35:林檎と涙
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*ヨル
ユウはオレに薄笑みを見せて言葉をかけたあと、そのまま真っ逆さまに落下していった。
なんでオレはその時に手を伸ばそうと思ったのか。
昔の仲間だからか、あいつが。
「ヨル!」
飛段は夢魘を地面に突き刺したあと、両手で夢魘の鎖をつかんで崖の上から声をかけた。
「飛段…」
「待ってろ、すぐ上げてやるからよォ!」
あいつに助けられたな。
オレひとりで片を付けるつもりだったけど。
「…っ」
飛段の呻き声が聞こえると同時に、ガクン、とオレの体が下がった。
「どうし…、!」
右手首がとれかけてる。
ユウに傷つけられたところか。
飛段の手首が取れたら、間違いなくオレは真っ逆さまだ。
背中の羽で飛ぶ気力は今のオレにはもうない。
オレの意思で巻きとれないのか、この鎖。
便利なんだか不便なんだか。
「飛段、放せ! 手首ごと持ってっちまう!」
そう言っても、鎖をたぐりよせてオレを引き上げようとする。
「飛段!」
「オレの心配ばっかすんじゃねーよ! 何様だてめー!」
「心配してほしくなきゃ放せ!!」
「バカにすんな!!」
飛段が叫んだとき、
「「!!」」
右手がとれてしまった。
すぐに飛段は左手だけで鎖をつかもうとしたが、波打つ鎖は飛段の手を弾き、地面に突き刺されたはずの夢魘はオレの重みで地面を削り、オレとともに谷底へ落ちていく。
「ヨル!!」
この底に叩きつけられたら死ぬのか、この状態ならもしかしたら助かるんじゃないか、そんな悲観的と楽観的なことを考えた時だ。
背中になにかが当たり、落下を防いでくれた。
「…?」
はっとした。
仰向けからうつ伏せに寝返り、オレを受け止めてくれたやつの正体を知る。
「圧害…!」
圧害はオレを乗せ、上に飛んで崖の上までつれてってくれた。
それを見た飛段も驚いた顔をし、素っ頓狂な声を上げる。
「圧害だァ!?」
飛段の背後に、近づく影があった。
そいつは後ろから飛段の後頭部を軽く殴る。
「痛て!」
「遅いぞ、馬鹿が。オレが迎えに来てどうする」
オレは息を呑み、沸々と歓喜が湧きあがるのを感じ、思わず声を上げた。
「か…、角都!!」
振り返った飛段も、腕を組んだまま不機嫌そうに眉をひそめたその顔を見て、「角都…」と呟き、両腕を広げた。
「角都ゥ!!」
しかし、抱きつこうとした飛段を角都はひらりと華麗にかわし、飛段は「冷てェ!(汗)」と地面に倒れこむ。
それでも圧害に乗ったオレに顔を上げ、嬉しそうに言った。
「な!? な!? 言っただろ? デタラメだったろ? 角都が死ぬわけねーじゃん!」
「ああ」
オレも嬉しそうに言い返した。
圧害はオレが降りると、とことこと角都に歩み寄り、背中に戻った。
「オレに埋めた白い欠片は、圧害の欠片だったか…」
「ああ。まさか、本当にそれも再生するとは思わなったけど…」
でも、圧害は心臓だ。
それならオレの真血で再生できないかと考えたんだ。
本当は頭刻苦や偽暗も蘇らせてあげたかったけど、状況が悪かったから、拾ってやるヒマはなかった。
「結局てめーもやられちまったのかよォ、角都ゥ」
飛段は馴れなれしく角都の肩に手を置いて尋ねた。
角都がやられたって聞いて凄く動揺してたクセに。
角都は前を向いたまま「黙れ、殺すぞ」と言う。
飛段は嬉しそうに「だからそれをオレに言うかよ、角都」と返した。
いつものセリフを聞いてオレは心底ホッとする。
ユウ、やっぱり、こいつらのいない世界なんて考えられない。
オレにとって、それはあっちゃいけない世界なんだ。
笑みをこぼした時だ。
ドクン!
「ぐ…!」
突如、心臓が直接握りしめられるような痛みに襲われ、オレはその場に両膝と両手をついた。
痙攣する体で、オレは必死に飛びかける意識にしがみついた。
ここで鬼に支配されたら、間違いなく目の前の奴らを食っちまう。
せっかく生きて3人で集まれたのに。
「ヨル!?」
「どうした?」
「来…るな…!」
駆け寄ってこようとする2人を止めた。
心臓が大きく脈打ち続け、体は燃えるように熱かった。
体内の血が暴走しているようだ。
完全制御は無理だったか。
「しっかりしろよ! 一体なにが…」
飛段が近づいてきたとき、オレの意思とは関係なく右手が飛段に伸びた。
オレはすぐに夢魘の柄を咥え、勝手に行動した右手に突き刺す。
「!?」
飛段は驚いた顔をしてこちらに来ようとした足を止める。
「オレから…離れろ…! じゃねーと…」
取り返しのつかないことになる。
“なにを迷っているのですか”
「…っ!」
夢魘から声が聞こえた。
夢魘を見ると、その刀身に朱鬼と同じ金色の目が浮かび、ギョロギョロと動き、オレを見た。
目の前の2人は声にも目にも気付いていないようだ。
“目の前の2人を食べれば楽になるというのに”
黙れ、とオレは心の中から夢魘に伝えた。
“なら…、私に体を譲っていただけませんか? …すべてを私に預け…、キキキッ、楽になっちまいなさいよ”
これがオレの中の鬼か。
丁寧に自分(武器)の扱い方まで教えてくれたかと思えば、結局はオレの体目当てか。
「黙れっつってんだろ!! てめーは引っ込んでろ!!」
思わず声に出してしまい、飛段と角都は怪訝な顔をした。
「ヨル…?」
「しばらくオレから離れてろ…! 早くしねーと…、もう…っ」
そう言ってるのに、飛段はオレに近づいてオレのすぐ目の前で片膝をつき、右手をオレの右肩に置いた。
「確か…、ユウが言ってたな…。血肉を取り込めば、元に戻るのか?」
「!?」
オレははっと顔を上げた。
飛段は外套を少しはだけさせ、オレにその首筋をオレに近づける。
「ほらよ」
「やめろ…!!」
目の前には美味そうな匂いがオレの食欲を煽る。
「心配すんな。オレは死なねーんだ…」
「だから傷つけていいのか!? 喰っていいのか!? ふざけんじゃねー!! カッコつけんな!!」
すると、飛段はオレの後頭部に左手をまわしてつかみ、自分の首筋にオレを押し付けた。
「カッコつけさせろよ…」
瞬間、オレの意識が飛んだ。
.
ユウはオレに薄笑みを見せて言葉をかけたあと、そのまま真っ逆さまに落下していった。
なんでオレはその時に手を伸ばそうと思ったのか。
昔の仲間だからか、あいつが。
「ヨル!」
飛段は夢魘を地面に突き刺したあと、両手で夢魘の鎖をつかんで崖の上から声をかけた。
「飛段…」
「待ってろ、すぐ上げてやるからよォ!」
あいつに助けられたな。
オレひとりで片を付けるつもりだったけど。
「…っ」
飛段の呻き声が聞こえると同時に、ガクン、とオレの体が下がった。
「どうし…、!」
右手首がとれかけてる。
ユウに傷つけられたところか。
飛段の手首が取れたら、間違いなくオレは真っ逆さまだ。
背中の羽で飛ぶ気力は今のオレにはもうない。
オレの意思で巻きとれないのか、この鎖。
便利なんだか不便なんだか。
「飛段、放せ! 手首ごと持ってっちまう!」
そう言っても、鎖をたぐりよせてオレを引き上げようとする。
「飛段!」
「オレの心配ばっかすんじゃねーよ! 何様だてめー!」
「心配してほしくなきゃ放せ!!」
「バカにすんな!!」
飛段が叫んだとき、
「「!!」」
右手がとれてしまった。
すぐに飛段は左手だけで鎖をつかもうとしたが、波打つ鎖は飛段の手を弾き、地面に突き刺されたはずの夢魘はオレの重みで地面を削り、オレとともに谷底へ落ちていく。
「ヨル!!」
この底に叩きつけられたら死ぬのか、この状態ならもしかしたら助かるんじゃないか、そんな悲観的と楽観的なことを考えた時だ。
背中になにかが当たり、落下を防いでくれた。
「…?」
はっとした。
仰向けからうつ伏せに寝返り、オレを受け止めてくれたやつの正体を知る。
「圧害…!」
圧害はオレを乗せ、上に飛んで崖の上までつれてってくれた。
それを見た飛段も驚いた顔をし、素っ頓狂な声を上げる。
「圧害だァ!?」
飛段の背後に、近づく影があった。
そいつは後ろから飛段の後頭部を軽く殴る。
「痛て!」
「遅いぞ、馬鹿が。オレが迎えに来てどうする」
オレは息を呑み、沸々と歓喜が湧きあがるのを感じ、思わず声を上げた。
「か…、角都!!」
振り返った飛段も、腕を組んだまま不機嫌そうに眉をひそめたその顔を見て、「角都…」と呟き、両腕を広げた。
「角都ゥ!!」
しかし、抱きつこうとした飛段を角都はひらりと華麗にかわし、飛段は「冷てェ!(汗)」と地面に倒れこむ。
それでも圧害に乗ったオレに顔を上げ、嬉しそうに言った。
「な!? な!? 言っただろ? デタラメだったろ? 角都が死ぬわけねーじゃん!」
「ああ」
オレも嬉しそうに言い返した。
圧害はオレが降りると、とことこと角都に歩み寄り、背中に戻った。
「オレに埋めた白い欠片は、圧害の欠片だったか…」
「ああ。まさか、本当にそれも再生するとは思わなったけど…」
でも、圧害は心臓だ。
それならオレの真血で再生できないかと考えたんだ。
本当は頭刻苦や偽暗も蘇らせてあげたかったけど、状況が悪かったから、拾ってやるヒマはなかった。
「結局てめーもやられちまったのかよォ、角都ゥ」
飛段は馴れなれしく角都の肩に手を置いて尋ねた。
角都がやられたって聞いて凄く動揺してたクセに。
角都は前を向いたまま「黙れ、殺すぞ」と言う。
飛段は嬉しそうに「だからそれをオレに言うかよ、角都」と返した。
いつものセリフを聞いてオレは心底ホッとする。
ユウ、やっぱり、こいつらのいない世界なんて考えられない。
オレにとって、それはあっちゃいけない世界なんだ。
笑みをこぼした時だ。
ドクン!
「ぐ…!」
突如、心臓が直接握りしめられるような痛みに襲われ、オレはその場に両膝と両手をついた。
痙攣する体で、オレは必死に飛びかける意識にしがみついた。
ここで鬼に支配されたら、間違いなく目の前の奴らを食っちまう。
せっかく生きて3人で集まれたのに。
「ヨル!?」
「どうした?」
「来…るな…!」
駆け寄ってこようとする2人を止めた。
心臓が大きく脈打ち続け、体は燃えるように熱かった。
体内の血が暴走しているようだ。
完全制御は無理だったか。
「しっかりしろよ! 一体なにが…」
飛段が近づいてきたとき、オレの意思とは関係なく右手が飛段に伸びた。
オレはすぐに夢魘の柄を咥え、勝手に行動した右手に突き刺す。
「!?」
飛段は驚いた顔をしてこちらに来ようとした足を止める。
「オレから…離れろ…! じゃねーと…」
取り返しのつかないことになる。
“なにを迷っているのですか”
「…っ!」
夢魘から声が聞こえた。
夢魘を見ると、その刀身に朱鬼と同じ金色の目が浮かび、ギョロギョロと動き、オレを見た。
目の前の2人は声にも目にも気付いていないようだ。
“目の前の2人を食べれば楽になるというのに”
黙れ、とオレは心の中から夢魘に伝えた。
“なら…、私に体を譲っていただけませんか? …すべてを私に預け…、キキキッ、楽になっちまいなさいよ”
これがオレの中の鬼か。
丁寧に自分(武器)の扱い方まで教えてくれたかと思えば、結局はオレの体目当てか。
「黙れっつってんだろ!! てめーは引っ込んでろ!!」
思わず声に出してしまい、飛段と角都は怪訝な顔をした。
「ヨル…?」
「しばらくオレから離れてろ…! 早くしねーと…、もう…っ」
そう言ってるのに、飛段はオレに近づいてオレのすぐ目の前で片膝をつき、右手をオレの右肩に置いた。
「確か…、ユウが言ってたな…。血肉を取り込めば、元に戻るのか?」
「!?」
オレははっと顔を上げた。
飛段は外套を少しはだけさせ、オレにその首筋をオレに近づける。
「ほらよ」
「やめろ…!!」
目の前には美味そうな匂いがオレの食欲を煽る。
「心配すんな。オレは死なねーんだ…」
「だから傷つけていいのか!? 喰っていいのか!? ふざけんじゃねー!! カッコつけんな!!」
すると、飛段はオレの後頭部に左手をまわしてつかみ、自分の首筋にオレを押し付けた。
「カッコつけさせろよ…」
瞬間、オレの意識が飛んだ。
.