02:夜は暁へ
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*飛段
ヨルに血をめいいっぱい抜かれたおかげで、眠りが浅かった。
目を開けて寝返りを打つと、岩場に背をもたせかけて眠っている角都を見つけた。
焚き火はまだ燃え続けている。
月は真上にあがっていた。
オレが寝てから1時間以上経過しているのは間違いない。
上半身を起こし、ヨルが寝ている場所に顔を向けたが、そこには外套だけしかなかった。
「ションベンか?」
小さく呟いたとき、川の方から水の滴る音が聞こえて振り返った。
岸にはヨルの服が置かれている。
「オレはいい」とか言っておきながら、と内心で毒づき、川に近づく。
月明かりのおかげでその姿はすぐに見つかった。
腰から下は川に浸かり、こちらに背を向けている。
オレには気付いていない様子だ。
「!」
華奢な体格で、その背中にはオレには理解不能な文字がズラリと書かれていた。
水に濡れても落ちないってことは、刺青かもしれない。
ヨルは屈んで両手に水を掬い、肩や腕にかける。
その時、体全体を横に向けた。
「!!?」
衝撃的なものを見た。
寝惚けたのかと思って慌てて目を擦ったが、オレの頭は完全に醒めている。
ヨルの胸に膨らみがあった。
大きいとは言い難いが、形のいいものが。
「な!?」
「!!」
オレの声に気付いたヨルがこちらにはっと振り返る。
見つめ合ったまま、しばらく気まずい沈黙が流れた。
オレは指をさして尋ねる。
「……変化の術?」
それが我に返る引き金になったようだ。
瞳が朱色に変色したヨルの背中から、大きなコウモリの翼が生える。
あの剣だ。
「……………」
オレが一歩引いたとき、ヨルは一気に距離を詰めた。
顔には羞恥と怒りの赤を浮かべている。
左腕で胸を隠し、右手にもった剣を振り上げた。
「血の夢見やがれェェェ!!!」
「ゲハァ!!!」
透き通っていた川の水が鮮血の色に染まった。
オレは明らかに致命傷な腹の傷を、角都の“地怨虞”で縫ってもらっていた。
背後には自分にサラシをグルグル巻いているヨルがいる。
明らかに怒ってるのがオレの背中に伝わってくる。
「オレが寝ている時も静かにできないのか」
オレ達の叫び声を聞いて起きた角都は不機嫌そうだ。
「つーか、角都! ヨルが女って知ってたんだろ!」
胸にサラシを巻くヨルのを見て驚きもしなかった。
「てっきりおまえも知っているかと思っていた」
「知らねえよ!!」とキレたら負けだ。
「……ババアか」
「もっぺん死ぬか、エロガキィ…」
呟いた言葉に、ヨルの怒りが殺気へと切り替わり、背中に剣が生えた。
縫合も終わり、“地怨虞”が角都の中に戻っていく。
「なぜ男のフリをしたのかはわからんがな」
服を着終えたヨルは、角都の言葉にどう答えていいのやらと後頭部を掻いて口を開く。
「……オレは…弱いから…」
「あ?」
「“女”を言い訳に使いたくない」
そう言って宙を睨みつけた。
過去になにかあったのか。
聞いても答えてくれないだろな。
サラシを巻き終えたヨルはこちらに振り返り、薄笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「都合いいことに、この体、オスメスどっちでも誘いやすいようにってこの容姿で老化がストップしたんだ。格好によってはどちらにも見えるしな」
顔はいい方だしな。
女でも男でも、人通りの多いところを歩いてたら目立ちそうだ。
オレは思わず笑ってしまう。
「若作りいらずだな」
「おまえも年取ったらそう思うようになるっつーの」
なにか言い返してやろうかと思ったとき、
「そんなに今すぐ永眠したいか」
不機嫌な角都の逆鱗に触れかける。
オレもヨルも、バラバラにされたくないからさっさと寝た。
『オレは、弱いから』
眠る前に、ヨルのあの言葉を思い出した。
なんか、わかるな、そういうの。
.To be continued
ヨルに血をめいいっぱい抜かれたおかげで、眠りが浅かった。
目を開けて寝返りを打つと、岩場に背をもたせかけて眠っている角都を見つけた。
焚き火はまだ燃え続けている。
月は真上にあがっていた。
オレが寝てから1時間以上経過しているのは間違いない。
上半身を起こし、ヨルが寝ている場所に顔を向けたが、そこには外套だけしかなかった。
「ションベンか?」
小さく呟いたとき、川の方から水の滴る音が聞こえて振り返った。
岸にはヨルの服が置かれている。
「オレはいい」とか言っておきながら、と内心で毒づき、川に近づく。
月明かりのおかげでその姿はすぐに見つかった。
腰から下は川に浸かり、こちらに背を向けている。
オレには気付いていない様子だ。
「!」
華奢な体格で、その背中にはオレには理解不能な文字がズラリと書かれていた。
水に濡れても落ちないってことは、刺青かもしれない。
ヨルは屈んで両手に水を掬い、肩や腕にかける。
その時、体全体を横に向けた。
「!!?」
衝撃的なものを見た。
寝惚けたのかと思って慌てて目を擦ったが、オレの頭は完全に醒めている。
ヨルの胸に膨らみがあった。
大きいとは言い難いが、形のいいものが。
「な!?」
「!!」
オレの声に気付いたヨルがこちらにはっと振り返る。
見つめ合ったまま、しばらく気まずい沈黙が流れた。
オレは指をさして尋ねる。
「……変化の術?」
それが我に返る引き金になったようだ。
瞳が朱色に変色したヨルの背中から、大きなコウモリの翼が生える。
あの剣だ。
「……………」
オレが一歩引いたとき、ヨルは一気に距離を詰めた。
顔には羞恥と怒りの赤を浮かべている。
左腕で胸を隠し、右手にもった剣を振り上げた。
「血の夢見やがれェェェ!!!」
「ゲハァ!!!」
透き通っていた川の水が鮮血の色に染まった。
オレは明らかに致命傷な腹の傷を、角都の“地怨虞”で縫ってもらっていた。
背後には自分にサラシをグルグル巻いているヨルがいる。
明らかに怒ってるのがオレの背中に伝わってくる。
「オレが寝ている時も静かにできないのか」
オレ達の叫び声を聞いて起きた角都は不機嫌そうだ。
「つーか、角都! ヨルが女って知ってたんだろ!」
胸にサラシを巻くヨルのを見て驚きもしなかった。
「てっきりおまえも知っているかと思っていた」
「知らねえよ!!」とキレたら負けだ。
「……ババアか」
「もっぺん死ぬか、エロガキィ…」
呟いた言葉に、ヨルの怒りが殺気へと切り替わり、背中に剣が生えた。
縫合も終わり、“地怨虞”が角都の中に戻っていく。
「なぜ男のフリをしたのかはわからんがな」
服を着終えたヨルは、角都の言葉にどう答えていいのやらと後頭部を掻いて口を開く。
「……オレは…弱いから…」
「あ?」
「“女”を言い訳に使いたくない」
そう言って宙を睨みつけた。
過去になにかあったのか。
聞いても答えてくれないだろな。
サラシを巻き終えたヨルはこちらに振り返り、薄笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「都合いいことに、この体、オスメスどっちでも誘いやすいようにってこの容姿で老化がストップしたんだ。格好によってはどちらにも見えるしな」
顔はいい方だしな。
女でも男でも、人通りの多いところを歩いてたら目立ちそうだ。
オレは思わず笑ってしまう。
「若作りいらずだな」
「おまえも年取ったらそう思うようになるっつーの」
なにか言い返してやろうかと思ったとき、
「そんなに今すぐ永眠したいか」
不機嫌な角都の逆鱗に触れかける。
オレもヨルも、バラバラにされたくないからさっさと寝た。
『オレは、弱いから』
眠る前に、ヨルのあの言葉を思い出した。
なんか、わかるな、そういうの。
.To be continued