。聞いての通り、ヨルはワシと組む。おヌシ達はまたツーマンセルで任務をこなせばよい。それだけじゃ。九尾はリーダーの担当となった。おヌシらにはまた別の尾獣を捜してほしいとのことじゃ」
地怨虞から解放されて立ち上がった飛段はヨルを精いっぱい睨みつけたあと、背を向けて歩きだした。
お互い、もう何も言わなかった。
「…じゃあな、ヨル」
オレはそう声をかけ、飛段のあとについていった。
.