29:湯煙に包まれ
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*ヨル
オレの足下で、角都と飛段が血まみれで倒れている。
2人は息もしていないのか、ピクリとも動かない。
絶句していたオレからようやく「あ…」と声が出る。
「角都!! 飛段!!」
オレはその場に膝をついてうつ伏せに倒れたその体を揺するが、2人の体温は冷たく、まったく動かない。
両手に付着した自分の手を眺め、ギュッと握りしめた。
「嘘だ! おまえらが死ぬはずがない! おまえらは不死だ! そうだろ!?」
それでも2人は答えない。
「ヨル…」
背後から聞こえた、その場にふさわしくない優しい声にオレは背筋を凍らせた。
振り返る前に背後から抱きしめられ、耳元で囁かれる。
「邪魔は2人はこの通り…。これからは永遠にワシと一緒じゃ。永遠に…」
「ア…サ……」
辺りに無数の赤い蝶が飛び回り、倒れている2人を包む。
「やめろおおおお!!」
飛び起きたオレは、額に汗をかいたまま、夢の中で倒れていたはずの2人が睨み合っているのを朝一番に目に映した。
「ヤだ」とギンッと睨む飛段。
「わがままを言うな」とギロリと睨む角都。
飛段は「わがままなのはそっちだろォ!」と怒鳴り声を上げる。
オレはまだ朝日の光が山から顔を出す手前の薄暗い空を見上げてため息をつき、右耳を手で塞いだ。
「朝っぱらからなにモメてんだよ。ホント耳障りだな、てめーらは;」
そう言って呆れるが、オレは夢でよかったことに心の底から安堵していた。
オレが上半身を起こすと、飛段は真剣な顔をこっちに向け、ずいと身を乗り出した。
「ヨル! 今晩も野宿がいいよな!? な!?」
「はあ?;」
朝っぱらからなんでいきなり野宿の話になるのか。
困惑していると角都が腕を組んで言った。
「夕方にはその場所に到着するはずだ。わざわざ通過して野宿する必要がどこにある?」
その言葉に飛段はギロリとオレ越しに角都を睨みつける。
「いつもはケチるだろが! オレ達のノルマは尾獣探しだろォ!? 早く行かねーとまた別の奴に取られちまうだろ!」
オレは違和感を覚えた。
飛段はノルマを優先する奴だが、いつもなら任務中でも「休もうぜ」「疲れた」などと訴えて根を上げる奴だ。
角都も角都で様子がおかしい。
バイトやノルマ達成のためなら、日が沈みきるまでできるだけ歩を進め、野宿も惜しまないはずだ。
どんな理由かはわからないが、今回は角都に賛成だ。
「宿がとれるならその方がいいだろ? 寄りたくない場所なのか?」
今度はオレが睨まれる。
しかし、飛段はなにも言わない。
言うのを躊躇っているのか、口が開いたままだ。
代わりに角都が本人が頼みもしないのに答える。
「宿をとる場所が湯隠れの里だからな。それでごねているだけだ」
「……湯隠れって…」
オレは思わず飛段の首に結ばれてある額当てを見る。
「飛段の故郷じゃねーか…」
日が高く昇っても、飛段は子供のように「行きたくない」と喚き続け、ついにキレた角都は飛段を殴り倒したあと、右手の地怨虞を伸ばして飛段の体を縛り、引き摺って歩きだした。
「放せジジイー!!」
飛段は引き摺られても喚き続けている。
途中の岩辺や段差では尻を何度も打ちつけて「痛ってェ!」と声を上げた。
ズボンが破れてないか心配になる。
「引き摺ってでも連れていくと言ったはずだ」
「ホントに引き摺ってるし;」
オレは角都の隣を歩きながら、肩越しに飛段を見て呟いた。
「てめー! 角都! 自分だって里に帰りたがらねーだろが! なのにオレの意見はシカトかよコラァ!!」
「…口も縛るか」
それはかわいそうだ。
「そろそろ叫び疲れてくるって」
オレがそう言ってから数十分後、
「ゲェ…、ハァ…;」
「ほらな」
息が弾んでいる。
「飛段、笠被るか変装すれば里の連中にバレずに済むんじゃねーか?」
そんな提案を出したら睨まれた。
「バレるのが嫌なんじゃねえ! 帰んのが嫌だっての! オレだけ野宿で…、いや、やっぱてめーらも野宿しろ!」
帰郷自体が気に食わないようだ。
「おまえ、よっぽど…;」
「絶対帰らねーからな!! 忍にとって、恥の塊みたいな里だぜ!? 帰るのも、てめーらに里を直視されるのもゴメンだ!!」
そう怒鳴って噎せた。
あれだけ騒いでまだ騒げるのか。
それだけ言われると、逆にどんな里か余計に気になってしまう。
忍の恥。
忍じゃないオレはそれがどういうものなのかは、知らない。
野良犬のように飛びかかってオレや角都に噛みつきそうな飛段だったが、湯隠れの里につれて大人しくなり、残り数mというところで角都に地怨虞を解かれて解放された。
それでも、勝手にどこかに行ったりはしなかった。
諦めたのか、若干頬を膨らませて拗ねてるように見える。
飛段だけ額当てを外し、オレ達は笠を被って湯隠れの里に正門から堂々と入ることに成功した。
岩隠れの里より簡単だった。
里の大通りを歩きながらオレはさっきの正門を振り返る。
「隠れ里なのに、すんなりと通されたな」
「ここは他国の者が訪れる、里全体が観光地のようなものだ。敵に隠すものもない、「戦を忘れた里」とは名の通りだな」
角都がそう説明すると、飛段は口を尖らせて言う。
「いちいち言うんじゃねーよ。オレがいる前で」
明らかに不機嫌だ。
オレは歩きながら里を見回した。
普通の一般人、旅人、他国の額当てをつけた忍など、色んな人間とすれ違う。
店も観光向けのものばかりだし、宿らしき建物では温泉の匂いがする。
どう見ても、飛段には不釣り合いな場所だ。
*****
オレ達が訪れたのは、里の一番奥にある温泉旅館だった。
他の宿よりも大きな建物で、外装も内装も豪華なもので、安宿でないことはオレにもわかる。
中に入ると早速若い女将らしき人物に仲居とともに笑顔で「ようこそお越しくださいました」と迎えられた。
「##NAME2##角都御一行様ですね? お部屋は8階になります」
オレは首を傾げた。
なぜ角都の苗字にオレの苗字が使われているのか。
それにオレ達が来ることをわかっていたみたいだ。
予約でもしてたのか。
「ほら、行くぞ」
オレは笠を外し、出入口で動かない飛段の手首を引っ張った。
いつもは騒がしいくせに、里に入ってから文句しか聞いてない。
それを見た女将は微笑ましくオレ達を見つめる。
「あらあら、仲のよろしいご兄妹ですこと」
オレと飛段は同時に動きを止めた。
どういう設定でオレ達はこの宿に泊まることになっているのか。
8階の部屋もこれまた豪華だった。
3人だけなのに、無駄に大部屋だ。
飛段は低い長方形の机に置かれてある茶菓子をもそもそと食べる。
無意識なのか、こういうところは他の宿でも同じだ。
オレは「さてと」と言って、懐から帳簿を取り出した角都の向かい側に座った。
「目的はなんだ?」
「目的?」
「角都がこんな高い宿に泊まるなんて今まであり得ないことだった。まさか…、ニセモノじゃ…ぶっ!;」
それが本人の証明であるように、角都は地怨虞で伸ばした右コブシをオレの額に直撃させた。
その衝撃に脳が揺れて目眩が起き、オレは額を両手で押さえてゴロゴロと悶える。
「気にするな。ただの息抜きだ。オレはこれから帳簿の整理をする。飛段、ヨル、夕食まで遊んで来い」
オレは痛みで顔をしかめながら「え?」とこぼした。
角都に「遊んで来い」と言われるなんて初めてだ。
いつもなら、「勝手にウロウロするな」とか言うくせに、やはりニセモノじゃないのか。
「…だからオレは、里をウロつけねーって…」
飛段はモナカを食べ、苛立ちを含めて言いながら角都を睨む。
しばらく睨み合いになったが、飛段はオレを一瞥し、肩を落とした。
「…はいはい。オラ、行くぞヨル」
飛段は立ち上がり、襖へと向かう。
「行きたくなきゃ、オレ1人で…」
「いーから」
オレは慌てて立ち上がり、その背中を追いかけた。
旅館を出る時も仲居達に微笑ましい視線を送られた。
兄妹でお出かけという設定になっているのだろう。
ガキじゃねえのに、何気に恥ずかしい。
ちなみに、角都は父親という設定になっているらしい。
なんて恐ろしい設定だ。
オレあいつより年上なのに。
.
オレの足下で、角都と飛段が血まみれで倒れている。
2人は息もしていないのか、ピクリとも動かない。
絶句していたオレからようやく「あ…」と声が出る。
「角都!! 飛段!!」
オレはその場に膝をついてうつ伏せに倒れたその体を揺するが、2人の体温は冷たく、まったく動かない。
両手に付着した自分の手を眺め、ギュッと握りしめた。
「嘘だ! おまえらが死ぬはずがない! おまえらは不死だ! そうだろ!?」
それでも2人は答えない。
「ヨル…」
背後から聞こえた、その場にふさわしくない優しい声にオレは背筋を凍らせた。
振り返る前に背後から抱きしめられ、耳元で囁かれる。
「邪魔は2人はこの通り…。これからは永遠にワシと一緒じゃ。永遠に…」
「ア…サ……」
辺りに無数の赤い蝶が飛び回り、倒れている2人を包む。
「やめろおおおお!!」
飛び起きたオレは、額に汗をかいたまま、夢の中で倒れていたはずの2人が睨み合っているのを朝一番に目に映した。
「ヤだ」とギンッと睨む飛段。
「わがままを言うな」とギロリと睨む角都。
飛段は「わがままなのはそっちだろォ!」と怒鳴り声を上げる。
オレはまだ朝日の光が山から顔を出す手前の薄暗い空を見上げてため息をつき、右耳を手で塞いだ。
「朝っぱらからなにモメてんだよ。ホント耳障りだな、てめーらは;」
そう言って呆れるが、オレは夢でよかったことに心の底から安堵していた。
オレが上半身を起こすと、飛段は真剣な顔をこっちに向け、ずいと身を乗り出した。
「ヨル! 今晩も野宿がいいよな!? な!?」
「はあ?;」
朝っぱらからなんでいきなり野宿の話になるのか。
困惑していると角都が腕を組んで言った。
「夕方にはその場所に到着するはずだ。わざわざ通過して野宿する必要がどこにある?」
その言葉に飛段はギロリとオレ越しに角都を睨みつける。
「いつもはケチるだろが! オレ達のノルマは尾獣探しだろォ!? 早く行かねーとまた別の奴に取られちまうだろ!」
オレは違和感を覚えた。
飛段はノルマを優先する奴だが、いつもなら任務中でも「休もうぜ」「疲れた」などと訴えて根を上げる奴だ。
角都も角都で様子がおかしい。
バイトやノルマ達成のためなら、日が沈みきるまでできるだけ歩を進め、野宿も惜しまないはずだ。
どんな理由かはわからないが、今回は角都に賛成だ。
「宿がとれるならその方がいいだろ? 寄りたくない場所なのか?」
今度はオレが睨まれる。
しかし、飛段はなにも言わない。
言うのを躊躇っているのか、口が開いたままだ。
代わりに角都が本人が頼みもしないのに答える。
「宿をとる場所が湯隠れの里だからな。それでごねているだけだ」
「……湯隠れって…」
オレは思わず飛段の首に結ばれてある額当てを見る。
「飛段の故郷じゃねーか…」
日が高く昇っても、飛段は子供のように「行きたくない」と喚き続け、ついにキレた角都は飛段を殴り倒したあと、右手の地怨虞を伸ばして飛段の体を縛り、引き摺って歩きだした。
「放せジジイー!!」
飛段は引き摺られても喚き続けている。
途中の岩辺や段差では尻を何度も打ちつけて「痛ってェ!」と声を上げた。
ズボンが破れてないか心配になる。
「引き摺ってでも連れていくと言ったはずだ」
「ホントに引き摺ってるし;」
オレは角都の隣を歩きながら、肩越しに飛段を見て呟いた。
「てめー! 角都! 自分だって里に帰りたがらねーだろが! なのにオレの意見はシカトかよコラァ!!」
「…口も縛るか」
それはかわいそうだ。
「そろそろ叫び疲れてくるって」
オレがそう言ってから数十分後、
「ゲェ…、ハァ…;」
「ほらな」
息が弾んでいる。
「飛段、笠被るか変装すれば里の連中にバレずに済むんじゃねーか?」
そんな提案を出したら睨まれた。
「バレるのが嫌なんじゃねえ! 帰んのが嫌だっての! オレだけ野宿で…、いや、やっぱてめーらも野宿しろ!」
帰郷自体が気に食わないようだ。
「おまえ、よっぽど…;」
「絶対帰らねーからな!! 忍にとって、恥の塊みたいな里だぜ!? 帰るのも、てめーらに里を直視されるのもゴメンだ!!」
そう怒鳴って噎せた。
あれだけ騒いでまだ騒げるのか。
それだけ言われると、逆にどんな里か余計に気になってしまう。
忍の恥。
忍じゃないオレはそれがどういうものなのかは、知らない。
野良犬のように飛びかかってオレや角都に噛みつきそうな飛段だったが、湯隠れの里につれて大人しくなり、残り数mというところで角都に地怨虞を解かれて解放された。
それでも、勝手にどこかに行ったりはしなかった。
諦めたのか、若干頬を膨らませて拗ねてるように見える。
飛段だけ額当てを外し、オレ達は笠を被って湯隠れの里に正門から堂々と入ることに成功した。
岩隠れの里より簡単だった。
里の大通りを歩きながらオレはさっきの正門を振り返る。
「隠れ里なのに、すんなりと通されたな」
「ここは他国の者が訪れる、里全体が観光地のようなものだ。敵に隠すものもない、「戦を忘れた里」とは名の通りだな」
角都がそう説明すると、飛段は口を尖らせて言う。
「いちいち言うんじゃねーよ。オレがいる前で」
明らかに不機嫌だ。
オレは歩きながら里を見回した。
普通の一般人、旅人、他国の額当てをつけた忍など、色んな人間とすれ違う。
店も観光向けのものばかりだし、宿らしき建物では温泉の匂いがする。
どう見ても、飛段には不釣り合いな場所だ。
*****
オレ達が訪れたのは、里の一番奥にある温泉旅館だった。
他の宿よりも大きな建物で、外装も内装も豪華なもので、安宿でないことはオレにもわかる。
中に入ると早速若い女将らしき人物に仲居とともに笑顔で「ようこそお越しくださいました」と迎えられた。
「##NAME2##角都御一行様ですね? お部屋は8階になります」
オレは首を傾げた。
なぜ角都の苗字にオレの苗字が使われているのか。
それにオレ達が来ることをわかっていたみたいだ。
予約でもしてたのか。
「ほら、行くぞ」
オレは笠を外し、出入口で動かない飛段の手首を引っ張った。
いつもは騒がしいくせに、里に入ってから文句しか聞いてない。
それを見た女将は微笑ましくオレ達を見つめる。
「あらあら、仲のよろしいご兄妹ですこと」
オレと飛段は同時に動きを止めた。
どういう設定でオレ達はこの宿に泊まることになっているのか。
8階の部屋もこれまた豪華だった。
3人だけなのに、無駄に大部屋だ。
飛段は低い長方形の机に置かれてある茶菓子をもそもそと食べる。
無意識なのか、こういうところは他の宿でも同じだ。
オレは「さてと」と言って、懐から帳簿を取り出した角都の向かい側に座った。
「目的はなんだ?」
「目的?」
「角都がこんな高い宿に泊まるなんて今まであり得ないことだった。まさか…、ニセモノじゃ…ぶっ!;」
それが本人の証明であるように、角都は地怨虞で伸ばした右コブシをオレの額に直撃させた。
その衝撃に脳が揺れて目眩が起き、オレは額を両手で押さえてゴロゴロと悶える。
「気にするな。ただの息抜きだ。オレはこれから帳簿の整理をする。飛段、ヨル、夕食まで遊んで来い」
オレは痛みで顔をしかめながら「え?」とこぼした。
角都に「遊んで来い」と言われるなんて初めてだ。
いつもなら、「勝手にウロウロするな」とか言うくせに、やはりニセモノじゃないのか。
「…だからオレは、里をウロつけねーって…」
飛段はモナカを食べ、苛立ちを含めて言いながら角都を睨む。
しばらく睨み合いになったが、飛段はオレを一瞥し、肩を落とした。
「…はいはい。オラ、行くぞヨル」
飛段は立ち上がり、襖へと向かう。
「行きたくなきゃ、オレ1人で…」
「いーから」
オレは慌てて立ち上がり、その背中を追いかけた。
旅館を出る時も仲居達に微笑ましい視線を送られた。
兄妹でお出かけという設定になっているのだろう。
ガキじゃねえのに、何気に恥ずかしい。
ちなみに、角都は父親という設定になっているらしい。
なんて恐ろしい設定だ。
オレあいつより年上なのに。
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