32:守る玉
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*ヨル
今回も6日のパターンか。
オレは拾った木の枝で“正”という字を完成させる。
時刻はもうすぐ夕暮だ。
あれから5日、角都と飛段は戻ってこないままだ。
雨が降ってたから笠を差してやったり、コウモリを飛ばして敵がいないか探索したり、コウモリと戯れたり。
まともな血を飲んでいない。
増血剤か、小さな獣で済ませてる状態だ。
こいつらから目は離せないし、耳の神経だって集中させたままだ。
体の火傷はとっくに治った。
あの時の罠には2度とハマるものか。
左肩に1羽のコウモリが留まり、オレの頬にすり寄った。
ずっと辺りを警戒しているオレをなだめるかのようだ。
オレはアゴを撫でて「大丈夫」と自分に言い聞かせるように言った。
「…ああ…、大丈夫…」
心配することはないはずだ。
角都と飛段はオレより強い。
けど、オレが強くなくちゃいけないんだよな、本来は。
肩に留まっていたコウモリが飛び去った時だ。
「!」
オレは背中から2本の夢魔を引き抜き、角都と飛段に向けて投げつけた。
それらは宙を回転し、2人のすぐ傍に突き刺さり、木々の狭い間を真っ直ぐに飛んできたそれを防いだ。
夢魔に当たって落ちたのは、白い2本の羽根だった。
オレはゆっくりと立ち上がり、羽根が飛んできた方向に顔を向けた。
「選択させてあげる。そっちで仲間もろとも死ぬか、こっちでひとり孤独に死ぬか」
「……………」
その声を聞きながら、オレは石像に飛び乗り、2人の手の甲に軽く噛みつき、探知蝙蝠を仕込んだ。
「坊主を逃がしたのはてめーか」
そう言って、2人の傍に突き刺した夢魔をどちらも力任せに引き抜いた。
「あ、バレてた? 正確には、ボクの連れがやったことなんだけどね。…ああ、でも命令したらボクがやったのも同じことか」
オレはもう一度声のする方向に体を向けた。
「おかげでメンドーなことになってんだよ。この国の忍に目ェつけられちまったんだからな」
「しっかりと恨みを買ったわけだ。ホント、計画通りに動いてくれるよね」
「ユウ…」
オレは薄暗い森の先を睨んだ。
「…随分と反抗的な目をするようになったね。ヨルのクセに。そんなにそいつらが大事? 理解できないよ」
「こいつらはオレのエサだからだ」
低い声でそう言ってやると、ユウは腹を抱えているのか狂った笑い声を上げた。
「あははは! やっぱウソツキ! ヨルはウソツキだ! …エサだって? ここからでもわかるくらい獣の匂いしかしてないって! 大事な存在だと思われるのが嫌だからってそんなウソ…。わかりやすくて嗤っちゃう! そいつらの血の方が絶品だってわかってるクセに!」
「相変わらずピーチクパーチクとウゼェさえずりだな。そんなにクチバシへし折られたいか」
挑発的にそう言うと、ユウは「はは…」と残して笑みを消した。
「ほんっと、クソ生意気になったよね」
はっと上を見上げると、近くの木の枝からオレ達を見下ろしていた。
「おまえがここにいるってことは、アサも…」
「いないよ。いたとしても、今は取り込み中。ボクはただ、ヨルと遊びたいだけだよ」
「てめーのタチの悪い遊びに付き合ってられるか」
「じゃあ、こいつら今殺していいんだ?」
ユウがニヤリと嫌な笑みを浮かべると同時にオレは地面を蹴った。
「闇で醒めてからヒルと遊べよ」
ズバン!!
ユウの胸に両手の夢魔を突き刺した。
だが、その姿は白い羽根となって宙に飛び散った。
「!」
“羽根分身”か。
「ほらほら、ヨル。もう遊びは始まってるよ。あははは! おーにさんこーちら♪」
走りだそうとしたオレは角都と飛段に振り返った。立ち止まっているヒマはない。
次はなにを仕掛けてくるかわからない。
もうこいつらを朱族のことで巻き込みたくない。
「ごめん、行ってくる」
オレは夢魔を振るい、石像に文字を残してから走り去った。
木の枝を飛び移りながら、さえずりを追いかける。
それでもまだ、あの鳥女の姿は見えない。
向こうからはオレが丸見えだろうな。
「あははは! やっぱ選んだ! こっちを選んだ! ひとりで死ぬ選択を!」
今度はオレが笑ってやった。
「選択肢3つめだ。てめーに…血の夢見せてやるよ」
「そんな選択肢、ボクの中には存在しないよ」
背後に影が近づき、オレは振り返ると同時に右手の夢魔を振るった。
ギィン、と耳障りな金属音が辺りに響く。
オレの夢魔とユウの鉤爪の押し合いだ。
「今度は…本物だな…」
「ヨルを痛めつけるためにね」
それからその場で何度も打ち合い、同時に後ろに飛び退き、他の枝に着地した。
「昔から絡んでこられたが、ここで終わりにしてやる」
「それはボクも同じだよ。2度といじめてあげられないのが残念」
.To be continued
今回も6日のパターンか。
オレは拾った木の枝で“正”という字を完成させる。
時刻はもうすぐ夕暮だ。
あれから5日、角都と飛段は戻ってこないままだ。
雨が降ってたから笠を差してやったり、コウモリを飛ばして敵がいないか探索したり、コウモリと戯れたり。
まともな血を飲んでいない。
増血剤か、小さな獣で済ませてる状態だ。
こいつらから目は離せないし、耳の神経だって集中させたままだ。
体の火傷はとっくに治った。
あの時の罠には2度とハマるものか。
左肩に1羽のコウモリが留まり、オレの頬にすり寄った。
ずっと辺りを警戒しているオレをなだめるかのようだ。
オレはアゴを撫でて「大丈夫」と自分に言い聞かせるように言った。
「…ああ…、大丈夫…」
心配することはないはずだ。
角都と飛段はオレより強い。
けど、オレが強くなくちゃいけないんだよな、本来は。
肩に留まっていたコウモリが飛び去った時だ。
「!」
オレは背中から2本の夢魔を引き抜き、角都と飛段に向けて投げつけた。
それらは宙を回転し、2人のすぐ傍に突き刺さり、木々の狭い間を真っ直ぐに飛んできたそれを防いだ。
夢魔に当たって落ちたのは、白い2本の羽根だった。
オレはゆっくりと立ち上がり、羽根が飛んできた方向に顔を向けた。
「選択させてあげる。そっちで仲間もろとも死ぬか、こっちでひとり孤独に死ぬか」
「……………」
その声を聞きながら、オレは石像に飛び乗り、2人の手の甲に軽く噛みつき、探知蝙蝠を仕込んだ。
「坊主を逃がしたのはてめーか」
そう言って、2人の傍に突き刺した夢魔をどちらも力任せに引き抜いた。
「あ、バレてた? 正確には、ボクの連れがやったことなんだけどね。…ああ、でも命令したらボクがやったのも同じことか」
オレはもう一度声のする方向に体を向けた。
「おかげでメンドーなことになってんだよ。この国の忍に目ェつけられちまったんだからな」
「しっかりと恨みを買ったわけだ。ホント、計画通りに動いてくれるよね」
「ユウ…」
オレは薄暗い森の先を睨んだ。
「…随分と反抗的な目をするようになったね。ヨルのクセに。そんなにそいつらが大事? 理解できないよ」
「こいつらはオレのエサだからだ」
低い声でそう言ってやると、ユウは腹を抱えているのか狂った笑い声を上げた。
「あははは! やっぱウソツキ! ヨルはウソツキだ! …エサだって? ここからでもわかるくらい獣の匂いしかしてないって! 大事な存在だと思われるのが嫌だからってそんなウソ…。わかりやすくて嗤っちゃう! そいつらの血の方が絶品だってわかってるクセに!」
「相変わらずピーチクパーチクとウゼェさえずりだな。そんなにクチバシへし折られたいか」
挑発的にそう言うと、ユウは「はは…」と残して笑みを消した。
「ほんっと、クソ生意気になったよね」
はっと上を見上げると、近くの木の枝からオレ達を見下ろしていた。
「おまえがここにいるってことは、アサも…」
「いないよ。いたとしても、今は取り込み中。ボクはただ、ヨルと遊びたいだけだよ」
「てめーのタチの悪い遊びに付き合ってられるか」
「じゃあ、こいつら今殺していいんだ?」
ユウがニヤリと嫌な笑みを浮かべると同時にオレは地面を蹴った。
「闇で醒めてからヒルと遊べよ」
ズバン!!
ユウの胸に両手の夢魔を突き刺した。
だが、その姿は白い羽根となって宙に飛び散った。
「!」
“羽根分身”か。
「ほらほら、ヨル。もう遊びは始まってるよ。あははは! おーにさんこーちら♪」
走りだそうとしたオレは角都と飛段に振り返った。立ち止まっているヒマはない。
次はなにを仕掛けてくるかわからない。
もうこいつらを朱族のことで巻き込みたくない。
「ごめん、行ってくる」
オレは夢魔を振るい、石像に文字を残してから走り去った。
木の枝を飛び移りながら、さえずりを追いかける。
それでもまだ、あの鳥女の姿は見えない。
向こうからはオレが丸見えだろうな。
「あははは! やっぱ選んだ! こっちを選んだ! ひとりで死ぬ選択を!」
今度はオレが笑ってやった。
「選択肢3つめだ。てめーに…血の夢見せてやるよ」
「そんな選択肢、ボクの中には存在しないよ」
背後に影が近づき、オレは振り返ると同時に右手の夢魔を振るった。
ギィン、と耳障りな金属音が辺りに響く。
オレの夢魔とユウの鉤爪の押し合いだ。
「今度は…本物だな…」
「ヨルを痛めつけるためにね」
それからその場で何度も打ち合い、同時に後ろに飛び退き、他の枝に着地した。
「昔から絡んでこられたが、ここで終わりにしてやる」
「それはボクも同じだよ。2度といじめてあげられないのが残念」
.To be continued