29:湯煙に包まれ
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アゲハと一緒に宿の一室で待っていると、日が沈んだ頃にクロハが帰ってきた。
「あははははは!!」
ボクは帰ってきたクロハの顔を見るなり、指さして大口を開けて笑い転げた。
クロハは腫れた頬を擦りながら、「うるせぇ」とボクを睨みつける。
サングラスにはヒビが入ってるのに構わずかけてるところも面白い。
「苦笑。見事な一撃を食らったものだな、兄貴」
感情を言葉でしか表現できないアゲハは無表情でそう言いつつ、クロハに近づいてその頬に触れた。
クロハは痛みで顔をしかめ、「痛ェよ」と小さく訴えてその手を軽く払う。
「謝礼」
アゲハは払われた手を見つめて言った。
落ち着いたボクは「はぁ」と息を吐きだして目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭ったあと、
「腕試しのつもりが、調子に乗って殺そうとしたでしょ。やっぱりそうしようとした。クロハはそうしようとした」
そう言って嘲笑した。
クロハの目元が痙攣したのがわかった。
だが、ムキになって向かってくることはない。
「まさかあいつにもオレの“能力”が効かないとは思わなかったんだ」
ボクもまさかとは思っていたけどね。
あの3人は体の時間が止まっているようだ。
「心配しなくても、ボクが仇を討ってあげる」
ボクは袖から鉤爪を取り出し、人差し指でその刃をなぞった。
「まだ焦るな」
そう言ってアサが襖を開けて部屋に戻ってきた。
見た目は出かけた時のままなのに、血臭がする。
片手には風呂敷を持っていた。
「咲にエサを与えてきたの?」
正確には、咲に封じられている朱鬼にだ。
アサは薄笑みを浮かべ、「ああ」と鞘におさめられた咲の柄に触れた。
「はん。今度はどんな奴の血を与えたんだ?」
クロハが問い、アサは答える。
「“千里眼”という、遠くのものや未来を見通す力を持つ老人じゃ。チャクラの量からして、相当なつわものだったというのに…、時とは無常じゃ。ずっと楽になりたかったのか簡単に斬らせてくれた」
「アサの未来、教えてくれたの?」
そのくらいの間はあったんじゃないのか。
ボクの問いにアサは「ああ」と頷き、嬉しそうな顔をした。
「…ヨルが帰ってくる」
ボクは内心で舌を打ち、コブシを握りしめる。
その頃のヨルはボクに殺されているはずだ。易々と戻ってこれるはずがない。
都合のいい嘘をついてるんじゃないのか。
確かめに、ボクはそろそろ動かなければならない。
そう思って立ち上がろうとしたとき、アサはボクの前に来て座り、風呂敷を解いた。
「!」
風呂敷の中身は将棋だった。
「ユウ、ルールは知ってるか?」
ボクはゾッとした。
気持ちを読まれてるんじゃないかって。
ボクは引きつった笑みを浮かべた。
「ルールだけは知ってる」
「そうか。なら、少し付き合ってもらおうかのぅ」
なにを考えているのか、まったくわからない。
昔からそうだ。
100年以上経っても慣れたものじゃない。
ボクはため息をつき、「いいよ」と頷き、駒を手にする。
今だけは、この遊びに付き合ってあげる。
この湯隠れから雷の国まで残り数日。
アサが行動を起こす前に、ボクから先手を打っておかないとね。
.To be continued