31:災厄の前兆
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれは二尾を捕獲したあとだった。
飛段の儀式が終わって「次は火の国だ」と告げられ、突然すぐ近くで気配を感じた。
「!」
オレ達3人ははっとそっちに顔を向けた。
増援かと思って夢魔を出そうとしたが、見覚えのあるハエトリ草を見て警戒を解く。
「ゼツかよ」
舌打ち混じりに飛段はそう呟いた。
増援だったらよかったとでも言うのか。
「ドウヤラ済ンダヨウダナ。長ッタラシイ儀式モオワッタカ」
さっきの戦いもどこかで見ていたのかもしれない。
黒ゼツの言葉に飛段はまた、今度ははっきりと舌打ちして露骨に不機嫌な顔をする。
「どいつもこいつもうるせーヤローだ。祈りを知らねー無神論者どもが」
そう言ってそっぽ向いた。
「悲しい時は身一つ」
「信ジラレルノハ己ダケダ」
白ゼツに続き、黒ゼツが言った。
「おまえらがそれを言うと、なんか妙だよな」
2つの人格を持つ体に、オレは思わず口にする。
「信じられるのは金だけだ」
そう言う角都に飛段は「あー、出たそれ!」と角都を指さし、口を尖らせる。
「おまえのバイトのせいで人柱力探しが遅れてんだぜ。大体よー」
「宗教は金になると言ってきたからおまえと組んだんだ。暁のサイフ役を任されているオレの身にもなれ」
角都はそう言いながら広げていた地図を折りたたみ、袖にしまった。
2年も組んでて今更だな。
その間、その宗教で金稼ぎしたところをオレは一度も見たことがない。
「お金は大切だよね」
「ソンナコトヨリ、スグニ次ヲ探索シロ。二尾ハオレガ預カル」
また白ゼツに続き黒ゼツが言った。
どうやって預かるつもりなのかと見ていたが、思った通り、あのハエトリ草で挟んで地面に潜ってしまった。
「あんな運び方されるのはゴメンだな」
ゼツを見送ったオレは思わず呟く。
運ばれているうちに溶かされてしまいそうだ。
角都と飛段がオレより先に立ち上がる。
「そんじゃ、火の国に向かうか。さっさとノルマ達成させねーとな」
「ヨル、早くしろ」
「はいはい」
だいぶ回復したから若干痛みはあるが、歩けないほどじゃない。
オレは先に歩きだす2人の後ろについていく。
ノルマが達成すれば、また3人で自由な旅が出来ると、
オレ達は無敵だから、不死身だから、と
この時のオレはすっかり浮かれていたんだ。
まさか、これがオレ達3人にとって本当に最後のノルマになるなんて…。
火の国に入ってまた数日が経過した頃だ。
昼下がり、オレ達は山奥を歩いていた。
左隣りは崖だから一列に並んで進んでいる。
先頭の角都は広げた地図に視線を落としながら進むが、ちゃんと真っ直ぐに歩いていた。
オレの前にいる飛段はさっきからキョロキョロと辺りを見回し、しばらくして角都に尋ねる。
「どんだけ山奥にあんだよ」
次の狙いの人柱力のところへ向かうために朝っぱらからずっと山道を歩いているからだ。
「もうすぐだ」
角都は振り返らずにそう答え、飛段は口を尖らせる。
「ったく、ずっとそればっかじゃん」
飛段がさっきも同じ質問をして同じ答えを返されたのをオレは思い出す。
休憩をとったのが3時間前、オレもそろそろ足が疲れてきた。
次のカーブを曲がって休憩を求めようと決めていたが、曲がる前に求めておけばとあとで後悔する。
「あ…」
「ぶっ」
オレは突然立ち止まった飛段の背中にぶつかり、「なんだ?」とぶつけた鼻を右手で軽く押さえて飛段越しにそれを見上げ、「げ」と顔を青くした。
飛段もオレと同じくそれを見上げて固まっている。
上がりの階段がそこにあったからだ。
1時間前も同じような階段があったのに。
角都は嫌な顔ひとつせず階段をのぼっていく。
なんであんなにタフなんだよ。
「オイオイ、カンベンしろよ! またのぼりか!?」
「早めに言わなくて悪かった! 休憩しようぜ、角都!」
オレの意見もやっぱり無視か、あのヤロウ。
「これで人柱力がいないってことになってみろよ! オレはキレるぜ!」
「向かってる先に人柱力がいるなら、体力温存! これ大事だろ!」
飛段とオレがそう喚いても、やはり足を止めてはくれない。
「おまえらのことなど知ったことか。ガキみたいに喚いていると、殺すぞ」
ようやく足を止めてこっちに振り返って言うセリフがそれか。
飛段は右手で頭を抱え、いつものセリフを返す。
「だからよォ、それをオレに言うかよ、角都」
「階段のぼりきったら一旦休憩くれよ」
オレはため息をつき、飛段の次に再び歩き出した。
角都もなにも言わずに再び歩き出す。
「あーあァ、無愛想なヤローだぜ」
「飛段、だからそれ今更」
階段はさっきのより長そうだ。
まったく、角都はオレの方が年上ってわかってるのだろうか。
もう少し敬うべきであり、労わるべきだ。
ああ、これも今更だな。
.