29:湯煙に包まれ
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*ヨル
「……………」
オレは道の真ん中で立ち止まったまま茫然と遠くの空を見上げていた。
最悪だ。
飛段とはぐれた。
どこではぐれたのかもわからない。
探知蝙蝠も仕込んでないから飛段がどこにいるのか把握できない。
一度来た道を戻ってみるか。
いや、他の店に気を取られていたせでどこで曲がったのかも覚えていない。
ますます最悪な状況だ。
遅れたら角都に殴られるのは確実だ。
本当の意味で雷が落ちる。
「飛…」
踵を返し、名前を呼ぼうとした時だ。
「そこの娘」
「!」
声は右横の路地から聞こえた。
「?」
怪訝な表情で薄暗い路地を進むと、しわくちゃの老婆がいた。
いきなり見えたその姿に思わず小さな悲鳴を上げるところだった。
場所と自分の顔の怖さを考えてほしい。
老婆は占い師のような格好をして、白の布をかけたテーブルを目の前に置いて座っていた。
「そこの娘」
やはり、オレのことらしい。
このナリだし、いつも男に間違われるから「娘」と指差されて呼ばれても本当にオレのことかと考えてしまう。
「娘、顔をよく見せておくれ」
オレは躊躇いながらも警戒しながらもゆっくりと老婆に近づいた。
「娘、瞳をよく見せておくれ」
言われるままにオレは前屈みになって顔を近づける。
すると、細目だった老婆の目がいきなりカッと開き、思わず仰け反った。
「な、なんだよ…」
朱色の目をしたわけでもないのに。
老婆は再び細目に戻ると、唐突に涙を流した。
オレはますます困惑する。
「お、おい…」
老婆は袖で自分の涙を拭き、憐れむような声を出した。
「かわいそうに…」
「かわいそう?」
「近い未来の娘が見える…。娘が泣いておる」
なんなんだ、この老婆は。
オレは気味悪く感じた。
それでも構わず老婆は続ける。
「孤独で、行き場のない悲しい出来事に、泣いておる…。のぅ、大切な2人は…どこへ行ったのじゃ?」
「!」
戯言でも、オレはすぐに自分の耳を塞がなければならないと思った。
大切な2人の顔がすぐに浮かび、その2人が消えた時のオレを想像してしまう。
「黙れ」
「ああ、かわいそうに、大切な2人は…」
「黙れよ!!」
オレはコブシをテーブルに叩きつけた。
それでも老婆は動じず、言葉を続ける。
「ひとりは心臓をすべて失い、ひとりは闇の底へ。娘はまた…孤独に戻る」
そう言ってオレは「黙れ…」と言った。
それが老婆の耳に届くほどの声であったかは、定かじゃない。
気がつけば、老婆はどこかへ消えていた。
もうすぐ夕闇だ。
なのに、オレの足は、まったく動いてくれなかった。
.
「……………」
オレは道の真ん中で立ち止まったまま茫然と遠くの空を見上げていた。
最悪だ。
飛段とはぐれた。
どこではぐれたのかもわからない。
探知蝙蝠も仕込んでないから飛段がどこにいるのか把握できない。
一度来た道を戻ってみるか。
いや、他の店に気を取られていたせでどこで曲がったのかも覚えていない。
ますます最悪な状況だ。
遅れたら角都に殴られるのは確実だ。
本当の意味で雷が落ちる。
「飛…」
踵を返し、名前を呼ぼうとした時だ。
「そこの娘」
「!」
声は右横の路地から聞こえた。
「?」
怪訝な表情で薄暗い路地を進むと、しわくちゃの老婆がいた。
いきなり見えたその姿に思わず小さな悲鳴を上げるところだった。
場所と自分の顔の怖さを考えてほしい。
老婆は占い師のような格好をして、白の布をかけたテーブルを目の前に置いて座っていた。
「そこの娘」
やはり、オレのことらしい。
このナリだし、いつも男に間違われるから「娘」と指差されて呼ばれても本当にオレのことかと考えてしまう。
「娘、顔をよく見せておくれ」
オレは躊躇いながらも警戒しながらもゆっくりと老婆に近づいた。
「娘、瞳をよく見せておくれ」
言われるままにオレは前屈みになって顔を近づける。
すると、細目だった老婆の目がいきなりカッと開き、思わず仰け反った。
「な、なんだよ…」
朱色の目をしたわけでもないのに。
老婆は再び細目に戻ると、唐突に涙を流した。
オレはますます困惑する。
「お、おい…」
老婆は袖で自分の涙を拭き、憐れむような声を出した。
「かわいそうに…」
「かわいそう?」
「近い未来の娘が見える…。娘が泣いておる」
なんなんだ、この老婆は。
オレは気味悪く感じた。
それでも構わず老婆は続ける。
「孤独で、行き場のない悲しい出来事に、泣いておる…。のぅ、大切な2人は…どこへ行ったのじゃ?」
「!」
戯言でも、オレはすぐに自分の耳を塞がなければならないと思った。
大切な2人の顔がすぐに浮かび、その2人が消えた時のオレを想像してしまう。
「黙れ」
「ああ、かわいそうに、大切な2人は…」
「黙れよ!!」
オレはコブシをテーブルに叩きつけた。
それでも老婆は動じず、言葉を続ける。
「ひとりは心臓をすべて失い、ひとりは闇の底へ。娘はまた…孤独に戻る」
そう言ってオレは「黙れ…」と言った。
それが老婆の耳に届くほどの声であったかは、定かじゃない。
気がつけば、老婆はどこかへ消えていた。
もうすぐ夕闇だ。
なのに、オレの足は、まったく動いてくれなかった。
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