30:猫と鬼ごっこ
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「やるぞ」
角都の言葉であちらもオレも戦闘態勢に入る。
その時、飛段が「ちょい待ち」と言いだし、オレ達は動きを止めた。
飛段はあのジャシンペンダントを取り出し、オレは内心で「またか」と呆れる。
「アレやる前には、ちゃんと神に祈りを捧げねーとな」
ペンダントの鎖部分を口元に近づけ、目を瞑りながらジャシンに祈りを捧げ始める。
飛段の行動を理解できないユギトは訝しげにその様子を警戒しながらも黙って見ている。
「いつもいつも面倒くさい奴だ」
角都の言葉に飛段は目を開けて角都を睨みつける。
「オレだってめんどくせーけど、戒律厳しーんだからしょうがねーだろ!」
「そういう真面目なところを他に回せねえのかよ」
オレの呟きが聞こえた飛段はオレを指さして「聞こえてるぞヨル!」と歯を剥いて怒鳴ったが、オレは目を逸らして知らん顔をする。
そんな余裕を見せるオレ達に、ユギトはフッと不敵な笑みを浮かべた。
「アンタら、私を追い込んだつもりだろうが、そうじゃない。私がアンタらを誘い込んだのさ!」
ユギトが印を結ぶと、数か所から点火される音が聞こえ、オレは自分から一番近い、先程通り抜けた入口に振り返り、それを見つけた。
入口のてっぺんに起爆札が貼られていた。
ボン!!
角都と飛段が出てきた穴も、それから続けて次々と出入口らしき穴に貼られた起爆札が起爆し、瓦礫で出入口が塞がれてしまった。
「アンタらが暁とわかった以上、逃がすわけにはいかない」
ユギトにとって、この広い空間は戦いやすいのかもしれない。
最初からそうするつもりで地下に逃げ込んだのか。
「あーあ…、ふさがれちまったぜ、角都」
「問題ない…。むしろ好都合」
「用意周到な女だな。オレ達3人を相手にする気か?」
暁よりもオレ達を甘く見過ぎだ。
「雲隠れの二位ユギトの名にかけて、殺す!!」
そのユギトの言葉に飛段は眉をひそめ、ユギトを指さした。
「ハァ…? なに? その「殺す!」とかさ。なんかそういう意気込みみたいなのぶつけられるとさ、イラッとくるんだよね。で…、イラッとくると頭に血が昇る。頭に血が昇ると…」
「うるさい。黙れ、飛段」
だんだん語調が興奮気味になってきた飛段の言葉を角都が遮った。
「いちいちてめーの話は長ェよ」
次にオレが文句を言うと、飛段は再び口元に不敵な笑みを浮かべる。
「はいはい。でもよー、頭に血が昇ると、「もう目的なんてどーでもいいや、ぶっ壊しちまおう」って気になんだよ」
「いい加減にしろ、飛段。目的は絶対だ」
そういえば、生け捕らないとどうなんだっけ、とオレはふと疑問に思った。
飛段の話はまだ続く。
「大体今回のノルマはオレの宗派にゃ合わねーんだよ。ジャシン教は殺戮がモットー。半殺しはダメだと戒律で決まってる。戒律破るような仕事…、端からやる気にゃならねーぜ、ホント。オレはこう見えても信心深いんだぜ! …というわけで、殺せねーのはめんどくせーから…、ここは話し合いで解決しないか?」
「話し合いだと?」
振られたユギトは怪訝な顔をするが、飛段の話し合いなんてロクなものじゃない。
それでもオレは黙ってその提案に耳を傾ける。
飛段は一度間を置いて言いだした。
「大人しく捕まってくんねーかな…」
言うにこと欠いて。
当然、それで平和的におさまるつもりがなかった。
ユギトの周りの水が騒ぎたて、ユギトが両手を地につけると髪をまとめていた布が破れた。
その姿は毛を逆立てた猫のようだ。
「ふざけるな!!」
顔を上げ、怒鳴り声を上げたユギトが青い炎のようなチャクラに包まれ、そのチャクラは膨れ上がって別の姿を作り出した。
「アレ…? ダメみたいだな」
「おまえは馬鹿か」
角都とオレは先に戦闘態勢に入った。
「おい、なんだアレ…」
その巨大なバケモノを見上げたオレは絶句した。
全身が青い炎で包まれた、尾が2つある巨大な猫だ。
あの朱鬼くらいの大きさで、体格相応の大きな唸り声を出し、金色に輝く目が目の前の角都と飛段を睨みつけている。
ユギトという人の形はもうどこにも見当たらない。
炎の熱で水路の水が蒸発し、その空間が蒸気で包まれる。
飛段はワイヤーを引いて三連鎌を手にとり、二尾を見上げた。
「おいおい、マジかよ。なんだこの人柱力。完全に尾獣化してやがるぜ」
「くるぞ!」
オレが声を上げると同時に、二尾は右の前足を振り上げ、角都に向かって振り下ろした。
デカい図体してるくせに猫のように速い。
角都は両腕を上げ、それを受け止めたが、
ドゴ!
押し負けてしまい、瓦礫の破片がとんだ。
「角都!」
「あーあァ…」
飛段も呑気にしている場合ではない。
二尾はその場に屈み、飛段に向けて口を開けた。
すると、口から赤い火の玉が現れ、それは大きく膨れ上がった。
「ヤベ!」
気付いた飛段が、火の玉が発射されると同時にその場から大きく飛んだ。
ドゴ!!!
天井どころか、上の建物も粉砕するほどの爆発だった。
*飛段
上から建物の瓦礫が次々と落ちてくる。火の玉が発射された瞬間、咄嗟に傍にあった大きな瓦礫を盾にしたが、熱い爆風に襲われた。
「熱ち―――! こいつ猫舌じゃねーのかよ。おーい、ヨル、生きてるかァ?」
角都は硬化できるからいいとして、ヨルは身を守るような技を持ち合わせていないはずだ。
オレが声をかけると、近くにある積まれた細かい瓦礫が盛り上がり、ヨルが這い出てきた。
「ケホッ、ゲホッ、クソッ、痛ってー…」
「おー、よく生きてたな」
オレみたいに瓦礫を盾にしようとしたが、立ち位置が悪かったのか細かな瓦礫に降られてしまったらしい。
ヨルは右頬に付着した泥を手の甲で拭い、オレの隣に移動する。
「一瞬で真上の建物がこのザマだ。とんでもねーな、いきなりあんなのかましてくるんだから…」
「あれが生霊と言われる二尾の化け猫か」
瓦礫の陰から窺うと、二尾はオレ達の隠れている方向をギョロリと睨みつけた。
隠れても意味はなさそうだ。
あの状態で、人柱力の意思があるのかどうか。
真上は天井と建物が崩れたから、ぽっかりと穴が開き、空も見えて地下に光が差しているが、壁が高すぎてのぼるのに時間がかかりそうだ。
しかも、辺りに逃げ込むような出入口はどこにも見当たらない。
「オレ達はまさしく袋のネズミってわけだな。クク…、笑えねぇ…」
「飛段、素晴らしいことわざがあるぞ」
「ことわざ?」
オレと同じく瓦礫の陰から二尾の様子を窺っているヨルは不敵な笑みを浮かべて横目でオレと目を合わせる。
「窮鼠…猫を噛む、だ」
「おお」
そんなことわざがあったか。
「ところで、きゅーそってなんだ? 茶ァ注ぐアレか?」
「それは急須。だから、ネズミのことだって(汗)」
そんなことを言い合っていると、いきなり二尾が飛びかかってきた。
「「!!」」
右前足を振り上げて振り下ろされ、オレとヨルは同時に瓦礫から飛び退いた。
オレ達がさっきいた瓦礫は二尾の前足に呆気なく粉砕される。
右の壁、左の壁へと分かれたオレ達だが、二尾の顔は右の壁にいるヨルに向けられた。
唸り声を上げる口からまたあの火の玉が発射されようとする。
「ヨル!」
オレは声を張り上げるが、ヨルは印を結び始めた。
「火遁・鬼炎!!」
青い炎が飛ばされると同時に二尾の口から火の玉が発射された。
「!?」
直撃した対象を一気に炎に包みこむコウモリの形をした青い炎は、赤い火の玉に飲み込まれてしまい、そのままヨルに向かっていく。
直撃する前にオレは三連鎌を外したワイヤーを投げ飛ばし、ヨルの腰にうまく巻きつけて力任せに引っ張った。
ゴッ!!
目的を失った火の玉は壁に直撃し、
「っ!」
地に手をついて受け身をとったヨルに、オレは「てめーのチャクラがそいつのチャクラに勝てるわけねーだろ!」と言ってやる。
ヨルはオレに振り返り、「悪い、助かった」と素直に言った。
「相殺もできねーってことか…」
火の勝負に持ち込むのは分が悪い。
オレ達よりチャクラ量の多い角都の頭刻苦でも勝てるか怪しい。
オレとヨルはこっちに振り返って睨みつけている二尾を見上げる。
「確実なのが、オレが二尾の血を取り込んで儀式に持ち込めば勝負はつくだろ!」
「その方がよさそうだな。言っとくが、殺すなよ。急所は外せ」
「わーかってるっつーの!」
半殺しは戒律に違反するけどよ。
「その前に、近づけるかどうかの問題だけどな。唯一オレ達の中で水遁使える角都は、なんか、行方不明だし…」
ヨルは引きつった笑みを浮かべて言う。
確かに見るからに火傷しそうだ。
今でも、二尾の熱風の息が当たって熱い。
「……連携でやるか」
「だな」
ヨルが言いだしたことに返事を返し、オレは三連鎌を、ヨルは夢魔を構えた。
同時にオレ達は壁を駆けあがった。
とりあえずここから出ないと動きづらい。
予想通り、二尾ものぼってきた。
いや、のぼってきたと言うより、大ジャンプで地上に飛び移った。
先回りした二尾は地上からオレ達に向かって火の玉を連続で発射させる。
オレとヨルはバラバラに走りながらそれを避けた。
最初にヨルが壁のでっぱりを蹴り、二尾の目前に躍り出る。
ガッ!
「ぐっ!」
額目掛けて夢魔を振り下ろしたヨルだったが、二尾がヨルごと右前足で払い、ヨルは地面に叩きつけられてしまった。
反射神経も猫のそれだ。
「おいおい!」
オレも地上に上がったが、ヨルの心配してる余裕はなさそうだ。
二尾が体勢を変えたかと思えば、2本の尻尾をその勢いでオレに向けて振った。
「うおっ!」
オレは屈んでそれを避け、熱気が頭上を通過したのを感じた。
当たったら大火傷間違いなしだ。
「チッ、クソすばしっこいな…」
また火の玉が吐きだされ、オレは走りながらそれをかわしていく。
火の玉が直撃した周りの建物は全壊だ。
そろそろ騒ぎに気付いた忍共も集まってくるかもしれない。
「殺せねーって、マジめんどくせーな、ホント!」
発射された火の玉の下を潜り抜け、二尾の横に振った右前足をジャンプして避けると同時にオレは三連鎌を投げつけた。
ドス!
それは二尾の額のド真ん中に突き刺さり、二尾は痛みのあまりギュッと目をつぶり、悲鳴を上げた。
「よっしゃー!」
そのままワイヤーを巻きとろうとした。
ドン!!
「うが!!」
だが、オレは二尾の振り下ろされた左前足に潰されてしまった。
「ぐ…っ」
肋骨をやられた。
左前足も仰向けのオレの体にのしかかったまま、どこうとしない。
最悪なことに、その時の衝撃でワイヤーが切れてしまい、三連鎌は二尾の額に突き刺さったままだ。
二尾の顔が近づき、口から火の玉が発射されようとした時だ。
ゴッ!!
「!」
突然、風の塊が二尾の横腹に直撃し、二尾は横に倒れた。
おかげでオレの上から前足がどいた。
目の前の、夕暮れが近づく空に圧害の姿が映る。
「痛ててっ」
肋骨の痛みに顔をしかめながら、オレは上半身を起こした。
目の前から、外套を脇に抱えた角都がやってくる。
出したのは圧害だけのようだ。
「角都、てめー、どこに…!」
「さらに地下に落とされていた」
出てくるタイミングも良すぎだっての、このカッコつけ。
二尾は起き上がり、オレと角都を見下ろして唸り声を上げた。
「飛段、準備をしろ」
「ああ?」
圧害が二尾に向かって飛んでいく。
その上にはヨルが立ったまま乗っていた。
さっき地面に叩きつけられて体中が傷だらけだ。
ヨルは1本の夢魔を両手で握りしめ、刀身を右肩につけて構えた。
二尾の瞳がヨルと圧害をとらえる。
ゴッ!!!
さらに大きな火の玉が発射され、圧害は空中ですれすれで避けた。
火の玉は岩山に直撃し、岩山は大きく削られてしまった。
それを目の当たりにしても、圧害とヨルは果敢に二尾へと向かっていく。
オレはヨルがしようとしていることを察し、立ち上がって懐から伸縮式の杭を取り出し、右手のひらの真ん中を貫き、血を足下に垂らして両足でジャシン様のシンボルを描いた。
角都は印を結んだまま圧害をうまく操って二尾の火の玉をかわし、ヨルを乗せたまま二尾の顔面へと近づく。
「飛段!!」
ヨルはタイミングを見計らい、思いっきりスイングし、突き刺さったままの三連鎌の大刃と中刃の間に夢魔を差しこみ、二尾の額から三連鎌を抜いた。
三連鎌は宙を掻いてオレの方向に飛んでくる。
オレは右手を伸ばし、パシッ、と三連鎌をつかんだ。
3枚の刃にはどれも二尾の血が付着している。
それを見たオレはニヤリと笑い、大刃に付着した血を舐めとった。
ヨルが二尾の気を引いてる間に、徐々にオレの体が白黒に染まっていく。
「これより、儀式を始める!」
そうそう、急所は外さねえとな。
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