悪党は、命を狙われます。
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表の社会に生きる人間は、裏の社会―――“魔境”の存在を見て見ぬふりしながら、日々を送っていた。
魔境に足を踏むことさえなければ、ここだけに許された平凡な生活が送れるのだ。
自ら足を踏み入れることになるのは、怖いもの見たさか、金欲しさか、自分自身が堕ちた時だろう。
それに、たとえ忌み嫌われていようとも、魔境の輩は、必要とあらば表の世界にやってくることもある。
時刻は午後3時過ぎ。
イシヤマファミリーのボス・男鹿は、待ち合わせ場所である街中のカフェにやってきた。
白昼堂々、表の地を踏むのは久しぶりだ。
「男鹿っちゃーん」
その声に振り向くと、ソウレイファミリーのボス・奈須が、日除け用のパラソルの下、テラスの席でコーヒーを飲みながら手を振っているのが見えた。
「んちゃ☆」
「……………」
自然な足取りで奈須の席に近づき、その向かいに座る。
口元にクリームをつけた奈須が「ケーキ食べるっちゃ?」と自分の食べかけのモンブランが載った皿を男鹿の目の前に差し出す。
フォークを受け取った男鹿は、黙ったまま迷うことなくてっぺんのマロンを突き刺し、一口で食べてしまう。
「あっ!! オレのマロン!!」
楽しみに残しておいたのだろう。
構わず、マロンを咀嚼しながら男鹿は奈須にフォークの先を向ける。
「なすび、まさかてめー、茶ァ飲むだけのために呼んだんじゃねえだろうな?」
奈須は「ま~さか~」とコーヒーをぐいっと飲みきり、ピアスのついた舌を出した。
「お茶くらいだったら、オレのアジトでも男鹿っちゃんのアジトでも構わないでしょ」
「お茶でも呼ぶ気はねーけどな」
「相変わらず冷たいっちゃ~。オレ達は、同盟を組んだ者で、同志で、運命共同体ナリよ? ファミリーのように温かく和やかな…」
確かに同盟を結び、必要とあらば力の貸し借りをする関係だが、同盟を結ぶ前は縄張り争いをしていた関係だった。
話をまとめたのは古市で、その前に同盟を持ちかけたのは意外なことに奈須だ。
それも最近の話で、男鹿は未だに警戒心を抱いている。
「御託並べるなら帰んぞ。ごはんくんの再放送見逃しちまうからな」
はぁ、と奈須はため息とともに肩を落とす。
「じゃあ、単刀直入に言うけど…、オレ、命狙われてるっぽい」
「…あ?」
「しかも今朝、アジト焼かれちゃって、みさおっちゃん達とは離れ離れになるし連絡取れないし…」
「ちょっと待て」
面倒な臭いプンプンだ。
命を狙われている、アジトを焼かれた、不穏な発言ばかりがのんびりケーキとコーヒーを堪能していた奈須の口から飛び出した。
「でさ、犯人見つかるまで、匿ってくれないナリか?」
奈須は両手を合わせ、笑顔で頼む。
「は?」
「今ちょっと動きづらくて…」
「コラ、てめーらの問題にオレ達を巻き込むんじゃねえよっ。似たようなことで何度面倒な目に遭わされたことか…!」
男鹿は席を立ったが、奈須は身を乗り出してその手首をつかんだ。
「言ったっちゃ? オレ達は運命共同体。面倒事も一緒に解決☆」
「っざけんなっ! 死ぬなら一人で死ねっ!」
男鹿はその手を振り払おうとするが、握りしめる奈須の手は食らいついたように放さない。
「うわ傷つく~。最後はちゃんと自分でケツ拭いてるじゃん。途中まで手伝ってくれたらその分の礼は弾むナリー。…それにもう遅いっちゃよ?」
「!!」
カフェの前に、2台の黒塗りベンツが急ブレーキをかけて停車した。
そのあと、スーツ姿の柄の悪そうな男達が数人降りてきて、ここが公共の場だということにも構わず、全員拳銃を構える。
引き金が引かれる瞬間、男鹿と奈須は同時に真ん中のテーブルを倒し、その後ろに身を潜めた。
パン! パン! パン!
次々と男鹿と奈須が隠れたテーブルに銃弾が撃ち込まれる。
カフェの客は突然の発砲に悲鳴を上げ、逃げ惑った。
「なすび、なんの恨み買ったんだ!」
「心当たり多すぎて」
苦笑して肩を竦ませる奈須に男鹿は舌打ちする。
「奴ら、ここが表だっつーのに…」
「表と裏なんて…、警察が動くか動かないかの違いっちゃ」
長居は無用だ。
裏では有名な2人でも、表で悪目立ちするわけにはいかない。
弾丸が尽きたのか、一度銃声が止んだ。
「殺ったか!?」
「相手はあの奈須だぞ!!」
「首を切り落とすまで油断するんじゃねえ!!」
男鹿は拳銃を取り出し、奈須は「人をバケモノみたいに…」と呟きながらテーブルの下に置いていたボストンバッグに触れ、中身を取り出した。
そして、相手が装填し終わる前にテーブルから飛び出し、
「失礼するっちゃねえええええ!!」
ダダダダダダダ!!
両手に持つ、2つのサブマシンガンを撃ちまくった。
男達は慌てふためき、車の後ろに隠れようとしたが、その前に奈須は車1台に大量の弾丸を撃ち込み、爆発させる。
その傍にいた男たちは爆発に巻き込まれて車道や他の店まで吹っ飛び、その隙に男鹿と奈須は残りの1台の車まで走り寄り、男鹿は運転席に、奈須は助手席に乗り込み、車を奪ってその場から逃げ去った。
途中で、サイレンを鳴らした数台のパトカーとすれ違う。
「完っ全に巻き込みやがって…」
「文句ならあとで聞いてあげるから、少しの間、お世話になるナリ~」
「降りろっ!!」
怒鳴る男鹿と楽しげに笑う奈須を乗せた車は、魔境へと向かう。
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