34:闇は鬼と化す
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*ヨル
容姿がまだ10代にも満たない子供だった頃か。
数ヶ月に1回、天空は民家の広間でオレ達を集め、正座させて横に並ばせ、朱族がどういうものかを何度も何度も同じ言葉で教えた。
体質のこと、真血のこと、やっていいことならないこと、そして、鬼化のこと。
「いいかい、キミ達は自害できない体だが、成長が止まると同時に、その禁制が少し緩まる。即死できない程度にね。死ぬためじゃない。鬼化するためだ」
耳にタコができるほど聞いたそのセリフに、オレは眠たくて首をこくりこくりと揺らしていた。
「父親! やっぱ寝てる! ヨルが寝てる!」
手を挙げて言ったユウの言葉に、オレははっと顔を上げる。
急いで口端のヨダレを拭い、目の前を見ると、天空は腕を組んで般若のような顔でオレを見下ろしていた。
「あ…;」
「ヨル、キミは残りなさい」
「あ~;」
ヒルとユウは「ケケケ」と悪魔のように笑い、アサは袖を口元にあててクスクスと上品に笑っていた。
*****
「確かに寝不足なのに呼びだしたことは私も悪いと思っている」
「だったら、足崩していい?;」
長時間の正坐もそろそろ限界だ。
「ダメ」
オレの向かいに座る天空は笑みを浮かべたままそう言った。
「ほら、鬼化について復習。血が足りなくなると?」
「…はぁ。…瞳が金色になるのが鬼化になる危険信号。頭が痛くなったり、酷く喉が渇いたり…」
「鬼化すると?」
「肉が食べたくなる。ある程度食べれば落ち着くし、元の姿に戻る…」
元の姿と言っていいのか。
逆に鬼化した姿が、オレ達の本当の姿じゃないのか。
けど、前にそれを口にして天空に平手されたことがあるから、もう本人の前じゃ口に出さない。
「そうそう。鬼化はあくまで自身が危険に陥った時、最後の手段として発動するものだから、無闇に使ったらダメだよ。発動して前半は暴走状態だからね。…できれば、一生使ってほしくない」
天空は罪悪を感じているのか少しだけ顔を伏せた。
オレはため息をつく。
「だったら、鬼化しないようにすればいいじゃん」
「できなかったんだよ。朱鬼の血肉を取り込んだ時点で、それは避けられないことだった」
「…天空、アンタがオレ達を生みだしたんだ。今更、戦争に出したくないなんて言うなよ。みんなが怒る。みんなが怒ったら、オレがアンタを守らないといけない。アンタは…、普通の人間なんだ…」
天空はゆっくりと顔を上げ、笑みを浮かべた。
また少し老けたようだ。
笑みに伴い、皺までくっきりと浮かんだ。
「ああ、もちろん。私も父の意志を継ぎたいからね」
そう言って天空はオレの頭を撫でる。
「ヨル、キミはなんのためなら鬼になれる?」
「ん―――…。とりあえず、この正坐を崩すためなら…」
「崩しなさい;」
オレは小さく「やった」と喜んで正坐を崩した。
だが、あとから襲ってくる足のビリビリが恐ろしい。
天空、結局アンタを守ることができなかった。
アンタはウソツキだ。
アンタもオレ達と生きていたかったなら、どうして真血を求めてくれなかったんだ。
オレもアンタと生きていたかったのに。
ズン!!!
地鳴りが足下から伝わってくる。
同時に、探知蝙蝠からソイツの危険信号を受け取った。
最後の増血剤を噛み砕き、オレは全力で走った。
木の枝を思いっきり踏みつけ、反動をつけて遠くの別の木の枝に飛び移りながら移動する。
力を入れると腹と胸の傷口から血が噴き出し、痛みが走った。
こうしている間にも、徐々にソイツは瀕死の状態に追い込まれていく。
ユウと戦っている時、平静を保つのが一番大変だった。
あの2人は敵の策にかかってしまったのか、離れてしまった。
先にひとりがやられ、一番ヤバいのが後にやられたひとりだ。
オレは今ソイツのもとへ向かっている。
頼む、間に合ってくれ。
.
容姿がまだ10代にも満たない子供だった頃か。
数ヶ月に1回、天空は民家の広間でオレ達を集め、正座させて横に並ばせ、朱族がどういうものかを何度も何度も同じ言葉で教えた。
体質のこと、真血のこと、やっていいことならないこと、そして、鬼化のこと。
「いいかい、キミ達は自害できない体だが、成長が止まると同時に、その禁制が少し緩まる。即死できない程度にね。死ぬためじゃない。鬼化するためだ」
耳にタコができるほど聞いたそのセリフに、オレは眠たくて首をこくりこくりと揺らしていた。
「父親! やっぱ寝てる! ヨルが寝てる!」
手を挙げて言ったユウの言葉に、オレははっと顔を上げる。
急いで口端のヨダレを拭い、目の前を見ると、天空は腕を組んで般若のような顔でオレを見下ろしていた。
「あ…;」
「ヨル、キミは残りなさい」
「あ~;」
ヒルとユウは「ケケケ」と悪魔のように笑い、アサは袖を口元にあててクスクスと上品に笑っていた。
*****
「確かに寝不足なのに呼びだしたことは私も悪いと思っている」
「だったら、足崩していい?;」
長時間の正坐もそろそろ限界だ。
「ダメ」
オレの向かいに座る天空は笑みを浮かべたままそう言った。
「ほら、鬼化について復習。血が足りなくなると?」
「…はぁ。…瞳が金色になるのが鬼化になる危険信号。頭が痛くなったり、酷く喉が渇いたり…」
「鬼化すると?」
「肉が食べたくなる。ある程度食べれば落ち着くし、元の姿に戻る…」
元の姿と言っていいのか。
逆に鬼化した姿が、オレ達の本当の姿じゃないのか。
けど、前にそれを口にして天空に平手されたことがあるから、もう本人の前じゃ口に出さない。
「そうそう。鬼化はあくまで自身が危険に陥った時、最後の手段として発動するものだから、無闇に使ったらダメだよ。発動して前半は暴走状態だからね。…できれば、一生使ってほしくない」
天空は罪悪を感じているのか少しだけ顔を伏せた。
オレはため息をつく。
「だったら、鬼化しないようにすればいいじゃん」
「できなかったんだよ。朱鬼の血肉を取り込んだ時点で、それは避けられないことだった」
「…天空、アンタがオレ達を生みだしたんだ。今更、戦争に出したくないなんて言うなよ。みんなが怒る。みんなが怒ったら、オレがアンタを守らないといけない。アンタは…、普通の人間なんだ…」
天空はゆっくりと顔を上げ、笑みを浮かべた。
また少し老けたようだ。
笑みに伴い、皺までくっきりと浮かんだ。
「ああ、もちろん。私も父の意志を継ぎたいからね」
そう言って天空はオレの頭を撫でる。
「ヨル、キミはなんのためなら鬼になれる?」
「ん―――…。とりあえず、この正坐を崩すためなら…」
「崩しなさい;」
オレは小さく「やった」と喜んで正坐を崩した。
だが、あとから襲ってくる足のビリビリが恐ろしい。
天空、結局アンタを守ることができなかった。
アンタはウソツキだ。
アンタもオレ達と生きていたかったなら、どうして真血を求めてくれなかったんだ。
オレもアンタと生きていたかったのに。
ズン!!!
地鳴りが足下から伝わってくる。
同時に、探知蝙蝠からソイツの危険信号を受け取った。
最後の増血剤を噛み砕き、オレは全力で走った。
木の枝を思いっきり踏みつけ、反動をつけて遠くの別の木の枝に飛び移りながら移動する。
力を入れると腹と胸の傷口から血が噴き出し、痛みが走った。
こうしている間にも、徐々にソイツは瀕死の状態に追い込まれていく。
ユウと戦っている時、平静を保つのが一番大変だった。
あの2人は敵の策にかかってしまったのか、離れてしまった。
先にひとりがやられ、一番ヤバいのが後にやられたひとりだ。
オレは今ソイツのもとへ向かっている。
頼む、間に合ってくれ。
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